「ウソも方便」という言葉がある。
「方便」とは便宜上の手段のことである。方便はより便利にするための手段でもある。世の中の景気が悪くなって不況風が吹いてくると、あらゆるところで「方便」が切り捨てられる。「方便」として機能していた組織に従属していた人達はリストラの嵐に見舞われる。あっちこっちの「方便」を切り捨てて必要最小限の機能だけが残ることになる。「方便」はサービスを提供する側にもサービスを受ける側にも便利なものである。便利だからこそ「方便」として存在したのである。
この「方便」を切り捨ててしまったらどうなるであろう。
サービスを提供する側も機能がダウンするのは免れない。サービスを受ける側も不便になる。いくら不景気とは言えこのままにしていていいはずがない。リストラしたら何らかの対策を打つべきである。その対策とは何だろう。私はネットワークの有効活用だと思う。この機能ダウンとサービスの低下を救うのはネットワークだと思う。
ネットワークは情報だけではない物流もそうである。
ネットワークと言うと情報システムばかり注目するが、情報だけがいくら流通しても仕方ない。最終的には物が動くことになり、通信回線をいくら全国に張り巡らしても物は動かない。ところが意外と物流システムが注目されることは少ない。情報システムに比べると縁の下の力持ち的な印象しかない。しかも都市部では交通機関が麻痺状態にある。リニアモーターカーの開発は進められているが、これは高速の旅客輸送が主体で大量の物資を常時輸送する物流には向かないと思う。情報システムを整備するのであれば物流システムも整備しないと片手落ちである。
日本は周囲を海に囲まれた海洋国である。
地上の交通機関が麻痺状態にあるなら、海上を使えばいいと思う。バブル最盛期の頃には海上高速輸送システム構想があったが、そのまま立ち消えになっている。高速ジェット推進船の話はどうなったのだろう。日本の特性を生かして海上交通手段を有効活用する発想はすばらしいと思う。こういう構想は既存の物流システムにとっては脅威であり、損をすることはあってもあまり得にならない。利益団体からは反対されるかも知れないが、必要なものは必要なのである。目先のことしか考えないと将来を誤ることになると思う。
ネットワーク(情報+物流)は流通における「方便」を不要にする。
サービスを提供する者とサービスを受ける者を直結させることができる。例えば、本店があり全国各地に支店があるのが従来の形態であったが、ネットワークを活用すれば本店だけで全国をカバーできる。全国各地の支店は不要である。しかも本店は中央に位置する必要もないし大規模である必要もない。地方でもいいし小規模でも機能を満足する。そうであれば、従来の本店・支店の考えは消滅し、本店も支店もない、また小規模でもよく、日本全国を拠点でカバーしていたものが面でカバーできるようになる。本店・支店でなく本店が分散して全国各地に点在する形態が可能になる。
中間の小売業者という「方便」も不要になる。
数多くの結節を経て生産者から消費者に供給されるていた従来の流通経路は、ネットワークを活用することにより生産者と消費者を直結させることができる。生産者は消費者のニーズを直接入手することができ消費者は生産者に直接注文することができる。これまでは点と線で結ばれていた流通が、生産者は日本全国に無数に点在し、消費者も日本全国に無数に点在し、生産と消費のネットワークは日本全国を面で覆うことになる。
情報の配信も同じである。
放送局があり出版社があり新聞社がありレコード会社があったが、これらの本店・支店の役割や、情報発信者と情報受信者を介在する役目が消滅することになる。本店・支店の点と線の広がりは面の広がりに変化し、情報発信者と情報受信者は直結することになる。銀行も証券会社も同じである。ネットワークを通じて直接の取引が可能になる。これらの会社はこのような環境を提供するだけの仕事となり、従来のような中間結節で介在することはなくなってしまう。
効率化・合理化で見直すべきは「方便」である。
生産者や製造者や物流組織はリストラすべきではない。ましてや情報の発信者や提供者ひいては研究者や技術者は充実こそすれ削減すべきではない。ここをリストラしてしまったら世の中に流通するものと流通させるものがなくなってしまう。不要なものを生産してしまうのは、情報が円滑に流通してなくて生産者と消費者がしっかりと結ばれていないからである。市場に関する情報が不足し判断を誤っているのである。効率化・合理化された「方便」に携わっていた人は、生産者や製造者や物流組織、または情報の発信者や研究者・技術者、そしてネットワークの運営者に転業すればいいのである。
従来は規模の拡大とともに必要に応じ数々の方便を設けてきた。
ネットワークを活用すると、この方便が一挙にいらなくなる。これは不景気に伴うリストラではない。必然としての結果である。不景気に伴ってあちこちをリストラして「方便」を切り捨てている企業にとってはネットワークは救世主であり、効率化・合理化の切り札であると思う。しかし、この「本当の効率化・合理化」は単なる組織の切り捨てだけでは意味をなさない。ネットワークを活用することを前提として本当に組織を再構築(リストラクチャー)しなければ衰退があるのみである。
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