繁を野球の道に送り出したのは、父である。生まれて間もない繁にこの父が与えた玩具は、消防自動車でも飛行機でも、キューピーさんでもクマさんでもなく、プラスチック製のバットとボール、それにビニール製のグローブだった。そして繁は小学校三年の時、やはり父の勧めで、地域のリトルリーグに入団。野球漬けの毎日が始まった。繁自身、最初は嫌だった。自分の意思ではなく、父に乗せられて言いなりになってしまったばっかりに、毎日のように厳しい練習に耐えねばならなくなった。いつだったか、以前父が物置の中から引っ張り出してきて見せてくれた、古いコミック本の『巨人の星』みたいだった。父にしてみれば繁は星飛雄馬(ほしひゅうま)、自分は星一徹(ほしいってつ)気分であったのだろう。繁には、初めはいい迷惑でしかなかった。何度も何度も、辞めたいと思ったこともあった。だが繁は辞めなかった。もし辞めれば、どうせ近所や学校の友達と同じように、塾に通わされることになる。それを思えば、まだ野球の方がマシだと思った。それと父は、学校のテストや通知簿の成績が良くても悪くても、何も言わないくせに、野球のこととなると違った。特にエラーや凡ミスなど、良くないプレーをしてしまった後の反省会は、帰宅して入浴時から夕食時、そして時には、繁がその日夜眠る間際まで続くこともあった。もうそれはただ野球の反省というより、父の人生塾のようであった。繁は、父と野球から、人生を学んだ。
やがてバットは金属製から木製に、ボールはゴム製から皮製に、そしてグローブも勿論皮製にとそれぞれ材質は変わり、玩具だった道具も、用具に変わった。ユニフォームもグラウンドも、チームメイト達の顔も皆変わった。しかしバックネット裏で繁を見守る父の、厳しくてそして温かいその眼差しだけは、昔のままだった。
(続く)
やがてバットは金属製から木製に、ボールはゴム製から皮製に、そしてグローブも勿論皮製にとそれぞれ材質は変わり、玩具だった道具も、用具に変わった。ユニフォームもグラウンドも、チームメイト達の顔も皆変わった。しかしバックネット裏で繁を見守る父の、厳しくてそして温かいその眼差しだけは、昔のままだった。
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