
晩秋、山の木々も北風に吹かれ色づいた葉を飛ばし寒々とした姿を見せる日々となりました。
この季節になると私の畑では山芋、つまりとろろ芋として食卓にのせる芋の収穫の時期となります。深い時は畑を1メートル以上も掘って収穫するので大変な苦労を伴い来年は作らないと思うのですが、土の中から顔を出す山芋を手に取るとその太さ重さに疲れも吹き飛んでしまうのです。
またこの度の山芋の学習で自分がどれだけいい野菜を作っているか再認識させられこれからもしっかり栽培計画の中心におくべき野菜だと自信を深めたところです。
【山芋の大きな分類】
山芋はヤマノイモ科ヤマノイモ属に分類され、
(1)ヤマイモ(山芋、日本原産)・・・ジネンジョ{自然薯、自生のもの}
(2)ナガイモ(長芋、中国原産)・・・ナガイモ{長芋}イチョウイモ{銀杏芋}、ツクネイモ{捏芋}
(3)ダイショ(大署、インド台湾原産)
に分けられます。
またヤマトイモ(大和芋)という呼び方もありますが関東ではイチョウイモ、関西ではツクネイモをそれぞれ呼び今でも統一されてなく混乱した状況です。
長芋畑。
山芋の歴史は米の歴史より古く縄文時代から食べられていたようです。そのあと中国から食べやすいナガイモが伝来し日本中に広まったそうです。
1600年頃に日本にじゃがいもとさつまいもが伝わってくるまでは芋といえばサトイモかヤマイモを指していました。ヤマイモは世界の熱帯から亜熱帯地方で古くから食料とされヤムイモの仲間、サトイモはタロイモの仲間です。
またヤマイモの記述は歴史書や小説にもよく出てきて平家物語には後白河院が芋の子のむかごを手に平知盛となにやら世間話をする話や芥川龍之介の小説に芋粥という小説があり
平安時代の坊さんがあきるほど芋粥を食べることを願った話が出てきます。昔から市民の生活に深く浸透していたのでしょう。
【ヤマイモの旬】
・10月から翌4月まで収穫されますがナガイモ、ツクネイモは11月から12月イチョウイモは12月から1月が旬といわれています。
・収穫より少し時間をおいて年末以降の芋が水分が抜けて粘り気が強くなり糖質も増えて美味です。
・低温貯蔵により出荷調整できるので市場には一年中出回っています。
掘り取った長芋は産地で土付きのまま保存されます。
【ヤマイモの特徴、種類、利用法】
・イチョウイモ(銀杏芋)
別名関東では大和芋(やまといも)、仏掌芋などいちょう形、手のひらの形、ばち形などがあります。いずれも扁平な形が特徴でなめらかで粘りが強くとろろに最適です。しかし栽培はややむずかしいです。
・ナガイモ(長芋)
もっともポピュラーなヤマイモで栽培されているヤマイモの三分の二はこれです。低温に強く成長が早く多収で栽培しやすいです。芋の粘りが少なくきめが粗く水分が多い。料理はサラダ、酢の物、和え物、など多岐にわたります。
・ツクネイモ(捏芋)
関西では大和芋と呼ばれゴツゴツとしたこぶし大の形をしています。ヤマイモの中でもっとも粘りが強く食感も濃厚です。すりおろしてのばし、とろろ汁にしたり揚げ物にしたりしてもおいしいです。
もともと奈良に多く見られたからこれを大和芋(ヤマトイモ)と呼んだようです。黒皮の加賀丸いも、丹波やまのいも、白い皮の伊勢いもなどがあります。土質を選び乾燥を嫌うので栽培は難しいのですが、高級料理の食材として珍重されたり和菓子の材料になります。
左から「長芋」「トロフィー長芋」「大和芋」「丸芋」「自然薯」。
・ダイショ(大薯)
熱帯産のヤムイモで植物学的にはヤマノイモとは別種。形は塊状や扇型、つりがね形があり色は灰白色、赤紫色です。粘り気が強く天然の増粘剤としてアイスクリームに混ぜられたりします。市場にはほとんど出回りません。
・ジネンジョ(自然薯)
日本原産で山野に自生します。天然のものは非常な粘りがあり、味も抜群です。
【ヤマイモの栄養特性】
(1)主成分は炭水化物ででんぷん、マンナンを含みます。また炭水化物分解酵素ジアスターゼが大根の数倍も含まれているのででんぷんの消化を助けてくれ生で食べることができます。
麦ご飯には不消化物の食物繊維が多いのですがとろろをかけて麦とろにするとかまずに食べても完全に消化してしまうほどです。また胃にやさしく胃炎を静めてくれる胃弱の人にも安心です。只この酵素は熱に弱いので調理の加熱しすぎには注意しなければなりません。
(2)含有ビタミンではB1とパントテン酸の多いことが特徴です。ミネラルではカリウムの多いことでも知られています。
(3)ヌルヌルの多くはオクラやモロヘイヤと同じくマンナン粉とタンパク質が結びついた「ムチン」という、人体では消化できない食物繊維の一種で、便秘解消、老廃物の排出、胃壁粘膜の保護修復などの働きがあります。マンナンはイチョウイモやツクネイモに多く含まれジネンジョ並みです。
(4)もうひとつの成分としてデオスランを含みますがこれは糖の消化吸収を抑制し血糖値を下げる働きがあります。
(5)総じてヤマイモが滋養強壮、老化防止に効果が高いといわれていますがこれらの働きを指しているからです。
【ヤマイモの栽培手順とポイント】
・生育条件・・・高温の気候を好む。25℃~30℃が生育適温でしかも湿度の高い時によく伸びます。有機質に富みよく耕された重い土壌で生育します。
・土作り・・・PH5.6~6.0の土壌に向く。苦土石灰を施し有機質の土を好むので堆肥を施し深く耕うんします。
・種芋の植付・・・4月中旬~5月上旬に植えます。一般には種芋を分別して植えます。
・手入れ・・・種芋を植えたら敷き藁をして土の乾燥を防ぎます。芽かきして1本のつるをのばすのがよいでしょう。
・収穫・・・秋(10月~)上部の葉が黄色くなったら掘りおこします。芋の子のむかごの収穫も同時におこないます。
北海道や青森の大規模な生産者では機械で掘り取るところも。でも最後は人が拾います。
傷をつけないように収穫すると長持ちします。また掘り起こすとき芋についてくる土はとらずにつけたまま保存するとより長持ちします。
【ヤマイモの保存法】
・新聞紙に包んで風通しのよい冷暗所におくと比較的長く保存できます。また湿らせたおがくずや土にうめると保存もながいです。
・すりおろして冷凍保存。薄くのばして冷凍すれば必要な分だけポキッと折って使えて便利です。

参考書籍
野菜100種の育て方(主婦の友) 家庭菜園全科(農文協) おいしい野菜の作り方(西東社) 都道府県別地方野菜大全(農文協) 花野菜図鑑(草土出版)ほか
(文 食素材研究部会 只浦徳子 写真 食素材研究部会 遠藤敬)