切られお富!

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六月大歌舞伎 夜の部「御浜御殿」「加賀鳶」「船弁慶」(歌舞伎座)

2007-06-18 01:07:02 | かぶき讃(劇評)
①元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿

去年の国立劇場「元禄忠臣蔵」通し上演で、梅玉の綱豊を観たばっかりだったので、また~なんて思ったけど、まずまずよかったですね。

話は、心情的に赤穂浪士に同情的な、徳川家次期将軍候補・綱豊卿と、仇討ちの心を隠そうとする富森助右衛門とのディスカッションドラマ、という要約の仕方をしては乱暴に過ぎますかね?

ただ、日本でディスカッションドラマ風のものをやろうとすると、結局、蒟蒻問答(こんにゃくもんどう)みたいになっちゃうんだよね、という気もするんですが・・・。

今回は、綱豊が仁左衛門、助右衛門が染五郎だったんだけど、随分爽やかで颯爽とした舞台でした。

国立の、綱豊=梅玉、助右衛門=翫雀コンビの場合は、梅玉が古風な殿様風で、いかにも梅玉さんというような台詞回しと貫禄がここちよかったし、翫雀は朴訥とした青年という風情で、これはこれで、愚直な感じがして面白かった。

で、今回なんだけど、ちょっと感心したのは、真山青果の脚本って、「彼は・・・なのだ」という、歌舞伎っぽくない、独特の朗々とした台詞回しがあって、これが新歌舞伎否定派にはたまらなく違和感があったりするんだけど、今回の仁左衛門の台詞は、仁左衛門独特の明朗さで、あの「彼は・・・なのだ」が全然普通に聞こえちゃうんですよね、いつもの歌舞伎みたいに!

これって、このひとじゃないと無理な到達点のような気がするし、この芝居が完全にこの人の型の中に入ったって気がしました。

染五郎の助右衛門は、、意外にも台詞がしっかりしていて、若い頃の吉右衛門みたいでしたね。(お父さんでなくてごめんなさい。)

脇では、萬次郎の浦尾の古風な気持ち悪さが、わたしには最高!

そんなわけで、まずまず満喫しました。でも、この芝居に関しては、梅玉さんの方が好きなんだけどね~。

②盲長屋梅加賀鳶(めくらながやうめのかがとび)

悪徳按摩の竹垣道玄を主役にしたこの芝居は典型的な悪漢物で、音楽的な台詞回しもやっぱり河竹黙阿弥らしいし、いい芝居なんですけど、なんでニンに合わない幸四郎がこの芝居をやりたがるのかな?

道玄という按摩坊主は人を殺そうが、強請の嘘がばれようがけろっとしているどこか憎めない悪党で、「ふてえ奴」って感じなんだけど、かつての二世松緑や今なら富十郎がやると、じつにふくよかで艶やかな悪になる。

映画俳優なら、勝新太郎なんかがまさにこの役にぴったりなんだけど、幸四郎がやると、いかにもスケールが小さくなって、下卑た悪人って感じになっちゃうのがなんともねえ~。(たとえば、やりこめられて「えらい」っていうくだりの、スケールの小さい悪人ぶりって・・・。もうちょっと、貫禄があって悪びれない方がいいんだけどね~。)

二世松緑が持っていたふくよかさは、團十郎なんかが最近は継いでる気がするけど、同じ親戚筋の幸四郎がやると筋張っていて、なんだか面白くない。それに、黙阿弥物独特の台詞の音楽性ってものが損なわれて、黙阿弥の芝居ではないようなきさえしてしまうんですよ。

ただ、今回そんな芝居に“音楽”を感じさせてくれたのが、吉右衛門の松蔵と秀太郎のお兼。吉右衛門の役は道玄の悪事を見破り、やっつける役なんだけど、台詞の調子の気持ちいいこと!あとで松緑のビデオの羽左衛門の松蔵を見直したんだけど、羽左衛門の松蔵が随分写実に思えるほど、今回の吉右衛門の台詞が気持ちよかった!

秀太郎のお兼は、悪いことも“てらい”なくやってしまう悪女の色気があってよかったし、テンポがあって、上方っぽい部分もありつつ、江戸を舞台にしたこの芝居で、全然違和感がありませんでしたね。

他の方はどう思ったんでしょう?わたしは幸四郎の当たり役だとは言いたくないって思ってるんですけどね~。

・因みに、幸四郎初役の「加賀鳶」の感想。

③船弁慶

この演目って、わりと若い役者がやることが多いせいで、意外といい舞台に恵まれないような気がするんですけど、どうなんでしょう?(近年だと、勘太郎や今の松緑とか・・・。)

松羽目物(能の舞台を歌舞伎化したもの)ではあるけれど、これまた河竹黙阿弥の作によるもので、今回改めて、緻密で音楽的な構成を持つ演目なんだなってことを再確認しました。(たとえば、鼓の大熱演に注目!)

この演目って、都を追われる義経主従に、静御前との別れと、平知盛の亡霊の襲来という二つのクライマックスがあり、静御前と知盛の二役を若手役者がやるというパターンが多いですよね。

今回は染五郎が挑戦しているわけなんだけど、まず静御前は色気もそっけもなく、「御浜御殿」の熱演の影響か、声も嗄れ気味で・・・。烏帽子を被って踊るんだから、動きが抑制されるのは仕方がないにしても、これじゃあ「愛妾」って感じじゃなかったですね。

後半の知盛は、顔が小さいせいか隈取に威圧感がなく、小さな鬼って感じで重量感がない。どっちもニンじゃないってことなのかなとも思いましたが、こんなことを言うと高麗屋贔屓は怒るのかな~。

ただ、この舞台は脇役が充実していて、幸四郎の弁慶が、最近の勧進帳のとき以上に貫禄があったし、芝雀の義経は鳩のお菓子みたいじゃない貫禄がついてきて、普段なら静御前役のこの人のイメージから飛躍してきたなって、驚きました。

そして、船長の東蔵が調子があって、実に楽しい。

まあ、傳左衛門・傳次郎兄弟の鼓を聴くだけでも充分価値がありました。この幕見ないで帰っちゃあ、もったいないですよって思います。

とりあえず、今回はこんなところで
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