
ちゃんと月々の芝居の感想として書こうと思っていたんだけど、今月の歌舞伎座・千穐楽に観た舞台への反発から居ても立ってもいられず、この芝居の感想だけ先行して書くことにしました。まず、ひとこと!「切られお富」はあんな芝居ではありません!!
おおむね、あの芝居を観たブロガーの感想も好評みたいだし、劇場内でもそれなりにうけていたのだけど、悪婆物というのがああいうものだと思われてしまうと、品のない芝居が増えそうで、わたしは嫌!
「切られお富」という芝居は「切られ与三郎」という芝居のパロディで、元の芝居は、女(お富)のために傷だらけになった色男・与三郎が、知らない男の妾になっているお富を訪ね、ゆすりをやるという筋立てなわけだけど、「切られお富」では傷だらけにされてしまうのが、女の方だという寸法。
幕末の退廃文化が、美男や美女を傷だらけにするという芝居を作り出したということなんですよね。
で、このパロディ芝居(歌舞伎では、「書替え狂言」といいます。)の最大の特徴は、あの河竹黙阿弥が書いたということなんです。
つまり、「知らざあ、言ってきかせやしょう」などの七五調の気持ちのいい黙阿弥の台詞、そして、髪結新三や弁天小僧、お嬢吉三などの、色気があって、ふてえ根性の悪漢たちの系譜。これらの特徴を踏まえた、女性版の悪漢がまさにヒロイン切られお富なのであって、今月の芝居の福助からは、黙阿弥物の香りは一切漂ってこなかった。
去年の「伊勢音頭」の万野や「吉原狐」のおきちの時もそうだったけど、とにかく、気持ち悪い声の調子の変化で、媚を売ったり悪態をついたり・・・。
つまり、見え透いた感じで、全然世辞長けた強い女の感じがしない。自分のことは自分で処していくというイメージが丸っきりなくて、嫌われ者のOLみたいな印象しかわたしにはありませんでしたね。
わたしのなかのヒロイン切られお富は、たとえでいうなら、ハワード・ホークス監督の映画『脱出』のなかのローレン・バコールのような女性で、好きな男には弱いけれど、ハードボイルドな女だったりするんです。
そういう談でいえば、「夏祭浪花鑑」のお辰っていう女性(猛女?)も好きなんだけど、気風のいい女性というのは、花柳界を中心に江戸時代だって人気があったということなんですよ。
さて、芝居にひきつけていうと、序幕の傷だらけにされるくだりが夢だったという落ちは、わたしもあんまり意味ないなあと、正直思った。そして、与三郎との再会のシーンだけど、橋之助の与三郎が硬くて色気がない。だって、あの「切られ与三郎」から来ているキャラなんですよ。
そして、他の共演者の関しては、弥十郎の蝙蝠安、歌六の赤間源左衛門は全然悪くない。むしろ、上出来なくらいだったから、赤間屋奥座敷の<嫌われOL風お富>が嫌になっちゃったんですよね。
本来の切られお富役としては、今月の国立劇場の小夜衣お七が好演だった菊五郎が、きっぱりした黙阿弥調のお富の最有力候補ですかね。あとはやっぱり、俗っぽい芝居のときの玉三郎か・・・。他だと、個人的には春猿にも期待したいところだけど。
まあ、しばらくは先代・河原崎権十郎の、与三郎・お富一人二役のビデオでも観て、自分を慰めようっと!
(参考)
おおむね、あの芝居を観たブロガーの感想も好評みたいだし、劇場内でもそれなりにうけていたのだけど、悪婆物というのがああいうものだと思われてしまうと、品のない芝居が増えそうで、わたしは嫌!
「切られお富」という芝居は「切られ与三郎」という芝居のパロディで、元の芝居は、女(お富)のために傷だらけになった色男・与三郎が、知らない男の妾になっているお富を訪ね、ゆすりをやるという筋立てなわけだけど、「切られお富」では傷だらけにされてしまうのが、女の方だという寸法。
幕末の退廃文化が、美男や美女を傷だらけにするという芝居を作り出したということなんですよね。
で、このパロディ芝居(歌舞伎では、「書替え狂言」といいます。)の最大の特徴は、あの河竹黙阿弥が書いたということなんです。
つまり、「知らざあ、言ってきかせやしょう」などの七五調の気持ちのいい黙阿弥の台詞、そして、髪結新三や弁天小僧、お嬢吉三などの、色気があって、ふてえ根性の悪漢たちの系譜。これらの特徴を踏まえた、女性版の悪漢がまさにヒロイン切られお富なのであって、今月の芝居の福助からは、黙阿弥物の香りは一切漂ってこなかった。
去年の「伊勢音頭」の万野や「吉原狐」のおきちの時もそうだったけど、とにかく、気持ち悪い声の調子の変化で、媚を売ったり悪態をついたり・・・。
つまり、見え透いた感じで、全然世辞長けた強い女の感じがしない。自分のことは自分で処していくというイメージが丸っきりなくて、嫌われ者のOLみたいな印象しかわたしにはありませんでしたね。
わたしのなかのヒロイン切られお富は、たとえでいうなら、ハワード・ホークス監督の映画『脱出』のなかのローレン・バコールのような女性で、好きな男には弱いけれど、ハードボイルドな女だったりするんです。
そういう談でいえば、「夏祭浪花鑑」のお辰っていう女性(猛女?)も好きなんだけど、気風のいい女性というのは、花柳界を中心に江戸時代だって人気があったということなんですよ。
さて、芝居にひきつけていうと、序幕の傷だらけにされるくだりが夢だったという落ちは、わたしもあんまり意味ないなあと、正直思った。そして、与三郎との再会のシーンだけど、橋之助の与三郎が硬くて色気がない。だって、あの「切られ与三郎」から来ているキャラなんですよ。
そして、他の共演者の関しては、弥十郎の蝙蝠安、歌六の赤間源左衛門は全然悪くない。むしろ、上出来なくらいだったから、赤間屋奥座敷の<嫌われOL風お富>が嫌になっちゃったんですよね。
本来の切られお富役としては、今月の国立劇場の小夜衣お七が好演だった菊五郎が、きっぱりした黙阿弥調のお富の最有力候補ですかね。あとはやっぱり、俗っぽい芝居のときの玉三郎か・・・。他だと、個人的には春猿にも期待したいところだけど。
まあ、しばらくは先代・河原崎権十郎の、与三郎・お富一人二役のビデオでも観て、自分を慰めようっと!
(参考)
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私も「菊五郎さんで観たかったな~」と思ってました。
歌舞伎座の座席はかたいし、友人が一緒でなければ、途中で帰りたかったくらいです。
勘三郎さんの「鏡獅子」は良かったけど・・。
同じように、思っていらした方がいて、
ホッとしました(笑)。
同じ意見の方がいるなんて、こちらこそ嬉しいです!
きっぱり、カッコいい「切られお富」の再演が見たいですよね。
やっぱり菊五郎かな~。秀太郎でもいいんだけど。