切られお富!

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十一月大歌舞伎 昼の部 (歌舞伎座)前編

2004-11-16 03:05:00 | かぶき讃(劇評)
先週観たのに思うところがあって書けず、幕見で一部見直してしまった。たまに納得がいかないとこういう事をやってしまうのだが…。

①箙の梅(えびらのうめ)

岡本綺堂原作。はっきりいってこういう芝居は二度と上演すべきではない。話が詰まらな過ぎて、梅玉、段四郎、芦燕が気の毒。

簡単に端折ってストーリーを説明すると、源平の合戦の折、若武者に一目ぼれした娘が若武者を追いかけていくうちに流れ矢にあたって死ぬという話。大正4年の初演ということで、日清日露戦争の頃にはこんな話もそれなりに受けたのかもしれないが、最近のイラク人質事件よりも同情できないストーリーにいまや疑問を感じざるを得ないだろう。

梅が枝という娘役の孝太郎の芝居も大袈裟だったが、これは役者の責任というより、奥ゆかしい女性という設定では芝居が続かないという原作の欠点の問題としか言いようがない。松竹の方々今後はくれぐれもこの芝居はやめてください。

なお岡本綺堂に関しては、私が評価しているのはエッセイだけで、評価の高い「半七捕物帳」や怪談物はバタ臭い翻案物の域を出ていないように思う。ちなみにこの人は明治の人としては例外的に子供の頃から洋書に親しんでいたという家庭に育っている。

②葛の葉

個人的には今月のベストアクト。一回見たときは早替りばかりに目がいってピンとこず、もう一回幕見で見てしまった。狐が出てくる話というのは、とかくファンタジー的な扱いを受けてしまって、深みの無いようなもののように思われてしまうのだが、改めて考えると、これはなんだかうまい設定かなという気がして…。

話は、許嫁と生き別れてしまった男(阿倍安名)が、命を助けた狐の化けた偽の許嫁と結婚し子供(後の安倍晴明)をもうける。そこへ本物の許嫁が現れ、狐は子供と夫に別れを告げ、森の中へ去って行く、というもの。(かなり端折ってしまったが。)

一見、日本昔話的な話のようだが、折口信夫はこの狐を<差別された集団の女>を象徴しているといっている。そう考えれば、雪女や鶴の恩返しなんかも意味が違ってくる。また、安倍晴明が異類婚の子で式神を操ったという伝説も、被差別集団とのネットワークを持つ生まれでその集団の人間を自由に使っていたという想像もできる。(なにしろ平安貴族は貴族以外は人間だと思っていないので。)この手の話は、小松和彦氏の著書「鬼が作った国・日本」と「日本の呪い」をご参考にどうぞ。

で、民俗学的解釈もさることながら、私の感心どころはじつは別の現代的な解釈。不実な男を免罪する話の仕組みとして面白いなというところ。戦死の誤報を受けた戦争未亡人の再婚みたいなやり場のなさというのか…。「なんだ、昔のイタリア映画『ひまわり』のパターンかよ」といわれそうだが、運命に引き裂かれる恋愛っていいじゃないですか?おまけにファンタジー的な味付けまでされているんですから。昔の浄瑠璃作者って偉いなと。(因みに、この原作「芦屋道満大内鏡」というのは最初に人形遣いが三人になった狂言だそうだ。)

さて、肝心の芝居のほうだが、鴈治郎はやはり女房役の方が断然いい。石持の着物がよく似合う。葛の葉姫役のほうはさすがにちょっと無理があって、キツイ感じもあるが、早替りの為の二役だと思えば問題なし。機織りの音の使い方のうまさもこの芝居の早替りを助けている。葛の葉姫を連れてくる信田庄司夫婦の左團次、東蔵はどちらも素晴らしいが、特に信田の妻役の東蔵が娘の葛の葉を連れて引っ込むときの姫の手を持ってないほうの手の仕草の気品がなんとも言えずいい。

次の場の奥座敷、安名役の翫雀の罪のない素直な感じがいい。ちっとも不実な男の感じがしないという点でこの役にぴったりあっていると思う。日本昔話に出てきそうな朴訥とした少年のような男という感じの伸びやかさがあった。

この奥座敷から鴈治郎の狐の葛の葉は<狐の仕草>を示すわけだが、これが過剰でないところがいい。以前右近の四の切を批判したが、どうも歌舞伎の<狐の仕草>の過剰な演技が最近多いような気がして、あっさりとした舞踊の狐の仕草の鴈治郎をみてホッとしたし、こっちのほうが全然いいなあと思う。(狐をリアルに描いてもしょうがないですからね。)この自然さは最後の第三場にも続き、円熟芸だなあと思う。舞台が90度回っての、筆を使ったケレンもいいし、文句なしですね、個人的には。最近すっかり鴈治郎贔屓だな。

★長くなったので、続きはまた続編で!
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