切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

七月歌舞伎鑑賞教室 「毛谷村」(国立劇場)

2006-08-17 08:06:57 | かぶき讃(劇評)
チケット安いしまあいいかって感じで見に行った七月の歌舞伎鑑賞教室。でも、梅玉・芝雀コンビに、義太夫は竹本清大夫、三味線・鶴沢正一郎のベテランコンビですから、歌舞伎ファンには気になりますよね。もっとも、演目、キャストがビギナー向きだったのかは疑問が残るところではあるんだけど・・・。

彦山権現誓助剣「毛谷村」という芝居は何度も見ているし、割合よくかかる芝居だなって印象なんだけど、物凄く端折っていえば、田舎者の鷹揚な剣士(六助)と男勝りの女剣士(お園)の物語。そう考えれば、高橋留美子の漫画みたいだなって気もしなくはないでしょ?

私が見たことのあるこの芝居の六助では、吉右衛門の六助が別格的な大物で、富十郎は子供好きの元気な六助、海老蔵は鷹揚で意外にもローカルな雰囲気をもった好青年って感じだったし、こんぴら歌舞伎のときの染五郎は上方和事の雰囲気をたたえた丸みのある六助だった。

で、今回の梅玉の六助。たぶん梅玉のこの役ってはじめて見たわけではないはずだけど、こんなに粋でスッキリした感じだったかなというのがわたしの印象だった。喩えていうなら、江戸から流れてきた粋な遊び人の六助って感じか。

渡辺保氏の劇評で、良くも悪くも余計なことはしないスタイルの六助だったというような話があったけど、確かに思い入れたっぷりというよりは、軽く受け流す余裕すら感じられる六助。これは梅玉さんならではのこの役かもしれない。

一方、芝雀のヒロイン・お園は、関東では初めての公演だそうだけど、わたしはたまたまこんぴら歌舞伎で見たことがあった。

こんぴら歌舞伎の感想

花道の出、虚無僧姿で男装している女性を女形が演じるという幾重にも倒錯した(?)登場シーンから始まるこの役だけど、わたしの見た位置からは芝雀の足取りは随分重く見えた。何しろ、父・雀右衛門のお園を見たことがあって、花道の出から絶品だったことを考えると、まだまだ、ここは発展途上というところか?

舞台下手から虚無僧姿でする台詞回しは、前回まったくの男の声という印象だったけれど、ここは若干の改善がみられ、きばった女性が男の振りをしている感じになっていた。六助との対面は、前半の男勝りと後半自分の許婚と判ってからの女っぽさの対比が見所なんだけど、芝雀のよさは後半の色っぽさにある。今回もかまどのあたりの芝居なんか、不器用さと色っぽさが交じり合ういい感じ。父親の芸風を継承しつつあるなあっていうのがわたしの印象でしたね。

敵役の微塵弾正は、玉太郎改め中村松江。しかし、残念ながらこの役には役不足なのかニンに合わないのか、もうひとつだった。基本的に美男役者だし、何でもこなせる父・東蔵の後を行くには何でもできた方がいいのだけど、悪役が似合う團蔵や亀蔵、信二郎なんかに比べると、残念ながら物足りなかったかな。

お園の母親・お幸は歌江。武士の後家で骨のある老婆のこの役に、おっとりした芸風の歌江はどうかなとは思ったけど、今回はなかなか骨のある感じにはなっていた。でも、この役のベストは吉之丞だと思うんですけどね、わたしは。

最後にちょっと感じたのは、清太夫熱弁の義太夫に梅玉の芝居がのるこの芝居、果たして鑑賞教室向きだったのかということ。はっきりいって、子供連れの親たちも義太夫はさっぱりわからなかったらしいというのが、わたしが周囲の観客から受けた印象だった。こういう渋い歌舞伎の楽しみ方は、親から教育しないとダメなんじゃないかなって気もしたかな。(親子で落ち着かない客が多すぎちゃってね。)

それと、これはわたしの勘違いかもしれないけれど、微塵弾正が六助の眉間に傷をつけるくだりが出てこなかったような気がしたんですよね、これって、子供向けの配慮なんでしょうか?ちょっと、ここは気になりましたね。

そんなところで、簡単な感想でしたね!
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2 コメント

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やってましたよ (satsuki)
2006-08-22 02:00:31
>微塵弾正が六助の眉間に傷をつけるくだりが出てこなかったような気がしたんですよね、



切られお富さんの勘違いです。やってました。

ただ、松江が薄かったから、目立たなかったのかも。

梅玉も薄めの色で傷をつけてたしね。
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コメントありがとうございます。  (切られお富 )
2006-08-22 08:02:58
satsukiさん、ご指摘ありがとうございます。



やっぱり、やってましたか。

わたしの観た日も、梅玉さんの眉間に傷の化粧はあるにはあったんですが、かなり地味であっさりしたものでした。



それと、微塵弾正が六助の眉間に傷をつけるくだりって、もっと憎憎しげなところだと思うのですが、割合スッといっちゃったような気がしたんですよね。まあ、わたしがぼーっとしてたのかもしれないけれど。



これって子供が真似しちゃいけないという配慮かななんていうのはわたしの勘繰り過ぎってところでしたね。



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