
簡単な感想だけ。
①南総里見八犬伝
今年一月に国立劇場で通し上演があり、なんとなく全体の記憶が残っていたんで、あたしは大丈夫でしたが、普通の観客は今回面食らったんじゃないですか。いきなり、大屋根の立ち回りで、そのあとがだんまりですから。これじゃあ、なかなか脈絡がわからないでしょう。観客泣かせで且つ、頑張っている役者連にもさすがに気の毒。
大屋根は花道から右近で、屋根には獅童。二人とも元気なところみせてよいんだけど、これだけではなかなかね。次が円塚山で最後が勢揃いのだんまり。笑三郎の浜路なんか悪くなかったんだけど、脈絡なくここだけだと、さすがに気の毒。また、この幕の白眉は梅玉の犬山道節で、菊五郎的な派手さはないものの、花道の引っ込みなんかは、さすがに大歌舞伎っぽい貫録がある。
というわけで、若手の勢揃いのための演目みたいになってましたね。ま、こういうのも必要だけど。
②切られ与三郎
有名すぎる演目なんで、簡単に気づいたことだけ。
海老蔵・玉三郎コンビによるこの芝居は今回が初めてとは意外でした。わたしは、海老蔵襲名の大阪松竹座で、海老蔵・菊之助コンビのこの芝居を観たことがあるけど、その頃からしたら、海老蔵は格段に落ち着きがありましたよ。
見染の海老蔵は、お坊ちゃんぶりを強調しすぎると子供っぽくなる印象だったのが、今回は大家の若旦那らしい柔らかさで落ち着いていたし、玉三郎は大親分の愛妾らしい貫録で、子分を恐縮させるに十分な佇まい。そんな二人の見染めが、あの並んだ時の二人の足取りからは、とても初めてのコンビとは思えない。ま、玉三郎が身を引きつつもリードしてるってことなんでしょうけど・・・。
で、今回は前の方の席だったんで、玉三郎=お富が後ろ髪をひかれる思いで、海老蔵=与三郎の方を見ながら引っ込んでいく姿が、何とも名舞台だと思いました。
そして、舞台かわって、源治店。黒塀に門のくだりは、猿弥=藤八に呼び止められた玉三郎のお富がやけに明るすぎるとは思いましたが(特に、門の中に入ってくるところの台詞が明るすぎて、ちょっと!)、湯上りに唐傘が錦絵のようで素晴らしい。
家に入って、猿弥の藤八を軽くいなす玉三郎は、ここでも貫録と色気がある。でも、海老蔵登場からはぐっと身を引いた感じになるのが芸の年功だと思いました。
海老蔵の与三郎は、玄関先の黙った佇まいから、「ご新造さんへ、女将さんへ、お富さんへ~」のくだりから、足取りの運びに緊張感がある。足取りでいえば、最後の方の玄関を出て裏口に隠れるところでも、考え抜いたような緊張感があってよい。また、「しがねえ恋の情けが仇~」も青春の悔しさみたいなものが伝わってきて、過去の海老蔵のこの芝居にはない出色の素晴らしさでした。
猿弥の藤八は、お笑いにし過ぎない品があってまずまずでしたし、獅童の蝙蝠安はよい意味で若いチンピラ的で、海老蔵との相性がよいんだと思う。そして、素晴らしかったのが、中車の多左衛門。十一代目團十郎のこの芝居のモノクロ映像で、この役だったのは初代猿翁でしたけど、猿翁の落ち着いた実録風の多左衛門を思い出しました。7月は中車が歌舞伎役者としての自信を獲得した月として記憶されるかもしれない。年を取ってから古典落語を始めた鶴瓶みたいな、キャリアからくる説得力があったような気がします。
ということで、よい舞台でした。是非、シネマ歌舞伎にしてください、松竹さん!
③蜘蛛の拍子舞
浅草の舞台の映像を見直してから舞台を観たのですが、完成度があがっていて、ビギナーに澤瀉屋の芸風を伝える最良の演目になったと思いました。
猿之助の五役早変わりで気になったところを書き残しておくと、浅草では、常盤津の山台の下から出てきた薬売りが、今回は山台に「黒ひげ危機一髪」みたいにポーんと飛び出してきたところが面白かった。すっぽんから出てくる童、薬売り、新造、揚幕の「出があるよ」に騙されそうになる仙台座頭、傾城実は蜘蛛の精。個人的には、猿之助独特の愛嬌をふりまく童、澤瀉屋の溌剌感のある薬売り、飄々とした座頭が好きでした。
獅童と右近の貞光と金時ですが、「毛抜」みたいな太平楽さがよくて、八犬伝の空振りを挽回。最後の海老蔵の押し戻しも、揚幕の台詞から、花道七三の堂々ぶりまで、見応え十分でした。最近、誰でもやるようになりすぎた澤瀉屋版「四の切」よりも、わたしは歌舞伎ビギナーに見せたいですね、この演目。
というわけで、久々に前の方の席で、蜘蛛の糸に巻かれながら観劇しました。
①南総里見八犬伝
今年一月に国立劇場で通し上演があり、なんとなく全体の記憶が残っていたんで、あたしは大丈夫でしたが、普通の観客は今回面食らったんじゃないですか。いきなり、大屋根の立ち回りで、そのあとがだんまりですから。これじゃあ、なかなか脈絡がわからないでしょう。観客泣かせで且つ、頑張っている役者連にもさすがに気の毒。
大屋根は花道から右近で、屋根には獅童。二人とも元気なところみせてよいんだけど、これだけではなかなかね。次が円塚山で最後が勢揃いのだんまり。笑三郎の浜路なんか悪くなかったんだけど、脈絡なくここだけだと、さすがに気の毒。また、この幕の白眉は梅玉の犬山道節で、菊五郎的な派手さはないものの、花道の引っ込みなんかは、さすがに大歌舞伎っぽい貫録がある。
というわけで、若手の勢揃いのための演目みたいになってましたね。ま、こういうのも必要だけど。
②切られ与三郎
有名すぎる演目なんで、簡単に気づいたことだけ。
海老蔵・玉三郎コンビによるこの芝居は今回が初めてとは意外でした。わたしは、海老蔵襲名の大阪松竹座で、海老蔵・菊之助コンビのこの芝居を観たことがあるけど、その頃からしたら、海老蔵は格段に落ち着きがありましたよ。
見染の海老蔵は、お坊ちゃんぶりを強調しすぎると子供っぽくなる印象だったのが、今回は大家の若旦那らしい柔らかさで落ち着いていたし、玉三郎は大親分の愛妾らしい貫録で、子分を恐縮させるに十分な佇まい。そんな二人の見染めが、あの並んだ時の二人の足取りからは、とても初めてのコンビとは思えない。ま、玉三郎が身を引きつつもリードしてるってことなんでしょうけど・・・。
で、今回は前の方の席だったんで、玉三郎=お富が後ろ髪をひかれる思いで、海老蔵=与三郎の方を見ながら引っ込んでいく姿が、何とも名舞台だと思いました。
そして、舞台かわって、源治店。黒塀に門のくだりは、猿弥=藤八に呼び止められた玉三郎のお富がやけに明るすぎるとは思いましたが(特に、門の中に入ってくるところの台詞が明るすぎて、ちょっと!)、湯上りに唐傘が錦絵のようで素晴らしい。
家に入って、猿弥の藤八を軽くいなす玉三郎は、ここでも貫録と色気がある。でも、海老蔵登場からはぐっと身を引いた感じになるのが芸の年功だと思いました。
海老蔵の与三郎は、玄関先の黙った佇まいから、「ご新造さんへ、女将さんへ、お富さんへ~」のくだりから、足取りの運びに緊張感がある。足取りでいえば、最後の方の玄関を出て裏口に隠れるところでも、考え抜いたような緊張感があってよい。また、「しがねえ恋の情けが仇~」も青春の悔しさみたいなものが伝わってきて、過去の海老蔵のこの芝居にはない出色の素晴らしさでした。
猿弥の藤八は、お笑いにし過ぎない品があってまずまずでしたし、獅童の蝙蝠安はよい意味で若いチンピラ的で、海老蔵との相性がよいんだと思う。そして、素晴らしかったのが、中車の多左衛門。十一代目團十郎のこの芝居のモノクロ映像で、この役だったのは初代猿翁でしたけど、猿翁の落ち着いた実録風の多左衛門を思い出しました。7月は中車が歌舞伎役者としての自信を獲得した月として記憶されるかもしれない。年を取ってから古典落語を始めた鶴瓶みたいな、キャリアからくる説得力があったような気がします。
ということで、よい舞台でした。是非、シネマ歌舞伎にしてください、松竹さん!
③蜘蛛の拍子舞
浅草の舞台の映像を見直してから舞台を観たのですが、完成度があがっていて、ビギナーに澤瀉屋の芸風を伝える最良の演目になったと思いました。
猿之助の五役早変わりで気になったところを書き残しておくと、浅草では、常盤津の山台の下から出てきた薬売りが、今回は山台に「黒ひげ危機一髪」みたいにポーんと飛び出してきたところが面白かった。すっぽんから出てくる童、薬売り、新造、揚幕の「出があるよ」に騙されそうになる仙台座頭、傾城実は蜘蛛の精。個人的には、猿之助独特の愛嬌をふりまく童、澤瀉屋の溌剌感のある薬売り、飄々とした座頭が好きでした。
獅童と右近の貞光と金時ですが、「毛抜」みたいな太平楽さがよくて、八犬伝の空振りを挽回。最後の海老蔵の押し戻しも、揚幕の台詞から、花道七三の堂々ぶりまで、見応え十分でした。最近、誰でもやるようになりすぎた澤瀉屋版「四の切」よりも、わたしは歌舞伎ビギナーに見せたいですね、この演目。
というわけで、久々に前の方の席で、蜘蛛の糸に巻かれながら観劇しました。
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