切られお富!

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6月歌舞伎座(昼の部)「天保遊侠録」「新薄雪物語 花見・詮議」

2015-08-24 23:59:59 | かぶき讃(劇評)
完全にお蔵入りのつもりだったんですが、真面目に書いている部分もあるもので、一応UPすることにしました。では・・・

① 天保遊侠録


勝海舟の父・勝小吉が、息子の将来を考えて就活をこころみるが…という話で、近年では橋之助、吉右衛門がこの芝居を演じているんだけど、橋之助は二度目。ただ、この二人でだいぶアプローチが違うんですよね。

橋之助は、気性の荒い早口の江戸っ子というイメージで、吉右衛門だと鬼平を思わせる遊び人。

芝居冒頭、小吉とその甥庄之助の花道からの出。橋之助は二度目だけあって、切れのよい啖呵が小気味いいんだけど、少し情緒に欠ける。一方、今回の庄之助は国生なんだけど、父親と声質が似ているのか、声がかぶり台詞が分かりにくい。父橋之助の勢いに押されて負けじと調子を出したのが災いしたかなという印象。
この庄之助という役は、前回の橋之助の舞台では勘九郎、吉右衛門のときは染五郎だったけど、国生には少し気の毒だったかも。というのも、馬鹿な甥子という設定ながら、この役って狂言回し的なポジションでもあるので、愚かな部分もある一方、説明的な部分は少し調子を落としでも分かりやすくしておかないと、小吉が暴れられないし、観客も置いてき堀をくう。そういう意味では、結構難しい役で、わたしは勘九郎でも染五郎でも不満が残ったけど、彼らは一日の長がありますからね~。

橋之助の小吉は、終始、落語の「大工調べ」か「三方一両損」みたいな啖呵で、切れはよいんだけど、緩急がないので聞いていて少し疲れる。小吉とかつて駆け落ちした芸者八重次は、橋之助の前回が扇雀、吉右衛門のときと今回の橋之助が芝雀。芝雀の八重次は怒っていても可愛いタイプで、扇雀は結構怒っていても惚れてる八重次だったけど、どちらも芝居としては嫌いじゃない。
他の役では、團蔵の井上角兵衛が酸いも甘いも噛み分けた感じで、緩急があってよかった(團蔵みたいな硬軟織り交ぜた感じが、橋之助にあれば…。)。また、小吉の姉で大奥中臈阿茶の局は、橋之助の前回が萬次郎、吉右衛門のときが東蔵で、今回が魁春。萬次郎、東蔵の貫録からすると、魁春はだいぶおとなしいが、品格で武士たちを圧する力があり、ニンだったかは疑問だが、まずまず舞台を引き締めている。あと、わたしの観た日は勝麟太郎役の子役が上手かった。

で、少し番外編的な感想も含めて残しておくと、勝小吉の自伝『夢酔独言』は、読んでみたんだけど、この人を持ち上げた坂口安吾はだいぶ勘違いしていますよ。相当な乱暴者なんですから(ちなみに安吾は抄録しか読んでいない状態で持ち上げた。)。欧米列強が「治外法権」を求めたのも道理だと思うくらい、昔の人は野蛮だったんだなって確認できます。しかも下戸で、なんですよ。素面で凶暴って、あまり友達にしたくないでしょ。今でいうと北関東の不良みたいな感じじゃないですか。
一方、作者の真山青果も逸話によると喧嘩っ早い人で、この作品の小吉に自分を投影しているらしい。「元禄忠臣蔵」の「御浜御殿綱豊卿」も綱豊じゃなくて助右衛門に自分を投影しているんでしょうね。だから、わかってほしくて、叱ってほしくて、綱豊とか阿茶の局みたいな人物造形が出てきたのかもしれません。

そんなこんなで、今「真山青果全集第6巻」に入っている「天保遊侠録」を読んでいます。この芝居、詩情あふれる、桜散る雨のシーンから続きがあるんですよ。読み終わったら、またその感想を書きます。とりあえず、今日はここまで。

② 新薄雪物語(花見・詮議)

長い芝居なので、ダレると堪らないんですが、今回は名演の類なんじゃないでしょうか。でも、演目としての人気を考えるとシネマ歌舞伎にはならないだろうなあ~。

というわけで感想ですが、まず花見。

梅枝と時蔵の籬・薄雪姫ですが、花道の出からよかったです。特に梅枝の薄雪が雰囲気風情があってよくて、時蔵の籬も手慣れた感じでよかったですね。対する立役の妻平の菊五郎、錦之助の左衛門ですが、錦之助が枝の和歌をめぐる見初めといい、綺麗で色気があってよい。菊五郎は、この役にしては体重のあるどっしりした感じだが、この役にしては若すぎた染五郎あたりに比べれば全然洒落っ気があってよい。でも、本当の本役は、今にして思えば三津五郎でした。あるいは、生きていれば勘三郎ですかね。今回も時蔵・菊五郎の大人のカップルの色気がもう一つだったのは、同じくらいの年ごろの中堅又はベテランでこの二役をやらないからでしょうね~。配役って、難しい。

来国行・国俊親子の家橘、橋之助だと、橋之助はちょっとこの和事めいた役がニンではなく、夜の部の方も気の毒だったし、家橘は気骨のある刀鍛冶にしては少し地味かと。

そして、お待ちかねの吉右衛門の団九郎は、その容姿とスケールの大きさで、見応えあり。ただ、この役自体がそんなにしどころがないんで、ちょっと消化不良ではあるんだけど、花道から出てくる仁左衛門の大膳との掛け合いが、まさに大歌舞伎!大膳は以前観た富十郎も素晴らしかったけど、仁左衛門もスケールといい、声といい、名舞台という感じがしましたよ。このあと、仁左衛門は引っ込みの思い入れもよくて、その後に菊五郎の妻平の立ち回りで幕。

続いて、詮議は、お座敷をさまよう錦之助の左衛門が絶品。このひとのあたり役といってよいんじゃないですか。左衛門を叱る仁左衛門=幸崎のセンチメンタルな部分を併せ持つ叱責がよかったし、、幸四郎の伊賀守は貫録のある口跡で立派。菊五郎の葛城民部は、かつての富十郎、仁左衛門に比べると、すっきりとした爽やかさはないものの、きっぱりとした貫録で、舞台を締める。

ということで、なかなか充実の「新薄雪」前半でした。はやく、衛星劇場で放送してください!舞台を満喫できました!

夢酔独言 他 (平凡社ライブラリー)
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平凡社


安吾史譚: 勝夢酔
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高踏出版


真山青果全集〈第6巻〉 (1976年)
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