切られお富!

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納涼歌舞伎 第三部「お国と五平」「怪談乳房榎」(歌舞伎座)

2009-08-25 23:59:59 | かぶき讃(劇評)
印象程度に、簡単に感想っ。

①お国と五平

谷崎潤一郎原作の戯曲で、仇討ちの「追うもの」、「追われるもの」の関係が逆転してしまうというシュールな作品。

夫の仇を討つために旅するお国と家来の五平、お国に横恋慕する故にその夫を殺した友之丞。

お国と五平は仇討ちの旅を続けるうちに深い仲になり、一方の友之丞は愛するお国の姿を追って、じつはふたりの後をつけていた…。

なにしろ、書いているのはあの谷崎潤一郎ですから、「仇討ち」という建前をあざ笑う友之丞の側に谷崎の本音があるのでしょう。しかし、その谷崎の分身、友之丞を演じているのが坂東三津五郎だというのは、いかにもミスキャストのような…。

といっても、以前から三津五郎はこの役をやっているんですよね~。この役好きなのかな?

私生活はどうか知りませんが、舞台の三津五郎というのは、折り目正しい役が似合うタイプの役者でしょ。わたしのなかでは、<谷崎→『痴人の愛』の譲治→友之丞>というイメージがあるので、どうもしっくりこないんですよ。

一方、五平は今回、勘太郎。先月の女形よりはこういう役が似合うんだけど、五平という役は青年役者みたいなひとがやる役ということに歌舞伎ではなっているらしくて、以前は今の松緑がやってたりしましたよね~。

で、最近の酒井法子の件じゃないけど、「あのひとが~」みたいな調子で、真面目な若侍が人妻と深い仲になる…。

扇雀のお国は、いつもほどあだっぽさを強調してなかったのがよかったですね。コクーン歌舞伎のときみたいだったら、最後の「あれ~」というところが活きないですから。

というわけで、結論をいってしまうと、この芝居って、本で読むと感動するのに舞台で見ると印象が半減。

今回の芝居も、三人とも半端に真面目な人たちに映ってしまって、劇的な衝撃には残念ながら欠けてしましたね~。

だから、もし、この作品を役者の生身でやるんなら、映画監督増村保造の『曽根崎心中』(梶芽衣子主演)みたいにハイテンションでやらないと、建前を打ち砕く快感が表現できないんじゃないか…、というあたりが、偽らざるわたしの本音です。

あるいは、武智鉄二だったら、どう演出したのかな~、この芝居!


②怪談乳房榎(かいだん ちぶさのえのき)

これは明治の落語家・三遊亭円朝の怪談噺を劇化しもので、口演本も出ていますが、手っ取り早いのは落語のCDを聞くことでしょう。

個人的には、三遊亭円生(引退した円楽の師匠です。念のため。)のCDが艶っぽくて好きですが、最近は桂歌丸のCD&DVDがあります。歌丸の方はCDのみ視聴しましたが、円生がやった艶っぽいところは省略、ストーリを追うことに主眼を置いたもので、芝居の参考にはいいんじゃないですか?オススメします。

さて、芝居の方。

画家夫婦の家に入り込んだ好色な侍が、画家の妻を誘惑し、画家を殺す。そして…、という怪談話。

でも、今回の舞台も含め、歌舞伎でやるときは早替りの演目ということになってしまいますよね~。この点はよい点もあれば悪い点もある。

たとえば、<脅迫→誘惑→不倫>の艶っぽさは、芝居のほうでは希薄です。橋之助&福助の濡れ場は演出上、「ほのめかし」程度で、ちょっともったいないのではと思うのですが…、どうですかね?(因みに、三遊亭円生は人妻を口説くところがやりたくて、この噺を取り上げたんだとか!)

ただ、あえていうなら、福助の人妻役はもうちょっと真面目っぽくしといたほうがよいのではという気もしました。なぜなら、前の芝居と同じで、貞淑な妻の不倫だから意味があるのでしょうからね。このひとがやるとちょっとあだぽくなっちゃうんですよ。(たとえば、序幕なんか貫禄がありすぎ…。)

一方、勘三郎の三役早替りは手馴れているし、このひと自身、早替りを見せるのがうまい。

早替りって、変わるときのスピード感に加えて、変わったときの見得の切り方がカッコよくないと、さまにならないでしょう。その点、エンターテイナーとしての勘三郎が堪能できる舞台ではありました。

また、本当の水を使った滝のシーンは、納涼歌舞伎らしくてよかったなあ~。

それと、序幕に出てくる中村屋のベテラン中村小山三の茶屋の女は、歌舞伎ファンにはとっても愉快な場面でした。

以上、くしくも第三部はどちらの演目も不倫の話でしたね~。


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