「私・・彼を掴んでも良いってこと・・?
でも、なにもかも、黙って・・彼をだましてしまうことになる。
せめて、こんなぼろな女でも、そんなことだけはしたくない・・」
わずか、希望を見出したかと思ったキャッシーだったけど、
相手がセイントであればあるほど、
自分がせめて、そこの部分だけは同じものでありたいとおもったんだろう。
ーけっこう・けっこうー
キャッシーの気持ちもやっぱり、まじなものでしかない。
「あん?
だれが、黙ってろって、いったよ?」
「え?は・・はなせ・・っていうこと?話してしまえって?
そんなこと、できるわけないじゃない」
「な~~んでさ?」
「なんでって、考えなくってもわかることじゃない」
きっと、ボーマンは又、かすかに笑ってるにちがいない。
「わかんねえよ。
わかるように説明してくれねえか?」
「説明って・・?」
そんな事がわからないボーマンのわけがない。
「そうさ、説明してくれよ。
なんで、はなせないのか、俺にはわからないんだよ」
判らない・・・?
ボーマンが判らないのは何故だろう?
なにか、別の考え方があるからだろうか?
「つまり、私が考えてることはどこか、違うってことかしら?」
ボーマンはふふんと鼻をすすると、
すっかり、冷えてしまったコーヒーに口をつけた。
「そうかもしれないな。
だから、おまえの考えをはなしてくれないと
俺の考えもならべてみせることができないってとこだろう」
さすが、頭の回転が速いキャッシーだと思いながら
ボーマンはキャッシーの説明を待った。
「そうね。じゃ、はなしてみる。
まず、彼が私と父親の関係をしったら・・・
彼は父親をにくむ・・。
そして、私と一緒になっても、父親とのことを思い知らされる。
私に対しても・・悲しい思いや怒りをもつ・・
結局、親子も夫婦も破綻していく」
「それだけ?」
ボーマンの返事はそれ。
それだけって?それが一番のネックじゃない?
わざわざ、不幸になるために話す必要はないし、
ましてや、苦しむだけじゃない・・。
苦しめるためだけに話すなんて、身勝手もいいところだわ。
「あのさ、俺がおもうことだけどさ。
そんなこと、黙っていておまえ、本当に幸せになれるか?
さっきいったように、そのすがたってさ、
聖女のふりのおまえじゃんか?
ぼろであばずれの自分をうけとめてくれて
それでも、愛してくれてるってわけじゃねえだろ?
聖女のお前をあいしてるってことにならねえか?
それで、おまえ、ほんとうに、あいされてるっていえるか?
ひろってもらえっていっただろう?
ごみのようなおまえをみせなきゃひろってもらえやしないんだよ。
お前がすくわれないんだよ。
一生、聖女のふりで欺いてる罪悪感と
本当の自分ごとうけとめてもらえない寂しさに泣くことになるんだよ。
そんな生活が本当の愛か?本当の夫婦か?」
ボーマンのいうことはよくわかる。
けど、問題はそんなことじゃない。
彼がどんなに傷つくか・・・。
「まあ、大体おまえの考えてることは察しがつくよ。
だけどな、俺がお前の親父だったらって、かんがえるんだ。
ぼろな娘でもな、それごと、うけとめられねえような男に
おまえをわたしたくねえ。
そして、自分の父親とどうこう?
そんなことで、へこたれるような男にもお前をわたしたくねえ。
それで、親父を恨んだり
お前を憎んだりするような思いしかもてねえ男にも渡したくねえ」
「ボーマン?」
「判るか?お前がぼろだろうが、なんだろうが、
本当にお前が必要で、お前が大事だったらな
父親からでもうばいさるくらいな気持ちがなけりゃ
一緒になっても偽者の感情しかそだたねえんだよ」
「それ?
私に本物をつかみとれってこと?」
「まあ、そういうことさ。
そんなことできずつくよりも、お前と一緒になれることになれたって
喜ぶ奴じゃなきゃ・・。
考えてもみろや。
お前が父親の愛人になってなかったら、お前ら出会うことさえなかったんじゃないか?
考えようによっちゃ、親父さまさまだろうが?
お前だって、まさか運命の人が・・・
あ~~ん、そいついくつだよ?」
「23・・・」
「つ~ことは、お前が最初にそいつにであってたら14歳ってことだろう?
おまえ、そんなジュニアスクールの坊主に恋をするか?
しねえだろ?
だったら、その時点でまじツルゲーネフの初恋みたいに
二人はお釈迦になってたんじゃねえか?
それをお前らが出会って一緒になれるときまで、父親がひきとめてくれてた。
それくらいに考えて、感謝するよ。
それが、本気ってことだよ」
「ボーマン?」
「だからな。うじうじ親父を恨んだり、お前をせめたりするような男だったら、
お前のほうから、ふっちまえ。
おまえな。
本物をつかんでいけよ。
本物をつかみたかったら、自分のぼろいところもなにもかも
みせるしかねえんだよ」
「だけど・・もしも・・」
そうだろうなあ。本物じゃなかったら結局傷をつけてしまうだけって
そこを心配するキャッシーの気持ちもわからないでもない。
「あのなあ・・。どんなことでも、絶対、そいつには必要なことなんだよ。
傷をつけてしまうんじゃなくてな。
偽者の思いしかもてなかった自分をみつめなおすしかねえんだよ。
だから、どっちにころんでも、そいつには必要な試練っていっていいかなあ。
そして、お前だってそこのところ、腹をくくって
自分をぶつけていくわけだろ?
そこを受け止められない人間なら、そいつを選ぶな」
「・・・・・」
「そしてな、おまえを、信じろよ。
お前が心ひかれた人間がそんなぼろかよ?
信じた上で、それでも、もしも、ぼろだったらな・・
お前の心がまちがってたってことだ。
そいつにひかれたおまえがまちがってたってことだ。
いいか?
相手のせいじゃない。
お前はお前のありのままでぶつかれ。
ありのままごとひろってくれるひとか、みきわめろ。
ごみだってな・・拾ってくれる相手を選ぶ権利はあるんだ」
相変わらずひどい言い方だけど
ボーマンの真髄がキャッシーに届いている。
自分へのひけめで自分をぼろ扱いして
逃げ腰になっていたけど、
ひけめじゃなくて、卑屈にならずに
ありのまま。
それで、だめだったら、それでいいじゃないか。
「なにもかも、おまえじゃないか・・
ここはいらない、あそこはいる。
そうじゃないだろ?
なにもかも、うけとめてほしいだろう?」
キャッシーはボーマンの最後の科白に
とうとう、大声でなきだしていた。
そうだ。ボーマンのいうとおり。
こんな私でも、こんなぼろでも
ありのままであいされたい。
それが私の本心。
いつのまにか、弱虫になっていた。
ー愛されたい。愛されたい。彼にこそ本気で愛されたいー
自分の本心に何度もうなづきながら
大きな声をあげて、キャッシーは泣いた。
本当の心をみせてくれたボーマンに感謝しながら・・・。
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