「ひさしぶり!!」
って、なんだか、よく、きやがる。
ボーマンは調剤の手をやすめて、声の主をまじまじと見つめた。
『なんだよ・・いい女じゃないか・・?久しぶりって、俺、こんなべっぴん・・
誰だか・・・思い出せない・・・・』
ボーマンたるものが、こんな初歩的な記憶ミッシングなぞ、ありえるわけが無い。
女、いや、べっぴんの顔をみつめたのは、ボーマンの記憶の中の「特徴」と相似形のものがないか・・だったが。
「あ?・・おまえ~~~~~~!!」
大学で一緒だった。がりがりで、ひっつめ髪で・・めがねかけてて、色気もなければ、笑顔も無い。そいつだ!!
べっぴんと一言で表現するが、べっぴんにもいろいろある。
文字通り容姿端麗ってのは、わかりやすいが、顔だけ見りゃそうでもないのに、な~~んか、ぐっと来るものがあって、美人に見える。
いわゆる、雰囲気美人ってのもあるわけだ。
ところが、こいつ、外見はまあ、十人並だったが、もっている雰囲気が悪すぎた。
自分でも「どうせ、私はブスです」って、いじけてたんだろう。
たとえ、どんなブスであろうとも、一生懸命かわいくなろうとしていると、
なんというか、いじらしくて、可愛く見えてくる。
ところが、こいつは、どうせブスですよのレッテルを大看板にすりかえて、
ひらきなおっているように見えた。
男ってのは、馬鹿だから、「貴方の事が気になるの。ふりむいてほしいから、少しでもきれいに成りたい」ってのを、女心だ。これは、俺への秋波だと、受け止めたがるものなのだが、
こいつは、「はん?あんたなんかのためにきれいになりたくもない。だいいち、あんたなんか、男として、魅力ない」ってな風に、気にも、とめられないどころか、鼻も引っ掛ける気になってもらえない。と、思わせるような開き直りに見えた。
そうなりゃあ、まず、雰囲気がブス。
ブスであっても、雰囲気で美人にみえるってことの逆現象が生じることに成る。
そこそこの顔立ちをしてるようだけど、・・・ブスに見える。
タブン、自分の態度に気がつかず、ブスだと想われてるなら、もうどうでもいいやと開き直ってしまう悪循環にはまったんだろう。
だが、目も前にいる、こいつは、まじまじとみつめなおし、すかしなおし、しげしげ見つめ・・・を、くりかえさなきゃ、あのブスの大学生だった女がでてこないほど、変貌、豹変?変身?をとげて、
そりゃ~もう、きれいで、自分でも「美人」であるということを、良い意味で自信をいや、自覚というべきか。を、もっている。
自覚を持った女は、常に前向きで、自分に磨きをかける。
「いや~~~。驚いたぜ、ジェニファーだったよな」
「これだもんね。相変わらず、やさしいというか、名前も覚えてないじゃ、女性に失礼になるものね。紳士だよね。でも、残念ながら私はジェニファーじゃなくてよ」
「あん?」
目の前の美人はタイトなワンピースをきて、すらりとした足をおしげなくさらしていたが、スタイルだって、昔のこいつじゃない。
「誰だっけ?」
ボーマンのポリシーをずばりといいあてられてしまったら、もう、素直に名前を聞いたほうが早い。
と、ボーマンはそう想った。
「すまねえ。誰だっけ?」
「キャサリン・ヘイワード・・・キャッシーだよなって、、陰口たたかれてたでしょう?
キャッシングでどうぞと見せたって、見る気にもなれない。そういういみだったかしら?」
「あ、ああ」
確かに思い出した。
キャッシング・キャッシーだ。
だが、その影のあだ名を知っていたってことのほうがボーマンを驚かせていた。
そして、ボーマンの胸にふと、よぎる思い。
「で、おまえは、そうやって、中傷していた人間の鼻をへしおってやろうって
変身したってことかい?
で、まず、てはじめに俺の鼻をつぶそうって算段かな?」
美女はいとも簡単にボーマンの出鼻をくじく微笑でうけながすと
「あら?私は貴男のことをそんな風におもってなんかいなくてよ。
むしろ、アンチ・ボーマン派だったというべきかしら」
アンチ・ボーマン?
なんだよ、それ?
ボーマンの疑問符が美女には見えたらしい。
「私貴男が好きだったってことね。
だから、あなた好みだから、ふりむかれる。
って、ことに我慢できなかったの。
全然とるところもないのに、気にしてもらえるってことのほうが
本当らしくて、
言い出せば嫌いだって思われたって、それが真実なら
そのほうがいいってことよね」
キャッシーのいう事は判らないでもないが、ボーマンの胸はさらに痛む。
『つまり、なんだ。俺のせいで、こいつは、ブスのキャッシーになってたって事かよ?』
青春ピチピチの一個の女性をブスにしたてあげた元凶が俺?
とは、いうものの、目の前のキャッシーはもうブスのキャッシーじゃないわけで、
それは、つまり、とりもなおさず、
アンチ・ボーマンでなくなったというわけであり、
「はん?あんたなんかのためにきれいになりたくもない。だいいち、あんたなんか、男として、魅力ない」って、キャッシーじゃなくなったってことであり、
誰かの為に綺麗になったキャッシーってことになる。
『ほう、ほう、ほう・・・なるほど』
と、なると簡単にアンチ・ボーマンであったことをさらしたこと、
ひいては、ここに現れた目的はなにになる?
だいたい、キャッシーがなんで、今頃、こんなところに顔をだすか?
女ってのは、充たされない時ほど、昔の恋を懐かしみやがる。
そんな生き物だ。
つまりだなあ、キャッシーは
ー綺麗にならなきゃ、愛されない今の恋に不満をもってるー
綺麗じゃなくても想われたいと願った純粋な恋心を懐かしいと感じている。
こういうことじゃないのか?
はじめからじんわりキャッシーの左手の薬指にリングの跡さえないのを確かめているボーマンである。
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