憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

-時には乙女のようにー終

2022-12-09 08:36:17 | ボーマン・ボーマン・6-時には乙女のようにー

「私・・・・」

決心したはずなのに、覚悟したはずなのに

彼を目の前にすると、心がゆらぐ。

失くしたくないに決まってる。

さけて通りたいに決まってる。

彼のショックを見たくない。

ましてや、それを与えるのは自分・・・。


「なに?」


キャッシーの呼び出しに心弾ませてやってきた彼にちがいない。


彼が・・同じ職場に配属されてこなかったら・・・。

出張講義、デモンストレーションのワークグループで、なかったら

もう少し、日を延ばすこともできたかもしれない。


「私・・これ以上・・貴方に黙っていちゃいけないって、思うの。

私は、貴方が思ってるような女じゃないし・・

これから、喋ることで貴方をきずつける・・

なのに、平気で喋ろう・・ってしてる・・そんな女よ」


途切れとぎれになる言葉は涙をこらえるせい。

キャッシーの告白は

むしろ、彼よりも、キャッシーをくるしめるだけに見えた。


「だったら、何も喋らなくていい。

僕は何を聞いても、君への気持ちはかわらないんだから。

ただ、君が僕のことをいやだというのなら・・」

彼はすこし、言葉にためらった。

「僕の気持ちはかわらないけど、

それを君におしつけることはしない」


ううん、小さく首を振るキャッシーになる。

「貴方のことをきらいだなんて、これっぽっちもおもってない。

私は貴方に好いてるもらえる資格がない・・」


ふうって、彼はちいさく息をはいた。

「僕は、できれば君にそんなことを口にださせたくないっておもってた。

でも、かえって、それが、君をおいつめてたんだ。

だから、君の口からじゃなくて、僕が言う」


ーどういうこと?なんのこと?-

キャッシーの戸惑いに出口がみつからない。


「僕の父親と君のことは、僕は、知っている。

知っていて、プロポーズした・・」

と、そこで、言葉をとめると彼はぺろりと舌をだした。

「おっと、まだ、正式に申し込んでなかったっけ・・・」


まるで、天気の話みたい、

くったくもなく、なにごともなさそうにしゃべる彼は

キャッシーの不安もまた、なにごとでもないという。

おどろいたのは、キャッシーのほうだ。


「知・・・知っていて・・それでも・・あの・・私に・・え?・・嘘?」


なんで嘘だと思うのとばかりに不思議にちょっと首をかたむけて、

彼は

「嘘じゃないよ。本当」

って、いう。


「ツルゲーネフの初恋ってしってる?」


それ、この前キャッシーがボーマンにいったそのままの科白。


「僕もそれと同じ。君に恋をしてた。

父と一緒にいる君を秘書だろうっておもっていた。

そうじゃないって、気がついたとき、僕はこのままじゃ、

ツルゲーネフの初恋そのままだって思ったんだ。

それじゃあ、馬鹿みたいだと思わない?

こうやって、初恋がだめになりましたって本をよんでさ、

同じことくりかえすんじゃ

学習能力ゼロ。

僕は待った。僕の年齢が君の相手になれるまで。

そして、君は父を放り捨てたりせずにいてくれた。

きっと、僕は君がさっさとほかの男に乗り換える女だったら、

とっくにあきらめていた。

そして、誰でもない僕だけが、父に君をあきらめるようにいえる。

父は、死んだ母の夫なんだ。

父の生き方をとめる権利は僕にだけある」


「だ・・だけど・・あなたは・・それで・・いいの

お父様のことは?

あなたとあの人が・・にくみあうような・・」


「君は・・男っていうものがわかっていない。

それに、いいかい?

僕が結婚して、この先の長い人生を一緒にあゆみたいのは、

君であって、

父とあゆむわけじゃない。

一生を託したい相手を父から奪い去るくらいの気持ちである僕なら

父も喜ぶ。

そして、君にたいしてもだ。

僕をえらんだ君に頭をさげる。

息子をよろしくって・・ね」


「あ・・あ・・・あ」


「ん?」


「じゃあ、私は?」


「ん?」


「とっくにひろわれてたってことなのよね」


「ん???」


「いいの、判らなくて・・」


「うん・・。僕はね・・君が父を好きになった時から

君は僕をさがしてたるんだっておもってた。

僕によく似た父を好きになってしまうのはあたりまえだろ?

だから・・遅くうまれてごめん。

あやまらなきゃいけないのは、僕のほうだ」


ーこの人しかいない。この人のいう通り。

わたしは、この人をさがしだせなかった・・

でも、見つけたー


「私もあやまらなきゃ・・

早くうまれて・・ごめんなさい」


「うん」


って、言いたいことだけ言っちゃうと無口になってしまうのがいつもの彼。

でも、今、彼が無口になってしまったのは言いたい事がなくなったせいじゃない。


何のせいだって?

この状況において、おしゃべりがとまっちゃうって・・・

え?

わかった?


ん。


じゃあ、この話の結末もちゃんとみえてるよね。


               GOOD BYE



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