コーヒーを立てに行くニーネにボーマンはかすかに首をふった。
察しのよいニーネというべきか、
ボーマンの問題解決の手腕をしんじているというべきか、
ニーネはその意味を悟る。
「まあ、お店かたづけてないで、しめちゃったの?」
とってつけた言い訳をいってみせる。
もちろん、ボーマンもニーネの意図する事がわかっている。
「あ・・ん?すまねえな。ちょっと、かたづけちまってくれよ」
いいながら、ボーマンはキャシーの前に座り込んだ。
やがてコーヒーが目の前に置かれると
ニーネはキャシーにお店をかたづけてくるとつげ、
キャシーもどこか、ほっとした顔をみせていた。
ー見ろ。やっぱ俺じゃなきゃだめだって顔にかいてあらあー
ニーネが店に入っていくのを見届けると
ボーマンが口火をきった。
泣いちまったあとってのは、けっこう、冷静になるもんだし、
醜態を見せた以上、本人ももう、話しませんというわけにはいかない。
ボーマンがいきなり、尋ねても、キャシーはちゃんとこたえることができるだろう。
という、ボーマンの計算ができあがっている。
「で、なんだよ。その上司との仲をなんとかしたいってことかよ?
それとも、きっちり、清算したいってことかよ?」
男と女。
ある一線をこえたら、この先の道はふたつしかない。
別れるか、続けるか。
このどっちを選んでも、それ相当な覚悟が要る。
だけど、別れたら、今度は本当にまともな恋の道をあるけるかもしれない。
ボーマンの言葉にキャシーは少し戸惑った顔をした。
もちろん、ボーマンはその顔をみのがしはしない。
「なんだよ?」
だいたい、不倫をする男なんてものは、実生活では、女房にわがまま勝手をぶつけてるもんだから、恋人には必要以上に優しくできるもんだ。
いわば、女房がいるからこそ、極上の恋人を演じられるんだけど
ここを不倫相手の女は気がつかない。
理想的な優しさと、経験を経た性技とムード。
こんなものに、とりこになってるのが、実は虚像でしかないと気がついたか?
結局、女房の手のひらの中にいる男でしかないし、キャシーも然りってことに気がついたか?
それとも、やっぱり、虜の道をえらぶか・・・?
とことが、キャッシーの口から出た言葉はボーマンの予想を見事に裏切った。
「あの、不倫って、わけじゃないのよ」
不倫じゃなけりゃ、なんで、さっさと一緒になっちまわねんだよ?
まあ、ぎゃくでもいいや。
なんで、さっさと、別れちまわねんだよ?
「だけど・・やっぱり、不倫だわ」
な?なんだよ?それ?
「わけがわかんねえな。ちゃんときかせてくれよ」
うん、とうなづいた後キャッシーは大きく息を吸い込んで
吐く息をためいきにかえた。
「彼、奥さまがいたのはいたのよ。
でも、ず~~と、病気で病院にいたの。
私と知り合った時も、もう、5年以上入院されていて・・」
はあ~~ん、で、寂しい男に同情して、深みにおちちまったってとこか・・。
「私は一緒になりたいとか、そんなつもりでなくて、
彼を尊敬していて、こんな私でも支える事が出来ないかと思って・・」
で、一番、彼がささえてほしい部分を提供しちまった・・と。
まじ、転落の縮図じゃねえかよ。
ましてや、尊敬だと?尊敬するにたりる人間がひとりの女性をそんな風に
自分の寂しさを紛らわす道具にするかよ?
「それで、ずううと、もう、7年たつかなあ。
そんな状態で、彼とつきあってきていたわけだけど、
昨年、奥さまが亡くなったの・・」
はあ?
で?
それで、涙つ~ことは、相変わらず、影の女ってことに
嘆いてるってことかい?
「彼は喪が明けたら、私と一緒になろうって、プロポーズしてくれたのよ」
は?
前言撤回かな。
ちゃんと、責任とるというか、まあ、誠意ある人間ではあるらしいな。
で、あるのに、涙?
結婚したって、結局、寂しさ紛らわす道具の延長線でしかないって、
キャッシーが気がついたってことだろうか?
で、結局、道具みたいな自分になけてくる?
結婚してもいいんだろうか?
やめたほうがいい?
でも、気持ちの整理がつかない?
ぐちゃぐちゃとキャッシーの気持ちを推し量ってるボーマンでしかない。
肝心な事がみえない。
問題はキャッシーの気持ちってことだろう。
そこを話してくれなきゃ・・・
って、思ってるボーマンをキャッシーが覗き込んだ。
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