「嫁にくれと?そう申すのか?そちが、か?澄明をか?
正気か?知っておろう?」
白銅は澄明が女子である事もしっている。
が、問題はそれだけではない。正眼の声が震えている。
「勿論です。だからこそ・・・白峰なぞに・・・・」
白峰の名前が白銅の口からでた。
白峰の目論見をしっているということである。
「無理じゃ。勝てる相手でない。
加護を与えるどころか、むしろ、澄明の足手まといになる。
澄明の方が法力は上だ。
その力をもってしても、相成らん事だのに・・・」
「みすみす・・・」
「沙少に触れても、あのざまであったろうに。
潤房に及ぶまでに命がはつるわ」
先程の白銅の挙動を既に正眼は知っていた。
「・・・・」
「あれも、好いた男がおったようだが、そう考えたのであろう。
両極、想い揃うてなんとか、なろうかもしれぬが、
好いた男の命を賭けることなぞ、できぬわの」
「私なら、構いませぬ」
「澄明が、そなたの命賭けるが惜しくないと言うのか?
其れほどの価値しかない男が澄明を護れるか?」
「政勝殿なら、護れたと言うのですか?」
「それも、知っておったか。多分な。
が、政勝は、竜が子孫。争いは四方に広がる。
天空界への争いになった時地上がどうなるか。
考えても、恐ろしい事だ」
「あっ・・・」
「だがの、これは、政勝は知らぬ事。他言は、ならぬぞ」
「お聞きしたい事がもう、ひとつ。なにゆえ、かのとを・・・」
「かのとを娶らせたか?・・・」
「あ、はい」
「澄明を嫁にと望んでくれたゆえ、話す。
かのとは、澄明の双生の妹じゃ」
「ああっ。では、表裏一体」
「うむ、かのとはその名の通り入り口である。
ひのえ、澄明の実の名じゃ。この(え)は江である。
判るな?何もかもが、かのとを通り、
そして川の流れが集まるように江にむかう。
故に、ひのえには、陰陽を教え込んだ。
我が身を守る為にも、江に集った水をかのとに戻させぬ為にも。
だが、かのと自身が護られなければ、
ひのえ一人では寄せてくる禍禍しいものを諌め尽くせない。
そうなれば、かのとも、危ない。
かのとに加護を与え、入り口に寄せ来るものを払うだけの秘力のある男の元に託したかった」
「其れが、政勝殿」
「これが、若し、逆になっておったら?
まず、政勝もひのえも、鼎の二の舞になる」
「・・・・・おお・・・・おお」
やにわに白銅が堪えきれず泣崩れた。
「泣くな。鼎のことがあったゆえ、
ひのえを、救ってやりたかったのであろう?
心配するな。
わしの読みが狂わなければ、百夜・・・。
その後、ひのえの、想いが勝つか?
白峰の想いのものになるか?見えてこよう。
その後に反れでも、お前の想いが変っていなければ・・・」
「どうなさるつもりです?まさか、禁術を?」
「いや、それはない。我気道におつるは、一族郎党。それはできぬ」
「判りませぬ。が、おやめ下さい。
ひのえが白峰の物に成った時は白銅も潔く諦めます」
「・・・・」
「今日は、帰ります」
「すまぬ。事の始めは、総て、わしにある。
ひのえに言霊を懸けていたのに気がつかなかったのだ。
ひのえが数えの七つの年、野山を連れ歩いて薬草を教え歩いておった。その折、ひのえが、小用を足している所を、嗜めた。
女子が無闇にほとを開くと蛇が入るぞ・・・と。」
「ああ、よく言う言葉です。
男はみみずに小便をかけると、珍棒がはれる。あの類。」
「だが、其れが言霊になっておった。
わしもその時すでに言霊を、操り始める域に達し始めている事に気がついていなかった。
軽口だった。だが、言霊が発動し、そのあとに小用をたすひのえのほとを、春に浮かれて蛇の姿で遊び歩く白峰に見られたのだ」
「そ、それだけで?」
「言霊の呪縛とひのえを見初めた者が大物すぎた。
白峰は十二年、ひのえを待ち越している。
みいの年であり、厄。神仏の加護が一番弱まる年。
ひのえの身体ももう、大人。この年を逃すはずがない。
執着も深い。
で、なければ、この年まで白峰殿が待つわけがない。
ひのえが、戻ってくる公算は、皆無かもしれん」
白銅は項を垂れたまま、正眼の部屋を出るとそのまますぐに不知火の庵に向かった。
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