澄明が帰るのを見送るとかのとは膳を下げ、かた付けを始めだした。
軽い酔いに政勝はごろりとその辺りに寝転がりながらかのとを見ていた。
かぞえの十八。政勝と七つ、歳が離れている、気端がよく効いて、手先も器用だが、なによりも性がいい。
明るい日溜りに居るように温かく和やかな女で、芯に強いものが見え隠れするのだが硬い感じを与えず、
おとなしく政勝を慕ってくる。
「かのと。澄明とは乳のと兄弟だったのか?」
「あ、はい」
膳をふき上げる手を休めずかのとは答えた。
「そんな話は・・・」
「だんな様にいつか澄明様の事を話しかけた時、陰陽師風情の話はするな。と、あの・・・」
「私がかのとを叱った、と、いうわけか」
「あ。はい」
政勝は、そんな事などすっかり忘れている。今、考えても定かな記憶がない。だが、有り得る話しであった。
「すまなかった」
「あ、いえ」
心根の優しい男である。いくつも下のかのとに対してさえも自分の落ち度は落ち度として素直に謝る。陰陽師風情と拘りを見せる政勝と同じ政勝とは思えなかった。
「だんな様。御風呂が沸いております」
珍しく居風呂のある屋敷が気に入ってここを選んだのである。
父も母も政勝が嫡男でありながら居を別に構える事にむしろ賛同した。
まだ年端のいかない妹も居る。嫁いだ姉が産褥で帰ってきていたりもした。
主膳もあっさりと認めをだすと夫婦水入らずもよかろうと笑ってみせた。
「かのと。はよう片付けて、そなたも湯浴みをすればよい」
かのとが政勝の着替えを携えて湯殿にはいってゆくとまだ真新しい竹籠に政勝の着替えを置いた。
政勝が打湯を使って居ると外で薪をくべる音がしてぱちぱちと木のはぜる音と、生木の煙る香がしてきた。
「だんな様.お湯加減は?」
「うん」
いつのまにか、外に廻ったかのとが火吹き竹で火をいこらしているのだろう、小さなふうふうという息の音が聞こえてくる。
政勝は湯船の中にゆっくり沈み込むとかのとに答えた。
「丁度よい」
「はい」
政勝のたゆとうように寛いだ返事を聞くと、かのとはそれだけで嬉しくて仕方ないのだろう。心持、声が弾んでいる。
政勝がそんな返事が返って来たかと思っているとたたっと走り去る気配がした。
「かのと、かのと?」
小さく呼んだが返事が無い。
床の間の膳を片付けて寝間の用意をするのだろう。
いずれにせよ政勝の為にあれやこれやと支度を整えてにいる違いなかった。
かのとにこれではわしの手には小さいと笑った糠袋がすでに新しく作り替えられてあるのを手に取ると政勝は、体の隅々まで擦り上げて行くのであった。
夜も更けようというのにかのとは針箱を前に何か縫っていた。
聞けば政勝の為の二重の着物を縫っていると答えたのだがそれを畳み込んで終わりにするのかと思ったら先ほど政勝の着ていた着物を広げ出す。
手燭の灯りに縫い物をするかのとにとうとう政勝は痺れを切らした。
「何を縫うのだ?急ぐ物なのか?」
「いえ、もう終ります。だんな様の半襟の糸が綻んでおりましたのを…」
「そうか。かのと。わしももう綻びそうじゃ」
じゃれた言葉を投げ掛けながら、ついっと手を延ばすとかのとを引寄せた。
洗い上げた髪に鬢付け油の椿の香りがする。髪を梳き上げると器用な女だった。
瞬く間に髪を結い直してしまった。
女の髪を梳く所など久方ぶりに見た。じっと見ている政勝にかのとが
「いやです」
そう一言いうと縫い物を始めたのである。
それから、半刻近く、かのとの側で政勝はごろりと横になるとかのとの顔を眺めながら時折、言葉を交わした。
細い指が政勝の半襟を直していた。
政勝に引寄せられたかのとは少し躊躇った。
政勝の手の中にすんなりと入ってこないかのとを政勝は見詰めた。
「あっ、あの.澄明様が韻を結ぶと・・・」
かのとの躊躇いがそこにあったのが判ると、政勝は
「かまわぬ」
さらにかのとを引寄せた手に力を込めた。
「あ、でも」
「夫より澄明がいう事が大事か」
「いえ」
かのとは目を伏せた。政勝も己の嫉妬に欲情がいっそう煽られている。
何よりも澄明のあの目付きが気に入らない。
政勝の物である筈のかのとを一瞬の内にねめつけ回された気がしてその澄明の目からかのとを払拭する為にも、間違いなくかのとを我が物と確かめる為にも政勝はかのとが無性に欲しかった。
が、かのとの口から澄明の言葉を盾に睦事を拒まれた気がすると尚更、いかにしてでも政勝のかのとである事を確かめずにはいられなかった。
「嫌か?」
「いえ。あの」
拒む気はない。むしろ望んでいる。自分で出した、たった一言にかのとはうろたえた。
そんなかのとに体を寄せつけ口を啜ると、かのとはそのまま政勝にしな垂れかかって来た。
『うい・・・』
政勝は襟の隙間を開くようにしてかのとの胸に手を差し延べた。
政勝が探り当てた小さな胸の先に与えた感触にかのとの声が切なげに漏れ出すと政勝はもう一方の手で着物の裾を割った。
「はっ」とも「ふっ」ともつかないため息がかのとの口から漏れ出す頃には政勝の手はかのとの腿を這い、かのとの芯に触れていた。
「なり…ま、せぬ」
そう抗う声が小さく、力なくか細ると政勝はかのとの裾を捲り上げた。
かのとの局所に顔を寄せると政勝の舌がかのとの秘部を割り込み小さな突起を舐め上げ更にそれを強く吸った。
荒ぶる息をそのままかのとにぶつけて行くと、かのとが小さく歓喜の声を上げた。
「だんな様。今は・・・」
かのとの手が政勝の顔を引き離すように引くので、政勝はその手を抑え付けるとかのとの突起をさらにきつく啜り上げ、舌で押え込む様にして転がした。
「嗚呼・・」
かのとの声はもう、抗う事を忘れている。かのとの秘部が濡れそぼってゆくのを促がすように確かめる様に政勝は指を滑り込ませた。
「嗚・・あ、」
かのとの物が政勝を迎え入れる為の滴りが政勝の指をしとど濡らしてゆくのが判ると政勝はかのとを抱き上げて寝間に運んだ。帯を解くと、かのとの白い肌が露になる。政勝が寝着を脱ぎ捨てると引き締まった裸身になると、褌の中でそそり立つ物を外の空気に晒し、かのとの中をめがけていった。
「あ、ああ・・」
かのとの声が政勝の侵入を待ち受けていたかのように喘ぐ声に変り始めると政勝は更にかのとの胸に手を延ばした。
かのとの胸の先を摘み上げると秘部へ呼応してかのとの中がきゅうと締まって来る。
「ああ・・んん」
快い刺激に反応してかのとが切なげな声をあげる。
「かのと、かのと、よいか?」
「嗚呼、政勝様。かのとはようございます」
しとど、濡れそぼった中に政勝の執拗な反復が繰り返される。
かのとの声が間断なく上がってくる中政勝の頭の中はこの刻限をどれだけ長く延ばしかのとをどこまで長く、喘がせられるかその事ばかりを考えている。
「かのと、かのと」
政勝の呼ぶ声にかのとが息も突けないほど喘いでいる。政勝の動きひとつでかのとの中にめくるめく快感が湧いてきているのは間違いなかった。
『もう間違いなく、俺の女だ』
誇らしげな支配感と政勝のものに喘ぐかのとへの愛おしさが重なると政勝のものがどよめきを起こし始めていた。
「かのと。はなつぞ」
政勝の物がかのとの中で最後を迎えると、その小さな波立ちにすら、かのとは反応して行く。政勝の物が放出された跡もかのとの体が小さな喘ぎに震えていた。
『采女などと、比べ物にならない』
政勝はまだなお歓喜に喘ぐかのとの体を抱き締めた。
「・・・」
かのとが己の乱れに恥じらいながら政勝の胸の中に顔を埋めると小さな声で
「うれしい・・」
と、呟いた。かのとは政勝の物が自分の中に放出された事を、この上ない喜びとして受けとめていた。抗う事の出来ない政勝の兆着に服従するかのようにかのとは告げた。
「かのとは、政勝さまの物・・・」
そこまで言うのが精一杯だったのだろう恥じらいと甘い余韻に浸りこみながらかのとは政勝の胸に縋り付いてきた。政勝はかのとをひしと抱き締めると
「かのと、明日の夜も次の夜もかのとを責めてやる」
政勝らしくもない隠避な言葉をかのとの耳元に囁くと名残惜しげにかのとの中から己のなえたものを抜き出してゆく。
が、その微かな動きにさえかのとは小さく声をあげた。
「かのと」
恐ろしく感の良い女であった。政勝は思わずかのとの乳に歯を当てるときつく噛んだ。
「あああ・・・」
鋭く叫んだ声の語尾がもう、新しい感覚に酔わされているのを政勝に教えた。
朝、起きるとかのとはもう、朝げの支度に向っていた。
「今宵は晩秋の名月を愛でて詠を読むという趣向らしい」
遅くなると言わずともかのとは察していた。出かける前に政勝はかのと寄せつけるとその胸を開いた。
無残に赤く残った歯の跡を見た。
「痛いか?」
かのともさすがに恥じらんだ。胸元をかき寄せようとするのを
「よい」
かのとの手を押し止めると形の良い乳房を持ち上げるように掴むとぐうとせり出したその先に舌を這わせた。わずかの恥行に早くもかのとは声を殺し嗚咽を堪えている。
「政、勝・・・様」
政勝がかのとの乳の先をぐううと噛みあげると
「ひっ」
と、いう声と共にかのとがしゃがみ込んだ。政勝の与えた疼痛がかのとの体の中を走りかのとの秘部に切ないうづきを起こさせていた。
「かのと、行って来る」
一日中かのとに胸の痛みがこの朝の政勝の愛撫を思い起こさせる事は言うまでもない。
「あ、はい」
胸を合わせながら慌てて立ち上がるかのとを見やりながら政勝は
「かのと」
そう、呼んだ。
「はい」
政勝の言葉を精一杯、許就しながらかのとは一歩前に進み出た。
「政勝様」
「うむ」
かのとが政勝を政勝様と呼ぶのは秘め事の時だけであった。
言葉による性根のやり取りをかのとは理解している。かのとと呼ぶだけでかのとは思わず政勝様と返してきた。
其れだけで政勝の中は十分満ち足りた。
間違いなく、更に自分の物に深めたかのとへの欲情を隠すように政勝は外へ歩み出した。
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