ひどく・・苦しい。
勢を想うと体中の血が騒ぐ。
体内の血は急に加速し巡り巡って熱気をこもらせてゆく。
勢。
その名を呼んでみても、狂おしさが増すばかりだった。
熱気は抜け道を探すかのように一点に集中し始めてゆく。
一点は切なく張り詰めてゆく。
―これが・・・これが、ほたえか?―
勢にそれをぶつけることなぞ赦される事ではない。
悪童丸は一度は躊躇った手で、ほたえが張り詰めさせた物を
むずと掴んだ。
手淫である。
だが、今の悪童丸が、ほたえの苦しさから自分を逃す法はこれしかない。
ほたえは飛翔を求め、悪童丸の男根を固く張り詰めさす。
それが、勢を求めたがる。
「ならぬ・・・」
哀れな男の性に操られぬためにも、
狂うた男が、欲情の果てに実の姉に何かをしでかせぬためにも、
己がもっては成らぬ恋情を説き伏せるためにも
今はこうするしかなかった。
―勢・・・こがいに・・恋しいに―
張り詰めた内部を解放する瞬間でさえ、
このほたえが、勢ゆえであると悪童丸に教える。
―わしを、おいつめるな。
わしのほたえをこれ以上のぼりつめさせるな―
かぶせた手に白い精が勢いよく流れ込み始めると
知らずのうちに勢の名をよんでいた。
―いかぬ・・わしは弟のはずじゃに―
いつのまにか、勢を姉でなく女としてみている。
だが、決して己のかたわれにしてはならぬ人である。
決して己の片割れである事を確かめ、
かたわれを重ね合わせ一つの物にしてはならないのである。
だが、どうだ?
悪童丸の一物は確かに勢をもとめている。
勢こそがこのかたわれを拭えるといっている。
―いかぬ―
閉じ込めようとする思いは、
勢こそを抱きたい、
勢こそを我がものにしたいという思いの深さを知らせる。
若い性は直ぐに心の底をあらわせてみせる。
―勢。恋しいに・・―
ぐっと頭をもたげ悪童丸のほたえをあざわらうかのようである。
―勢・・・赦せ―
勢を想うが先か、ほたえが勢を思わすか。
さだかでないまま、苦しさが雁に手をのばさせる。
勢と一つになる事を夢想するしかない。
―勢、勢、勢・・・―
雁を押えさす快いうねりが悪童丸をつつんでゆく。
快楽の頂点は確かに勢への愛しさが、与えてくれるものだ。
勢と一つになる夢想の中で頂点を味わう。
勢を抱けば、与えられる頂点を己の手と夢想で与えつくした。
―勢・・苦しい・・・―
いとしさは何ゆえかほどに身をこがす?
僅かの宥めと慰めがどれ程の足しになったのだろうか
鬼の深い情念が時空を飛び、恋うる相手にうえつけられてゆく。
いや?
すでに勢の情念が先立った?
悪童丸に恋を植えつけたのは
勢の鬼を恋うる血が沸かすほたえの仕業だったのかもしれない。
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