憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

パンパンとチョコレート・・・10

2022-11-02 10:50:59 | パンパンとチョコレート

女はハローに貰ったチョコレートを
食べなかったんだ。

ハローに身体を売っても、
施しをうけたくなかったんだ。

其のチョコレートをよほどどこかにすてちまいたかっただろう。
だけど、
食い物を粗末に出来ないんだ。
甘い物ほしさにチョコをねだる子供もいる。
それを見ている女は捨てる事など
いっそうできはしない。

ならば、女が子供達にチョコレートを
わたしてやればいいと、いうことになるだろう。

なのに、チョコレートは食べられもせず、
捨てられもせず、
誰かに渡されもせず
水屋の隅に積まれていた。

女がおかしいだろうというのは、
そのことだけど、
僕には女の気持がわかる。

「あたしはね。はじめは、日本人相手に商売をしてたのよ。
でもね。
無性にみじめになってしまったんだ」

女は沸いてきた湯の中にうどんを放り込みながら
話を続けた。

「なんで・・・。日本人が日本人に買われたり、
売ったりしなきゃなんないんだ?ってね。
お互いをかすのように扱ってるって、思えてね。
それでも、まだ、あたしは、日本人を相手にしていたんだけど・・・」

「ある日ね。
あたしは受け取ったお金をみて、おもっちまったんだ。
「なんで、この金があたしのところにくるんだろう」ってね。
その金で、飢えている人間の空腹を満たしてやれるだろう?
それを、あたしが横から掠め取ってる。
あいての男もそうさ。
同胞の困窮より女をへの欲のほうが大事。
あたしは、そんな日本人の相手をしている自分も
そんな日本人をみているのも
いやになっちゃったんだ」

そんな時にハローに声を掛けられたんだと、女は付け足した。

「欲にまみれるなら、惨めな売買をするなら、
よほど、ハロー相手のほうが、「らしい」だろ?」

落ちるならとことんおちたほうがいいというのと、
似たようなことかもしれない。
女の中の日本人としての誇りは、
日本人を相手にすればするほど、
いっそう、深まったということだろう。

日本男児と程遠い見たくもない姿。
を、引き出させているのは、
ほかならぬ自分である。

女は其の苦しみから逃げるために
ハローの相手を始めた。

魂から、心の底から
娼婦になりはてたけど、
せめて・・・一つの名分があった。
身体を売る。
金を貰う。

物を売ったらそれなりの代価が支払われる。
一つの職業としてわりきること。

チョコレートが欲しければ
自分が稼いだ金で買う。

女のほんねはそこだろう。

だけど、ハローは女のご機嫌を取り結ぶためにチョコをもってきたりする。

顧客のしがらみ。

女は「嬉しいわ」と、差し出されたチョコを受け取るしか無いって事だろう。



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