憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児 2

2022-12-04 01:46:04 | 柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児

こんな片田舎にまでは空襲はやってこなかったけど

都市部は壊滅的な被害をうけ

やがて、戦争は終結した。

 

家は百姓だったから、無茶に食うに困った覚えもなく

戦争が終わった。

日本が負けた。

 

赤紙がきた出征兵士の家には

やっぱり、兵士は帰ってこなかった。

 

ほんの少しだけ変化した村の人員は

戦争が始まったころの変化のまま

変わったことはなかった。

 

どこかでは、無事帰還した兵士もいたんだろうけど、

大人たちの話にはのぼらなかった。

 

きっと、帰ってこない家族をもつ人たちを

おもいはかって、とくに親しくない限り、帰還兵のうわさを封じたのだと思う。

 

そんなふうに、

子供だった私は、敗戦も戦争もどこか遠くにあったように受け止めていたと思う。

 

だけど・・・。

 

敗北という戦いの傷跡を無残にみせつけてくる出来事が重なっていった。

 

村の東側に大きな水路があって、水路にそって、大きな道がある。

 

その道でジープにのった進駐軍を毎日のようにみかけることになった。

 

遠い国の出来事のように思っていた敗戦を

いやおうなくつきつけてきたのは

ジープに乗った進駐軍でなく

都市部からながれてきた浮浪児たちだった。

 

彼らはジープを追いかけ

「ギブ ミー チョコレート」

「ギブ ミー チューイングガム」

と、進駐軍にねだり続けていた。

 

ジープはわざとゆっくり走る。

そして、進駐軍の兵士は時折、チューイングガムとかを浮浪児に投げ与える。

 

ジープの後ろでガム1枚のとりあいがはじまり

まだ、ねだる声がジープの後ろをおいかけていく。

 

まるで、えさに群がる豚のようだと見下すかのように

お前たちは、負けたんだとみせつけるように

ジープをゆっくり走らせて

チューイングガムをほうりすてる。

 

私は・・・。

見たくないと思った。

敵にこびて、ものをねだるなんて、あまりにも惨めだと思う。

だけど、

そんな浮浪児たちをせめられないことも重々承知してた。

 

だって、私だって、あの子達をたすけてあげることができないのだから・・・。

 

私はその場をたちさろうとして

がんちゃんにきがついた。

 

大きな桜の木に肩をくっつけて

がんちゃんはジープと浮浪児たちの狂態をみていた。

 

そのことがあって以来、

大きな道でジープをみかけると

私はがんちゃんの姿をさがしていた。

 

必ずといっていいほど、がんちゃんは桜の木の下にいた。

 

いったい、がんちゃんはどうおもってるのだろう?

 

遠くにみとがめたがんちゃんの姿からその表情はよみとれず

かといって、

やっぱり、がんちゃんのいじわるはいつもとかわらぬ日課としてつづいていた。

 

ふとかすめた疑問には

勝手な憶測で答えというふたをしたがるものだ。

 

きっと、がんちゃんもチョコレートとかガムとかたべてみたいんだ。

だけど、浮浪児にまざってしまうのはかっこ悪いって

うらやましくみてるんだ。

 

浮浪児たちの食べ物への希求をとがめられないのと同じように

がんちゃんが「たべてみたい」とおもうのまではとがめようがない。

 

私はどうだろう?

 

相手が進駐軍でなく

親戚か誰かがお土産でガムやチョコレートをもってきたら

やっぱり、食べたいと思うだろう。

 

だけど、私には小さな誇りというか

こだわりがあった。

 

日本の国が戦いにまけたとて、私は自分に負けまい。

 

こび、へつらって、ほしがる。

 

これだけは許せない。

 

私は自分を鼓舞するために

がんちゃんに大して「こびへつらってほしがる人」という決めつけをしていたのかもしれない。

 

私の心にがんちゃんへの憎しみのような

侮蔑ににたおもいがわくと、同時に

本当にがんちゃんは「こびへつらってほしがる人」なのか

はっきりさせたいと思い始めていた。



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