「わからぬか?」
澄明たちの反目をおもしろそうに眺めるとぽそりとたずねる。
「雷を食らうというのだから、いづなは、誰の傍におりたがるや?」
「それは・・当然、雷神でしょう」
答えた白銅があっと、声を上げた。
「もしかすると?波陀羅の一件の雷神?」
榛の木に雷を落とし、榛の木の精霊を真っ二つに裂いてしまった雷神は
落雷の衝撃で精霊に融合してしまったのである。
そして、澄明たちの活躍で榛の木の精霊が元ひとつの身体に戻れたとき、
雷神も自分の姿をとりかえしたのであるが・・・。
「その雷神が、いづなのしでかしたことに、腹をたて、呪詛をかけおった」
すると、20年以上前、雷神が榛の木の精霊のなかに分裂して、同化して閉じ込められていたわけだから、いづなへの呪詛はそれ以上前のことに成るのか?
いづながいつ呪詛をうけたのか、判らないが、雷神が榛の木と喧騒をおこしたのも、ひとつには、いづなへの腹立ちが引き金に成ったのかもしれない。
「白銅、その通りじゃな」
言葉に成るのを待つがまだろこしく、繕嬉はその飛びぬけた能力のせいで、つい、白銅を読みすしていた。
「いや、でも、雷神が榛の木に落雷を落とし、榛の木の精霊に身体を明け渡すことになったのは、20年以上前のこと・・いづなが、転生して、銀狼になったにしては・・」
年月があわないのではないか?
白銅の疑問に答えたのはほかならぬ銀狼自身だった。
「いや、山犬は人間と違い、3年もせぬうちにいっぱしの大人になる」
たつ子をみそめるだけの色気も十分にもちえる。
と、白銅が口に出さなかった疑問に暗にこたえると、銀狼は繕嬉に尋ね返した。
「私がいづなだったころに、雷神をおこらせたのですね?
いったい、何をしたのでしょうか?
そして、前世でも呪詛をうけたというが、これが、因縁が繰り返されるということですか?」
繕嬉はふむと顎をしゃくると、澄明を見た。
澄明をまっすぐ見つめる繕嬉のまなざしをおって、銀狼も澄明を見つめた。
「繰り返される因縁は、いつか、どこかで、終息させなければならないものだ。
そして、その因縁を終息させることができるものは、
また、自らがもつ、深い因縁を終息させたものでなければできないことなのだ。
だから、おまえは、そこの女子、澄明を呼び寄せてしまったのだろう。
いいかえれば、お前の因縁は終息できるものだという事に成る。
そのためにも、元々、因縁の発祥であるいづなのしでかしたことを話きかせよう」
「では・・」
と、繕嬉は銀狼のまじかに、膝をおとした。
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