幸い、彼らの案じた「被爆」はいっさいなく、
レントゲン室も彼ら5人も、「彼女」にも、いっさいの数値の変動を見せず、
自然界における、放射能指数が目の前のデジタル数値に現れているだけだった。
こんないきさつで、
彼女をラボに移送しおえると、相変わらず、昏睡を続ける彼女に
点滴を与え、心電図や脳波測定の処置を行った。
心電図は正常な波形を刻み、なんら、一般成人と変わらぬものであったが、
脳波は、複雑な紋様を描き続けていた。
私は脳のパルスをコンピューターで解析してみたが、
なんらかの、「言語」に思える
数字変換がいくつも続き、これが、言語にかわるとしても、
翻訳の材料がなにひとつ見つからなかった。
単純な小動物の脳波をしらべると、
欲求部分と思われる波形が生じることがある。
食欲、排泄欲と思われる、脳波の波や、物音などへの恐れは心電図でも把握できるが
脳波にも、波がおきて、何らかの感情、あるいは伝達信号がおきていると考えられる。
これをもっと細分化すれば、もっと、はっきり感情をもつ
ペットなどは、
飼い主への感情が脳波に表れ、
この脳波を言語に置き換えることが可能になっている。
単純な喜怒哀楽だけでなく、
「ご主人様が心配です」など、かなり複雑な感情までもっていて、
言語に置き換えることに成功している。
これと同じように
「彼女」の脳波を解析にかけてみた。
おそらく、地球の言語に置き換えられないため、
コンピューターは数字という表現になってしまったのだろうと思う。
この推定が正しければ
「彼女」の脳波はなにかを語りかけている。
彼女はあいかわらず、昏睡を続け、
女性である彼女の世話は同じ女性である私の担当になっていた。
点滴だけで、もう丸二日。
その間に排尿などの処置にあたること、6回。
当然、彼女の尿道に管をさしこみ、膀胱を押しながら
尿を排出させることになるのだが、こんなことからも、
彼女の姿かたちに、なんら、地球人とのいっさいの違いは見当たらない。
完璧な地球人でしかない。と、結論せざるをえず
私は唯一の彼女の地球外生命体である証拠である、
脳波解析の数字の羅列をにらみつけることになる。
地球人であるのなら、
脳波解析は言語に翻訳され、さらに地球にあるすべての言語とスクリプトされて
日本語に変えて、表示される。
それが一切ない。
私はこの二日、ラボの中の彼女の部屋を監視できる監査室に泊まりこみ
彼女を見つめ続けていた。
彼女の部屋は滅菌処理が施され
そこに入るためには、いくつもの滅菌処置をおえ、
3重のロック扉を照合させるパスワードと固体認識と指紋照合によるキーの解除
というこれまた、3重の一致をえないと、入れないし、でられないという面倒な仕掛けになっている。
滅菌処理室へはいるためにパスワードと固体認識と指紋キーではいって、
滅菌処理をおえて、彼女の部屋の前の小さな空間に設置された場所で
またも同じ操作をくりかえすわけで、
今の時代にそぐわない手順の踏み方に正直辟易している。
だが、この旧態依然の認識方法のおかげで、
コンピューターハッカーなどによる進入を防ぐことが出来るので、
面倒ながら今のところ、この方法が最善のものになっている。
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