憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

箱舟   7(№7)

2022-12-17 13:19:52 | 箱舟 第一部

『私たちは、私たちの星の消滅を察知して、

あらたな、居住場所をさがしはじめたのです。

いくつかの候補地があったのですが、

やはり、元々の星の住民と同じヒューマノイドタイプの地球人が最有力候補にあがり、

まず、私が実験をかねてやってきました。

私たちが移住しようとしている場所は地球ということになるのですが、

私たちは、寄生型生命体なので、移住といっても、

地球の人口が増えたり、私たちの一族が地球人と衝突するということはいっさいありません。

地球にやってきた私が最初に見かけた地球人に寄生し、

貴方たちの推測どおり、私は自然放射能をエネルギーとして捕食していたのですが、

宿主が突然の心臓発作で死亡してしまったのです。

 

あらたな宿主を見つけ、寄生しなおすために

大きなエネルギーが必要だったのですが、

宿主の体を生きている状態に保つだけが精一杯の私は

宿主の中に閉じ込められたまま、路上に倒れこんでしまったのです。

その宿主を見つけて、貴女たちが病院に運んでくれた。

宿主の健康状態や外見そして、性格。

これらは私たちにとっての環境そのものなのです。

そして、私はあの時、

貴女を宿主として選んだのです。

そのためには、まず、貴女との接触を作る。

とにかく、宿主の身体を操作し、通常の生命活動を維持することだけを考えました。

そこにレントゲンの照射が行われ

私のエネルギー捕食は蓄積され、

宿主の死んだ身体を蘇生させることができたのです。

ですが、いわば宿主は生命維持装置をつけた状態でしかなく、

植物人間のように昏睡するだけ・・。

これでは、私のほうが、いずれ

エネルギー不足によって死亡してしまいます。

私は貴女に寄生するチャンスを作ろうとおもっていたのですが、

ひょうたんからこまというのですか?

あなた方のかっこうの研究材料になってしまったようで、

私は貴女に近い場所に移送してもらえることになったのです。

 

この三日、貴女に寄生するためのチャンスをまちながら

私は貴女を待っていました。

これで、貴女が私のメッセージを読めるわけがお分かりなったことと思います。

そして、もう一つ。

 

「箱舟・・・」

これは、

「運ぶ・・ね」

私の生命体を貴女の中に「運ぶ・・ね」と、お伝えしただけに過ぎません』

 

彼女が私に寄生した。

この事実をラボのみんなに伝えたら

私はいったい、どうなるのだろうか?

実験材料として私はラボの中に隔離されて

この先、牢獄のようなクリーンルームにとじこめられて、

研究の結果がでるまで、私は私の人生をなくす。

 

研究の結果がでても、私はどうなるのだろう?

彼女がそうであったように、他の生体に寄生・・・のりかえられないように

私は他のだれとも接触できなくなる。

 

つまり・・・研究という名前の拘束ということになる。

 

でも、この事実をしゃべらないでおけば、

彼女のほかの仲間が地球におしよせてきて

地球人に寄生してしまう。

私はそこまで考えて

事実を告げるべきか、どうかを検討しなおしている。

 

検討材料として、まず、寄生という事実が本当なのかどうかということ。

実際、私も、彼女の脳波解析を読んだだけで、

寄生されたという自覚症状はいっさいない。

 

証明できない話は仮定以前の妄想や空想に過ぎなくなる。

寄生を証明するための実験を受けなければならないということになるのだろうか?

あるいは、スタッフが私のいうことをどこまで信じるのだろうか?

 

いや、それより以前に

今、この私が寄生されたことの自覚症状もなければ

これといった実害がないということは、

たとえて言えば、

腸内に大腸菌がいるからといって、

病気にならないのと同じように

実害のない共生あるいは寄生というものは

ただの自然現象でしかなく

このまま、放置しておいても何事もないのだろうか?

 

寄生した彼女が私になにか、語りかけてくるわけでもないし

私を操るわけでもなさそうに思える。

 

私に例えばホクロができた。

そんな変化でしかないということなのだったら、

私はわざわざ、事実を話して

隔離される人生、生体観察の材料にされるだけなら、

私はなにも、しゃべらない方が良いという事になる。

 

それは、あるいは、彼女も計算済みだったのじゃないのだろうか?

事実を話したら私がどうなるか・・・・。

私が何もしゃべらずにおくことを選んだ後に

彼女は私を支配しだそうと考えているのだろうか?

 

もし、そうなら、やはり、話さなければ成らない。

イエスかノーかという単純な選択ほど難しい物はないといってよいだろう。

 

彼女が寄生するということで、

私にいったいどんな変化がおきているのだろうか?

私にはいっさい、寄生されたという自覚症状がなく、

彼女が私に事実を告げなければ

私は寄生されたとは気がつかずにいたはず。

 

何故、彼女はわざわざ、メッセージを送りつけてきたのだろう・・・。

 

私の思考はまだ寄生の事実を認めていない。

なにか、とんでもない策略があって、

寄生したことにしているだけで、本当はもっと違う計画で地球人を掌握しようとしているんじゃないか?

 

私の口から小さな呟きがもれ、

スタッフがそれを聞きとがめた。

 

「判らない?って、それ、貴女が自分の範疇で考えるからでしょう?

判らないからこそ、みんなで協議していく必要があるわけじゃないの?

貴女・・・ちょっと、おかしいよ・・」

「え?」

振りかぶった私の目にスタッフの少し困惑した顔が映りこみ

それが、突然の驚きの表情に変わったとき

私はまたも、意識を失っていた。

ほんのわずかの間の失神だったのは、

覗き込んだスタッフの表情でわかった。

 

まだ、私に何がおきたのか、判断しかねた顔が理解を呈する。

理解したスタッフの一人が私にたずねる。

「貴女、そういう病歴あったっけ?

あるわけないよね?あったらラボスタッフになれないもの。

だとしたら、後遺的なものだよね?」

 

私も自分のわずかな時間の失神を考えていた。

確かに後遺的なものでしかない。

スタッフの懸念することが私の脳裏に浮かぶ。

彼女の発光の照射による後遺症・・・。

 

スタッフが考えたことはそういうことだろう。

そして、私が考えたことといえば、

私の失神は

間違いなく「彼女の寄生」を告げようとした実行へのシャットダウン。

 

彼女は寄生主だけに事実を伝え

寄生にかかわることを寄生主が他に伝えようとしたときに

事実を隠蔽させる。

 

そして、それは、彼女の存在を私に主張し、誇示しているとも言える。

私は彼女の寄生について、あえてもう一度話そうとすることで

彼女の私の行動をシャットダウンするか、試してみることにした。

おそらく、立て続けの失神によって、スタッフは私の心電図・脳波・・もろもろの

チェックを行うだろう。

私はまず、私の失神が起きたら、生体チェックをおこなうようにと、スタッフに

念をいれておこうとおもった。

だが、私の口から出てきた言葉は私の意志とはかけはなれたものだった。



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