憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―理周 ― 13 白蛇抄第12話

2022-09-04 12:40:14 | ―理周 ―   白蛇抄第12話

理周がいつ、目覚めてもよいように不知火は粥をたいた。
初めは硬い粥を炊いたが、理周の熱はさがらなかった。
起きる事も叶わぬとわかると、理周のために炊いたかゆをたいらげ、
新たな粥は緩めた。
手拭いを替えて、額を触るがどこからこんな熱が出るのかと思う。
熱っぽさは唇をかさつかせ肌もかわくようだった。
水差しの水を口に含ませてやるが、理周は水を飲む意識さえなかった。
不知火は理周の鼻をつまみ、僅かにあけた理周の口に水差しを
そえてみたが、理周は力なくむせこんだ。
戸惑うたが、不知火は理周に口移しで水をあたえた。
不知火が塞ぎこんだ唇は理周の唇から水をおとすことなく、
僅かづつ嚥下されるのがわかった。
理周の嚥下を確かめながら、水を注ぎ込んでやる量を加減し、
理周の口の中に水をおとしこんでやる。
僅かな水分でも、理周の息がらくになったようにおもえた。
繰り返し湯のみいっぱいの水を飲ませるために
不知火は酷く無理な格好と術を課せられたが、
しばらくは理周の熱っぽさがひき、
静かな寝息が規則正しく聞こえていた。
「水をわすれずに。それと、たべれるようになったというても、
何日もたべれてないようでしたら、重湯から・・」
澄明が言い残したあと、くどには米がおいてあった。
ようよう、気の付く女子だと苦笑して、
まずは全粥を炊いてみたが理周はおきなかった。
不知火は理周の側を片時も離れず、手拭いをかえてやり、
たまに水を飲ませてやる事ぐらいしか出来ない。
澄明がのさりだと言い切ったのだから、よもやのことはないが、
身体中をほてらす熱の高さがつらげにみえた。
雨に打たれたのがいけぬかったのだろう。
梅雨月の雨は身体に悪い。
外気は生暖かく雨はぬるい。
寒さをかんじさせないまま、雨水は体温を奪う。
徐々に身体がひえる。
気が付いたときには、身体が芯からひえきっているのである。
その身体で、もし、湖の深みに足を取られでもしていたら・・・。
考えただけでも、おそろしいことになっていたのである。
「勘違いではなかったという事か」
あのとき。ほうけた目で不知火を見た理周がうかぶ。
「まあ。すってのところだったわの」
独り言を呟き理周の額の手拭いをしめらせなおした。
変わらず熱は高い。
理周の側でたたみに寝転ぶと不知火も仮眠をとった。

三日目の朝。不知火は五分粥を重湯にかえた。
「これは・・こたえぬの」
粥は量が多くても直ぐに腹が減る。
昨日の五分粥もさらに腹が減るだろうが、
理周がおきてくれぬと、この重湯も不知火の腹に収めねばならない。
むれた空気に晒された昨日の粥を、病人にくわせてはいけぬと、
不知火が粥をくった。
が、どろりとした重湯はいささか。
腹に入れば同じことと思うが、いい加減、茶漬けでもよい。
かたいおめしがくいたくなってきた。
やれ、おめしをくわせてもらえるかどうか、
そっと、理周の額にてをあててみた。

額に当てられた手が、暖かい。
理周の感触は人の手に触れられたぬくもりをとらえなおす。
「おや?めがさめたか?」
覗き込んだ男は薄目を開けた理周の覚醒に喜んでいた。
喜んだ男は理周の回想などにかまっておらぬ。
「はらがへっておろう?くえるか?おきあがれるか?」
なにがどうなってこうなったのか。
考えるより男の言葉に頷く方がさきだった。
「よし」
男はすぐさまに立ち上がると粥。
いや、重湯をよそった器を持ってきた。
「三日も何も喰わずにおったのだ、急に腹に物を入れると、
今度ははらがいとうなって、ねこむわ」
更々とさじをこぼれるような、薄い重湯を理周はすくった。
あたりをみまわす、理周のさじが止まるのを見ていた男は
「とにかく・・くうことだ」
理周を促し、つと、たっていった。
重湯をすすりきる頃に男は戻ってくると、
湯呑をさしだした。
「飴湯じゃ」
ほんのりと甘い香りがただよう。
口に含むと湯は飴を包んだ笹の香りもとかしこんでいるのがわかった。
理周は男の名前をおもいだそうとしている。
「わたしは・・貴方にたすけられた?のですね?」
「ぅ。まあ。すってのところだったわの」
「いえ・・私は、三日も・・たおれていたと」
湖からひっぱりあげたことだけでなく、
この三日の看病をいっているのである。
「ぅ・・まあ・・そういえるかどうか」
不知火のした事は水を飲ませてやった事と、
手拭いをあててやったことだけである。



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