〈2011年4月2日に書いた以下の記事を復刻します〉
フランスの原発電力量が国内全体の80%近くもあると聞いて驚いた。これは福島原発事故の関連で伝えられたものだが、今のフランスは原発で国が成り立っているということだ。
そこで嫌なことを思い出した。もう17年ほど前だが、フランスを単身で観光旅行したことがある。パリ見物がメインだったが、他に数件のオプション観光コースがあり、私は迷わず「ロワール川の古城めぐり」を選んだ。
ロワール川はフランスの中央部を流れる大河で、その流域には中世の面影を残す古城が幾つも点在している。当時はそうでなかったが、今は世界遺産に登録されている所だ。
ある朝、私はパリから観光バスに乗って出発した。すると、ほどなく田園地帯が広がってきた。フランスはもともと農業国なのだ。6月の陽光が田畑を照らし、実に穏やかな風景が眼前に広がっている。
バスがロワール川に近づくと、今度は草原も多くなって牛や馬などが放し飼いにされていた。のどかな風景である。あの聖なる画家・ミレーの「晩鐘」や「羊飼いの少女」なども、こうした中で描かれたのだろうか・・・
私はうっとりとして景色を楽しんでいた。すると、遠い先に何やら変な建物が見えてきた。あれは何だろうかと思っているうちにバスが近づくと、それはたしか円筒形の巨大な建築物だった。ガイドさんに聞くと、「あれは原子力発電所です」と答える。
途端に私は不愉快になった。こんなに美しい田園地帯に、あんな“お化け”のような原発が建っているのだ。風景も美観もあったもんじゃない! 興ざめもいいところだ。
ミレーの絵画などを連想していたのに、私は冷や水をかけられた気分になり目をつぶった。あの時から、私は“感覚的”に原発が嫌いになったと思う。芸術の国・フランスだというのに、何と無粋な建物を美景の中に建てるのか。こんな“景色”なら、どんな画家も絶対に絵を描かない!
ふて腐れていた私も、ロワール川の古城・名城に着くと気分が晴れた。実に美しい城が幾つもある。特にシュノンソー城は“白亜の美女”という感じだった。この城は昔、有名な王妃カトリーヌ・ド・メディシスが王の愛人ディアーヌ・ド・ポアチエと“争奪戦”を繰り広げた所だ。
シュノンソー城
ディアーヌは素晴らしい美人だったらしく、王妃カトリーヌはじっと耐え忍んでいたようだ。このため、王(アンリ2世)が亡くなると、ディアーヌのものとなっていたシュノンソー城をカトリーヌが奪い取り、ディアーヌをこの城から追放した。いわば、女の闘いを象徴する美しい城なのだ。
話がすっかり城のことに逸れてしまったが、幾つかの名城を見た後、私はパリに戻った。その途中、原子力発電所は努めて見ないようにした。不愉快になるだけである。
後で聞いたら、ロワール川の流域には原発が幾つも建っているという。いわば、城と原発が“共存”している形だ。フランスは原発大国だから、海岸沿いにも原発は幾つもある。
しかし、日本ではほとんど海岸沿いにあるので、美しい田園の中にあるフランスの原発には呆れた。あんな風景は二度と見たくない。
今日は感覚的、生理的側面から原発を語ったが、あれから私はフランスが少し嫌いになったと思う。それまではフランスが大好きで憧れていたが、“芸術の国”も美観や環境に疎いのかな~と思うようになった。
フランスでも原発の事故はよく起きるという。また、原発反対運動も起きている。その点は日本と同じか・・・(2011年4月2日)