あちこちのニュースや書き込みなど見ていますと、皆さんコロナウイルスの『検査』に「遅い!」とイライラされているようです。また、限られた方しか検査しない体制に「何で全数検査しないんや!」という声も聞こえます。
そこで、検査方法についてちょっと説明が必要かな、と思いました。
私は検査機関の内情には詳しくはないのですが、検出の方法については大体想像がつきますので、すこし解説します。
結論から言いますと、大変な検査なのです。読んで頂けますと、何故検査件数を限定しようとするのかなど、多少のご理解は頂けるかもしれません。
ウイルスを検出するのに一番早い検査法は「免疫学的方法」。例えば最近のインフルエンザウイルスの検出はこれです。感度の良い機械を使いますと数分で分かります。
これはウイルスに特異的な(ウイルスしか持っていない)タンパク質を検出しています。
この検出法のためにはウイルス特異的タンパク質に対する特異的な抗体が必要。これを作るためには、動物を免疫し、求める良い抗体ができるのを待たないといけません。あるいは「良い」抗体を作っているB細胞クローンを選別する。
どちらにしても半年以上はかかります。今回の検査には到底間に合いません。
どんな闘いでも「相手」のことを知りませんと、手も足も出ません。現在我々が知っている「件のウイルス」の情報とは、「ゲノム配列」。中国の研究所が同定し、公開されています。
これが唯一の手がかり。
いわゆる遺伝子の塩基配列なのですが、このウイルス、ちょっと厄介な性質があります。RNAウイルスという点です。
この辺りから、ちょっと専門的過ぎる話しになってきます。それを恐れずに書きますと、
RNA1本鎖ウイルス(ポジティブ配列)のウイルスを検出するためには、
1)ウイルスゲノム配列から目的のウイルスに特異的な配列を見つけ、そこにPCRのためのプライマー(PCR反応の初めの一歩となるDNA合成の足がかり)を設定する。(この辺りは結構便利なソフトがあるので、何とかなる。このプライマーセット、PCR条件は初期条件を決めた後も、改良は可能。)
2)検体(唾液、粘膜、血液)を採取し、RNAかDNAを抽出。(専門家がやらないとダメです)
3)RNAから出発する場合、逆転写酵素を使ってウイルスのRNAからDNAを生成。この場合のプライマーも1)の工程で作成するのかと思います。(〜1時間)
4)続けて通常のPCRで増幅。(〜2時間)
5)生成物の検出。(〜1時間)
リアルタイムPCR機器であればそのまま機械がフラグメントの増幅状況をそれこそリアルタイムに教えてくれます。
ただし、リアルタイムPCR機器そのものが高額、かつこれを使用するためには特別なプライマーが必要。先に設定したプライマーに特殊な物質でマーキングする必要あり。
従って、手間とお金がかかります。
通常のPCRですと、PCR反応を行った溶液をアガロース(寒天)ゲルで電気泳動し、バンドを確認する。あれば陽性。なければ陰性。
さて、この最後の工程5)で陰性、と出た場合が困るのです。
「無い」ことの証明は難しい。バンドがなかった。増幅されて来なかった。はい陰性、と言い切るには勇気が要ります。
従って、一つの検体から複数回のPCR反応、検出が行われます。通常2−3回。しかし、検体数が増えるとミスも増える。
2)ー4)のどの工程でも人為的ミスは起こりえます。また、予期せぬ酵素反応阻害などもおこります。
検査は2)の検体採取の段階から注意を要します。PCRの検査は非常に敏感。他の方の検体が混じらないよう、注意して検体を採取する必要があります。
現状、おそらくウイルスの検出は上記の方法でなされているはずです。結構な手間がかかる検査だ、という事をお分かり頂けるでしょうか?
1人がハンドルできる検体数は限られるでしょう。それなりの人員と機器、酵素反応のキットなどが必要です。
検査機関の方々は本当にお疲れさまです。あまり無理をしないようお気をつけ下さい。あまりな環境である場合には、適宜何らかの手段で発信されますよう。