読書感想204 よみがえる卑弥呼
著者 古田武彦
生没年 1926年(大正15年)~2015年(平成27年)
出身地 福島県
初出版年 1987年
再出版年 1992年
出版社 朝日新聞社 朝日文庫
☆☆感想☆☆
著者は「失われた九州王朝」「邪馬台国はなかった」「日本列島の大王たち」で証明しようと試みた古代日本列島の九州王朝の実在性に本書でも迫っている。従来の古代史について次のように著者は述べている。
「日本列島に、朝廷は一つしかなかった。それが大和朝
廷である」――これが、明治以降の古代史学において、ことさら強調された命題であった。研究思想を貫く根本信念とさえいえよう。この一点において戦前も戦後も不変だった。しかしそれは、江戸期の国学者たちのイデオロギー的な読解と、そのための「原文改定」という改変資料にもとづくものだったのである。――(解題)
本書では「卑弥呼の比定」という章がある。卑弥呼は誰だったのだろうか。中国の史書に出ていて日本の中に痕跡がないはずがないと考えた著者は、「卑弥呼」を通説の「ヒミコ」ではなく、「ヒミカ」と見なすべき可能性を示唆する。「ヒ」は太陽を意味する美称であり、「ミカ」は神聖なる甕を意味していると分析する。そして「筑後国風土記」に出てくる甕依姫(みかよりひめ)に的を絞る。甕依姫の場合、甕(みか)は固有名詞で卑弥呼と一致し、依姫は「憑(よ)り代」をもって神に仕える権威ある巫女の称号で、呪術をもって神に仕える点が共通する。甕依姫は筑紫君の祖であると記されている。彼女自身も筑紫君として中央権力者だった可能性が高い。名前から言っても甕棺の盛行した弥生時代の筑紫の巫女と考えられるので、卑弥呼と同世代である可能性も高いと結論づける。
本書は著者の仮説を証明しようといろいろな文献を分析し学術的である。素人にはなかなかとっつきにくい体裁になっている。しかしもちろん古代史に新風を吹きこむ労作だ。