読書感想260 チェーホフ・ユモレスカ傑作短編集Ⅰ
著者 チェーホフ
生没年 1860年~1904年
出身地 ロシア
出版年 2008年(平成20年)
☆☆感想☆☆
「ユモレスカ」はロシア語で「ユーモア小品」を意味するそうだ。チェーホフは日本の感覚で言うと幕末から明治を生きた人である。夏目漱石とだいたい同じ時代にあたる。ロシア革命前のロシアの社会が大きく変化して、その中で右往左往している人々の姿をおもしろおかしく描いている。ここに挙げられている短編は65編。モスクワ大学医学部に入学したころから7年間で400をこえる短編を発表し続けていたという。この短編集を読むと、チェーホフの長編小説につながるテーマが流れている。没落していく貴族と、解放された農奴が金の力で没落貴族を圧倒する。社会が金、金とお金に振り回されている。その中で生きる人々の哀感が伝わってくる。どれもロシア特有なものかもしれないが、特に興味が引かれた小話をいくつか紹介しよう。
「猟犬の狼猟訓練場で」
競技場で木箱に入れられた狼を一匹ずつ放して猟犬の群れに追わせる。狼は檻に閉じ込められていて弱っているので、当然逃げ切れずにずたずたにされる。それを見る観客が熱狂する。
「ヴァライエティ・ショールーム」
いろいろな人種の女たちがいる。酒やカンカン踊り、ダンスの大騒ぎの中で、男たちのなぐさみものになっている。その中の一人ルイーザは愛する男との結婚のために、プロシャから持参金を稼ぐためにきた。
「年に一度」
貧しい老公爵令嬢の「名の日」に誰も訪ねてこない。昔はたくさんの人が来たのに。それでたった一人の従僕が甥の公爵に訪ねてくるように頼みに行く。報酬と引き換えに貧しい甥は叔母を訪ねて、去年と同じ話をする。栄光の時代の知り合いの噂話。老公爵令嬢は満足して聞いている。