読書感想272 ゼルプの殺人
著者 ベルンハルト・シュリンク
出生年 1944年
出生地 ドイツ西部ノルトライン・ウェストファーレン州
出版年 2001年
邦訳出版年 2003年
邦訳出版社 (株)小学館
訳者 岩淵達治&石丸英子 大田文子 北川和代
北村春子 林啓子 藤倉孚子 増田久美子
望月節子 安彦恵子
☆☆感想☆☆
ナチス時代に検事だったゼルプは戦後は公職に就かず私立探偵をしている。時は東西ドイツが統合して10数年経った頃だ。老いたゼルプはひょんなことから、ヴェラー&ヴェルカー銀行頭取のヴェルカーから百年以上前の匿名の出資者のことを調べてくれと頼まれる。怪しげな人間が次々に現れるが、頭取自身も挙動不審で、ゼルプは銀行と頭取のことも調べ始める。
銀行に関係する怪しい人物は、頭取の幼馴染の側近ザマリン。ヴェルカーとザマリンの恩師にあたり、銀行について調査している元教師のシューラー。銀行の先代の頭取ヴェラー老人。ヴェラー&ヴェルカー銀行の傘下にはいった旧東独のソルビア協同組合銀行頭取のゾボタ。そして、ゼルプの個人的な関係でも怪しい人物が現れる。旧東独国家公安局の元職員ウルブリヒ。彼はゼルプの息子だと名乗る。ゼルプは全く身に覚えがない息子の登場に困惑する。その息子はゼルプの探偵事務所に入りたいという。
ナチス時代のユダヤ人の財産と旧東独出身者の窮状、ロシアからマネーロンダリングなど、過去から現在まで重層的な秘密が暴かれていく。完全犯罪を暴いても決定的な証拠がなく、犯人を告発することはできない。ゼルプも病に倒れ、寂しい幕切れだが、20年前のドイツの雰囲気が伝わってきた。