『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想273  週末

2019-12-18 12:13:01 | 小説(海外)

著者      ベルンハルト・シュリンク

生年      1944

出身国     ドイツ

出版年     2008

邦訳出版年   2011

邦訳出版社   (株)新潮社

訳者      松永美穂

☆☆感想☆☆☆

 かつて赤軍派のテロを首謀した男イェルクが、金曜日に大統領の恩赦を受けて、24年ぶりに出所した。イェルクの出所祝いに姉のクリスティアーネは週末に郊外の古い屋敷に弟の大学時代の友人を招待した。イェルクの息子とは音信不通である。屋敷に滞在するのは友人と関係者。ジャーナリストのヘネー。学校教師のイルゼ。デンタルラボ経営者のウルリッヒと妻と娘のドーレ。牧師になったカリンと博物館勤務の夫エーバーハルト。イェルクの弁護士のアンドレアス。イェルクを革命運動に再び引き込もうと考えているマルコ・ハーン。クリスティアーネの友人で同居人のマルガレーテ。そして最後に登場するのがゲアト・シュヴアルツと名乗る美術史専攻の学生。革命の大義のために4人も殺害し、銀行強盗を働いた元テロリストになんと声を掛けたらいいのか、最初は戸惑っていたが、核心は一つだった。ウルリッヒが先鞭をつけた。「ところで最初の殺人はどうなんだ、イェルク?そのことを・・・」彼は過去の行為についてイェルクがどう思っているか聞きたいと思っている。しかし常識的な思いやりを持つ人々に押しとどめられる。イェルクはイェルクで24年前に山荘にいることを警察に密告した人間を確かめようとしている。赤軍派のテロの犠牲者の中には、自殺したテロリストのヤンや、イェルクの自殺した妻もいる。イルゼはヤンは実は生きているのではないかと考えてヤンの物語を屋敷の中で綴っている。イェルクが忘れた、罪を償った、あれは戦争の時の殺人だと抗弁しても、絶対に許さないのは犠牲者の立場に立つ人々だ。大統領の恩赦についてのスピーチでイェルクの現在の状態について集まった人々は知ることになり、イェルクも建前ではなく本音で語ることになる。週末は終わった。

 訳者のあとがきには実際にドイツの赤軍派のメンバーのクリスティアン・クラーが2008年に大統領の恩赦で釈放されているが、著者は本作のモデルではないけれども、執筆中にクラーのことをよく考えたと述べているとある。

本作は重いテーマなので手に取るのが躊躇われた。政治的な判断ミスはそこら中に転がっている。テロというのは短絡的で致命的だ。そして償いきれないものだ。こんなパーティーに招かれたくないとつくづく思った。 


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