①イングリッシュマン 面白さ(5点満点):☆☆☆☆
著者:デイヴィッド・ギルマン 出身国:イギリス 生年:不詳
出版年:2020年 邦訳出版年:2023年 邦訳出版社:(株)早川書房 訳者:黒木章人
コメント:元フランス外国人部隊の隊員でイングリッシュマンと呼ばれる男の活躍するアクション小説。ロンドン金融街の銀行役員が誘拐され、M16の高官が引退してフランスの片田舎にもとフランス外国人部隊の隊員たちと暮らしているイングリッシュマンを呼び出し捜査を依頼する。舞台はアフリカからフランス、そしてイギリス、最後にロシアで決着がつけられる。これを読んで思うことは、日本では書けない小説だということだ。現実に情報機関があって国際政治の中で暗闘を続けているアメリカとかイギリス、そして敵役のロシアでなければ、リアリティーが出てこない。現代を舞台にしているからだ。
②日の名残り 面白さ(5点満点):☆☆☆
著者:カズオ・イシグロ 出身国:日本 国籍:イギリス 生年:1954年
出版年:1989年 邦訳出版年:2001年 邦訳出版社:(株)早川書房 訳者:土屋正雄
受賞歴:ブッカー賞受賞
コメント:長年貴族の邸宅で働いてきた執事の回想録。仕えてきたダーリントン卿が亡くなり、邸宅はアメリカ人の手に渡る。新しい主人の勧めで旅行することになる。目的は昔一緒に働いてきた女中頭に会うこと。この執事の主人にたいする盲従ぶりがすさまじい。読んでいて主人公に対する共感は勿論興味もわかなかった。なぜこの本が評価されるのかわからなかった。
③日ソ戦争ー帝国日本最後の戦い 面白さ(5点満点):☆☆☆☆
著者:麻田雅文 出身地:東京都 生年:1980年
出版年:2024年 出版社:中央公論新社 中公新書
コメント:日ソ戦とは、1945年8月8日にソ連軍が満州や朝鮮半島、南樺太、千島列島に攻め込んできて8月15日になっても一方的に戦争を継続し9月上旬まで続いた戦争である。両軍の参加兵力は200万人を超えたという。
1943年8月の米軍統合参謀本部の報告書ではソ連の対日戦参戦について次のように記している。「ロシアはいずれ対日戦に介入する可能性が高いが、ドイツの脅威が取り除かれるまではそうしない。その後は、己の利益を考えて決断し、わずかな犠牲で日本が負けると思ったときにだけ介入する」そのとおりになったのである。
連合国側のヤルタ会談を踏まえたヤルタ秘密協定ではローズベルト、チャーチル、スターリンが1945年2月8日にソ連の対日戦への参加の見返りとして、南樺太、千島列島のソ連への帰属、満州については旅順のソ連の租借、鉄道・港湾の利権については蒋介石の同意と個別協定の締結が決まった。しかしドイツが降伏した後の1945年7月26日でのポツダム宣言は米・英・中の三国宣言で日本軍の無条件降伏を求めている。ソ連とは一切協議されていない。ソ連は正式の参戦要請を求めたがトルーマン大統領に断られている。日本や東アジアの戦後処理にソ連が関与するのを望んでいないと判断したスターリンは自力でヤルタで約束された利権を手に入れるべく、ヤルタ秘密協定でのドイツ降伏後2,3か月以内の参戦の期限を守って1945年8月8日に対日戦に参戦した。
一方日本側はソ連の参戦についてどう考えていたのか。ソ連は参戦しないと考え、連合国側との仲介の労を取ってもらおうと考えていたのである。スターリンの粛清のこともシベリア鉄道を使っての極東方面への兵士、武器の大量の移動の報告が入っていても、大本営が無視したのである。希望的観測にすがりついていたのである。またドイツの降伏、太平洋各地での敗戦の報が入っていたにもかかわらず、国体の護持を条件に無条件降伏を拒んでいた。将棋でも囲碁でも完全に手詰まりになり、負ける状況がわかれば数手前で負けを認める。戦争のプロがシュミレーションで負けがわかっている戦争を始め、終わらせないという心理的な問題は何なのだろう。軍に勝手なまねをさせないために文民統制が必要だと言われる。しかし、この敗戦のごたごたを見ると、自分の命を懸けて戦争を始めた人々ではないうえに、敗北の責任も自分の命で取ろうとしているとは見えない。軍に所属していても大本営とか、天皇周辺とか文官ではないか。自己保身で国体の護持とか言っているようにみえる。実際に戦う人は戦争には慎重だと思う。文民統制というのも危うい。
④日本列島はすごいー水・森林・黄金を生んだ大地 面白さ(5点満点):☆☆☆☆
著者:伊東孝 出身地:宮城県 生年:1964年
出版年:2024年 出版社:中央公論新社 中公新書
コメント:日本列島の成り立ちから、豊かな資源ー水、塩、森林、黄金ーについて語っている。2万年前の最後の氷河期には海水面は現在より125m下がった。大陸と北海道、樺太、本州、四国、九州は一続きとなった。しかしその後海水面は上昇し、7000年前には現在と同じ高さになった。そして日本の東側の日本海溝は太平洋プレートが沈み込む場所で地震の巣である。300万年前にフィリピン海プレートの移動方向が変化し、太平洋プレートの沈み込む場所が西へと移動し、東北日本は東西に圧縮され、東から沈み込んだプレートの上面が深さ100キロに達した。沈み込んだプレートから放出された水に起因してマントルの一部が溶けてマグマが生じる。このマグマが地表に達したものが火山である。日本海溝から見て最初の活火山の列が火山フロント(前線)となる。プレートから放出された水がマントルの岩を溶けさせマグマを作り火山を作り温泉を生み出す。日本列島は上からも下からも水に恵まれている。
奈良時代に発見された砂金は、遣唐使が持参する朝貢品のおもなものとなり、漢籍・仏教経典・仏像・美術工芸品・薬物などの購入費に充てられた。日本は黄金の国というイメージを植え付けることになったという。金はまだ大陸と陸続きの時代に陸地に近かった海溝に沈み込んだプレートが高温で溶解したためだとか。
地震にかんしては幕末に日本に来た外国人が地震に驚いた様子が伝わっている。そして明治13年(1880年)の地震を経験したお雇い外国人の科学者や技術者によって1か月後に日本地震学会が設立された。
面白そうな所だけ簡単に紹介したが、鉄のこと、塩のこと、ゆたかな土壌のことなど面白い話が満載。当たり前に思っていたことを科学的に説明される爽快感があった。