風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

きぼうという名の星をみた

2021年10月10日 | 「新エッセイ集2021」

 

夜空はなんと静かなんだろう と まもなく現れるはずの星を待っていると その光の星は 星よりも明るく 飛行機よりも早く 点滅することもなく 南西の方角から 最初はぼんやりと 次第に近づいてくるにつれて輝きを増し 大きな星の明るさとなって 頭上を流れるように通過していくのを 急いで追って 南側のベランダに回って待つと すぐに続きのままの光で現われ そのまままっすぐ 南東の方角に線を引くように あっというまに その光は弱くなって消えてしまった あとに残るものは何もなかったが その星は「きぼう」という名を残していった 遠く星のように輝いてみえるものは たしかに希望そのものかもしれない その希望の本体は国際宇宙ステーションというらしい 夜空の目視では 大きめの星にしか見えなかったが 実物はサッカー場くらいの大きさがあるという 地球をぐるっと サッカー場を周回させてみる その星では誰かがボールを蹴っていたり そのボールを追いかけていたり 遊んでいるような闘っているような そんな賑やかな星ではなくて 光のボールになった小さな星は 音もなく静かに消え去ったので あとに残されたものは もはや光の星の残像であって 定かでない暗い宇宙に なお浮遊する光の断片を探そうと 星の海に舟を漕ぎ出してみたいが そんな舟で地球を何周できるか 暗い夜もあろうし 明るい夜もあろう あの日や あのあとや あれからや あのときの あの言葉や あの仕草や あれらは何の暗示だったか やらなかったことや やれなかったこと ありそうでなかったことや なさそうであったこと などなどの星くずの数々 空の舟が目指したのはいつも 希望という名の星だった かもしれず こんや無言で去った光の星を追って 小さな希望の舟がふたたび 無窮なる星の海を漂い続けようとしている


 

 


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