風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

早送り巻き戻しの繰りかえし

2022年04月14日 | 「詩エッセイ集2022」



夜中の雨で地面が濡れている 朝は青空が広がり始めて 地上はすっかり若いみどり この日々は 自然の移りが駆け足で それは自分だけの錯覚か あるいは太陽のせいか 桜もタンポポも早々に散り 曖昧な季節の 花の記憶を残したままで ベランダの花ニラも萎れ フリージアも香りを失くした カレンダーも嘘つきの もうApril4月 時計は埃をかぶったまま 見慣れた数字を刻み続ける 約束も予定もないのに つい時間を気にする習慣で 生活のそばから離せないが 古い腕時計は古いままで いまや新しいものより 古いものの方が多くなった だからときには 正確な数字は 秒速で消えてしまう この日常は写真や動画の 録音テープや録画の整理で 早送りしたり巻き戻したり いずれにしても 戻ることばかりしていて 古い風景や古い顔 忘れていた言葉や 置き去りにした物や事 その辺りで道草食って カセットテープの一巻が終わる 黴びたテープを変換して 傷ついたままで正確に そのままコピーできたのか 笑った顔が笑ったままで あらたに焼き付けられて 脳裏では迷子の数字があたふた 夢の中まで追いかけてくる 巻き戻せばなにもかも 中途半端な切れたテープで メンディングテープでも いまさら修復は出来そうになく どうしたものかどうすることも 出来ないものをそのまんま 放置もできず回復もできず 悩んでいるのか楽しんでいるのか もはや収拾つかずに 泡立つこころの水際をふらつく 春の陽射しに甲羅干し 亀は目覚めても眠っている 鴨はどこへ帰っていったか 魚もミズスマシも戻らず この池は底まで澄みわたる 風はひたすら水のにおい 水は川のにおいを運んでくる 流れもリールも尽きない 秋になって山に帰っていく 河童を見たという人が テープの中から現れた 詳しく聞いてみたいと思ったが そんな河童のことを セコと言ったとそれだけで その人は消えてしまった いまは春だから 河童は山から下りてくるのだろうか テープを巻き戻しても ザーザーザーと風の音か 村人の声すら聞こえてはこない








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