風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

赤淵の川に河童がいた頃

2022年08月03日 | 「詩エッセイ集2022」



川には河童がいる と信じていた頃 いそぎ裸足で川に行く前に 神棚のご飯を食べていく そうやっておけば 水の中で目玉が光るので 河童は怖がって近づかない 河童は尻の穴を狙ってくる そこから血を吸い取られたら 徐々に体の力が抜けて 泳ぎながら溺れてしまう 河童は何処にいるのやら 分からないが必ず居る 川で泳いでいる子供たち 河童も童も見分けられない 厄介しごく大わらわ 子供はときどき溺れたりして そこには河童がいるものと 信じることも出来はするが 信じる子供も河童だったり 目玉が光れば 河童も童子だったり 流れる川は複雑怪奇 岩を避け砂地を渡り 浅瀬あり深みあり 渦巻く淀みもあったり 水は水でも湧き水は冷たく 田んぼの流水は温いもの 鮒の子は草むらで平たく藻掻き はるか上流で夕立があれば 急に濁って軽石ぷかぷか それでも目玉が光るので 日がな河童と遊び惚ける もはや水から離れがたく すっかり水になって冷えきると 熱した砂地に体をうずめ 産卵する亀になりきって ただ空ばかり雲ばかり 変幻自在入道雲の その膨らみはどんどんと 群青をどこまでも侵食し 満腹過食のモクモク雲は 貪欲灰色の濁りを増して 大粒の雨となりザアザアと 落ちくるものは天然シャワー 背中の砂を洗い流すうち ふたたび空の目玉が光りだし 川苔の匂いもむんむんと 河童の目玉も歓喜に光る 水と戯れ河童と対峙 腹が減ったら川岸の ありがたき胡桃の大木 石を投げて落としたら 砕いて白い実に喰らいつく 硬い殻やら砂粒やらも 舌でれろれろ選り分けて 噛み砕いたり吐き出したり ああ無為徒食漫然と 河童なる夏も終らんと せわしなく背中に風 川面もさざ波が掃いていく トンボばかりが数を増し 今日は何処まで行ったやら 空中の賑わいが侘しくて 細竹鞭を振りまわせば 一瞬かすかな手応えあり トンボは川面に落下して 4枚の翅を開いたまま つぎつぎ川下へ流れてゆく それでそれからそのまんま 夏の饗宴も終わりゆく 河童も山へ帰りゆく とっぴんからり どっとはらえ 


 

 








この記事についてブログを書く
« 森に入って苦い実を食べる | トップ | みんな何処へ行ってしまったか »
最新の画像もっと見る

「詩エッセイ集2022」」カテゴリの最新記事