風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

ディープブルー

2010年04月23日 | 詩集「ディープブルー」
Kumo16


どおんと山を越えてくる
たぶんそれは
空の鯨
黒い巨体が空を泳ぎわたる日
ひとは大きな影の下で
ディープブルーに染まる


背中から尾びれへ
なだらかに不在のかたちを測りながら
鯨は真昼の夢をみている


風よりも遠いものに
ひとの手はとどかない
ひたすらに朝から夜へと
小さな波を送りつづける


それは吐息のようなものだ
とぎれとぎれに
ひとは生きることを継いでいる
そうして大きな沈黙のかたまりを
ただ見つめているだけだ


ふたたび鯨が
どおんと山を越える日
空はなだらかに傾斜する
その時ひとはかなしみの深さを知る
山の向うにはきっと
ディープブルーの海がある


(2005)


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