7月は七夕の月だった ふと思い出すと 記憶の遠いところで キラキラと短冊がゆれている 子どものころは 願いごとが沢山あって 願いごとをひとつひとつ 色の付いた短冊に書いて 笹にくくりつける 折り紙を切ったり 貼ったりして ささの葉さらさら たっぷり飾り付けて それが七夕の遊びだったが 子どもの願いごとは 身近な日常のことから 遠い将来のことまで 数限りなくあって 短冊の数だけ願いごとはあった 七夕の笹飾りは 賑やかな七夕の ひと晩だけ軒先に飾って 翌朝はやく 近くの川へ流しに行く 釣りをしたり泳いだりする川が そのまま天の川に通じている と信じられていたか 真っ暗な夜の戸外は 明かりも殆どなく 夜空を大きく横切って 天の川がくっきりと流れていた 神話の世界も現実の世界も ひとつに重なっていて 幼い想像力は 容易に美しく溺れていた 願いごとの短冊が どのくらいの日数かかって 天の川に流れ着くのか そんなことは考えなかったが 神様が短冊を拾いあげる頃には もう願いごとのことなど すっかり忘れてしまっていた おとなになっても あいかわらずいつも 新しい何かを願いながら生きて 小さな願いから大きな願いまで 子どものポケットを満たしていた 輝くビー玉はさまざまあって ときには空にかざして 小さくとも美しい ガラスの虹を探したり 喜びや失望の色に 戸惑いながらも 年をとるにつれ 願いごとをかさねても 色褪せていくものに夢ははかなく それでは淋しすぎるから 小さな夢と望みを持ちつづけ ときには子どもになって ささの葉さらさら 願いごとを短冊に書き 運は天に任せて 天の川に流そうとして 妄想の川に溺れていると こんな7月はしばしば 記憶の短冊をひろう すっかり忘れていた 子どもの頃の夢も 夢は夢のままで なお天の川を漂っているかも などと夜空を仰いでみるが 明るすぎていまでは 星屑さえもまばらで 七夕の天の川はどこかへ 消えてしまったままだ