流星群
草の舟にのって
夜の川をどこまでも下っていきたい
銀河のかなた
降りしきる流星群を浴びたら
星くずの鉛筆で
長い長い手紙を書く
それからポストをさがして
千年の旅をするだろう
*
星の時間
星が降る
そんな時代がありました
光の川を泳ぎ
光の国を彷徨った
光の国のひとを訪ねたが
光の国は遠かった
光りの約束ばかりで
幾億光年という
ときは流れ去っていくのでした
ですからまだ
そのひとには会えません
*
ガラスの星
ガラス玉のような星を
ひとつもらった
そらの銀河がすこし暗くなって
ぼくの川がすこし明るくなった
星が冷たい夜は詩を書く
いくども書き直したので朝になった
星のことは書けない
ぼくの星をだれも知らない
夜明けに夢の中へ
そっとかえす
*
もうひとつの星があった
いままでに見た一番きれいな星は、標高1800メートルの山頂で見た星空だった。
きれいというよりも、すごいと言った方がいいかもしれない。星が幾重にも重なっていた。その澄みきった輝きは、目に突き刺さってくるようだった。
星ではない何か、空を覆いつくしているもの、空そのもの。昼でもない夜でもない、もうひとつの、はじめて見る空だった。
夜に向かって山に登るな、という登山の鉄則は知っていた。
だが、当てにしていた麓の山小屋が雪崩で潰されていた。引き返すこともできない。そのまま山を越えることにしたのだった。
すでに陽も沈み、登るほどに麓から夕闇がせり上がってくる。
山頂に着いたときは、すっかり夜になっていた。冷たい風が吹き抜けていた。辺りを澄んだ鈴の音が鳴りわたっている。小さな笹群れの凍った葉先が触れ合って、無数の鈴が鳴っているような音を発しているのだった。むしろ全天の星々が瞬き鳴り響いているようにみえた。まさに天上の音楽だった。
体が急激に冷えてきたので、コンクリートでできた無人の非難小屋に入って風を避けた。中は何もなく暗闇だ。四角いがらんどうの窓に、ぎっしり詰め込まれたように光っている星。充満しているのに空洞のような、異界の景色を見ているようだった。
懐中電灯で五万分の一の地図を照らし、目指す谷あいの山小屋の位置を確かめた。一面の雪だから、道があるかどうかもわからない。
自家発電が止まってしまわないうちに、山小屋にたどり着かなければならなかった。
斜面を下りはじめたら風もなくなった。明るすぎるほどの星空に比べて、足元は闇。懐中電灯で照らされた所だけ白い雪が浮き上がる。わずかに平らな部分を道だと推測しながら足を下ろす。浮き立ったような心もとない歩行だった。
積雪の表面に張った薄氷が、靴の下で細かく砕ける。その感触だけが、歩いているという実感だった。立ち止まると、砕けた雪氷の欠片が、せせらぎのような音をたてて闇の斜面を落ちていく。その響きはいつまでも鳴り止まない。目には見えない深い谷があるようだった。足を滑らせたら、どこまで落ちていくかわからなかった。
闇と星空しかない。いや星空しかないのだった。その星空が明るすぎて恐かった。山の鉄則を犯した自分は、すでに異界の宇宙を歩いているのかもしれないと思った。
無数の星が饒舌に瞬いている。しかし言葉を発するものはひとつもない。豊穣なのに寂しい。ひしめき合っているのに孤独だった。
星々の異常な輝きと地上の静寂。それは、ぼくがそれまで生きてきた世界ではなかった。生の世界から死の世界へ入っていくのは、容易なことかもしれなかった。気付かないうちに、その一歩を踏み出しているかもしれない。ふと居眠りをする。その程度のことなのだ。
妄想の中を歩いていたら、暗闇の中に星をひとつだけ発見した。視界の底のほうに、空から落ちた星がひとつだけ光っていた。
あるいは自分は空を歩いていたのか。感覚がすこし狂っていた。人も光を発するということを認識するのに間があった。それは温かい色を発していた。人が生きている色だった。
その星を目指して、暗闇の積雪に足をとられながら、ぼくはまっすぐに歩いていった。