風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

ふと星の数をかぞえてみたら

2021年09月04日 | 「新エッセイ集2021」

 

夏の夜はベランダに出て 夜空を見上げることもしばしば この街では星は たったの三つしか見つからなくて 満天の星なんてすでに死語で 星明かりの下でなんていう ほのかな情緒もなくなった都会は 地上ばかりが明るすぎて 天空の光は消えてしまって 暗い夜空の奥の方で いまも星の時間が流れているとしたら そんな星の過去へと舞い戻って 記憶の中の星を拾い集めてみたくなって いつだったかは言葉の遊びで ガラス玉のように星を集めて ポケットをいっぱいにしたこともあり 夜道を自転車に乗って 友人に会いにいった頃は 星空なんてとんと関心もなく ぼくらは夜の深みに溺れていたのか やはりホントのことは見えていなくて 美しすぎて神秘すぎてなんて 全部うそばっかりだと 友情も壊してしまいそうになって それきり星のことなど忘れてしまっていたが 初めて本物の星空を見たのは 23歳のぼくが初めて登った 1700メートルの夜の山頂で そこにはただ星空だけがあって 他には見えない何かがいっぱいあって いきなり異界のてっぺんに ひとりで放り出されたみたいで ギラギラキンキンの星屑が いまにも天からこぼれ落ちてきそうで 美しいというよりも怖くなって震えていたら そのとき不思議な楽器の響きが聞こえてきて それは足元の小さな草の 葉っぱに付着した氷の皮膜が 風に吹かれて触れあう音のようで まるで虫が鳴いてるみたいな 誰かが細い金属の棒に やさしく触れているみたいな 初めて聞く音の響きに包まれていると 星が一粒一粒の光となって降り注いできた と錯覚した一瞬があって あのときから星は 光になったり音になったりしたが いくつかの山を越えたあとに ふたたび星の光が気になって 漆黒の夜空を彷徨いながら ぶ厚い本の扉を開いてみたら 久しぶりに星の王子さまに会えて 暗い夜の浜辺で 星の砂ばかり集めている 引きこもりの王女さまにも会いたくなり 彼女の好きなリンゴをプレゼントしたり 三つ星ではなく五つ星でもなく 彼女のすてきな白いページには いいねのホシを七つタッチして そこで本を閉じたらこの街には あいも変わらず星は三つしかなく ぼくが書いた星の話はスルーされて いいねのホシも貰えなかったから どうやって星を七つ集めたらよいのか しゃもじの北斗七星の 七ツの星を数えることもできず 頼りの北極星も灯りを失くして 夜の街を徘徊もできず 天の川の流れも定かならず 川をわたって織り姫にも会えず 幸運の流れ星もキャッチできず 七夕さまの子どものように 星にお願いすることもできず オロオロしながらぼやいていたら 寝言は寝て言えといわれてしまって 寝ても覚めてもこの街には 星はやっぱり三つしかなかった


 

 

 


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