マーク・ラッペ氏が書いた『皮膚 美と健康の最前線』(川口啓明・菊地昌子:訳、大月書店:1999年刊)という本をご紹介しています。今回は第5回目です。
◆皮膚吸収
皮膚は、平坦なように見えても、微視的には非常に複雑な入り組んだ構造をしています。
毛穴や汗腺の穴、細孔とよばれるさらに小さい穴がいたるところにあり、特に脂質に溶けやすいものはこれらの開口部から皮膚に容易に侵入して吸収されます。これを皮膚吸収といいます。
西洋医学では、1960年代の後半になるまでは、皮膚は化学物質を吸収しないと考えられていたそうで、このため、子どもと高齢者の多くに治療用の殺菌剤や殺虫剤による中毒がみられたそうです。
また、皮膚吸収が原因の職業病も以下のように多数確認されているそうです。
・不妊症:DBCP(ジブロモクロロプロパン)という、土壌微生物(線虫)用の殺虫剤が原因
・多発神経炎:トードン(2,4ジクロロフェノキシ酢酸塩)という除草剤が原因
・精神障害:有機リン系殺虫剤が原因
・白血病:ガソリンに含まれるベンゼンが原因
また、プールのように水を塩素消毒する場所では、クロロホルム(トリハロメタンの一種)という有害物質が発生し、これが皮膚から吸収されるので注意が必要だそうです。(厚生労働省は、クロロホルムの発がん性を認め、2014年11月1日付けでクロロホルムを「特定化学物質」に指定しています。)
一方、この皮膚吸収を利用すると、注射器を使わずに薬を投与することが可能となります。
例えば、狭心症の患者用のニトログリセリンパッチや、禁煙を支援するためのニコチンパッチ、更年期症状を緩和するための女性ホルモンパッチなど、各種の経皮投与パッチが実用化されています。
最後に、女性の方は化粧品を使う機会が多いので、化粧品の皮膚吸収にも注意が必要です。
古代のギリシアやローマでは鉛入りのアイライナーが使用されていたり、中世のヨーロッパではヒ素入りの頬紅が使用されていたそうで、昔は美しくなるのも命がけだったようです。
ただし、現代でも化粧品に鉛やヒ素は微量に含まれていて、2007年10月12日のロイターのニュースによると、クリスチャン・ディオールの口紅から鉛が検出されたそうです。高級品だからといって安心はできないようですね。
次回は、皮膚病についてのお話です。