福島民報より転載
第五部 汚染水の行方(10) 海洋流出の懸念 再検討された遮水壁

「汚染水問題を含め、福島第一原発の廃炉を実現できるか否か世界中が注視している。政府一丸となってその解決に当たる」
9月3日に開かれた政府の原子力災害対策本部の会議。汚染水問題に関する基本方針の決定を受け、首相の安倍晋三(59)は言葉に力を込めた。
基本方針には、「凍土遮水壁」の整備に今年度予算の予備費など約320億円を充てることが盛り込まれた。汚染水が増える原因となっている地下水が福島第一原発の建屋に流入するのを防ぐため、建屋周辺の地中を凍らせて壁をつくる。汚染水問題の抜本対策の一つだ。
10月9日、経済産業省資源エネルギー庁は、凍土遮水壁の実証事業を行う事業者に鹿島を選定したと発表した。今年度内に有効性を検証する。平成26年度下期に凍土の造成に着手し、27年度上期の運用開始を目指している。
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東電は2年前、陸側遮水壁の設置を検討したが、断念した。9月27日に行われた衆院経済産業委員会の閉会中審査で、建設に巨額の費用が見込まれ、経営への悪影響を懸念した東電が具体的な計画の公表先送りを求めたとの指摘に対し、東電社長の広瀬直己(60)は「その通りだ」と経緯を認めた。
一方、政府の汚染水処理対策委員会は約5カ月前の4月26日、陸側遮水壁の設置を再検討する決断をした。汚染水増加の原因となっている地下水の流入を抜本的に防がなければ、廃炉工程に重大な支障をきたすからだ。複数のゼネコンが招かれ、地下水抑制に向けた遮水壁の設置案を提示した。その一つが凍土遮水壁だった。
委員会は、凍土遮水壁と「粘土壁」、砕石で壁をつくる「グラベル連壁」の3つの工法を比較検討した。検討のポイントは、いかに汚染水を増加させないか、万が一、建屋内の高濃度汚染水が外部に流出した場合、汚染範囲をいかに最小限に食い止められるか-。
凍土壁は一定間隔で凍結管を地中に設置し、氷点下数10度の冷却剤で凍土壁を造成するため、粘土壁やグラベル連壁よりも遮水効果が高い。さらに、既存の地中配管を避けて凍結管が設置できるため、より建屋近くに壁をつくることができる。1~4号機を取り囲むように施工すると、その長さは凍土遮水壁が約1400メートルなのに対し、粘土壁は約1500メートル、グラベル連壁は約2000メートルにもなる。
資源エネルギー庁原発事故収束対応室長の新川達也(46)は「施工エリアが小さいということは、地下水だけでなく雨水の流入も低減できることになる」と説明する。
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「この凍土工法は、(水を止めるためではなく)トンネルを掘ったりする時に周囲の土の崩落を防ぐ工法だ。本当に効果が得られるのか」
9月30日の閉会中審査で、民主党の馬淵澄夫(53)は、政府が決めた凍土遮水壁による対策に疑問を投げ掛けた。
経済産業相の茂木敏充(58)は「当然、技術的な課題はある」と認めた上で、「実証試験を行い、効果など検証している。対策が効果を十分に示さなかったときは追加的な遮水対策もとっていく。大切なのは案をつくることではなく実行することだと思っている」と強調した。
馬淵が言うように、凍土遮水壁はトンネル工事などで用いられている。だが、通常の運用実績は2年程度だ。原発の廃炉完了までかかるとみられる30~40年もの長期運用の実績はない。長期間にわたり継続して冷却するには、維持補修費を含め、さらに多額の運用費が発生するとの指摘もある。
汚染水処理対策委員会の報告書には、地下水の流入抑制対策の重要性が低下した時点で「維持、管理が比較的容易な粘土の遮水壁へ入れ替えることも検討すべき」との文言も盛り込まれた。
ただ、遮水壁で汚染水の増加と建屋からの海洋流出は防げても、地上タンクからの汚染水漏れによる海洋流出の懸念は消えない。構内の排水溝は外洋とつながっている。
(文中敬称略)
(2013/11/07 11:11カテゴリー:ベクレルの嘆き 放射線との戦い)