http://blogos.com/article/138522/ より転載
記事 赤木智弘
- 2015年10月10日 19:39
店舗には補助犬を受け入れる法的義務がある
当日は、その喫茶店と同じフロアで補助犬啓発のイベントが行われており、聴覚障害者の女性はNPO法人「日本補助犬情報センター」の事務局長らと喫茶店に入ろうとしたが拒否され、さらに阪急百貨店の社員が説明しても、喫茶店の従業員は聴導犬の入店を断り続けたという。(*1)
阪急百貨店を運営するエイチ・ツー・オー リテイリング株式会社の活動報告に、当日行われたイベントの様子が記述されている。(*2)
まさに「一番困っていることは補助犬と一緒だとお店や病院などでは、利用を断られるときがある」という話をイベントでした直後に、そのイベントを行ったすぐ近くの喫茶店で、2店立て続けに入店を断られるという問題が発生したのである。啓発活動を行っている当事者たちの心労、もしくはガッカリ感はいかほどのものだろうか?
まずこの件を考える上で、大前提としてハッキリと理解しておくべきことは、飲食店が盲導犬や聴導犬といった補助犬を受け入れることは「法的な義務」であるということである。
しかし、法的に義務があるとしても、それを理解している人は少ないようだ。入店を拒否した飲食店の店員はもちろん、ネット上でも断られた側に対する安易な批判が飛び交っている。
しかし衛生面に関して言えば、補助犬の衛生はガイドラインによって厳しく管理されている。(*4)
親の言うことを聞かず、バタバタ店内を走り回ってホコリをばらまきまくる子供が、飲食店に普通に入店していることを考えれば、利用者の支持がなければおとなしく座っているように訓練されている補助犬の衛生面を心配する必要がないことも理解できるだろう。
また、アレルギーの人に対しても、訓練された補助犬がわざわざ他人に近寄ることはしない。入店の際にアレルギーの人がいないか確認し、できれば離れた席に案内すればいい。
ペットとの区別についても、補助犬は普段から「介助犬」や「聴導犬」などと書かれた、それと分かる格好をしているほか、補助犬を連れた人には「認定証(使用者証)」の携帯が義務付けられている。店舗側は認定証の提示を求め、提示がなければ補助犬としての同伴を認めなくても良い。
以上のことから、補助犬を店舗に同伴させることの批判点は、知っていれば普通に解決できることばかりである。
だが、結局これらのことは知られていなければ意味が無い。
また、今回の問題では、店員の側が補助犬利用者側の説明を拒絶したり、阪急百貨店側の人間が間に入ってすら、拒否の態度を撮り続けたという問題もある。
もちろん、店側には同伴を認める義務があるが、それを補助犬の利用者が店舗側にやんわりと伝えることは難しく、法律を持ち出せばどうしても強行的な態度に出るしか無くなってしまう。
だから、補助犬同伴の要求は、どうしても補助犬利用側からの「お願い」の形をとることになるのだが、お願いでは「動物を飲食店の中に入れてはいけない」という、強固な規範意識を取り除くことはできず、事なかれ主義としての「拒絶」に至ってしまい、補助犬利用者が泣き寝入る結果に至る。
そこには、メニューの取り方やレジの打ち方は教えても、飲食を営む上での法令上の問題をちゃんと教えない、飲食店の教育不足の問題がある。また、たとえ飲食店の中核を担うアルバイトの店員に対する権限譲渡が適切に行われておらず、例外的なことを全く判断することを企業側がさせなくしているという問題もある。
だが、それらの複雑な問題を踏まえるにしても、まずは最初に、飲食店には補助犬の同伴を認める法的義務があるということ。そして、補助犬を店内に入れるときにパッと思いつくような問題は、ほんの少しの知識や気遣いで解消できることばかりであるということ。この2点を、より多くの人が知ることが重要である。
今回の問題が報じられたことが教訓となり、補助犬に対する理解が進み、補助犬を利用している人や必要とする人の心労が、少しでも取り除かれる社会に変化していくことを望みたい。
*1:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151009-00000050-mai-soci<聴導犬>同伴の入店拒否 阪急百貨店梅田内の2飲食店(毎日新聞)
*2:10月3日(土)のチャリティートークイベントのご報告(H2Oサンタホームページ)
*3:身体障害者補助犬法(e-gov)
*4:身体障害者補助犬の衛生確保のための健康管理ガイドライン―ほじょ犬|厚生労働省