ふぶきの部屋

皇室問題を中心に、政治から宝塚まで。
毎日更新しています。

韓国史劇風小説「天皇の母」215(絶頂のフィクション2)

2016-08-02 18:51:31 | 小説「天皇の母」201-

マサコにとってこの旅は今まで生きて来た中で最も嬉しいものになった。

とにかくどこへ行っても笑いが止まらなかった。

得意で得意でたまらなかった。

外務省の奴ら見てる? 私は皇太子妃なのよ。

私の実力を思い知ったか・・・・・といわんばかりの態度だった。

通常、皇族が海外へ行く場合は先帝の陵と宮殿賢所に参拝するしきたりだったが

マサコはあっさりそれを無視した。

「祭祀は体に悪い」という理由で。

神道に携わるものなら誰もが怒りで震えそうな理由だったが、

「理屈が通らないものは信じられない」という屁理屈こそが「マサコさまの思い」として

表に出て、またそれを賛美するような報道が目立った。

要するに「幽霊を信じない」程度の話なのだった。

 

皇太子がせっせと公務に励む中で、マサコは「医師と相談した結果、

まだ早いとの診断」「静養は治療の一環」との医師団発表で

公務に同行する事もなく、夏をオワダ家家族と満喫し、外食に励み

ひたすら「元気になるため」に勝手気ままな生活を送っていた。

その流れの先にあるのがオランダ静養だったのだ。

 

費用が一億?だから何?

東宮大夫は「私的な金から出す」と言い切ったが、そもそも今の東宮家に

私的財産などあるわけがない。

マサコが着ている服の糸の一本まで税金なのである。

しかし、マサコにとっては「知ったこっちゃない」だった。

公務員の給料だって税金だ。

悔しかったら試験に受かったらいいのよーーくらいの感覚だ。

外務省という組織の中で「オワダの娘だからって」というひそやかな

陰口に傷ついた自分。

もっと有能である筈なのに、雑用しかさせてもらえなかった自分。

あのまま外務省にいたら早期退職を迫られそうだった。たとえ父がいても。

だから皇太子妃になったのに、出来ない事ばかりでまるで宇宙にいるようだった。

「皇太子」という地位以外は何の取りえもない夫と、変な娘。

マサコは自分の部屋で、日々、外務省の同僚たちがどんな風に自分を馬鹿に

している事かと考えずにはいられなかった。

それが苦しくて苦しくて。

それが今はどう?

とうとう「祭祀はやらなくていい」「公務しなくていい」「海外行ける」を

勝ち取ったのだ。

「いかがなものか」などという批判は全くに耳に届いていない。

勝った者だけが味わえる至福を自分が味わって何が悪い。

今や日本中のマスコミは自分の味方。

誰が批判したって、せいぜい「いかがなものか」程度だもの。

 

オランダへ旅立つ日。

マサコはあからさまにウキウキした表情を見せた。

とにかく嬉しくて嬉しくてたまらなかったのだ。

飛行機は民間機だったものの、こっちが頼みもしないのに

ファーストクラスだ。医師に侍従に美容師に・・・総勢20名程の

旅団だ。天皇と皇后以外、そんな事出来ないだろうに。

という事は天皇と皇后を超えたという事になるのだろうか?

皇太子は、妻のわくわくした姿に心底ほっとしている風だった。

アイコは自分がどこにいるのか、何をさせられているのかさっぱりわからず

何とかお辞儀をさせようと頑張ったが無理だった。

無理で結構。

あっちへ行けば何とかなるし。

飛行機の中では、久しぶりの機内食に舌鼓を打ち、ワインに酔いしれた。

ファーストクラスって最高!

東宮御所ではこんなに丁寧に扱って貰ってないと思った。

みな、跪く程に自分に尽くすのだ。

母親が機嫌がいいのがわかるのか、アイコもはしゃいであっちこっち

走っては転び、ワンピースの裾をひっくり返しては指をしゃぶっている。

それを異様とも思わずに微笑んでみている皇太子。

特上のマカロンを気に入ったのか、際限なく食べているが

その時はおとなしい。

マサコはしばし、娘の事を忘れ、夫の存在も忘れ、ひたすら「自由」を得た

事に満足しているのだった。

 

そして、腫れてオランダの地を踏んだ時、あまりに嬉しくて

マサコは大口をあけて笑った。

日本中から、いや、世界中からマスコミが押し寄せているのではないか

というほどのカメラ。

王室の馬車庫には女王と王太子一家が待っていた。

よく来てくれたわ。2週間を楽しんで下さいね」と女王はにっこり笑い、

王太子妃は「お疲れにならなかった?」と優しく聞いて来る。

こんなに優しくされたのは初めてかも・・・・・と思った。

日本では何をやっても「いかがなものか」と言われるのに。

マサコはまず、その事に感動した。

アイコと同い年の王太子の娘は大層可愛らしかった。

それが多少憎らしくはあったが、その子につられたのかアイコが

にこにこ笑いだしたので、マスコミがあっと驚いた。

なんてタイミングのいい子だろう!

「はじける笑顔」のマサコとアイコはこうやって出来上がった。

 

ヘッド・アウデ・ローの城はおとぎの国のお城のように美しく

皇居や東宮御所などぼろに見える程だった。

この城を貸切る「権力」を持ったのだ。

今まで日本の皇族が手にした事のない「権力」を。

皇太子もまた、それにうっとりと抱かれているのだった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」214(絶頂のフィクション1)

2016-07-08 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

よく来たよく来た

応接間に招かれてノムラは恐縮しつつ、部屋に入った。

時差ぼけ気味ではあったが、醜態をさらすわけにはいかないので、

ただ黙って頭を下げる。

外務省に捧げた命だ。気が付くと自分の為ではなく

この男の為に働いていたのかもしれないと思う。

正義感のかけらがあった若い頃はもうとっくに過ぎ、

今では全てが「根回し」と「権力」と「コネ」ばかり。

そんな世界で生き抜くのも大変だった・・・・特に目の前の男の事では。

危ない橋も平気で渡るが決して自分は表舞台に立たない。

マスコミに悪事をスッパ抜かれる頃には「マイドーターイズプリンセス」だった。

この男の娘が皇太子妃になるなんてありえないと思った日々は夢で

今では関わりたくないと思った自分がしりぬぐいをしている。

どうしてもこの男からは離れられないのか。

無事に到着いたしました。妃殿下もお元気です」

ノムラは豪華な調度品に囲まれた部屋に腰を下す。

豪華な・・・・とはいっても単に高級なだけなのだが。

元々外務省の中でもセンスがなく、社交下手で、上から圧力を

かける事しかしないこの男。

そうかそうか。それは何より」

今、初めて聞くようなふりをして大声で笑っているが、実は

数日前まで日本にいたのだ。

日本における「オランダ静養」に対するバッシングが激しいので

何かあったら出版社一つ潰してやるか」などと

物騒な事を言い出し、監視の為に帰国していた。

その間はずっと東宮御所と那須の静養先に入りびたり。

世の中には「親離れ」「子離れ」出来ない

連中がいると聞くが、これは筋金入りだ。

娘は40を過ぎても父親に逆らう事が出来ずに言いなり。

どうしても我を通したい時にはひっくり返って泣く。

父親はそんな娘をはがゆいと思いつつ、面倒をみてしまう。

3姉妹そろいもそろってこんな感じだ。

 

映像を見たよ。王室の馬車庫で撮影していたっけな。

女王と王太子と王妃。それに王女が二人だったか」

はい。妃殿下は大変ご機嫌麗しく、嬉しそうに笑っておられました。

内親王殿下も珍しく・・・」

おっと。

ノムラは口をつぐんだ。

巷ではアイコは笑わないと言われている。

確かに笑った事はなかったかもしれない。いつも自分の世界で

遊んでいる不思議な子だ。

その子がマスコミに声をかけられて大笑いしたのだから

本当に驚いてしまった。

反射的に顔の筋肉が緩んだという感じではあったけれど

やはり母親が幸せそうにしていると、娘も嬉しいのか・・・・と

自分としては感動した程だった。

私も見たわ。アイちゃん、うれしそうだったわ」

とユミコがお茶を運ばせながら目の前に座る。

「ほんと、無事に来れてほっとしたわよ。これでまーちゃんとアイちゃんが

元気になればね。日本の皇室って所は全くもって陰湿よ。

かわいそうにまあちゃんたら、すっかりやつれてしまって。

あの子みたいに純粋な娘には合わなかったのよ。

それをあなたと来たら無理やり・・・・」

「もうその話はいいじゃないか」

ヒサシはうんざりしたように言う。

マサコのお蔭で私達は一目置かれている部分もあるんだから

それはそうだけど・・」

昔から気に食わなかった外交官の奥様連中にいい復讐が

出来たじゃないか」

まあ・・・」

それにマサコにしたって不幸とは言い切れまいよ。

今じゃあの娘には天皇皇后といえども逆らえないんだからねえ」

あら、葉山に一緒にって言った時は違ったわ

「あれが最後だよ。このオランダ静養を成功させれば、もう本当に

皇室の中に敵はいなくなるから」

ヒサシはおかしくてたまらないように笑った。

ノムラはそんなヒサシを見てぞっとする。

今回の静養に対する批判は半端ではない。

それでもごり押した自分に責任を問う話も出ているほど。

帰国後には東宮大夫を辞任する・・・なんて話もあるかも。

ノムラはただじっと頭を下げていた。

自分の身が心配かね」

まるで見透かしたようにヒサシが言った。

いえ・・・そんな事は

いいか。この静養が終わって帰国した暁には東宮家への批判は消える。

私が保証する。お前は辞めさせられない」

私はいつ辞めてもいいんですが

ノムラは呟くように言った。

ご一家がお幸せそうに見えるので本当によかったと思うばかりです

実際のところ、マサコの笑顔ははじけていた。

大きな口を開けてこれ以上ないという程の笑顔だった。

それを目の当たりにした皇太子はひたすらほっとした顔でニコニコしている。

一方、映像には映らなかったが、オランダ王室一家の方は微妙だった。

確かに、一時的に溝があった日本の皇室とオランダの王室。

その溝を埋めたのは今上に他ならなかった。

しかし、その功績があってもその息子一家が全くのプライベートで

城を貸切るというのは異例であり、異常である。

まるで「日本軍による侵略のようだ」と思う国民がいるのではないかと

ハラハラする程。

そんな心配をヒサシは一蹴した。

思えばいいのさ。皇室が責められても我々には関係ない

そこまで断言するならきっと大丈夫なのだろう。

ノムラはちょっと胸をなでおろした。

アイちゃんはいつこちらに来るの?」

ユミコがウキウキと問いかける。

「23日と25日を予定しております」

25日にはレイコもセツコも来るからな。城で会うぞ

まあ、お城へ?素敵ね!私達一家がお城で晩さん会よ!」

ユミコはおおはしゃぎで言った。

 

マサコ達がアベルドールン城に入った後は、ほとんどの仕事は

城に仕える侍従や女官がやってくれるので、日本側の随行員は

仕事がなくなった。

みな、公費を使っての夏休みを満喫し始め、ホテルのプールで

泳いだり、ぼんやりと昼間から酒をたしなんだりしている。

随行員の中にはマサコの為の美容師も入っていたが、一向に

お呼びがかかる様子はない。

マスコミをシャットアウトしているので、見た目を整える必要がないと

考えているのだろうか。

それともそういう事もあちらのスタッフがやってくれるのだろうか。

ノムラは何となく落ち着かない気分で、他の随行員のように

リラックスは出来ない。

いつ緊急の呼び出しがあるかもしれず、そうかといって、城に頻繁に

行っては「プライバシーが」と言うし。

一番気がかりだったのは、皇太子一家がオランダ側のスタッフに

不快感を持たれる事だった。

現実に、マサコは女王達にろくな挨拶もせずに、自分勝手に動き回り

あれで本当に病気なの?」と女王が呟いたとかそうでないとか。

城へ入るとマサコはアイコを連れて城中を探索し始め、

一々「すごーい。大きい。広い」と大騒ぎ状態。

せっかくしつらえた客間のベッドに寝転んだりしてはしゃいでいる。

「借りて」はいても「所有」しているわけではないというのが

わからないのだ。

皇太子はそんな妻と娘を目を細めで見ている。

来てよかったよ。マサコ、元気になるね」

その言葉が心底本当なので、ある意味泣けてくる始末。

 

「ねえ!ワイン蔵のワインは全部飲んでもいいの?」

マサコの問いかけに、オランダ人の女官達は

ここのものは全てご一家で使ってもよろしいと女王陛下が」と言う。

そうは言っても遠慮するのが筋だろうに、マサコは素直に

ええっ?ほんと?すごい」と言って、物色し始める。

 「妃殿下、必要なお酒はこちらで用意しますから」

たまらずノムラが口を出すと

だってロマネ・コンティもあるのよ。これと同じワイン、手に入る?」

同じのでなければいけませんか?」

飲んでみたいから。せっかく全部飲んでもいいって言ってるのに

なんで遠慮するの?私達、お客じゃない。女王陛下達も喜んで

迎えてくれたわよ」

とりあえず、日本から持ってきたシャンペンが冷えておりますので

そちらを先に飲まれては」

マサコが飲むなら僕も飲もうかな」

皇太子も能天気にそういった。

夏のアベルドールン城から見える景色は幻想的で、リゾート気分にひたれるし

しかも、これからずーーっと休みという安心感もあるのだろう。

心なしか皇太子もうきうきしている様子。

お天道様がまだ真上にあるこの時間帯から酒を飲むという背徳感に

身をゆだねたい気持ちもわかるのだが。

ノムラはスケジュールを確認し、来客無しを3回も確認。

そうですね。来客はないですし」と言った瞬間、二人はもうグラスを持っていた。

やっぱり外国は最高!日本みたいに堅苦しくないもん。自由だもん

マサコは大声でそういい、戸惑いを見せるオランダ人スタッフを気にする様子も

なくグラスをあけていた。

毎年、旅行出来たらいいのに。昔みたいに

昔を思い出すとマサコはがっくりくるようで、いきなりしゅんとなる。

皇太子は慌てて「大丈夫。来年も旅行しよう。今度はどこの国がいい?」

などとなだめる。

 アイコの存在など二人の眼中にはなかった。

アイコは広い部屋のど真ん中で、座り込んでおもちゃで遊んでいる。

回りの景色も彼女には何の感動も与えないようだった。

 

ひたすらノムラは日々が無事に過ぎていくのを願った。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」213(孤独のフィクション)

2016-06-28 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

その日の朝、キコは努めて微笑んでいた。

行ってらっしゃい。お母様」

オーストリアから帰国したマコやカコもまた明るくふるまっている。

カコちゃん。宿題はきちんとしましょうね。それから予習と復習は

しなくちゃだめよ。お弁当は残さず食べる事。それから

「お母様、どうして私にだけおっしゃるの」

カコはほっぺを膨らませる。その様子を見てマコは思わず笑った。

だって、心配なんだもの」

お姉さまの事は心配じゃないの?」

マコちゃんは大丈夫。こういう事はね。マコちゃん。カコちゃんの事を

お願いね。何かあればねえねに相談して」

はい。任せて」

マコはどんと胸を張って答えた。

本当は母に思い切り甘えたいところだけど、母にとって頼れるのは

自分だけだと思うと我慢できた。

カコちゃんにはお父様の事をお願いするわ。お酒を飲みすぎたり

タバコを吸ったりしたら厳しく注意してね」

役目を与えられたカコは得意そうに「はい」と言った。

じゃあ、行こうか

宮が珍しく優しく言う。

キコは素直に宮の後に続いて車に乗り込んだ。

いつもは見えない多数のマスコミが取材に来ている。

今回の出産への関心度は見えない所で高いのだ。

明日からは皇太子一家がオランダへ行く。

そちらの取材の方がよほど多いだろうに。

宮務員達が一斉に頭を下げる。

よろしくね」

キコは手を振りながらそういった。

 

過去2回の出産で不安を覚えた事などなかった。

あの頃はまだ20代であったし、健康だけが取り柄だと思っていたから。

そういえばマコがお腹にいた時、猛吹雪の中で公務をした事があった。

後からみんなに青ざめられたけど、本人的には全く平気だったっけ。

(あの頃は若かったんだなあ)とつくづく思う。

カコがお腹に入って、色々回りからバッシングされたりして

結構泣いた事もあったけど、でも、決して自分はまけないと思った。

どんな事があっても絶対に私は負けないのだという自信があった。

ところが今はどうだろう・・・・・・

この胸の中にうずく不安。緊張。そしてけだるさ。

もうあの頃のように元気にはなれないかもしれない。

正直、今回ほど「回りの空気」を敏感に感じる事はない。

マコの時だってカコの時だって、ここまで反目される事はなかった。

だけど今は。

目に入れたくなくても新聞を開けば飛び込んでくる見出しや記事。

どうしてそこまでして男子を産む必要があるのか」

同じ女性として素直にお祝いできない」

「アイコ様は女帝になれないのか。マサコさまは・・・・」

そして入院が決まった時も

どうしてマサコさま達がオランダへ行く前日に入院するのか。

これではマサコさまは心置きなく飛行機に乗れないではないか。

配慮がなさすぎる」

正直、この記事にはキコもマコもカコも傷ついている。

誰でもいいから庇ってほしい。

宮内庁の誰かがオフレコでもいいから反論してくれないかと思った。

でも、誰も何も言わなかった。

傷つくのは皇太子妃だけじゃない。この私だって生身の人間だ。

しかも妊娠中で感情の浮き沈みも激しい・・・・

自分でコントロールしたくでも出来ない事だってある。

だけど、宮は勿論、誰も何も言ってくれなかった。

言いたい奴には言わせておけばいい」というのが宮のスタンス。

例のタイの愛人騒動の時、下手に反論したら結構後々まで

週刊誌等に書かれて辟易した宮は、それからは一切何も言わない。

皇后からは(だから言ったじゃない)とでも言いそうな視線を感じる。

だからこそキコは歯を食いしばって平気な顔をしている。

どんな時も笑うしかない。

車窓に見えるキコはうっすらとほほ笑みを浮かべていたが、実際は

心が張り裂けそうだった。

 

病院に到着すると院長らが出迎える。

通された部屋は個室。清潔な白い部屋。

そして多分に高級感のただよう。

宮家には健康保険がない。

だから医療費は全て10割負担だ。

差額ベッド代も同様に全て負担。だから内廷皇族以外は

あまり長期間の入院は控える癖がついていた。

これから半月も入院するのか・・・・

宮内庁の助けがあるとしても、家計を預かる身としてはちょっと怖い。

妃殿下。今日からご出産の日までは安静になさって下さい。

お手洗い以外はお部屋をお出になりませんように

はい」

キコは答えた。

身の回りの事は全て侍女にお任せ下さい。妃殿下はとにかく

静かにその日をお迎え頂きますように」

出産は帝王切開で。9月6日の朝と決められた。

この日の為に持ち込んだのは沢山の本や書類。

ご本や書類を見るのも時間を決めて下さい。お疲れになる事が

もっともいけない事なのです」

そうはいっても、今まで一度も「何もしない」事などなく、忙しい毎日を

送って来たのだ。

急にそんな事を言われても。

あの。子供達の事がちょっと心配で・・・・

と言いかけるのを侍女が止める。

それは私共にお任せ下さいませ」と。

仕方なくキコはすごすごと病衣に着替え、ベッドに入った。

窓から見える景色。

暫くはこれが唯一の心の支えになるのだろうか。

こっちの事は心配せずにゆっくりしてなさい

宮はそういって慰めてくれたが、キコはどうにも気分がふさぐのだった。

 

そっと昔を思い出してみる。

両親と別れの握手をしたあの日の朝。

純愛に殉じるあなたの思いを尊重しよう」と言ってくれた父。

殿下のよき伴侶となるのですよ」と力づけてくれた母。

「恋」それは恋だった。

宮を慕う思いが全ての困難をも乗り越えさせたのだ。

実際の結婚生活は国民の多くが考えるような「シンデレラ」

などではなく、無我夢中で即位の大礼を迎え、外国に訪問し

子供を産んで育てて。

本当は大学卒業後は留学しようと思っていた。

海外で自分の力を試したいと思っていたのだ。

だけど、「結婚」を選んだ自分の選択を間違ったものだとは思っていない。

後悔などしていない。

宮を愛しているし家族は大事。

 

病室の日々は静かだった。

テレビをつけると、オランダに出発する皇太子一家の姿が

映しだされていた。

本当に病気なのかと思う程元気なマサコ妃。

ああ、この人はそんなにも外国へ行きたかったのか・・・・・・

キコはそのあまりにも嬉しそうにお辞儀をする東宮妃を見て

ふと涙がこぼれてしまった。

この人は日本にいては幸せになれないのだ。

家庭の中ででも、外に出てもいつも不幸なのだ。

でも、飛行機に乗って外国へ行くときはこんなにも笑顔が。

横ではほっとして笑っている皇太子もいる。

どんなに苦労が多いだろうと察する。

この先もずっとずっとこの人は妻を庇い、娘を庇護し

家庭の体面を守る為に必死に笑い続けるのだろう。

それを考えると、やっぱり涙がこぼれてしまう。

そして、自分が今どこに行こうとしているのか、何をしようとしているのか

さっぱりわからず母親に引きずられるようにしている内親王。

まだ歩くのがそんなに上手ではないようだ。

きちんとしつけられていないし、挨拶の「あ」の字も教わってない。

それだけに無垢で野生的な魅力を振りまいている内親王。

この子の行く末を考えるとやっぱり涙がこぼれてしまう。

傲慢かもしれないがそう思ってしまうのだ。

 

妃殿下、お顔の色が」

キコの涙を見てとった侍女はつとめて顔を見ない様にしたが

キコは涙をぬぐわずに言った。

ちょっと辛いの」

ではお医者様をお呼びしますか?」

いいえ。出血があるわけでもないから。少しお腹が張るだけ」

キコはお腹をさすった。

早く、そして無事に生まれていらっしゃい。

家族みんながあなたを待っている。

そしておそらく国民みながあなたを待っているのだ。

あなたの誕生が、皇室を救う事になるかもしれない。

私は粛々とその役目を果たすのみ。

もし、この出産で命を失おうとも、それは運命であり自分の役割が

尽きた事に他ならない。

でも、あなたを育てる事を許して頂いたら・・・・・・

ああ、そうしたら精一杯の愛ではぐくもう。

どんな子でも。

お姉さまたちが待っているわ。二人とも優しくて元気。

沢山遊んでもらいなさいな。

そしてお父様も待ちわびているわよ。

どんなお顔かしらね。殿下に似ているかしら。それとも私?

宮様も私も、出来るだけ若々しくすると約束するわ。

だから・・・・

 

お母様!」

ドアが開いて飛び込んできたのはカコ。

その後ろからマコと宮が入って来た。

ご機嫌はいかが?私の声は聞こえる?」

カコは早速お腹に耳をあてて話しかける。

今日は宿題をするのよ。教えてあげるわね」

まあ、カコったら、わからない所をお母様に聞くんでしょう?」

病室に笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」212(ウインナ・ワルツのフィクション)

2016-06-23 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

準備は大丈夫かしら」

出発の朝、心配そうな母の顔を見てマコは気持ちを奮い立たせた。

もうすぐ自分達に弟か妹が生まれる。

母の体は大変な時期にさしかかっている。こんな時に「一人旅」それも

外国への旅が不安だなどと口に出せるはずがない。

本当は行きたくなかった。

母を置いては。

でも「私が入院するのはあなたが帰って来てからだから大丈夫。

お勉強していらっしゃい」と母が言うので。

オーストリアの家に2週間のホームステイ。

初めて「皇族」ではない自分を体験する事になるのだ。

分の事は自分でおやりなさい。回りに上から目線で話してはいけません。

常に日本人として礼儀正しく・・・・・」

ずっと言われ続けて来た事をもう一度反芻する。

「まあ、マコなら大丈夫だろう

父は笑っている。そういえば7月に一緒に伊勢に行き、式年遷宮の準備を

お手伝いしたっけ。楽しかったなあ。

「そうはいってもね」

母はどうにも心配性のよう。それもそのはず。

この所、女性週刊誌による「生まれるのは男子」説やら

「マサコさまがお可哀想」節がひどくて、さすがの両親もぐったりしているのだ。

覚悟をしてきた事とはいえ・・・・

お姉さま、行ってらっしゃい。でも早く帰って来てね」

カコが泣きそうな顔をしている。心細いのだろう。

母は公務と自分の体の事で精一杯。それでもお弁当を作ってくれたり

宿題を見てくれたり、色々気を遣ってくれる大事な存在。

しかし、本音を言えば学校でひそひそ言われる「陰口」の方が辛い。

しかも広めているのは・・・・あのタカマドノミヤ家の女王だというのだから。

自分もまた面と向かってではないけど、空気として

マサコさまがお可哀想だってお母様がおっしゃってたわ」という回りの声は聞こえる。

大人の事はよくわからないけど、子供が生まれるっていい事なんじゃないの?

男系男子しか継承できない「天皇」の位は男女不平等だっていうけど

本当にそうなの?

様々な鬱屈した気分がやってくる。

でも、とにかく今は。

では、行ってまいります」

マコはウイーンの空へと旅立った。

 

ここ一ヶ月程、マサコは躁状態になったかのようだった。

毎日のようにアイコを連れて深夜にホテルのレストランへ行く。

那須の御用邸に宿泊した時は、近くにきた母や妹たちと

昼間から高級リゾート倶楽部のプールで子供達を泳がせ、自分達は

おいしい料理に舌鼓を打った。

誰も反対しないし、誰も口を挟まない。

きっとオランダ行きの準備が大変なのだ。

自分では荷物一つ詰めないマサコは、ただただその場の楽しさを満喫していた。

アイコは食べ物さえ与えておけばとりあえずおとなしいし、母や妹たちとは

話があって何時間しゃべっていても飽きない。

オランダではオワダ一家が集ってお城でパーティを開く予定である。

こんな自分だからこそ、オランダの城を貸切る事が出来る。

「お父様の力がわかった?」とユミコは自慢げに言ったが、本当にお父様さまさまだ。

世間では「批判」の声もあるようだ。

だがそれがどうした?私は海外に行かないと死んでしまうのだ。

日本なんて堅苦しくて言葉が通じなくて大嫌い。私の能力は海外でこそ生かされる。

その万能感こそが病気である事をマサコは全く気付いていなかった。

もうすぐオランダで・・・何を食べてどこに遊びに行こうか

と毎日、そればかり考えているマサコだった。

 

ウイーンで出迎えてくれた夫妻は母の古い友人だった。

そう。母はその昔、オーストリアに住んでいたのだ。ドイツ語が流ちょうなのはその為。

世間ではよく、伯母さまの事を「帰国子女」だというけど、本当は母の方がそうなんじゃ?

思っても口に出せない一言だ。

ようこそ、プリンセス・マコ。どうぞ2週間の間、楽しんで下さいね」

夫人は金髪に大きな灰色の目をした優しそうな人。

ドイツ語はあまりわからないけど「グーテンモルゲン」「グーテンターク」「ダンケシェーン」

くらいはわかる。

それにしてもウイーンとはなんと古い街並みをしているのだろうか。

かつてハプスブルク家の栄光を象徴した街。

そして沢山の音楽家を輩出した街。

どの建物も100年以上経っていて、石作りのそれは便利さよりも「歴史」を大事に

しているようだ。

ウイーンには余計な音楽がない。音は自分の心の中で奏でればいい。

何と自由である事か。

数々の芸術が、日本では「道楽」とみなされる事が多いけれど、、ここでは立派な

地位を持っているのだ。

まあ、プリンセスはなんてお行儀のよい人でしょう」

夫人は毎朝、自分にそう言った。

さすがプリンセスね。でも好き嫌いを言っていいのですよ。ここでは自由」

でもマコは一日のほとんどを見学と語学の勉強にあてた。

ときおり、夫人が連れて行ってくれるカフェで食べたザッハ・トルテ。

ちょっと固いかな・・・それに甘い。でもウインナ・コーヒーはおいしい。

カフェの天井の高さと調度品の豪華さ、通りを見れば馬車を操る御者がいる。

一体、ここは何時代なんだろうと思ってしまう。

でもマコはそんなウイーンが大好きになった。

今日はテレビの取材が入るのよ。シェーンブルン宮殿へ行きましょう」

第一次世界大戦の敗北と皇帝の死により、ハプスブルク家は600年の歴史に

幕を閉じた。王宮はホーフブルク宮だったが、多くの時間を過ごしたのは

シェーンブルン宮殿と言われる。

恐ろしく豪華な宮殿の中は、ハプスブルク家の栄光が詰まっていた。

でも、ほら、あの一角には有名なミュージシャンが住んでいるのよ」と言われて

マコはびっくりしてしまった。

ミュージカル「エリザベート」の作者が住んでいるという。

宮殿が現役のアパルトマンになっているとは。

「そうやって建物が劣化しないようにしているの」

時代の流れをほんの少しだけ理解できる。

ハプスブルク家も男系で皇室でした。でもマリア・テレジアの時代に

後継ぎがいなくてどうしようもなくて、ロートリンゲン家からフランツ・シュテファンを

迎えて結婚します。

フランツ・シュテファンは結婚と引き換えに自分の国を失うのです。

彼は名目上フランツ一世として帝位につき、マリア・テレジアはその后という

立場ではありましたが、政治のほとんどは彼女がとりました。

一般的にハプスブルク家といいますけど、この時から正式な名前は

「ハプスブルク・ロートリンゲン」といいます。

フランツ・ヨーゼフ一世の正式名は

フランツ・ヨーゼフ・カール・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲン。

つまりマリア・テレジアの時代で男系は途絶えてしまったのね。

そういう意味では日本は素晴らしいわ。皇族や王族の価値は何といっても

その「青い血」ですけど、日本の天皇家は一本の線で繋がっているんですものね。

言っては悪いけど、ハプスブルク家もロートリンゲンがくっついたせいで

ちょっと神聖さが失われたと言われているわ」

マコはあらためて歴代の皇帝の肖像画を見てみた。

最後のカール一世は庶民になったのだった。

マリー・アントワネットはマリア・テレジアの娘ですけど、あなたくらいの時に

たった一人でオーストリアからフランスへ嫁いだの。

言葉もよくわからない国へ王太子妃として嫁ぐっていうのは相当なストレスよね。

彼女が浪費して国家の財政を傾けた事は悪い事だけど、10代ならしょうがない

かもしれないと少し同情するわね。彼女は子供を持ってからはいいお母さんになったのよ」

 15歳くらいで他国へ輿入れ。

当時は珍しくない事だったかもしれないけど、やっぱり不安だったのでは。

でも一人の王族の行動が革命を引き起こしたり、国の運命を左右したり・・・・

「エリザベートの息子、ルドルフ皇太子は自殺してしまってね。

フランツ・ヨーゼフ一世には男子が一人しかいなかったし、ルドルフ皇太子には

娘しかいなくて。仕方なく、甥のフランツ・フェルディナンド公を皇太子にしたの。

でも、彼は貴賤結婚・・・つまり家柄のよくない女性と結婚した為に、その子供達には

皇位継承権がなくて、妃のゾフィも皇太子妃と認めてもらえなくて。

フランツ・フェルディナンド公はそれを払しょくする為にサラエボに行った・・・でも

二人とも暗殺されてしまったわ。

一人の結婚が戦争を引き起こしたの。

今時、血筋がどうの、家柄がどうの・・・・とバカみたいなこだわるだというでしょう。

もう皇室はないし、最後の「王子」オットー・ハプスブルクさんはDJとしての人生を生き

亡くなったわ。

もうこの国はには王族や皇族を尊ぶ人はいないと思うでしょう?

それがそうでもないのよ。

ヨーロッパの社交界は広くてね。たとえ一般的にタイトルをつけていなくても

「青い血」を持つ人達の集まりはあるのです。

みな、誇りを持っているわ。問題は「名」ではなく「血」です」

マコにはちょっと難しいなと思った。でもその後に夫人が

あなたは世界一古い家柄の天皇家のプリンセス。それを常に誇りに思って下さい。

私の大事な友人であったプリンセス・キコがプリンス・アキシノと結婚したのは

これはもう神が定めた運命だと思うの。私達も嬉しい

 と言った時には身が引き締まった。

お国へ帰ればプリンセスとして大切なお役目があるでしょう。

でもここではどうぞ、一人の女の子として過ごしてね」

マスコミが多数取材する中で、マコは自然な笑顔を作ろうと努力した。

どんな時でもオールウェイズスマイル。

母の言葉がウイーンの空に響き渡った。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」211(鬱陶しいフィクション)

2016-06-08 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

また電話のベルがなった。

この所毎日だ。

盛夏の夜は寝苦しい。冷房が嫌いだから窓を開ける。

空気がほんの少し抜けて、生暖かい風が流れる。

網戸があるから虫は入ってこない。

風鈴の小さな音が響く。

誰も私の事なんか考えてくれないんです。お父様もお母様も。

夫なんていてもいなくても同じなんです。

世の中に私程不幸な女はいないんじゃないかと思います」

また始まった・・・・毎日好き勝手に寝て起きて食べているくせに

どうして「不幸」を言い立てるんだろう。

世の中の「うつ」患者の悩みはほとんど「貧困」だ。

その貧困からもっとも遠い立場にいるのに、自分は「うつ」だと

言い募って仕方ない。

団扇で仰いでも汗がじっとりと来る。

なんて夏だろう。

そもそも私、結婚したくてしたんじゃないんです。私の意志を

誰も尊重してくれないんです。私だってこんな状態になるとわかって

いたら結婚なんかしなかった」

ああ・・・このセリフ、もう何年聞き続けているだろう。

夫が気の毒になる。

でも7月は随分とお元気でいたでしょう」

話題をふってみる。

確か月の始めにはモーツァルトを聞かれましたよね。あれはいいでしょう?

やっぱりモーツァルトは治療にいいですよ。

それから学習院のOB演奏会にも行かれましたね。あの時は妹君も

いらして久しぶりに楽しくおしゃべりをされたのでは?

代々木のポニー公園はいかがでしたか?

内親王殿下もさぞお喜びになったでしょう」

その後がいけなかったんですっ!」

突如、大きな声が受話器に響いて思わず離す。

私がこんなに一生懸命になる事って今までありましたっけ?

なかったでしょう?私にとって今年の夏は特別なんです。

ええ。そう。特別だから私だって頑張って少しはお返ししなくちゃと

思ったのに。どうしてそれがわかって貰えないんでしょうか」

・・・・相手にも都合があるという事をまるっきり理解しない。

そこにあるのはひたすら自分の感情だけだ。

今まで一度だって舅や姑と一緒に過ごしたいなんて思ったことは

ありません。その私がですよ。一緒に過ごしましょうって言って

あげたんです。この私が。

なのに断るなんて・・・・・お父様に叱られてしまうわ」

大丈夫。お父様も妃殿下の努力を認めて下さいますよ」

いつもそうやっておだてて・・・」

甘えた声がする。少し機嫌が直ったんだろうか。

過ぎた事は忘れましょう。それよりも人形劇は?楽しかったですか?」

この母親は時々ひどく子供のようになる。

子供向けミュージカルなど面白いのだろうか?

そういえば、まだ夏休み前の事。

3回も東宮御所で「子供会」をしたらしい。

屋台を読んだり、打ち上げ花火をしたり、それはもう子供会

というより大人のバカンスである。

おまけに今は那須にいるんじゃなかったっけ?

7月丸々お遊びに使って、さらに那須に静養だ。

これで「私程不幸な人間はいない」というのだから呆れる。

こちらはお盆休みも返上、今、この時間だって明日の仕事が

あるというのに。

人形劇はまあ楽しかったかも。でもあの子は全然楽しんだとは

言えません。面白いのか面白くないのかさっぱり。

ただただおとなしくさせているのが精一杯で」

それでいいのです。とにかく刺激を与える事が大事ですから」

そう思ってこっちに来てからも馬に乗ったり、テディベア美術館に

行ったりそりゃあもう大変なんです。

こんなに努力しているのに、彼ったらさっさと自分だけ東京に

戻ったんですよ」

そりゃあ、仕事があるから。

夫が仕事で帰京しても自分は戻らず、娘と一緒に毎日レストランで

豪華な食事をしているっていうのに、一体これは誰に対する文句なのか。

私、別に馬に乗りたいわけじゃないんです。どうぶつ王国だって

行き飽きましたわ。でも、あの子は同じ所じゃないとダメで。

まあ私もその方が安心するけど。それにしたって私、いつまでこんな

生活をしたらいいのかしら。

全く自由がない。まるでかごに入れられた鳥みたい。

いつも侍従や女官に囲まれて、好きに行動出来ないんです。

私が何かしたいと言えば、みんな渋い顔ばかりして。人権蹂躙。

なのに回りの人達は少しも同情してくれない。本当になんでこんな

星の下に生まれたのか。自分で自分が可哀想で可哀想で」

ついにしくしく泣きだした。

大丈夫ですか。お薬はちゃんと飲んでいますか?」

ええ・・でも私は病気じゃありません。回りが変わってくれたら

私も変わる事が出来るんです。それが出来ないから困っているんです」

暑い・・・なんて蒸し暑いんだろう。

受話器を持ったまま窓をしめてエアコンをかける。

冷たい風が心地いい。でもそれもあとわずか。

やっぱり切るはめになるんだろうな。

自分が変わらない限り人は変わらないという定義をいつまでも

覚えようとしない。

ああ、なんて所に手を突っ込んでしまったんだろう。

脛に疵持つ身でなければ絶対に関わらないだろうに。

しかし、今、自分にも家族がいる。そっち優先だ。

こうやって一分いくら、1時間いくらと考えながら受話器を持っていればいい。

今は楽しい事だけ考えましょう。もうすぐ籠の鳥じゃなくなるでしょう?

オランダへ行くじゃありませんか」

別にオランダに行きたいわけじゃないんです。

本当はフランスとかスイスとかイギリスへ行きたいんです。

だってオランダなんてよく知らないんですもの。

でも、結局、許してもらえたのがオランダなわけで。

私も妥協するしかありませんでした。一応、お城に泊まれるんだし

外国だし。行きたい国も自分で決められないなんてありますか?

そんな人います?

それもスキーが出来る季節ならともかく、真夏ですよ。

ヨーロッパの夏はそんなに暑くはないけど、あまり面白いともいえないし

国内にいるよりましでしょう?もうすぐあちらの妃殿下のご出産も

ありますしね」

と言ってしまってから「はっ」とする。これは禁句だった。

人生でこんなにいやがらせを受けた事はありません。

私の目の前で子供を産むなんて。

信じられない。これで本当に男の子だったら私達はどうするの?

追い出されてしまうの?それを考えると怖くて怖くて」

ついに号泣・・・・・ああ・・・

睡眠薬をお飲みください。妃殿下。そんなに泣いてはいけません。

あちらにどっちが生まれようと皇太子妃はあなたです。

という事は皇后もあなたです」

お父様が何とかしてくれるって言うんですけど・・・・

ひとしきり泣いてから、やっと声が落ち着いてきた。

時計を見る。ええ?もう夜中の3時。

もうすぐ夜が明ける。

とにかく今はオランダの事だけ考えましょう。ね?私も一緒に

行くんですから。そうでないと飛行機の搭乗許可は出せませんよ」

やだあ、先生。意地悪な事いって」

笑い声が聞こえた。よかった。やっと機嫌が・・・・

さあ、もう眠る時間です。お互いに少し休みましょう」

私は大丈夫なんですけど・・・・・」

しかし、私も朝から仕事があるので」

そうっか。わかりました。また電話していい?」

ええ。いつでも」

やっと・・・・やっと受話器を置いた。利き腕が震えている。

腱鞘炎か筋肉痛になる。しばらくこの震えは止まるまい。

やっとベッドに横になる。

すると、ごそごそ隣で動き出す。

あなた。もう朝よ」

いや・・30分だけでいいから寝せてくれ

オーノは悲鳴のように言ってからもう意識を失っていた。

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」210(涙のフィクション)

2016-05-25 08:37:55 | 小説「天皇の母」201-

その情報がもたらされたのは7月入ってすぐの事だった。

どこかわからないが、宮妃の暗殺を企てている」という話。

すぐには信じられなかったが、さすがに皇宮警察の長が

いうのでは信じざるを得なかった。

一体どうして・・・・

宮妃は蒼白になり、宮も言葉を失っている。

巷では妃殿下が出産されるお子様は男の子であると流布されております

何でそんな事を」

おそらくは妃殿下のご出産に対する反対派のしわざであると思われますが

週刊誌などでも堂々と「宮家のお子は男子」と書かれたりしています。

また、東宮家については

「実は東宮夫妻に生まれるのは男子でもよかった筈だ。今の世の中

男女産み分けは不可能ではない。にも拘わらず、なぜアイコ内親王が

お生まれになったか。それは東宮家が男女産み分けという人工的な

行いをせず、あくまで自然に任せたからだ。だが、アキシノノミヤ家は

男女産み分けに挑戦し、男子を産もうとしている。これは自然の摂理に

反する事であり、正直、そこまでするものなのか?とあきれてしまう。

皇室典範の規定によれば皇位を継げるのは男子のみであるが

原題ではそのような考え方は古い。典範を改正し、東宮の直系で

繋ぐのがよろしいのでは・・・・

というような記事が出回っております。

このような記事に対して、どなたも抗議をなさいません。だから猶更

書かれるばかりで。私どももマスコミに対処する法は心得ておりませんので。

せめて両陛下から何等かの思し召しがあれば別なのですが」

宮邸は重苦しい雰囲気になった。

宮は黙り込むし、キコも言葉を控える。

私の部下に色々探らせておりますが、いわば、皇宮警察内部にも

敵と味方がおりまして、互いにスパイしあっているような状態で」

それは・・・・いや、そんな事が実際にあるなんて私にはどうしても

信じられないんだけれどね」

宮は首を振った。

どんなに賢くても、所詮は皇族である。そもそもが人を疑わず誠実に

生きる事だけを望まれて生きていた。

だから長い間、兄の心の中に住む「闇」に気づかなかった程なのだ。

今だって本当は信じたくない。

兄が・・・兄夫婦が自分達を疎んじているなど。

あんなに仲がよかった兄弟ではないか。どうしてこんな事に。

宮様方には今まで以上に身辺に気を付けて頂きたいと思います。

そして、無事にご出産され、そのお子が男子であったら」

男子であったら

皇宮警察長は言葉を切った。一瞬、何というべきか。何といったらいいのか。

それがわからないというような顔をした。

東宮家ではアイコ様の真実を公表されるご意志はないようです。

最近では影武者を使って騙しにかかっているようです。

その事を両陛下は黙認されております。

陛下としては皇室典範の規定と日本国憲法の規定に矛盾が

ある事について、東宮家に対し整合性がある説明がおできにならないので

沈黙を守っているのだと思われます。

これで男子がお生まれになれば、本来は皇室にとってこんなに

めでたい事はないと思うのですが、どうもそういう流れにはいかないようで

男子でも女子でも私にとっては可愛い子供ですし、宮家のお子ですわ

キコは語気を強めて言った。

どうして子供が生まれる事を素直に喜んでは下さらないの?

子供はどの家庭にとっても大事なものではありませんか?

それは宮家にとっても東宮家でも同じでしょう?」

長官は黙ってしまった。キコの悲痛な思いは嫌というほどわかっているからだ。

まして暗殺だなんて・・・・私はどうなってもいい。だけどこの子は

この子だけは守らなくては」

つまり男子が生まれたらどうなると?」

長官は大きく息を吸い込んだ。

命の危険性があります。宮様方にも生まれたお子にも

その言葉の強烈な響きに宮もキコもショックを受けて顔色を変えた。

あちらはそこまで考えているのか」

「あちら」がだれを指すのかはもう明白だった。

あちらのお子がお子なので」

そこまでして・・・・・変わられた・・・あまりにも変わられた」

宮のまつげが震えている。今にも泣きそうな顔だった。

それで・・・どうしろと」

「出来るだけ早く入院をなさって下さい。病室には皇宮警察の者を

回します。それから申し訳ございません。ご出産の際には婦人警官を

立ち会わせて頂きます。とにかくお二方のお命を守る事が先決なので」

互いに覚悟を決めなくてはならない時期が来たようだった。

 

表面的には何も変わっていない。

マコのホームステイ準備は着々と進んでいる。

マコが行くのはオーストリア。しかもキコの友人宅である。

側衛はつくものの、ほぼ一人の状態。

それでも日本にいるよりは安心なくらいだった。

皮肉な事だと誰もが思った。

宮夫妻は予定通り、キコの弟結婚披露宴に出席し、

8月に入院を決めた。

それが東宮家がオランダに出発する前日だったので、またも

週刊誌に書かれそうだったのだが。

 

宮夫妻、マコとカコが出入りのカメラマンを呼んだのは

7月の中旬。

宮邸の庭は、夏の薔薇とハーブで輝いている。

ゆれるラベンダーやアメジストセージ、レモンタイムの香りが鼻をくすぐる。

宮邸の広間は夏仕様になっており、レースのテーブルかけが

目に飛び込んでくる。

そんな庭に面し広間に家族全員が集まって顔を寄せ合う。

よろしいですか?もうちょっと右に寄って頂けますか?」

カメラマンの注文にマコとカコは嬉しそうに顔を寄せたり離したり。

あ、目をつぶってしまったわ

とマコが言えばカコも「やだ。私も」と燦めきあう。

そんな娘たちの微笑ましい会話にキコも思わず自然な微笑みを浮かべていた。

姫宮様方、いい笑顔でお願いします。お母上に寄り添って」

「姫宮」と呼ばれた娘たちは、満面の笑みでキコの方に手を乗せる。

殿下、もうちょっと笑顔で」

お父様ったら笑わなくちゃダメなのよ」とカコが怒ると

いざというと笑えないね」と宮がすまなそうな顔をする。

そこでまた家族が笑い合う。

そんな姿をカメラマンはこっそり撮影していた。

 

そして・・・・4人がやっとポートレートに収まる表情をした時

フラシュがたかれた。

キコの目はうっすらと涙で濡れていたが、一層幸せそうに

輝き、彼女の美しさを引き立てていた。

(これが最後の家族写真になるかもしれない)

子供達に知られてはならぬ。不安を与えてはならぬ。

はしゃぐ子供達を前に、宮とキコはそっと目くばせしあった。

(何があっても子供達を守る。必ず)

宮家の戦いの始まりだった。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」209(危険なフィクション)

2016-05-19 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

どうしてあんなに機嫌が悪くなったんだろうね

天皇はいぶかしげに皇后を見た。

皇后は首が痛いのか、時々曲げては揉んだりしている。

「そんなに痛いなら医師に診て貰えば」

「私、我慢する事に意義があると思いますのよ」

皇后は笑った。

先ほどの話ですけど、葉山には一緒に行った方がよかったのではありませんか

皇后は目線を落としながら言う。

冷えた紅茶の替えを持ってこさせ、一口飲んでは見たものの

心は別な所にある風だ。

東宮妃は葉山に一緒に行けるものと思っていたんですよ

「それはわかっているけど、どうしてあれらの為に私達が予定を変えないと

いけないの?ミーはわかってる?

アキシノノミヤ家もいたし、私達の天皇・皇后としてのメンツもある。

忙しい予定の中から侍従たちが必死に見つけ出してくれた予定を

なぜ変えなくちゃいけないの?」

変えるのではなく、一緒に過ごせばよろしいじゃありませんか

皇后は微笑んだ。

あちらは付属邸なのだし。無理に顔を合わせる事もないでしょうし

どうしてそこまで言うの?」

天皇はかなり不機嫌になって、お茶をごくりと飲み込んだ。

どんなに不機嫌になって怒っても妻には勝てない自分を知ってはいるが。

私は皇太子が心配なのです」

皇后は夫の目をじっとみつめた。

東宮妃が病気になって以来、ひどく気落ちしてやつれ果てていますわ。

この度のアキシノノミヤ妃の懐妊で自分に自信を無くしていますのよ。

アイコもあのような状態ですし。

せめて静養の時期くらいは」

「東宮家はオランダへ行くんだよ」

天皇は少し声を荒げた。

私達がいない間に勝手に決めてしまったじゃないか。

そもそも皇族が私的な外国訪問をするなんて考えられないよ。

国民がどう思うか」

「女王陛下からのお召があったのですわ。それに病気治療ですもの。

私も大昔に葉山に引きこもった事を思い出しました。

あの時の陛下はとてもお優しかったわ。

私にだけだったのかしら」

皇后はくすっと笑った。

私ども、民間出身にとって皇室は大きな壁のように見える時があります。

何もかもうまくいかない時に自由にさせて下さって感謝しています。

東宮妃も同じでしょう。

オランダまで出してやれば、あとから「あれをしてくれなかった」「これもしてくれなかった」

と言われずに済みます。

今回のオランダ静養について私達は知らぬふりをしていればよろしいのです。

とはいえ、私は本当に皇太子が心配なのです。

あの子は昔の陛下とは違いますわ。気が弱くて・・・将来

天皇になるという重責に耐えて来たのですもの。少しでも肩の荷を軽くして

やる事が私達の仕事ですわ。

今は引きずられているように見えても、将来は必ず妻を導く存在になるでしょう」

「理想だね。とにかく今回は一緒は嫌だな。数日くらい、何も考えずに過ごしたい。

キコやマコ達ならいいんだがね」

私はアキシノノミヤ妃の方がわかりませんわ

少し涼しい風が入ってきた。

御所ではあまりエアコンを使わないようにしている。

節約の為でもあるし、あまり暑さを感じないからだ。

しかし、二人のいる部屋の空気はよどんで、こもっている。

それに気が付かないのは天皇と皇后だけだ。

汗をかかない二人には、空気の変化すらわからない。

キコがわからないってどういう?」

前置胎盤のような重大な事をさらりと言ってのけるのですよ。

だからといって東宮妃のように休むわけでもない。

普通通りに笑っているのです。一体何を考えているやら。

そんな事をされたら、私だって首が痛くても頑張らないといけなくなります」

そして「ああ、痛い」と言って肩をさすってみせる。

もし、これで男の子を産んだら・・・・・それを思うとぞっとするのです

ぞっとする?」

天皇は驚いてまじまじと妻を見た。

皇位継承権のある男子を得られないばかりにどれ程の苦悩があるか。

もし男子を得る事が出来れば積年の悩みが吹っ飛んでしまうし

皇祖に対しても面目が立つ。

ええ。ぞっとします。もし男子が生まれたら皇室に嵐が起きますわ」

真顔で言う。

皇太子家に男子が生まれないというのは、つまり、皇位継承権を女子にも

与えるべき時が来たという事なのだと私は思います。

世の中の流れがその方向に向かっているのだと。

日本国憲法で定められた「男女平等」の思想が、皇室にも改革を

もたらすべき時が来たのだと思っていました。

ところが、アキシノノミヤ妃はその流れにまったをかけたのです。

時代の歯車を逆に動かそうとしているのです。

問題は、彼女に、いえ、宮にそのような事をささやいたのは誰かという事です。

昔から宮は兄には遠慮して育って来た子です。

それが僭越な事をするとはどうしても思えなくて。

何か吹き込まれたとしか・・・・・でも、生まれるのが女子だとしたら

それはそれで皇室にとって必要かどうかわからない子になりますわ。

私も昔、言われました。

「お子様は一人でよろしいの」と。

子供が育つ確率が低かった時代ではありません。

一人生まれればちゃんと成人出来る世の中ですから。

今は、仮にアイコがダメでもマコがいますしカコだっている。

もう必要ありませんわ」

淡々と、あまりにも淡々と語る妻の姿に天皇は言葉を失った。

「私達も歳です。嵐などに遭いたくありませんわ

そして皇后は立ち上がると窓を少し開けた。

冷たい風が入って来る。

それでも一旦yどんだ空気を元に戻すのはなかなか至難の業だった。

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」 208(けなげなフィクション)

2016-05-04 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

え?前置胎盤?」

宮邸に戻った宮は、キコの定期健診の結果を聞き、

わけがわからないように首を振った。

大したことではありませんの。侍女長が大騒ぎしたので」

大騒ぎする事ですわ」

こお際だから・・・というように侍女長は胸を張った。

私は以前から思っておりました。妃殿下は働きすぎると。

ご懐妊されても公務をお休みにならない。でも、私にはわかります。

前の2回の出産と今回では全然違うのです。そうでございましょう?

妃殿下はもうすぐ40ですよ。

だから少しでもお休みになってと申し上げても妃殿下はお聞き入れにならず。

その結果、こんな事に・・・」

とうとう侍女長は泣き出した。

私のせいでございます。私がもっと妃殿下をみて差し上げれば

まあ、違うわよ。誰のせいでもないわ

妃は困ったように微笑んだ。

宮は自分が責められているようでばつが悪かった。

前置胎盤とはそもそもどんな風なの?」

胎盤が子宮口に被っている状態なんですって」

ですから、出産の時に大出血を起こすかもしれないのです

侍女長は怒鳴ってしまい・・・慌てて口をつぐんだ。

何だって」

宮は聞くなり絶句し、下を向いた。

全員、出血するとは限りません。大丈夫です。私は。ただ、リスクが

多少高いというような話で」

医師は何といってるの」

自然分娩は難しいだろうと。帝王切開にした方がいいと」

だったらそれで」

殿下。皇室で帝王切開は前例がないのですよ」

妃はまたも困ったように微笑んだ。

「私も初体験で少々とまどっております。マコもカコも普通に生まれましたし。

今回のような事でお子に影響が出たら」

どんな子供でも受け入れる」

宮はきっぱり言い切った。

でも、それ以上に私は君をとる

「殿下」

宮は思わずキコの手をとった。

大変な思いをして懐妊してくれた。毎日、どれだけのプレッシャーが

あったろうと思う。これからだって」

それは私、覚悟しておりましたし」

でも不甲斐ない夫だよ。守ってやれない。抗議も出来ない。

私達に3人目が出来るのは自然な事であるという事を誰も理解してくれない。

だけど、君を失う事に比べたらそんな事は小さなことだ。

もし、子供か君かと言われたら迷わず君を選ぶよ」

それはいけません」

キコは珍しく目を吊り上げていった。

「お腹の子は殿下のお子です。どのような事があっても失ってはいけません

でも」

私にも覚悟があります。たとえこの身に何があっても、お子だけは無事に産みます。

医師にもそのように伝えました。そうでなくては・・・そうでなくては・・・・」

キコの目には大粒の涙があふれている。

何の為に耐えて来たのか。何の為に我慢しているのか・・私にだって意地はあるし

プライドだってありますわ。毎日のように雑誌などでバッシングされるのは

辛い。辛いけど、でも、もう走りだしているんですもの。この子は育っているんですもの。

そしてこの子は2000年の歴史を背負っているんですもの。

私などの命より大事です」

キコ」

宮は侍女長がいるにも関わらず、妻を抱きしめた。

やれやれ」というように侍女長はため息をついて部屋を出ていく。

「ただ今、お茶をお持ち致します。ものすごく熱いのを

 

では、8月の中旬に入院をして9月の始めに帝王切開を」

医師は努めて淡々と言った。

皇室に前例のない帝王切開をするのに宮内庁の病院では

対応できない。

そこで、ユリ君が総裁を務める病院で出産する事にしたのだが

思った以上に費用がかかりそうな雰囲気だった。

皇族は健康保険がないので入院費・医療費は10割負担である。

最近も癌の殿下が入退院を繰り返しているのは、医療費負担を

少しでも減らそうとしているというような噂があった。

入院期間は3週間を超える。

本当は今すぐにでも入院して頂きたいのですが

そうは言われても、7月にはキコの弟のシュウが結婚するし

マコのホームステイも待っている。

そういった大きな行事が終わってからでないと動きがとれない。

自分が総裁職を務めている仕事も多い。

カコのお弁当も・・・・考えたらきりがない。

しかし、医師達としても相手が皇族であり、しかも、万が一

男子が生まれるとなれば責任が大きく、少しでもリスクを減らしたかった。

大出血をさせない為にはひたすら安静にしているのが一番なのだが。

「無理はしませんわ」

キコはにっこり笑った。

 

キコが前置胎盤である事はすぐにマスコミを通して発表され

天皇も皇后も驚き、とにかく無理はしないようにと伝言を伝えて来た。

また皇后は箱一杯のトマトジュースを送ったりしたのだが、

実は宮中ではそれどころではない騒ぎが起きていたのだった。

 

それが週刊誌に載ったのは6月も終わりの頃だった。

その内容は

「皇太子ご一家は7月中旬から葉山の御用邸で静養される」という話だった。

両陛下の葉山静養もこの時期になり、実現すれば皇太子ご一家と両陛下の

水入らずの静養になる」

というもの。

それを読んだ千代田の侍従長は驚き、慌てて東宮職に連絡を取った。

今回の両陛下の静養はお子様抜きでごゆるりとして頂きたいと思っている。

なのにどうして皇太子一家が入って来るんだ?」

侍従長から叱られるような形になった東宮大夫はいたくプライドが傷ついた。

そもそも今回の葉山行きはマサコが望んだものだった。

ヒサシの「両陛下のご機嫌をとれ」の一言で葉山静養を決めたのだ。

こうやって仲良しアピールすれば、オランダへ行く事に関して批判も

止むだろうという腹だった。

天皇と皇后が使うのは本邸、皇太子一家が使うのは付属邸だから

顔を合わせるのはそんなにないし、でも

砂浜で一緒に散歩する画を撮らせれば

東宮家にとってよいイメージになる。

その程度の考えだった。

しかし、千代田はそんな事はみじんも考えてはいなかった。

外国訪問を終えた天皇と皇后は誰にも邪魔されずに静かに過ごす

環境が必要だ。

皇后は疲れのせいで口内炎になったり首の痛みが悪化している。

「病気」の皇太子妃に気を使ったり、おとなしくしていられない内親王に会うのは

負担が大きい。

しかし、この「皇太子一家が葉山で静養」が記事になった為に、あたかもそれが

本決まりのような感じになってしまい、侍従長の怒りは頂点に達した。

もしかしたら、東宮職はわざと雑誌に静養予定をリークし、変更出来ない様に

画策をしたのかもしれない。

私は何も知りませんでした。雑誌にリーク?どこの誰が?例えばうちの侍従長とか?」

侍従長がやったのか」

「さあ。私のあずかり知らぬ事ですから。でもよろしいではありませんか。

今回の静養は皇太子ご夫妻が願っておられるのです。マサコさまが両陛下と

ご一緒してもいいとおっしゃるのは非常に大きな進歩ではありませんか」

何を言っている。そもそも御用邸というのは両陛下のもので、両陛下のお許しが

なければ使えないのだ。今回の事は両陛下はご存じない。

お許しもなく御用邸に滞在など許されない」

ではこちらから参りましょうか」

「今回は両陛下のみで静養して頂く」

侍従長のあまりの頑固ないいように、東宮大夫はかなりむっとした。

今の東宮大夫にとって怖いのは千代田ではなくオワダだった。

だから何が何でも「ご一緒に静養」は実現しなければならない。

そうでないと、オランダ静養についてマスコミがどんな批判的な記事を書くか・・・・

一緒に静養する事で「お墨付き」を得る必要がある。

両殿下から直接お願いがあるかもしれません」

東宮大夫はそういったが、千代田の侍従長は聞く耳を持たなかった。

 

そして7月。

皇居では「ホタル狩り」が行われた。

久しぶりに天皇・皇后、皇太子一家、アキシノノミヤ一家、クロダ夫妻が

顔を合せ、皇居の庭で光を放つホタルを見る会が開かれたのだ。

緊張感半端ないヨシキを宮が相手してリラックスさせ、お茶やお菓子で

和やかに会話が続く。

アイコの相手はマコとカコが引き受け、3人で楽しそうに遊んでいる。

不思議とアイコはマコやカコと一緒にいるとパニックを起こす事はなかった。

お姉さま。お体の方は大丈夫?」

サヤコが心配そうに聞く。キコはなんでもないというように首を振った。

大丈夫よ」

宮妃は軽く言うけれど、私だったら耐えられないわ。本当に気が勝る方ね

うっすらと笑って皇后はそう言った。

自分もまた相当強情なたちではあったが、今、この段階で微笑む余裕はない。

それなのにキコは笑っている。

何事もないように。

少し、恐ろしくなった。

キコが産むのは男子ではないのだろうか。もし本当に親王だったら

皇太子はどうなるのか。

内親王があんな状態では・・・・しかし、絶対にそれは国民には言えない事実。

宮家の親王が将来の天皇になる。

そんな事があっていいのだろうか?近代に入ってからは全て皇太子の子だったのに。

旨をよぎるもやもやとした感情。

「お姉さまは本当は涙もろいのよ。私がお支えするわ」

サヤコはキコの手をとった。

ありがとう」

マコもカコもとてもいい子ね。お母様の為に色々我慢も多いでしょう。

時々はねえねの所にもいらっしゃいな」

サヤコはマコ達に声をかけ、二人もにっこり笑った。

前置胎盤なんて大変ね。高齢出産だからなの?」

ぶしつけなマサコの問いかけに、キコは「ええ。多分」と答える。

心配よね。私達、安心してオランダに行けないじゃない」

申し訳ありません。こちらの事はお考えになりませんよう」

マサコは自分が元気になる事だけを考えていればいいんだよ」

皇太子がいつになく優しく言い、あまりにも失礼な物言いに

宮がむっとして何かいいかけるのをキコが止める。

ヨシキも空気を読み、

「そういえば、妃殿下の弟さん、シュウさんの結婚式がもうすぐでしたね

と話題を振った。

参内した時は緊張したのでは」

シュウと婚約者は皇后の計らいで参内を許され、挨拶していた。

その時、キコは義妹になる人の為に服やバッグや帽子などをあつらえてやったのだ。

でもそのお蔭で「宮妃の弟君」はかなり箔が付き、結婚式まであと一週間なのだった。

とてもいい方でしたよ」と皇后も言った。

相馬の神社の方で。相馬と言えば野馬追いだったかしら

ああ、そうだね。有名だね。古来の馬を育てていてね」

と天皇も話に加わり、ひとしきり話に花が咲く。

 

アイコが眠そうなので、皇太子が「そろそろ」といい、夫妻が立ち上がる。

お先に失礼するよ」皇太子はにこやかにみなにあいさつし、

そのついでに天皇に「葉山の件、ぜひよろしくお願いします」と言った。

その言葉に天皇は驚き、思わず

侍従長から話が行ってないの?」と尋ねる。

ええ。ですから両陛下とご一緒に葉山に行きたいという事で」

ナルちゃん。今回はご遠慮して頂けないかしら。侍従長からそういう話が

言ってるでしょう」

連絡ミスだったと聞いています。なので僕達が改めてお願いしたいと」

皇太子は食い下がった。

別にお邪魔はしませんから

そうはいっても、侍従職の方から、今回は私達二人でと言われているから

東宮は別の機会にしてくれないか」

ここで、あっさり天皇が皇太子の言い分を聞いてしまったら、侍従長達の顔を

潰す事になる。それだけは避けたい。

オランダに静養に行くのに、そお前にわざわざ私達と一緒に葉山へ行く

必要性もないだろうし」

その一言にマサコは突如立ち上がった。

みな、驚き固まる。アキシノノミヤはキコを庇うように両手でふさぐ。

私がそもそもこんな風になったのはどなたのせいですか?

そうやって私達の事を全然わかってくれないからじゃありませんか。

せっかく、静養を一緒にしたいと思ったのに、どうして一緒じゃだめなんですか?

こっちが嫌だっていう時には来い来いって言っておいて、こちらが一緒に

って言ったら断られる。そんなに私達がお嫌いですか?」

マサコ・・・」慌てて皇太子が止めようとする。

しかし、マサコは止まらなかった。

私の妹が結婚する時には会っても下さらなかったのに、キコさんの弟さんは

特別なんですか?そうやっていつもアキシノノミヤ家ばかり大事にして。

何が前置胎盤よ。これで男の子だった私なんか用済みなんでしょ」

マサコはぷいっと横を向き、アイコを抱えるようにしてドアを蹴飛ばした。

ドアは勢いよく開いたが、控えていた女官達がびっくりしてひっくり返りそうになる。

最低!

捨て台詞を吐いて、マサコは走っていった。

皇太子が侍従のようにおいかけていった。

回りはただただ驚きで棒立ちになったままだった。

後日、天皇の皇后の葉山静養の中止が発表された。

 

 

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」207(予兆のフィクション)

2016-04-22 07:42:00 | 小説「天皇の母」201-

本当に城に泊まれるの?2週間も」

受話器を持ちながらマサコは興奮を隠しきれなかった。

ああ、本当だ」

ヒサシの声もなかなか元気だった。

アベルドールン城のヘッドアウデロー宮殿はオランダ王室の別荘だ。そこを2週間貸切った。

私達やセツコもレイコも呼んで大いに楽しもうじゃないか」

よく貸してくれたわね

お前の父親を誰だと思っている」

ヒサシは形だけ怒って見せた。

所詮はヨーロッパの小国にすぎん。そして、王室の存続には金が必要。

日本はそれを持っているという事さ」

楽しみだわ。買い物にも行けるかしら。観光もしたいし。出来ればパリにも

ロンドンにも行きたいわ」

おいおい、今回はオランダだけにしてくれよ。そもそもお前は病気なんだから」

日本にいたら狂いそうよ。何もかもつまらないし

ナルヒト君はどうしているんだね」

さあ・・・皇居に行ってるわよ。どうせまた陛下達に叱られているんじゃないの?」

・・・さすがに今回はやりすぎの感はあるな。マサコ、少し機嫌をとれ。

静養に合流するとか」

えーー堅苦しいじゃないの

ほんの数日だ。アイコの顔を見せてやれば喜ぶんだから」

わかったわ

マサコは渋々答えて電話を切ったが、心はすでに別の所に行っていた。

明るいヨーロッパ、オランダの木靴とチューリップの元に。

そしてデパートへ行って思い切り買い物をするのだ。

その前にウエスティンホテルに予約を入れなくちゃ。今日は豪華なディナーよ」

この瞬間だけが幸せと思える。

 

聞いたことがありません。皇族が完全にプライベートに外国旅行をするなんて

アキシノノミヤは珍しく声を荒げていた。

お前の所のマコちゃんだって8月にオーストリアに行くんじゃないか

あれはホームステイです。殿下だって経験されたじゃありませんか

ホームステイも静養も同じじゃないか」

その言葉の重さに天皇は思わず咳ばらいをした。

ナルちゃん。ホームステイと今回のオランダ行きは違いますよ」

皇后はやんわりとほほ笑みながら訂正する。

ドアがノックされ、侍従に案内されてきたのは東宮大夫だった。

尊大な、どこまでも強気の東宮大夫を天皇も皇后も好きではなかったが

今回の事に関しては話を聞かないわけには行かなかった。

なにせ、天皇と皇后がタイの国王在位60周年記念行事に参加している間に

さらりと皇太子一家のオランダ静養が決まってしまったのだから。

夏休みの2週間をオランダの城で過ごしてはどうかと、正式に王室から

誘いの手紙が来て、そしてそれを受けてしまったのだから。

「女王陛下は本当に了承されたのか」

天皇の問いに、大夫は無表情で答えた。

はい。女王陛下のご夫君は長らくうつ病で苦しまれた経緯があり、こたびの

妃殿下のご病気にはいたくご同情遊ばされ、ぜひともオランダの城にお招きし

親しく悩みを打ち明けられたいと」

クラウス殿下がうつ病だったのか知っている。しかし、それは殿下の出身が

ナチスに関係があった事で国内で色々言われたからだろう

妃殿下も同じでございます。皇后陛下と同じ民間ご出身であるというだけで

口さがないものはあれこれ申します。妃殿下は傷ついておられるのです」

マサコの病気が悪くなったのはアキシノノミヤのせいだよ

皇太子は弟をにらみつけた。

え」

宮は兄の物言いに愕然として言葉が出なかった。

皇太子たるものが何という事を」

天皇の恐ろしい顔にも皇太子はひるまなかった。

「陛下にお尋ねします。後継ぎの男子を得られない僕達は存在価値がない

のでしょうか」

何を・・・」

巷のうわさではアキシノノミヤに生まれるのは男子と決まっているとか。

二人ともそうなるように色々努力してきたとか、お医者はもう知っているとか。

本当なの?生まれるのは男の子なのかい?二人で男子が生まれるように

したっていうのかい」

いくら皇太子殿下でもおっしゃっていい事と悪い事がございましょう

アキシノノミヤは殊更に丁寧なものいいで言い返した。

「人の閨をを心配なさる暇がございましたら、お二人で努力されれば

何だって?僕達はね、諦めたんだよ

いい加減にしないか。兄弟で何という言い争いをするのだ

まるで・・・・壬申の乱ではないか。

宮家にはまだ子供が生まれていない。早合点して疑うとは

僕は巷の噂を言っただけです。そういう話が出てくるという事は、男子がいない僕達には

存在価値がないという事なのですかと

そんな事言ってない」

じゃあ、なぜアイコではだめなんですか

今更な事を平気で言う皇太子に天皇はあきれ果て、頭を抱え込んだ。

皇室典範が作られた時は、日本がこんなに少子化になるとは思っていなかった

でしょう。だけど今は時代が違いますよ」

皇太子は、近代天皇が後継ぎ問題でどれだけ心を痛めて来たかまるっきり

知らないかのように言った。

天皇は男系男子で125代繋がって来た。これを覆す事は出来ない」

じゃあ、もしアキシノノミヤに男子が生まれなかったらどうするんですか。

天皇家は終わりですか

その時は・・・・・」

今、もっとも質問されたくない内容だ。そこまで言うならなぜ皇太子は

もっと早く多産系の女性と結婚しなかったのだ?と東宮大夫は半ば

馬鹿にしたように思っていた。

外務省一の切れ者で通っているオワダヒサシの娘というだけの価値しかない

マサコを選んだのは外ならぬ皇太子だ。

私なら選ばないな。双子の姉妹を持ち、母親は一人っ子で、しかもチッソだ。

世間体ってものがある。だが、まあこれが宮仕えの悲しい性だな。

心の中でどんなにさげすんでいても、表向きは持ち上げ、彼らの為に働き

最善の判断をする・・・それが官僚というものなのだ)

東宮大夫は、いかにも思わずというように

東宮様、そんな事をおしゃってはいけませんと言った。

戦後の日本は男女平等になり、ヨーロッパの国々の王位継承権も

男女平等になりつつあります。もし、宮様に男子がお生まれにならなくても

その時はアイコ様がいらっしゃいます。

アイコ様が天皇となられるのに、反対する国民はおりません」

アキシノノミヤの顔色が変わった。

不遜ではないか。東宮大夫」

「いや、大夫は国民の声を代弁してくれたんだ

皇太子は大夫を庇った。

小賢しい策を弄して男子を得ようとするよりよっぽど忠実だよ」

「兄様!」

アキシノノミヤは立ち上がった。

私達に子供が出来た事がそんなにお気に召しませんか?新しい命を

愛おしむお気持ちはないのですか。あなたの甥か姪でしょう」

姪なら二人もいる。甥なんか欲しくない。そもそも懐妊などしなかったら

皇室典範改正が終わっていた筈じゃないか。それを覆したのは

どこの誰だい?」

オワダ家みたいだ

ぼそっと呟いた宮の言葉を東宮大夫は聞き逃さなかった。

宮様。お気を付け遊ばして

気を付ける・・・・宮はわけがわからないような顔で大夫を見つめた。

そのただならぬ雰囲気に皇后が口を挟む。

妃だけならまだしも一家を招待とは・・・親戚でもないのにそこまでして

頂いてよろしいものでしょうか。かといって断るのもどうかと

オランダ王室は国際司法裁判所長官であるオワダ閣下に親しみを感じて

おられるのです。ゆえに妃殿下にも格別の思し召しがあるのではないでしょうか。

ここで無下に断ってはかえって失礼と存じます。

これを機会に、オランダ王室とわが皇室がより一層の友好を深める事が

肝要かと。宮内庁長官もそうもうしておりました」

・・・・・・」

天皇は無言だった。

東宮大夫も宮内庁長官も同じ穴のむじなだという事は十分にわかっていた。

もう決まってしまったのであれば、それを最大限に活用するしかない。

皇后はあっさりとしきたりを捨てた。

今もまだ悩む天皇の背中を押す。

お断りは出来ませんわ。そうでしょう。陛下」

そうだね」

天皇も折れた。そう、もう決まってしまった事なのだ。

皇太子妃には出発まで体調を整えるように。余計な心配をしていけなくなったら

困りますよ。アキシノノミヤも皇太子と同等に自分を考えてはいけません。

生まれる子は宮家の3人目である事に変わりはないのですから」

皇后の微妙な言い方に皇太子は納得し、宮はその真意を慮って

心が暗くなるばかりだった。

まるで皇太子は人が変わってしまった。もう「兄」はいないのだ。

 

失礼いたします

突如、女官長が部屋に飛び込んで来た。

お話し中、大変申し訳ございません。しかしながら今、アキシノノミヤ邸

から急ぎのお知らせがあって」

何かあったのか

宮がすっくとたちあがった。

女官はためらって黙った。さすがにこの部屋の微妙な空気はわかったようだ。

構いません。おっしゃい

皇后が促す。その恐ろしくも厳しい目つきに女官は震え上がっていたが

こうなっては言わざるを得ない。

平身低頭しながら女官が言った。

はい。あの。宮家の事務官より知らせがあり。妃殿下が・・・・」

この日はキコの定期健診だった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」206(ひそひそとフィクション)

2016-04-09 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

日本の梅雨はじめじめしている。

毎日が曇り空で雨が降ったりやんだりする日々は、人々を憂鬱にさせる。

 

今日も「さくらラウンジ」には幼稚園児のママ達が

子供達の帰りを待ちながらお茶を飲んだり、軽食を食べたりしている。

下の子を姑に預けて来ている人もいれば、ぐずる2歳児に

必死にジュースを飲ませて時間稼ぎしようとしているママもいる。

ふと、ラウンジの向こうをみやれば、ひときわ大きな笑い声と共に

大騒ぎしている集団が見える。

見える・・・・といっても、それを取り囲んでいる20人もの

黒服の男たちが目を光らせている為、回りのママ達は彼らと

目を合せない様に、聞こえない様にするのが精一杯だった。

やっだーうそーー!ほんとー!」

コーヒー片手に大声で喋っているのは誰あろう、皇太子妃だった。

「ほんとほんと」と回りのママ達は手を叩いて笑う。

「じゃあ、もう一杯コーヒー飲まない?おごるから」

と言ったのも皇太子妃で、他のママ達は

ありがとうございますーー」

とか「さすが妃殿下」とかいって、持ち上げている。

 

「まーた、やってるわよ。あの親衛隊」

ラウンジの隅っこの一団はしらけムードでコーヒーを飲みながら

しゃべっている。

日々、家事と育児に追われ、子供が幼稚園に行ってるわずかな時間だけが

自由な母親たちはその時間を何とか有意義に過ごそうと考えていた。

とはいえ、高い朝食を食べるお金はないし、そうかといって毎日

自宅でパーティというわけにもいかず

結局幼稚園の横にくっついている「さくらラウンジ」に集まっているのだった。

毎日毎日、よく飽きずにおべっか使えるわよね。何がおごるからーーよ。

全部私達の税金なのに」

一人の母親が不満気に行った。すると、もう一人も同調する。

親衛隊はコーヒー一杯で買収されちゃうわけ?」

コーヒーだけじゃないでしょ。ディズニーランドに同行した人もいるし

月に一度は東宮御所でお楽しみ会ですってよ」

何それ」

「え?知らないの?月1で東宮御所に親衛隊が集まって、お遊びをするんだけど

その内容がすごいんだって。

デキ屋を呼んだり、芸人呼んだりして面白おかしく遊ぶとか、ごちそうが出るとか。

なんせ天皇陛下の料理番が作るフルコースでしょ?お菓子でしょ?

食べ放題なんだって。そこまでやられたらなんでもいう事聞くわよね」

落ちたものよね。学習院も。昔から何人も皇族が入学してきたけど

こんな事はなかったわよ」

あらあったわ」と誰かが言った。

ほら、タカマドノミヤ家の女王達。今も初等科とか中等科で権勢をふるってるらしいわ。

あそこは宮邸に招待しておいて、あからさまに差別するとかで嫌われているけど。

その点、東宮御所は大盤振る舞いなのね

感心している場合じゃないわ。アイコ様が入園してからってもの、本当にひどいったら

ありゃしない。園長にもちゃんと言わないといけないわね」

アイスコーヒーの氷がからんと鳴った。

私達には「弁当は手作りで必ず野菜を多く入れて」とか「送り迎えは何が何でも母親が

とか「お箸を使えるように指導して下さい」とか言っておきながら、あっちはどれも

守ろうとしないのよ。お弁当は天皇の料理番が作ってるんでしょ

仕事してないくせにね」

送り迎えも皇太子殿下がやってるのよ。私、何度かみたもん」

東宮御所には女官がいないんんじゃないの?っていうか、皇太子殿下も働いてないし

わははっと笑い声が上がったが、すぐさましーーっと唇に指をあてる。

平日の朝の9時とか昼とかに送り迎え出来る父親かあ。確かにプーだわ」

夫婦そろって頭おかしいのよ」

頭おかしいといえば、5月のオール学習院の時はひどかったわね。

あの人達、年長組の合唱を見たらすぐ帰る予定だったのに、屋台にまで出張って」

っていうか、アイコ様だけ特別扱いで一番前で見てたのよ。他の園児達はみんな

揃っていたのに」

で、急に予定を変更して屋台で遊びだしたからマスコミが押し掛けて大混乱に

なtったって話でしょ?東宮職がすごく学習院に怒ったって。確かに、あの騒ぎは

すさまじかったけど」

「何で取材なんかさせたのかしらね

アイコ様は普通に幼稚園生活を送ってるって証拠を出したかったんでしょ。全然

証拠になってないけど」

「そうそう。入園直後から遅刻ばかりしてくるかと思えば、休みが続いていたしね。

子供の話だと・・・アイコ様ってお箸が使えないんですってね。スプーンもダメらしいわ」

「えーーっ。じゃあ、何でお弁当食べてるの?」

手づかみじゃない?何でも先生に「幼稚園の規則は厳しい。厳し過ぎます」って

言ったそうだから」

誰が言ったの?」

皇太子殿下よ。ご自分も幼稚園に行ってたのにね。あ、彼も出来なかったとか?」

まさかあ。ナルちゃん憲法ってなんでも完璧だったって姑がいってたわよ

じゃあ、しつけの問題なのかしら?まだおむつしてるみたいだし。なのにあんなに

輪の中で女王様のようにふるまえる神経がわからないわ

そこはそれ、ハーバード大出で外務省に入った優秀なマサコさまだから

またきゃははと笑った。

遠足の時も変だったわよね。雨が降り出したのに、妃殿下だけぼやーーっと突っ立って

シートもしかずに。私達までずぶぬれになっちゃった。妃殿下が傘をささないのに

私達だけさすわけにはいかないって親衛隊が言い出したの」

雨が降ったら、シート持って木陰に移動するくらい出来そうなもんじゃないの?

優秀なら猶更。なのに、何も出来なくてぼやーーって。女官が慌てて声をかけたら

なんだか妃殿下が怒鳴り散らしてたわよ」

シート敷くのなんて私の仕事じゃないって言ってたんじゃないの?」

ありえる。女官さんも気の毒よね。きっと、毎日、あんな風に八つ当たりされてるのよ

取り巻きが一杯いるのに誰も助けてくれなかったから怒ってるのよ」

あの後ね。記念撮影したじゃない。雨だったからバラ園じゃなくて、雨を避けた場所でって」

うんうん。そうだった」

そしたら警備している東宮職が「バラ園じゃないのか」って怒りだしたんだって」

「うっそーやだーー何で怒るの?信じられない」

決まり決まった場所じゃないと動けないとか?ロボットみたい」

それで!先生が「雨の時は別な場所と決まってるし」と言ったら「残念ですな」って

答えたんですって。週刊誌に書いてあった

東宮職何様ーー」

ほーーんと。私達の税金で暮らしてるくせにねーー私、あの人達の何が嫌って

上から目線で私達を見下している所なの。紀子様達にはそんなそぶり、みじんも

なかったし、私達の税金がーーなんて思った事なかったけど」

親衛隊がいて大盤振る舞いして、上から目線で命令口調。まるで韓ドラみたい。

ほら、財閥の奥さんって大抵、あんな感じでしょ?」

うんうん。でもマサコさまって病気じゃないの?」

病気よねーーでも遊びの時は元気よ。どこが病気なの?」

赤十字大会の時も、テニスやってたんだって。仕事は出来ないけど遊びは

出来るって。そういう病気あるの?」

あるんじゃないの?なんだっけ?あの大野とかいう先生が何でも許しているんだもの」

「何をやるのも勝手だけど私達に迷惑はかけて欲しくない。特に写真撮影

ああ。ほんと。私達には子供達の写真を撮るなとかいって、自分達はバチバチ

写真を撮り放題してるってあれでしょ?ひどいわよね。運動会になったらどうなるわけ?

私、それが心配。幼稚園の運動会とかって、一生に一度の事じゃない?

ちゃんとビデオ回して写真撮ってあげたいわよ。なのにあの人達のせいで」

「この先ずっと一緒なのかしら・・・・」

 

その時、誰かが「えーーっ」という声を出したので、みな振り返った。

彼女が見ているのは携帯メールだった。

何々?どうしたの?」

うん。今、うちの母親からメールきたんだけど。皇太子一家が夏に

オランダ行くんだって。静養で2週間だってよ。母が「マサコ様、今度こそ

お元気になるといいわね」って」

はあ?静養?で外国行っちゃうわけ?それって病気なの?

飛行機乗れるの?」

行ってもいいけど、もう帰って来なきゃいいなって」

 

あちらの取り巻きが「きゃーーっ!おめでとうございます!」と叫びだしたので

こちらの皆は思わず黒服たちがいるにも関わらず、そちらをみてしまった。

お土産買って来るわよーー」

皇太子妃は満面の笑顔でそう言った。

 

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