ふぶきの部屋

皇室問題を中心に、政治から宝塚まで。
毎日更新しています。

韓国史劇風小説「天皇の母」160(因果のフィクション)

2014-07-24 07:00:00 | 小説「天皇の母」141ー

マサコだけなんです。僕と結婚してくれたの

そう言って息子は泣いた。

皇后は胸が痛くなり、思わず目をつぶった。

マサコの所へ行ってもいいでしょう?」

そんなにも息子の心をとらえて離さない女性がいるとは。

皇后に止める術はなかった。

思えば可哀想な子だった。

仮死状態で生まれ,

息を吹き返した時はどんなに嬉しかったか。

単に自分の子が授かったというだけではない。

この子を失ったら、皇室の中で自分の立場はなかったのだ。

二人目を流産した時に「皇太子さまのお子を流してしまうなんて」と

散々陰口を言われた。ましてや死産などという事になったら・・・・

それを思うと、あの時の奇蹟は神の手によるものだと信じている。

生まれるべくして生まれた日嗣の皇子。

それが皇太子だったのだ。

感情の起伏に乏しく、融通のきかない子ではあった。

だから、集団で行動するのが苦手だったり、成績が悪かったり。

一つの事を飲み込むのにとても時間が必要な子で、いわゆる「ごゆっくりさん」だったのかも。

けれど、将来天皇になる身がそれでは困る。

まして自分の子であればもっと困る。

だからこそ、小さい頃から何事も噛んで含めて言い聞かせて育てて来たのだ。

うまく行ってきたと思う。

イギリスから帰って来た時までは。

留学だって、本来、日嗣の皇子はしない慣習だった。

でも、この子には私の夢をかなえて欲しかった。私が男だったら海外留学も出来たろうに

あの時代、女が大学へ行くというだけでも大事で、ましてや留学など・・・・

だからこそ、ヒロノミヤには広い世界を見せたかったし、経験もしてほしかったのだ。

あの子は・・・・あの子は・・・・本当に理想通に育ってくれた。

生まれた時に私を救ってくれただけでなく、留学と言う夢を叶えてくれた。

下に生まれた子供達と差別しているわけではない。

でも、庶民でも皇族でも最初の子というのは特別だ。ただそれだけの事なのだ。

 

だから庶民を皇太子妃にしてはいけないと言ったのに

ああ・・・またあの声が聞こえる。今夜は誰か?イツコ妃?

あの日、日本中が大騒ぎした日、私だけは失望の中にいたわ。もう日本はダメだと。

その意味を長い間日本の国民は知る事がなかった。

でも、いよいよ真実を知る時がきたわ)

私は皇太子妃として皇后として精一杯国の為に尽くして来たわ。

私が皇太子妃に選ばれたのは天の御心だと言うわ。私もそう信じています」

天の御心・・・・それが天の心なら皇室は滅びるべきだという事ね。

あなたが皇太子妃になったのは、純粋な東宮の思いだけではない。

皇室解体を目論む彼らの思惑が勝っただけよ。そりゃあね、コイズミだってイリエだって

皇室に忠義を尽くしてくれた。あの人達はそれが最善の策だと思っただけ。

皇室に皇族でも五摂家でもない、平民の血を入れる事こそが進歩的で

皇室と国民の間を取り持つ筈だと。

彼らに抜けていた思想は、国民と皇室の絆は妃の身分で繋がったり切れたりする程

弱いものではなかったという事よ。

天の御心は天照の子孫である天皇が、ただただ一心不乱に国の安泰を願い祈る事。

そこに政治的な野心を抱けば、いつか必ず鉄槌が下る。

織田も徳川もそうだったでしょ?藤原だって)

身分や家柄で人を差別する世の中ではありません。この21世紀は。

人間は自由で平等。誰にでも教育を受ける権利があり、妃になる権利だってあるわ。

私達は戦後、そういう世の中を目指して憲法を守り、戦前の悪習を退けて

戦前の悪習ですって?教育勅語が悪だったとでもいうの?ご真影が悪だったとでも?

終戦時に子供だったくせによくいうわ。

私は知っていてよ。戦前の華やかな日本の姿を。天皇陛下を敬い、皇族はそれぞれの

立場でその立場にふさわしい行動をしていたわ。そりゃ、中にはハメをはずす人も出てくる。

そういう人は自然と排除されて、皇籍から離脱したものよ。華族とて同じです。

その身分には義務が課され、果たせないなら華族をやめるしかない。

そういう厳しくも整然とした社会だったわ。

新憲法を盾に、成り上がり新興貴族ごときが語る事ではないわ)

それが差別だというのです

だったらあなたはなぜ皇太子殿下と結婚したの?あなたの心の中は透けて見えてよ。

東宮妃という日本で二番目に高い地位に付きたい。自分はその資格があると思った

んでしょう?そりゃあ、そうよ。あなた程綺麗で頭のいい女性は早々いないもの。

そして財産がある娘もね。でも、皇族と言うのはそんな世俗的なものではない

私は皇室の伝統を大事に思っています。先の皇后陛下から受け継いだことも多々あります。

守っております」

そう。だったらそれを皇太子妃に伝えたらどう?)

皇后は言葉を失った。高笑いが聞こえた。

皇后陛下」

女官の声が聞こえた。

皇后ははっとして顔を上げた。

お顔の色がすぐれませんが

大丈夫・・・・大丈夫よ

皇后はそういい、一口、お茶を飲んだ。

みー、大丈夫かい?今回事はかなりショックだったろうね

天皇の優しい言葉にほっと胸をなでおろす。

大丈夫。私の味方はまだいる・・・・・日本で最強の人。

陛下こそ。私の教育が至りませんで、申し訳ございません

もう40すぎの息子の教育云々を言われてもね。東宮は独立した組織なんだから

あちらはあちらで解決して貰わないと。

しかし、離婚は避けられないだろうね。そうなるとトシノミヤはどうなるかな。先例があるかな

東宮は妃を許しているのではありませんか。優しい東宮ですから」

そうはいっても、今回のような事を許せばみなに示しがつかないのでは

少し、様子をみましょう。東宮がどうするか。私達が口出しをしてあとで恨まれても

・・・・」

天皇はどこか不満そうだったが、反論はしなかった。

どちらにしてもスキャンダルになるだろう。しかし、火の粉は最小限にしなくてはならない。

東宮を悪者にしてはならないのだ。

もし、足元から何かが崩れ落ちるにせよ、一気にではなく、なだらかに行けばいい。

その間に補強ができようから。

イツコ様、あなたの思うようにはなりません。日本はダメなんかじゃありません。

私達は虫食いのリンゴではないのです)

強く、強く心に思った。

 

 

 

コメント (10)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国史劇風小説「天皇の母」159(泣き虫のフィクション)

2014-07-14 18:06:00 | 小説「天皇の母」141ー

どうしよう。どうしたらいい?」

皇太子はうろたえて部屋の中を行ったり来たりしていた。

落ち着いて下さい」

侍従長は必死に宥めたが皇太子は聞く耳を持たないようで

ひたすら「どうしよう」とつぶやき続けていた。

軽井沢へ迎えにいけばいい?」

なぜですか?」

なぜって・・・・マサコの様子もわかるし

公務がございましょう

・・・じゃあ、電話。電話して下さい。軽井沢に」

暫くすると電話をしていた女官が戻ってくる。

妃殿下はお加減が悪く、お電話には応じられないそうです

どこが悪いの?また帯状疱疹?」

さあ・・・そこまでは・・・・」

どうしよう」

おろおろとする皇太子に側近たちは心底うんざりしたようにため息をついた。

マサコの不調は嘘である事、軽井沢へは家出同然で逃げ出したという事くらい

みんなわかっている。

わかっていないのは皇太子のみ。

殿下」侍従長が諭す。

「妃殿下がお帰りにならなくても皇太子殿下は毅然としているべきです。

うろたえたりおろおろしたりしてはいけません。

何より殿下には公務がございます。それを最優先にしなくてはいけないのです。

妃殿下のわがままに付き合っては」

わがままなんかじゃない

皇太子はそれこそ「毅然として」言った。

マサコは宮内庁に苛められたんだよ。世継ぎを産めとか言われて。

女性に対してそんな事を強要していいと思っているのか?東宮大夫も宮内庁長官も

元々マサコを気に入らなかった。

なぜかってそれはマサコが頭がよかったから。学歴があって仕事もしていたから

生意気だと思ったんだよ」

皇室の繁栄の為にお世継ぎを・・・と望むのは当たり前の事ではありませんか?」

そ・・そうかな」

そうです。皇統はきちんと継承されていかなくてはなりません」

アイコがいるもの」

ああ・・・侍従は頭を抱えた。2500年の歴史を学んでいる筈の皇太子はいつから

こんな思考停止に陥ったのだろう。女性に皇位継承権がない事くらい常識だろう。

自分で作るのが嫌ならなぜ弟宮に言わないのか?

アイコは僕の娘だ。将来は天皇の娘になる。たった一人の子供だよ。そのアイコに

皇位継承権を認めない方がおかしい。過去に女帝は何人もいるんだから

愛子に皇位継承権を持たせて、将来の天皇にすればマサコだって」

お妃が皇位継承に意見をするなど考えられない事でございます」

だって雅子は皇太子妃だもの。そういう事いう権利はちゃんとあると思う」

皇太子は譲らなかった。妙な所で頑固なのである。

「陛下からお召でございます」

女官が告げた。

皇太子はびくっとすると「行かなくちゃダメ?」と聞いた。

はい」

侍従長ははっきりとそう言った。

 

皇太子の脳裏には前年の記念写真撮影の記憶がよみがえった。

アイコの障碍がわかってからマサコは参内する事を極端に嫌がるようになり

避けて通っていたのだが、12月の中旬に行われる「正月用」の写真撮影は

避けられなかった。

アイコはすでに「おむずかり」をするようになっていて、養育係が数人で必死に宥めるような

ありさま。そういう光景を見せるのも嫌なら見るのも嫌なマサコ。

多分、陛下は「すぐに専門の教育係をつけよ」と言うに違いない。

そんな風に口出しされる事がたまらなく嫌なのだ。

マサコにとってそれはプライドの崩壊に違いないし、自分が責められているようでたまらなく

嫌だったし、まだ心のどこかで「娘は障碍ではない」と思っていた。

それに、この事でアキシノノミヤ家の産児制限が解かれたなら・・・・

そんなわけで、その時の「記念写真」撮影会は「氷の団らん」の始まりだった。

沢山のおもちゃをばらならに並べた真ん中にアイコをおき、皇太子夫妻は彼女に

つきっきり、アキシノノミヤ家は傍観するだけの。

撮影時間ぎりぎりにやってきた皇太子一家は天皇や皇后に挨拶もそこそこに

勝手にロケーション体制を取り始める。

トシノミヤ、こっちへいらっしゃい」と皇后が呼ぶのを無視して、マサコはアイコを

離さなかった。その異様な雰囲気に、天皇も皇后も何も言えなかった。

妃殿下、陛下がトシノミヤをとお召ですよ」とノリノミヤが口をだしたが

この子は私じゃないとダメなのです」と譲らない。

マコもカコも小さい宮と遊びたいと思ったが、母親が仁王立ちしててとても無理だった。

撮影の主役は東宮家だった。

おもちゃの真ん中に座らされたアイコはさながらハリウッドセレブの子供のように

一つのおもちゃを持っては投げ、またすぐに興味を持つと手を伸ばし・・・・

両脇には両親がびったりくっついて、皇族はみな見守っているというような図式だった。

外敵から守るようなマサコの態度にみな不愉快になったが、誰も何も言わなかった。

しかし、どんなに頑張っても雰囲気には出る。

そういうものを察したのか、写真撮影が終わるとマサコとアイコはさっさと帰ってしまった。

療育の話をしようと思っていた天皇も皇后もどうしようもなかった。

千代田の側近たちも皇太子妃の態度に腹を立てていた。

とりわけ皇后が何も言わない事にさらにいぶかしく思う。

昔、皇族方から「苛められた」とされる皇后は、だから皇太子妃は甘いのだろうと

思われた。

そうはいってもご成婚から10年以上経っているのにこのありさまでは。

皇后陛下の采配が悪いとしか」

いやいや、皇太子殿下が何もおっしゃらないから

結局はそこに行きつく。

それゆえに、今回の「軽井沢籠城」事件は側近たちにしてみれば

皇太子の目を覚ますいい機会だととらえた。

今の今まで皇太子たる者をここまでないがしろにした皇太子妃がいたろうか。

あの藤原高子だって・・・・

そんな平安の大昔の事くらいしじか思いつかない。

 

殿下、ここはしっかりとなさいませ

侍従長は皇太子のネクタイを直しながら言った。

妃殿下は皇室に向かなかったのです。ここは潔くお別れすることも視野に入れて。

そうでないと皇室そのものの権威を貶める事になります」

しかし、皇太子は答えるどころか口を真一文字に結んでぷいっとそっぽを向いた。

とにかくお召ですから大急ぎで」

皇太子は終始無言だった。

 

一体どうしたというのか」

私室に通されるなり、天皇は怒りの声を上げた。

皇太子妃が宮を連れて実家の別荘に静養に行くなど考えられない事だ」

なぜ御用邸を使わないのですか

皇后も押し殺したような声で言う。

去年の冬から病気をした事は可哀想だと思っている。だから公務に出なくても

態度が多少おかしくても目をつぶって来た。

しかし、今回の事は大目に見る事は出来ない。軽井沢行は皇太子が承知した事なのか

天皇の問いかけに皇太子は黙ってうつむく。

何とか言わないか」

マサコは傷ついているんです。アイコの事で色々言われたし、世継ぎのプレッシャーを

かけたりするから」

誰がプレッシャーをかけたと?」

おもうさまとおたあさまです」

その言葉に天皇も皇后もぎょっとした。

アイコに皇位継承権がないからって次を産めとか言ったでしょう?」

そんな事言ってない

いえ、東宮大夫が陛下の意を受けて申したのです。だから言ったも同じ事です」

天皇家にとって世継ぎは大事なことだ」

だからアイコがいるじゃありませんか」

女性は天皇にはなれない」

そこがおかしいって言ってるんです」

皇太子は大声を出した。

アイコが女の子だっただけで僕達はこんなにおかしくなったんです。

アイコが男だったらこんな事は起こらなかった。そうでしょう?

アイコに罪はありますか?生まれてきた事に間違いがありますか?

ないでしょう?アイコが女の子でも僕達にとっては大事な子供ですし

将来は天皇の娘。今だって皇太子の娘。弟の所とは格が違うんだ。

だのにみんながマコやカコといっしょくたにするから、何が何でも男を産まなくては

いけないなんていうから。

こんな不幸な事態を引き起こす皇位継承ってなんですか」

天皇も皇后も絶句した。

何と言う・・・・何という考え方をするのだろうか。

しかし、皇太子のその言葉に言い返す事が出来ない事も確かだった。

憲法では国民は自由で平等であると説く。

結婚は両性の合意の元に行われる。戦前のような家同士の利益の為に決められる

結婚は不幸だ・・・とずっとそう考えて来た。

天皇が皇后を選んだのも、そういう意味では「悪しき伝統をぶち壊す革命」と言えただろう。

互いの「愛する」という感情をもっとも大事にしてきた天皇にとって、

皇太子がマサコに執着する気持ちがよく理解できる。

これは理屈ではない。感情なのだ。目に見えず、理屈が通らず意味不明な。

そ・・・それとこれとは別だろう。アイコの問題は女の子であるという前に」

陛下は障碍を公表しようとおっしゃるんですか。よくもそんな事を?あまりにもひどいじゃ

ありませんか。そんな事をしたらマサコがどんなに傷つくかお考えになった事が

ありますか?世間に堂々と障碍児の母ですって言うのですか?」

ヒロノミヤ」

皇后はなだめようとして幼名で読んだ。

トシノミヤはこれから皇族として生きて行かなくてはならないのです。

障碍であろうとなかろうと、しっかりとした内親王としての教育が必要です。

トシノミヤの歩みは他の同年代の子よりもゆっくりとしたものになるでしょう。

隠していれば必ずおかしく思われるでしょうし、疑いをかけられます。

それだったら先に公表し、トシノミヤの立場を楽にしてあげるのが親の愛では

ありませんか。後々後悔することのないように」

どうしておたあさまはそんな事をおっしゃるのですか?アイコは普通です。

普通の子なんです。どこの世界に堂々とそんな事を言いたがる親がいるでしょうか

その言葉は皇后の胸に突き刺さった。

皇后は言葉を失って、慌てて運ばれてきたお茶を飲む。

・・・・皇后はねむの木学園やアサヒデの障碍児に深く心を寄せている。決して

恥になど思っていない。トシノミヤとて同じだ。障碍があろうがなかろうが、私達の

可愛い孫に違いない。それではいけないのか?」

天皇の血を吐くような言葉も皇太子には通じないようだった。

僕はいいです。何と言われても。でもマサコは。マサコはハーバードを出て外務省に

入った優秀な人なんですよ。本当に優秀なんです。そんな人がこんな事に耐えられると

思いますか?子供を産んだ責任は女性にだけあるんじゃないと思います。

きっと・・きっと皇室の血が。だってイケダのおばさまもタカツカサのおばさまも」

「東宮!」

天皇は怒鳴った。

お前は私の姉達を馬鹿にするのか」

天皇の怒りに皇太子はびくっと震えた。目からは大粒の涙が零れ落ちる。

「馬鹿になんかしてません。でもそうやって言われたらおもうさまだって怒るじゃありませんか。

マサコだって同じです。世間にアイコが自閉症だなんて言われたらどんな傷つくか。

子供の・・・子供の人権にかかわる事だと思います」

あっけにとられる。

天皇にも皇后にも目の前にいるのは息子ではなく、大きなモンスターに見えた。

一方で、そういうものを生み出したのは自分達であるという事もうすうす感じてはいた。

「僕は、マサコと別れたくないんです。マサコだけなんです。僕と結婚してもいいと

言ってくれたの。マサコは僕に色々楽しい事を教えてくれました。子供も産んで

くれました。それなのにみんなで彼女を悪く言う。何でなんだろう・・・・どうしてなんだろう」

しくしく泣き募る皇太子の手をとり、皇后は一緒に涙を流した。

息子が不憫でしょうがなかった。ひたすら不憫で。

 

 

 

 

 

コメント (12)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国史劇風小説「天皇の母」158(迷走のフィクション)

2014-07-08 07:00:00 | 小説「天皇の母」141ー

じゃあ、行ってくるわ

レイコは子供を連れてタクシーに乗り込んだ。

ああ。どれくらいいるの?」夫の声は冷静そのものだ。

すぐに帰って来るわよ。。

「好きなだけいていいよ

妻が子供を連れて軽井沢の別荘へ行くというのに、夫は嫌だともいいとも言わない。

受け入れざるを得ない事だからだ。

男として夫として妻が実家ばかり大事にすれば少しは嫌味の一つでも言いそうな

感じだが、そういう事はない。

姑も同じだ。ただ

レイコさんはご実家との結びつきが強くていらっしゃってよろしいわねえ」と言われたくらい。

「私達は準皇族の立場なので」とレイコは答える。すると姑は

そうね」と言った。無表情だった。

妻が準皇族なら夫とその親だって十分その資格はあると思うが、夫も姑も

殊更に「皇太子妃の関係者」とは言わない。むしろ、どんな時でも「無関係」を

貫いているようだ。

だから今回の軽井沢も送ってくれるわけでもなく、大きな荷物を持って新幹線に

乗り込まねばならないのだ。

なんせこちらは1歳にもならない息子連れ。

着替えにオムツに・・・どんだけ大変な旅行か、何もかもやって貰っている

マサコにはわかるまい。

それを考えるとレイコは心の底から姉が憎らしくなった。

おまけにセツコまでが軽井沢に単身で来ているという。

セツコは子供がいない。

結局、一番大変なのは自分ではないか。

レイコは人には「準皇族です」と言いながら、実は庶民的な暮らしをしている自分を呪った。

抱っこ帯の子供はぐずぐずと動いてうるさいし、何とか寝かせようとするけど興奮している

みたいだ。これは今日も寝ないな・・・そう思っただけでうんざりする。

そんな時に母に呼び出されるとは。

一体、みんな私をなんだと思っているのよ

レイコは独り言でつぶやく。

皇室に嫁いだのに8年も子供に恵まれずやっと生まれたのは女の子だったマサコ。

結婚はしたけど滅多に両親に顔を見せるでもないし、おまけに子供がいないセツコ。

レイコは自分が一番まともだと思った。

なんせイケダ家の跡取りを産んでやったのだから。

 

長野は寒かった。当たり前だ。まだ2月なのだから。

ブランド品のコートを着て子連れのレイコは多少目立ったかもしれない。

でもそんな事はどうでもよかった。今はこの寒さから逃れたい。

駅を出ると、すぐにワゴン車が走って来てドアが開いた。

マサコ差し回しの東宮職の車である。

どうぞ」促されるままにレイコは子供と一緒に乗り込んだ。

荷物は全部あちらが運んでくれる。なんと楽な事か。

レイコは重い荷物から解放されて気が緩んだのか眠くなって来た。

車窓に広がる景色は冬枯れで、何の色も持っていない。

透き通るような空気だけは車の中にいてもわかる。

まるで別世界。東京の雑然としてこもった空気とは違う。

現実を忘れるにはもっとも適した場所だ。

 

暖房の効いた車の中で眠っていると、車は音もなく別荘に着き、ドアが開けられた。

お子様をお預かりしましょう

女官が手を差し出す。

そう?お願いするわ」

レイコは抱っこ帯をほどいて息子を女官に預けた。小さな子供は急に温かい胸から

引き離されたので驚いて目を開け、それから大泣きを始める。

ああ・・・また始まった。この子は一旦泣き出すと止まらないのだ。

うんざりする。子供の声が届かない場所へ行ってしまいたい。

少し育児ノイローゼ気味のレイコはため息をついた。

大丈夫ですわ。アイコ様もいらっしゃるし。看護師もいますから

優しい女官はそう言って子供を抱っこしたまま屋敷に入って行った。

レイコはほっとして自分も屋敷に入る。

 

「レイちゃん

玄関に出て来たのはセツコだった。

いらっしゃい。まあ、大きくなったわね

セツコは女官に連れて行かれる息子に一瞥をくれたが抱こうとはしなかった。

重いでしょ。ご苦労様」

全く。子供を育てるって大変よ」

レイコは偉そうに言うと、靴を脱ぎリビングに入る。

「何だかやつれたわね。子育てしているとそうなるわけ?」

当たり前でしょ。私はせっちゃんみたいに楽じゃないから」

あら、何で私が楽なのよ」

楽じゃない。外国暮らしの専業主婦で姑からいびられもしないし

何よ。会う早々」

セツコはぶんむくれて、差し出されたお茶を乱暴に飲み始めた。

食事も掃除も全部東宮職の人がやってくれているらしい。

という事はホテルにいるのと同じか・・・・とレイコは思わず笑った。

お母さまは」

今、接客中なの。お姉さまも一緒よ

接客中?皇太子妃とその母が一緒で。だとしたら相手は東宮職とか

宮内庁とか。

お姉さま、離婚したいって言ってるの。私もだけど

簡単に離婚だなんて言わないでよ」

簡単じゃないわよ。あなたは幸せだからわからないだけよ。でも

息が詰まりそうな結婚生活を送るよりは、一人で職場に戻ってやり直した方が」

お姉さまもせっちゃんも離婚したら職場に戻れるとか思ってるの?」

何よ。応援してくれないの

現実を言ってるだけです」

セツコは黙った。

じっと見ると随分痩せたように思う。双子だからセツコが考えている事は何となくわかる。

結婚前の事がまだ響いているのだろう。

子供部屋から叫び声が聞こえて来たので、レイコは思わず立ち上がった。

部屋から出て来たのはアイコだった。

飛び出してきて髪を振り乱し、いきなり床にごろんと寝転んで叫び始める。

レイコもセツコも驚きのあまり絶句する。

応接間から母達も飛び出してきた。

何があったの

「あ・・アイコ様が」

女官が慌ててアイコを抱き上げようとする。しかし、アイコは足をばたばたさせ

身をよじって両手を振り回す。2歳児のそれは結構強くて、女官は頬をぶたれ

髪の毛を引っ張られた。

アイコ様、お静まりを」女官達が取り囲む。

その様子を、黒い背広姿の客人たち、そしてマサコも見ていた。

早くどこかへやって

マサコが叫んだ。アイコは母の声にも反応せず、パニックを起こすばかり。

それでも何とか女官が抱きかかえて連れて行く。

ちょっとあの子、うちの子に何かしないでしょうね

レイコは心配になって、女官の後を追いかけた。

子供部屋は一つだったが、息子はベビーベッドの中で遊んでいる。

ほっとした。

一方のアイコは、お菓子を持たされて夢中になって食べている。

アイコ様は慣れない環境が苦手なのです」

女官が首をふる。むずかる子供にすぐにお菓子を与えるのは教育上よくない。

だけど、それ以外の手がないのだろう。

レイコは息子の無事を見届けるとリビングに戻る。

客人たちは玄関先にいた。どうやら帰るみたいだ。

今後の事はこちらでもよく相談してみます。妃殿下はごゆっくりと静養を

客人はそう言って帰って行った。

何がごゆっくりよ。妃殿下がこうなったのはあんたたちのせいじゃないの

玄関がしまると母は捨て台詞をはいた。

「あら、レイコも来てたの」

マサコは初めてレイコに気づいたようだった。母も同じで

あら、気づかなかったわ。いつ来たの?子供は?」

お客と話してたみたいだから。せっかく来たのに失礼じゃない

レイコは少しむくれた。

お母様、ピザを頼んで。それからワインもあけましょう

唐突にマサコはいい、リビングに入ると床に座り込んだ。

ここに敷物しいて、ワイン飲みながらおしゃべりするの

みなは驚いたが、誰も反発しなかった。今、マサコを怒らせたら怖いという事が

感覚としてわかっていたからだ。

こんな辺鄙な別荘にピザを運んでくれるのかしら。ちょっと待ってて

母は言われるがままに部屋を出、女官達によって絨毯の上に敷物が敷かれ

グラスが並べられた。

別荘のワイン蔵には相当な数の高級ワインが取り揃えられている。

それらがどうやって集められたかは謎なのだが。

30分後にピザが届くと、女官達があっけにとられる中、宴会が始まった。

マサコもレイコもセツコもだらんとした姿勢で座り、子供はユミコに任せきり。

久しぶりのピザにマサコは相当嬉しかったのか、よく食べた。

ああ、懐かしい。やっぱりピザはいいわ。こういう普通の生活がしたいだけなのよ。

なのに東宮御所は何かといえば「大膳がありますから」といって外食も宅配も

させてくれないし、栄養がありますからといってうす味ばかり。牢獄のような所。

あそこを思い出すだけでぞっとするわ

大膳にピザを作らせたらいいじゃないの。本格的な食材を使えばこんな宅配より

おいしい筈よ

レイコはもぐもぐと食べながら言った。

だめよ。大膳のつくるピザなんて小さくて薄いもの。それに毎日は作ってくれない。

カロリーがどうだとか塩分が・・・とかうるさいの。あげくに予算があるから

それを超せないとかなんとか。本当につまらないわ」

だけど、皇太子妃として大事にされてるじゃないの。皇太子は妃殿下に首ったけ。

未だに口をひらけば「マサコ」だもの。羨ましいわ」

あんな気持ち悪い男がいいなら譲ってあげるわよ。人前では多少かっこつけて

いるかもしれないけど、東宮御所じゃまるで子供なんだから。おまけに優柔不断で

そもそもなんでこんな所に来たの?離婚したいの?」

ぼそっとセツコが尋ねた。

皇族の静養は御用邸なんでしょう?こんな所に来ていいの?

皇太子殿下の許可は受けたの?両陛下はどう思われているの

セツコの質問は至極真っ当だった。マサコはイラついて思わずグラスを投げつけた。

カシャーンと音がしてグラスは壁にあたった。

レイコもセツコも驚いて思わず立ち上がる。

何事ですか」

女官達が駆け込んでくる。そこには壁にあたって砕けたグラス。ワインの飲み残し

がへばりついた壁・・・・

片づけてよ。見苦しいわ」

はい」

女官達は文句も言わずに片付け始めた。

突然何よ。いくら皇太子妃でもあんまりだわ。私達、怪我したかもしれないのよ

セツコは目を吊り上げて大声をだした。

だって、セツコがしつこく質問するから。勝手に上り込んで偉そうに質問するから

その言葉にセツコは完全に怒り始める。

勝手にって・・・ひどい。お父様が日本へ行けって言うから来て上げたんじゃない

誰も頼んでないわよ」

私だってこんな所、来たくなかったわよ。だけどお姉さまの精神状態がひどいって

いうから。何が起こったかこっちは全然知らされてないのよ。質問するのは当然

じゃない」

セツコもまたますます声を張り上げる。

私は今、自分の事で精一杯なの。お姉さまに構ってる余裕なんかないんだから

自己責任」

レイコが流行りのセリフを言う。

お姉さまもせっちゃんも好きで結婚したんでしょ?誰も無理強いなんてしてません。

散々皇太子殿下に言い寄られて、得意になって自慢してたのはどこの誰?

お父様がいいとか悪いとかいう前に結婚を決めたのは誰よ?結婚前に浮気が

発覚したからって」

浮気じゃないわ。二股よ。私は二股をかけられてたの。ああ、あの時、結婚をやめて

たら今頃は大学に戻って博士号でもとっていたのに

私だって自慢した覚えはないわ。マスコミが取り上げるようになって断れなかった

だけよ。それにあの時は「全力でマサコさんをお守りしますって言ったから」

酔ったマサコは突然大声で泣き出した。それをみたセツコも泣き出す。

リビングは女二人の号泣でうるさいくらいになった。

一体、どうしたの。子供達がいるのに

ユミコが慌てて部屋から出てきて唇に指をあてた。

 

子供なんてどうだっていいわ。そもそも私が皇室を出られないのはアイコの

せいじゃない。あの子を産んじゃったから。あの子が男の子だったらよかったのよ。

ねえ、男の子の筈だったんでしょう?何で女なの?お父様はちっとも喜んで

いなかった。でもお父様がアイコを天皇にするって。天皇の母になる事こそが

私の目指すべき頂点なんだって。なのに。自閉症だなんて。これって

何の罰ゲーム?」

「まあちゃん、落ち着きなさいよ。その事はもういいから。アイちゃんは可愛く

育ってるじゃない

可愛くなんかないわ。私を見ようともしない。返事もしない。気に入らない事が

あるとすぐに癇癪を起こす。それでもね・・・母親だから、あの子が少しでも

気分がいいように育ててやってるのに。あのナルは。私を守るって言ったくせに

守るどころか、さっさとカミングアウトして療育しろとかいうの。東宮大夫は

アキシノノミヤに第三子をって言ったわ。要するに私なんかいらないの。

何でって世継ぎを産んでないから。私なんかいらないの。いらないのよ

わあわあ泣き叫ぶマサコに妹達は絶句してしまった。

「あの子を専門家につけるっていうのよ。専門家に。そしたらますます私は

いらない存在になるわ。どうするの。どうしたらいいの

お姉さま、可哀想

セツコは今度はしくしく泣き始める。

お母様、お姉さまはどうかしてしまったんだわ。精神科に見て貰うべきじゃ

ないかしら

レイコだけが酔いに負けず冷静だった。

精神科医に見せるなんて外聞が悪いわ。それにまあちゃんは精神病じゃない。

悪いのは皇太子殿下よ。妻がこんなに追い詰められているっていうのに

のんきにしてて

5月にね、ヨーロッパに行くのよ。私にとっては何年ぶりの海外だと思う?

独身時代は休みのたびに旅行してたのに。やっとよ。アイコが生まれた時

以来なのよ。それなのに宮内庁のヤツ、なんて言ったと思う?

『体調不良で休んでいらっしゃるんですから今回は療養に専念して

ヨーロッパは皇太子殿下おひとりで』っていうのよ。だから大丈夫だって言ってるのに

『それなら国内の公務から始めて、問題なければ検討を』って。ひどいわ。

まるで籠の鳥よ。私は永遠に東宮御所の中に閉じ込められるかもしれない。

だから出てやったのよ」

離婚されるわよ

「別にいいわよ」

そのお金、誰が出すの

またも冷静にレイコが言った。

何を夢みたいな事を言ってるの。お姉さまと同年代の人は子育てが大変で

海外どころじゃないっていうのに。うちだってそうよ。夫は海外出張があるから

いくらでもいけるけど、妻の私は・・・子連れの大移動は大変なんだもの」

私は皇太子妃よ。あんたとは立場が違う」

離婚したら皇太子妃じゃなくなるんだけど

「ダイアナのように慰謝料を沢山貰うわ」

アイコ様はどうするの

毎月、養育費を貰うわよ。あの子は天皇の孫なの。あの子は手放せないわ

じゃあ、せいぜい頑張って下さい。お姉さまが無事に離婚できたら

せっちゃんだって離婚出来るわよ。でもその代わり、オワダ家にとってとんでも

ない不名誉な事態になるけどそれでいいの?」

・・・・・

マサコはうつろな目をしばたたかせて黙り込んだ。

旦那が弁護士だから言うわけじゃないけど、普通の人だって離婚するのは

並大抵の事じゃないわ。ものすごくドロドロしたものが出てくる。マスコミは騒ぐし

大きく取り上げるでしょう。そしてどっちが悪いとかいいとか毎日報道するわ。

そしたら私もせっちゃんもお父様もお母様も、毎日のように記者に追いかけ

回されて、ああだのこうだのって一挙手一投足を見張られる、追及される。

いいの?私は嫌だわ。夫の地位も名誉も消えるかもしれないもの。そんなの嫌。

大体、私はお姉さまに皇太子妃になって欲しいなんて頼んだわけじゃないわ。

それでもお姉さまは結婚して富と名誉を得たんでしょう?

東京のど真ん中の緑一杯の敷地の中、ばかでかい宮殿に住んで、使用人は60人。

家事も育児もする必要がないのに、何でそんな不満ばかりいうのよ。

夫が頼りないくらい何なの?我慢しなさいよ。外食出来ないくらい何なの?」

何よ。私の苦労も知らないで。毎日、監視されてるみたいに人に取り囲まれて

面倒で意味のない儀式だのしきたりだのを強制されてるこっちの気持ちがわかる?

しかもせっかく産んだ子が世継ぎじゃないからって・・・・外国旅行ぐらい

毎月させろ!ナルは言ったじゃないの!皇室外交させるって!なのに結婚してから

行けた国は片方の手でもあまるわ。おまけに今回も留守番。約束が違う。

約束が違う。違う違う違う!!」

マサコは興奮して叫び、そのせいで過呼吸を起こしたのか、へたへたと床の上に

倒れこんでしまった。

ちょっと!まあちゃん。誰か、お医者様を」

女官が飛んでくる。軽井沢の閑静な別荘がいきなり大騒ぎになってしまった。

この日、夜中まで叫び声が聞こえたという。

 

 

 

 

コメント (11)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国史劇風小説「天皇の母」157(陰謀のフィクション)

2014-06-28 07:00:00 | 小説「天皇の母」141ー

真夜中の電話がけたたましく鳴る。

一体、何時だと思っているのだろう。

ヒサシは無視を決め込んでいあたが、ユミコはそうはいかなかった。

随分長い間、騒音のように鳴り響く電話に、結果的には起きてしまったのだ。

まあちゃんかもしれないもの」

ユミコはガウンをはおり、電話の方へ向かっていった。

日本は今昼か・・・・とはいえ、時差を考えたらそうそう軽々しく電話は出来ない筈。

ヒサシは無視して眠りにつこうとした。

うとうととみない夢の中へ自分を誘っていく。

しかしユミコの「え?」という驚きの声に、神経が逆撫でされて目が覚めてしまった。

そんな事言ったって。ママ達、今オランダなのよ?いきなりは無理よ。じゃあ、家は?

嫌なの?御用邸は?それも?どうしてなの?一体どうしたっていうのよ」

何ともらちがあかない会話だ。

いい加減にしろ。今、何時だと思ってるんだ」

ヒサシは思わず怒鳴った。部屋の向こうから

とりあえず相談してみるから」という声が聞こえた。

全く。今度は何だというのだ?

アイコの障碍を聞かされた時は正直、ショックだった。使えない娘に使えない孫。

なんて自分は運のない男だろうと思う。

そもそもユミコが女しか生まなかった事がケチのつき始めなんだ。

マサコが男でありさえすれば、人生は変わっていたかもしれない。

マサコが生まれた時の喪失感。何とも言えない・・力が抜けていくような。

あんな思いはしたくなかったのに、アイコが誕生した時にまたも味わってしまった。

人間は時々人生を投げ出してしまいたいと思う事がある。それが自分は2度・・・

いや、セツコとレイコが生まれた時も含めたら3度か。

でもそれをバネにして、ありとあらゆる手を尽くして生きて来た。

アイコの事だって、最初の絶望感を通り過ぎれば、メリットを最大限に引き出す方策を

考える。

だから心配するなと言っておいたのに。

日本ではマスコミがマサコの帯状疱疹を「皇室のプレッシャーのせい」と報じている。

「男子を産めというプレッシャーに潰されてしまった可哀想な皇太子妃」という印象操作を

かけているのだ。

無論、一人でそんな事は出来る筈がない。

利害の一致、政治がらみ、様々な思惑の中で作り上げられている「皇太子妃像」

それは今の所、大成功だ。

世の中、ジェンダーフリーだ、夫婦別姓だと、男女の結婚観を変えようとする動きはある。

戦前の家父長制度をやめて、現在の民法になったのは一重に

「男女平等」を憲法にならうものだ。

男女平等。女に出産を強要してはいけない。産むも産まないも本人の考え次第。

不妊治療に悩む女性の神経を逆撫でする事は許されない。

男子が家の跡取りになるのは不平等だ。戸籍の筆頭者も世帯主という名称も

何もかも女性を傷つけるものだ。

いっその事、夫婦別姓にして戸籍制度をやめてしまえ。

そして男女不平等の頂点に立つ「天皇家」に泣く泣く嫁いだマサコ様は

可哀想に、学歴や能力を生かす事が許されず、ひたすら「子産みマシーン」として

男子を産めと強要されてしまった結果、心を病んでしまった・・・・・

そんなストーリーだ。

サラリーマンが読む雑誌、女性雑誌、月刊誌、新聞に至るまで「可哀想なマサコ様」

のオンパレード。

そしてもう一つ忘れてならないのが「アイコ天皇擁立」だ。

どうしてアイコ様は天皇になれないの?」

それは女の子だからです

どうして女の子は天皇になれないの?」

「それは日本が長い間男尊女卑の国で、その風習を継いでいるのが天皇家だからです」

それは間違っていませんか」

はい。間違っています。憲法にも男女は生まれた時から平等であると定められており

それに反する天皇家の在り方は間違っています」

ではアイコ様を天皇にすべきではありませんか。そうなったらマサコ様は心を病まずに

すむのでは」

その通りです

こんな感じだ。日本人は「平等」という言葉が好きだし、「日本国憲法」「民主主義」こそが

この世でもっとも崇高なものだと思っている。

ゆえに、この3つを言えばたいていの日本人は頷き、反論できなくなる。

成程、天皇家は存在そのものが憲法にかなっていないし、民主主義にもかなっていない。

そんな旧弊で不平等な悪癖を持つ天皇家を改革するのが「マサコ様」なのだから。

だから何も心配しなくていいのに

ヒサシは起き上がりメガネをかけつつ、大きくのびをした。

そこに入ってきたユミコは困り果てたような顔をしている。

一体、どうしたっていうんだ

「「まあちゃん、離婚したいっていうの

離婚?」

さすがのヒサシも驚いて立ち上がった。着替えもせずにリビングに入ると、

気を落ち着かせる為に冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲んだ。

「今、お茶を入れるわよ

茶なんぞどうでもいい。なんで離婚したいなんて言うんだ?」

まあちゃん、去年の帯状疱疹から公務に出てないでしょ。病気だったんだから仕方ない

筈なのに、治ったのに公務に出ないって言われてるんですってよ」

誰に

さあ・・・宮内庁じゃないの?ほら、5月にヨーロッパへ行く予定があるじゃない?

それもまあちゃんだけ行かせないって言われているらしいわよ

何で」

公務をしてないからでしょ。12月からこっち公務は休んでいるし、お正月の写真撮影も

あっさりすませたし、皇太子殿下の誕生日行事だってまあちゃんの体調に考慮して

地味にしてもらったじゃない。でも、まずは国内の公務をきちんと果たしてから海外にって

言われたらしいわよ

保守の宮内庁長官に東宮大夫か・・・ここらへんをすげかえる必要があるらしい。

マサコが12月以来公務をしていないというのは本当だった。

年末年始は皇室にとって行事が多い。特に正月は新年祝賀の儀に一般参賀に・・・・と

行事が目白押しだ。

しかし、マサコはそのどれにも出る事はなかった。

だって嫌なのよ。ああいう席で、誰あが私の悪口を言ってるかと思うとたまらないわ

確か、そんな話をしていたと思う。

誰が皇太子妃の悪口などいうんだろうとヒサシはぴんと来なかった。

だからその場で女官達に問いただしてみたのだが、みな

妃殿下の悪口を言っている者はおりませんし、皇族方も同様でございます」と答えた。

ヒサシ自身も、それは単なる被害妄想ではないかと思う。

ただ、何でそんな風に思うのかが少しもわからなかったのだ。

あなた・・・約束が違うと言われても仕方ないんじゃないの?まあちゃん、結婚さえすれば

海外に行けると思っていたのよ。なのにちっとも行けなくて。独身時代の方が

海外旅行してたんじゃないかしら。アイちゃんを産んでさあ・・・と思ったら、すぐに二番目はとか

言われて。何の為に皇室に入ったと思うのかしら。あの皇太子殿下の子供を産んであげた

だけでもありがたいと思って欲しいわ。でもそれにしたって約束が違うと言われても仕方ない。

だってあなた、約束したじゃない?まあちゃんはそれを怒っているの。

皇太子だって結婚の時に「皇室外交させてあげる」って言ったのに、ヨーロッパもダメって

あんまりよね」

何を10年前の事をぐちぐちと。だったらさっさと男の子を産めばよかったじゃないか

またそれ?ひどいわ。こればかりは神様からの授かりものじゃないの

じゃあ、オワダ家は神から見捨てられているのか?」

ヒサシは怒鳴った。

驚いたユミコは黙って、お湯をわかし始めた。

それで・・・海外に行けないから離婚するというのか?帰る家なんかないぞ。

世間の笑いものになって終わりだ」

ユミコは黙々と急須に茶の葉を入れ始める。

妻の不機嫌な様子にヒサシは少しトーンを変えた。

御用邸で静養すればいいんじゃないか?」

あそこは両陛下のお許しがないと使えないの。まあちゃんが仮病だって両陛下は

思ってるらしいわよ」

・・・・・

ヒサシは知り合いの医者にさりげなく「自閉症」について聞いてみた事があった。

それは脳の病気ですから何ともしようがない」と言われた。じゃあ、なぜそんな子供が

生まれるのかと聞いた時も「それはわかりませんが先進国で増えている事は事実です。

ダイオキシンとか環境ホルモンが原因とか、色々言われていますが

それを言われた時、思わず背中が冷たくなったのを覚えている。

ユミコの実家はいわずもがなのチッソ。

悪名高いミナマタ病を発症させた会社だ。環境破壊をして人体に多大な悪影響を与え

死に致らせた公害病の大元の会社。

いや、しかし、それは昔の事。それにユミコの父はミナマタ病の発症の後に会長に

就任したのだから責任はない筈。

なぜ今、それを思い出したのだろう。

まさか、これが…呪いとでもいうのか?

いやいや・・・とヒサシは首を振る。そんなバカげたこと。

「今は自閉症だけではなく、アスペルガーなどいわゆる発達障害という分野の研究も

進んでいます。昔からいたでしょう?ちょっと変な子供。落ち着きがなくて動き回って

ばかりいたとか、協調性がゼロだった子とか。例えばサルバドール・ダリとか。

一部の能力に優れていても生きづらさを抱えて生きる人たちがいるのです。

そしてそれは欝を発しやすいし、統合失調症などを併発しやすいという事も」

ああ・・なぜ、そんな事を今、思い出したのか。

まあちゃん、暴れて手がつけられないらしいわよ

ぼそっとユミコが言った。

実家じゃダメよ。噂になるもの。本当は御用邸がいいけど・・無理だし。

このままじゃ、あの子、どうなってしまうか。可哀想に。アイちゃんの事でどれだけ

苦しんでいるか」

自業自得だ。親の言う通りに頑張ればすむ事を、いつもいつも反対の事ばかりする。

全く。どれだけ苦労して皇室に入れたと・・・・この件に皇太子は何と言ってるんだ?

そういえば皇太子殿下の話は出てこなかったわ。まあちゃんたら興奮して泣いているん

ですもの。夫婦喧嘩でもしたのかと思ったけど違うのかしら?ならやっぱり宮内庁に

あれこれ言われて傷ついているのかしら。だったら夫として妻を守ってくれないと。

話にも出てこない皇太子殿下ってどうなのよ」

多分、一人でヒステリーを起こしているんだろう。

あの能天気な皇太子は、目の前でぎゃあぎゃあ言っている妻を理解できなくて

呆然としているに違いない。

しかし、仮にも一国の皇太子だ。彼に対して妻とはいえ、あまりに傍若無人な態度をすれば

宮内庁がどう動くか。

天皇と皇后も「離婚やむなし」と思うかもしれない。

マサコはそれでいいかもしれないが、こっちは困る。

ここは一旦、夫婦を引き離す必要性があるかもしれない。

軽井沢だ」

軽井沢?」

ユミコは顔を上げた。

軽井沢の別荘の事を言ってるの?」

ああ。そこでマサコとアイコ二人で暫く過ごしたらどうか。1週間くらい。

宮内庁が何と言おうと構うものか。ガイムを通じて東宮職に圧力をかける。

反対させはしないさ

そ・・・そうね。じゃあ、そう連絡するわ」

ユミコはちょっと機嫌を直して、いそいそとお茶を入れると、電話に向かった。

その時、またもけたたましく電話が鳴る。

ちょうど受話器に手を伸ばしていたユミコはびくっとして一瞬、電話から離れた。

以心伝心だわ

ユミコは笑って受話器を取った。

が、その声はすぐに失望と・・・そしてまた驚きに変わった。

またマサコか・・・今度は何をしたのか?

ヒサシは湯呑を両手で包んでひとすすりしながら「今度はなんだ?」と言った。

せっちゃんが別れたいって

血圧が一気に上昇するのがわかった。

ヒサシは、バンと湯呑をテーブルに叩きつけると

いい加減にしろ!」と叫んだ。

 

 

 

コメント (12)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国史劇風小説「天皇の母」156(狂気のフィクション)

2014-06-13 07:00:00 | 小説「天皇の母」141ー

皇太子は戸惑いを隠せなかった。

春からこっち、マサコの様子がおかしい事には気づいていた。

アイコの発達が遅れている事が原因なのは明白だった。

しかし、彼はどの事がどうしてそこまで妻の心を傷つけているのかが

理解できないのだった。

人と比べなくてもアイコは十分に可愛い娘だ。歩けなくても言葉を話さなくても

表情で感情はわかるし、やがてちゃんと一人で歩くようになるだろうし。

今、いくら心配したってなるようにしかならない事なのに。

「あなたのせいよ」とマサコは言う。

あなたの血筋のせいよ。皇室は血族結婚ばかりやってきたから血が濃くて

変なのが生まれるの。私のせいじゃないわ

彼女のこの言葉には皇太子は非常に傷ついたが、言い返す事が出来なかった。

もう子供は産まないから」ときっぱり言われた時も

「しょうがない」と心底思った。

 

マサコの娘を見る目は生まれた頃とは明らかに違っていた。

生まれたばかりの頃は「自慢」ばかりしていたのに、今では見向きもしない。

でもそれも仕方ないのかなと思う。

せめて自分だけは娘のよい父親でいたいと思う。

だけど、東宮大夫も宮内庁長官も天皇も皇后も「世継ぎ」を期待している。

「世継ぎ」の重要性はわかっているつもりだ。

自分だって皇室に生まれた人間なんだから。

でも、だからといってマサコに出産を強要していいものだろうか?

もう産みたくないと言っているのに。

日常生活の何もかもが妻を傷つけているようだった。

公務で子供に会えば傷つき、「アイコ様のご様子は」と聞かれれば傷つき

そんな事を言った相手をののしる。

何のつもりであんな事を聞くのかしらね。嫌味なのかしら?私に恨みでもあるの?」

どうして全身総毛立つ程怒りに満ちるのか、皇太子にはさっぱりわからなかったけど

でもとにかく妻は傷つくから、こちらが配慮しなくてはと思った。

3度の公園デビューにも公務を休んで付き合ったし。

でも、その事を注意されれば「母としての私を否定された」と怒る。

里帰りの時に迎えに行ったら「もう来たの?」と言われるし。

どうやったら彼女が昔のように笑ってくれるのかわからない。

だけど、今はとにかく、彼女の言う通りにしないと。

 

アイコの誕生日に親子3人で参内した。

その時も着替えをしながらマサコは

何で毎年行かなくちゃいけないの?面倒だし無駄だと思う。バカみたい」と

散々いい募り、それでも何とか車に乗り込んで参内した。

アイコの様子には、両親も非常に心配していた。

「御挨拶」が終わると、さっそく「アイコは元気なんだろうね?」と陛下がお尋ねに。

しかし、その言葉がマサコの怒りをあおったのか、マサコは無視した。

うんざりした顔を横に向けて「だから連れて来たんじゃない」とぼそっとつぶやくのを聞いた。

幸いにして天皇には聞こえなかったらしく

元気ならいいね」とおっしゃった。

マサコが終始ぶすっとした顔をしているので、さすがにそれはまずいと思って

もうちょっと笑った方がいいよ」と言ったら、余計に眉間にしわをよせて。

翌日には熱を出してしまった。

皇太子はマサコが熱を出した原因が自分ではないかと急に怖くなった。

医師は「ストレスによる帯状疱疹」と診断したからだ。

ストレス。きっと自分が何等かの形で彼女に無理強いをしていたのかもしれない。

皇太子は深く思い悩み、その末に

「暫く公務から外れては」と言った。

その言葉を待ってましたとばかりマサコはようやく「そうね」と言い、自分の誕生日行事も

キャンセルして「病気」を理由に一日中自室に引きこもり始めた。

そんな時に、よりによって宮内庁長官がアキシノノミヤ家について

皇室の繁栄を考えると3人目のお子様を期待したい」と言った。

無論、この言葉はマサコの心を大きく傷つけた。

「何よ何よ何よ!アイコじゃダメだっていうの?うちの子が障碍児だから

弟夫婦に産めっていうの?何様のつもり?

私は何?私は用無しなの?ひどいひどい!私は騙されたんだわ」

大声を上げて泣き叫ぶ妻に、皇太子も女官長も東宮大夫も何ともしようがなかった。

マサコ自身が「もう子供を産まない」と宣言した以上、どうしても世継ぎが必要な

皇室は弟夫婦に何とかしてもらうのが筋な筈である。

しかし、マサコからみれば、それこそ「自分は用無し」と言われたように感じたのである。

違うよ。マサコは必要だよ。アイコは僕達の子供じゃないか。内親王だよ。

この子をしっかりと育てて行くのが・・・」

育てて何になるの?天皇にしてくれるわけ?」

「それは・・・」

女だからって天皇になれないとか皇位継承権がないとか今時おかしいんじゃないの?

アイコは皇太子の娘でしょう?将来は天皇の娘になるんでしょう?

その子が何で皇太子にも天皇にもなれないのよ。障碍?そんなの差別じゃないの?

皇室って差別主義なの?」

畳み掛けるように矢継早に言われて皇太子はすっかり言葉を失ってしまった。

女性差別で障害者差別の、古臭くて無駄なことしかしない皇室の・・私とアイコは

犠牲になるんだわ!日本国憲法は男女平等を説いているのに、ここだけ封建社会なのよ!」

 

そして、マサコはアイコ共々東宮御所を出た。

回りが止めるのを聞かずに軽井沢へ。

一瞬にして置いてきぼりを食わされた皇太子は、まるで呆けたように誰もいなくなった

ダイニングルームの椅子に座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

コメント (22)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国史劇風小説「天皇の母」155(予想外のフィクション)

2014-06-04 07:00:00 | 小説「天皇の母」141ー

ジブリのアニメは好きですけれど、私はやはり初期の宮崎駿の絵が好きですわ。

例えばハイジとか、そうそう「赤毛のアン」も彼の監修でしたかしら

アニメ雑誌を開きながらまったり語るノリノミヤにヨシキは頷きながら

宮様は本当にアニメが好きなんですね。僕の車とどっちでしょうか

などとこれまたまったり返す。

ヨシキさんのお陰で私も少し車に詳しくなりましてよ。今までは四角い箱に見えていたのもが

ちゃんと名前があって、色々違うという事。陛下のお乗りになる車も立派なのは知っていましたが

色々お話をお聞きするまでは正直あまり。それで先日、その話を陛下にしてみたら

大層驚かれて「サーヤはいつからそんなに車に詳しくなったの?」って。

私、すぐにヨシキさんに教わりましたと申し上げたの。そうしましたら「ああ・・」と頷かれて」

ノリノミヤの声は心なしかちょっと無理に明るくしているようにも見える。

ヨシキはため息を隠して「僕が夜中に「もののけ姫」を見ていたら母がのぞきに来ましてね。

そんな趣味があったの?」と」

そして二人は見つめ合い、ちょっと疲れたような微笑みを浮かべた。

 

互いに見つめ合って話してはいるけど、互いに考えている事は違っていた。

いや、大元では同じだった。

それは互いの親達の事である。

アキシノノミヤに促されて、ヨシキの心は固まっており、いつでも結婚の申し込みをしなくては

と思っている。

一方、ノリノミヤもそろそろそんな覚悟をしなくてはと思っている。

微笑ましい程四角四面に考えつつ、真面目に「おつきあい」をしている二人。

しかし、面と向かうと・・・・なかなか・・・言葉が・・・・

ヨシキの脳裏には先日、夜中に「もののけ姫」を見ていた自分に対して、母が発した言葉を

思い出していた。

あなたにそんな趣味がおありだったとはね

いや・・別に」

やっぱり、宮様との事、真剣に考えているの?」

・・・・お母さんは反対ですか?」

ずっと独身だった長男にふってわいた縁談話は皇女との縁組。

恐れ多いやら驚くやら・・だけではないらしい。

反対だなんて。大変恐れ多い事ですよ。我がグロダ家は名門であっても

旧皇族でも旧華族でもない。アヤノミヤ様とご学友になったのだって、青天の霹靂でしたし。

まあ、光栄というか、誉というか。なのに、まさかその妹君を娶る事になるなんて。

皇室とのご縁は細く長くと思っていたけどね」

お母さん、結論は」

ヨシキはなかなか切り出さない母にしびれをきらした。

いつだってそうなのだ。あからさまに口に出さない上品さが、かえって相手を苛立たせる。

それをわかってわざと言っているのではないか。

私に結論なんてありませんよ。結論を出すのはあなたじゃないの?」

僕の結論は

ヨシキは一瞬、大きく息を吸った。

思い切ってお受けしようと思います」

それは、本当に宮様を好きだからなの?それともアキシノノミヤ様に勧められて

断りきれないからなの?」

ヨシキは少し黙った。

私は反対しているわけではないの。あなたの弟が婿に出ると言った時はまだ

あなたに期待していたものもあったけど、40近くまで浮いた話一つなく、銀行をやめて

都庁の職員になって・・・って、このままずっと息子と二人暮らしでも構わないわねと

ようやく、最近思い切って来た所だったから」

はあ

だから本当は何を言いたいんだとヨシキはいらついた。

でもね、あなたが宮様に恋をして、好きで好きで仕方ないというならまあね。

どうなの?」

好きで好きで・・・・お母さんからそんな言葉を聞こうとは思いませんでしたが。

僕はそんな恋愛は経験した事がないので。ただ、宮様と一緒なら穏やかでのんびりとした

家庭を築けるかと思います」

そう

母はほおっとため息をついた。

それでよしとするしかないのねえ」

お母さん

これっきりだから言わせて頂戴。あなたが生涯独身を貫くなら、それはそれで構わないと

思ったのは本当です。この歳になったのだもの。息子と二人暮らしなら私も寂しくないし。

お父様の菩提を弔いながら静かにそっとね。でも、あなたが誰かと結婚をして、もしかしたら

孫を持つ日もあるかしらと多少は期待していたのです。それが・・・ノリノミヤ様とは。

せめて宮様が30くらいなら私だってもう少しは喜べたかもしれないわ。

だけど35になろうと言うんですものねえ。これじゃまるで・・・・今時は高齢出産が常だし

マサコ様だって38歳で御産みになられたのだから、まだまだ期待してもよろしいかとは

思いますよ。だけどね、私だって歳だしね・・・」

子供ですか」

アキシノノミヤ様と初等科からずっと学友だったから言うのだけど、縁談というなら

もっと早く言って下さったらよろしかったのにねえ」

そんな無茶な」

無茶じゃありませんよ。お小さい頃からノリノミヤ様は兄宮とご一緒だった事があるでしょう?

その時は恋愛に発展する事もなく、無論、縁談にもならず。つまり宮様にはもっといいご縁談が

あったという事なんでしょう?それが次々とまとまらないから結果的に我が家なのでは

お母さん」

ヨシキは少し厳しい声を出した。

それ以上は」

だからこれっきりと言ってるじゃありませんか。ただね、行き遅れた宮様を押し付けられたような

形になるならこちらも不本意だと言いたいだけです。そうではないの?」

決して

ヨシキはそこはきっぱりと答えた。

お母さん。心配してくれてありがとう。でも今は僕の思う通りにさせて下さい。まあ、なかなか

予想外の事だったのは事実ですが。アキシノンミヤ様に勧められたから・・・というだけでなく

僕自身、幸せになれると信じています」

そう。それならいいの。ああ・・・この歳になって一人暮らしになろうとはね。ああ、今のは

ほんの少しの意地悪よ。正直、あなたのごはんの心配をしなくてすんで、膨大なカメラや

車から逃れられるなら、それはそれでいいわと思う事にするわ」

そして母は

浮世離れした所はお似合いかもしれませんけどね」と言い添えた。

 

一方、ノリノミヤは車の話をした時の父と母を思い出していた。

クロちゃんから教わったの?彼は車が趣味なのかい?」

ええ。カメラも随分いいものをお持ちだそうですわ。男の方の趣味はよくわからない部分も

ありますけど」

男の子らしくていいじゃないか

天皇は微笑んだ。しかし、皇后の方はお茶のカップを手にし浮かんでいる檸檬を

ほんの少しかきまぜた。

クロちゃんはアーヤの学友でしたね。じゃあ、アーヤと同い年なのよね。

もうすぐ40ですか。独身を貫いて来たのには何かわけがあるのかしら?」

さあ。だって大学を卒業して一旦は銀行にお勤めになったけれど、その後、公務員試験を

受けて都庁に入られたのよ。とても勉強家でいらっしゃるわ。だからきっと

結婚を考える暇がなかったんでしょう・・・・ってお兄様が」

そう。そうでしょうね。きっと。それはいいのだけど」

皇后は眉を曇らせる。

クロダさんはマンション住まいだそうですね。マンションって庭がないのでしょう?

お部屋の数は3つ?使用人もおいてないとか。あなた、そのような所で暮らせるのですか?」

おたあさま」

ノリノミヤはにっこり笑った。

平気よ。どんな所なのか興味があるわ。人と言うのは住む場所の広さで幸せが

決まるものじゃないし。そうでしょう?」

結婚する前は何とでも言えるわ

皇后はそれでも表情が和らがなかった。

お兄様がクロダさんのご気性については太鼓判を押して下さったんだもの。きっと

大丈夫だと思うわ。本当にいい方なのよ」

そうでしょう。人柄を疑った事はありません。でも。皇女が嫁ぐには

おたあさま。反対でいらっしゃるの?」

ノリノミヤは珍しく、声を上げた。

私が反対するならわかるけどね。ミイ」

天皇はくすりと笑った。

花嫁の母がそんな憂欝そうな顔をするとはね」

申し訳ございません。私もサーヤには幸せになって欲しいと心から思っております。

母としての気持ちはどこの誰にも負けません。世界一の方に嫁いで欲しいですわ」

私のようにかい?」

まあ。本当にご冗談ばかり

環境が変わる事を心配しているのだろう?サーヤはのんびりおっとりしているから

世間のスピードについていけないのだろうとか、クロちゃんに迷惑をかけたりしないかとか?」

それもありますが」

おたあさまったら。おもうさまもひどいわ

ノリノミヤは口をとがらせた。

おもうさまのような事はお兄様もおっしゃってよ。そうやって私をいじめるの。

でも大丈夫よ。クロダさんは、私と同じくらいのんびりしていらっしゃるから

せめて、きちんと御屋敷があって、お父様がいらっしゃって、女中の一人でもいたら・・・

宮は一般家庭に降嫁させる前提で色々教育して来たのは事実ですが、

結婚したその日から台所に立たなければならない生活になるとまでは正直・・・思っても

みませんでした。

私が教えてきた家事というのはあくまで教養としてであって、実践が伴うとは」」

かなり皇后は湿っぽくなっていた。

私が悪いのです。小さい頃からこの子に頼り切ってしまって

どんどん婚期を遅らせてしまいました。ついつい、まだいいわ、もう少しなどと思って

いたから。あまりの心地よさに私は・・・一生このままでいいとすら思って。まさか

今の今になってこのようなご縁になろうとは

おいおい。ミイはサーヤが幸せになれないと思っているのかい?」

いいえ。そんな事は。ただ、皇女として嫁ぐならそれ相応の家があるだろうと思うのです。

マンション住まいで地方公務員というのは、私には想像もつきませんでした」

責任という意味で言えば、父である私にこそあるよ。私やミイの病気やら東宮の結婚やら

トシノミヤの事やら、色々あって。ついついサーヤの事がおざなりになってしまった

責任は全て私にあるんだから。でも、そんな私の気持ちを慮ってアキシノノミヤが

持ってきた話だよ。信じようじゃないか」

「もう」

ノリノミヤはくすっと笑って「どんまーいんですわ」と言った。

もう・・・それしか言いようがないのだった。

 

一体、あの二人はテラスで何をやってるの?」

アキシノノミヤがそおっとテラスを覗いて言った。

さっきからノリノミヤもヨシキもぼやっと互いを見つめ合ったまま、心ここにあらずの

様子だったから。

そうだ」

宮は、ゴールデンレトリバーのディをけしかけてテラスに走らせる。

ディは思い切ってポーンと跳ね、テーブル乗っかってその拍子にノリノミヤの

前にあったお茶のカップががちゃんと言った。

あっ!宮様。大丈夫ですか?怪我は?」

えっ?ええ・・・・」

ノリノミヤは少しお茶を被ってスカートを濡らしてしまったが、怪我はなかった。

大丈夫ですわ」

よかった・・・・いつもはおとなしい犬なのに

ヨシキは心からほっとした様子で言った。

まあ、血が・・・・・」

ヨシキの指が切れて血がたらたらと流れていた。どうやらとっさにディから

宮をかばった時にカップに触れてしまったらしい。

大変。誰か呼びましょう

立ち上がったノリノミヤの前に現れた、キコとアキシノノミヤだった。

まあ、すぐにお手当を。申し訳ありません。クロダさん」

キコは夫をにらみながら言い、アキシノノミヤは「なめときゃ治るんじゃないか?」

などと言って、さらに妻からぎろりとにらまれた。

そんな兄夫婦をよそに、ノリノミヤとヨシキは思わず笑い合っていたのだった。

 

 

 

 

コメント (14)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国史劇風小説「天皇の母」154(ひきこもるフィクション)

2014-05-29 07:00:00 | 小説「天皇の母」141ー

朝からオワダ邸は大騒ぎだった。

ユミコは一人張り切って掃除をし、模様替えをして、自分のおしゃれにも余念がない。

しかしヒサシの方は、そんな妻には目もくれず厳しい顔をしたまま

リビングにいる。

あなた、早く準備しないと。まあちゃんとアイちゃんが来るわよ

マサコは一体、何を考えているんだ?」

あなた・・・・」

夫の態度にユミコはぱたぱたと動き回るのをやめた。

何をって。皇太子妃だもの」

だったらなぜ、さっさと懐妊しないのか?」

だって・・・今はアイちゃんの方が大切でしょ。あの子はまだ2歳よ」

マサコは40だぞ

そんな事言ったって・・・簡単な話じゃないわ。

ツツミ教授を追い出したのはほかでもないあなたじゃない

「約束を破ったからだ。男子を生ませる予定が」

だから、そういうのは神様が決める事で・・・あなたに言っても無駄でしょうけど。でもツツミ教授

以上の不妊治療の権威はいないんでしょう?それに、今のまあちゃんはとても不安定だそうよ。

8月に二度も那須御用邸せ静養した時だってほとんど外に出なかったみたいだし。

私、ついていてあげればよかったわ。体調が悪いとかで公務だって出来てないでしょ。

可哀想よ」

侍従や女官に囲まれて何もする必要がないのに具合が悪いって?何を甘ったれた事を」

あなた

ユミコはちょっと怒った。

まあちゃんは好きで皇室に嫁いだんじゃないわよ。あなたに言われたから。

元々皇室には向かない子なの。でも子供まで産んで。よくやったわよ。

こうやって里帰りする時だってマスコミに大々的に報道される。すごい娘じゃないの。

そのおかげであなただって国際司法裁判所の所長に・・・」

「私がなりたかったのは大使だ。それを、皇太子妃の父を政治に介入させるわけにはいかないとか

言い出しやがって。国際司法裁判所ごときの所長におさまってやるんだぞ

いいじゃないの・・・・それでも

ユミコはパンフレットをめくりだした。

お昼は中華のケータリングにしたのよ。あの子、好きだし。夕方には皇太子殿下も

いらっしゃるわね」

はしゃぐユミコの横でヒサシは憮然としたままだった。

 

そして。

本当に久しぶりにマサコがアイコを抱いて、オワダ邸にやってきた。

この時ばかりはヒサシも笑わないわけにはいかず、束の間

ご実家に帰られてリラックスされている妃殿下とアイコ様の図」を演じるしかなかった。

だがしかし、一歩、玄関の中に入るとマサコはアイコをさっさと母の手に預け、

かつて自分の部屋だった場所に逃げ込むように入ってしまった。

その素早い行動にユミコは何が起こったかまるっきりわからなかった。

アイコは普通なら後追いしそうなものなのに、全く無表情のままユミコに抱かれている。

しかし、いつも見慣れている部屋ではない事はわかるようで、次第に表情がゆがみ

ユミコの腕の中でばたばた暴れ始めた。

おい、マサコはどうしたっていうんだ?」

一緒に入ってきた女官のオカヤマがさっとアイコを抱き上げると

内親王様は私どもが」と言った。

妃殿下は何かあったの?どうして帰って来るなりあんな感じなの?あなた達は一体

何をしているの?いつもそばにいるんでしょう?」

いきなり問い詰められたオカヤマは何と答えたらいいかわからず

「はあ・・・」と言葉を濁す。

何なの?はっきりして頂戴。本当に久しぶりの里帰りなのよ。それなのに・・・一体何が

どうしてあんな風に部屋に行ってしまうの?きっと何か辛い事があるのね。ああ・・可哀想に。

だから言ったのよ。皇室なんかに嫁ぐもんじゃないって。

あそこはそれこそ伏魔殿のようなものよ。それなのに。可哀想なまあちゃん。

あんな所に10年も閉じ込められて。やっと子供が授かったっていうのに」

いいから、マサコを連れてこないか

ヒサシもかなり不機嫌になったので、部屋中が一気に険悪なムードに包まれる。

オカヤマは慌ててマサコの部屋に走って行き、小さい声で

妃殿下。妃殿下。どうかおでまし下さいまし

それはまるで天の岩戸の伝説のようで、よそから見るとかなり滑稽なのだが

本人は大真面目らしかった。

一人にして!」

叫び声が聞こえた。

その声に反応したのか、アイコは耳を塞いで何やらわーわー言い出した。

うるさいわね!あっちへやってよ!」

わーわー

皇太子妃と内親王の里帰りとは思えぬ騒動に、さすがのヒサシもユミコも

ただただ唖然としてやりとりを見るばかり。

 

とりあえずリビングルームにアイコとオカヤマを入れ、事情を聴く事にした。

アイコは椅子に座らされるとすぐにテーブルの下にもぐりこんだ。

ユミコが用意したぬいぐるみやままごとセットには見向きもせず、ひたすらテーブルの下に

もぐりこんで、絨毯の毛をいじくり始めた。

実は・・・・」

オカヤマは今までの事情を話すしかなかった。

アイコの発達障害。それを打ち消す為に3度に及ぶ公園デビューをした事。

2度目などは公務を休んでまで行ったので、後から両陛下に散々叱られた事。

それでもマサコは自分の意見を曲げずに3度目の公園デビューを果たした事。

妃殿下は、アイコ様を普通の子と同じように育てればきっと治ると信じておられるのです。

東宮御所のような大人ばかりの環境ではいけないと。

でも、結果的には却って人目に触れた為に、ネットに「自閉症では」と書かれる始末で。

もう巷では随分と噂になっております」

自閉症って・・・・親の愛情不足が引き起こすと言われるあれ?」

オカヤマは一瞬「?」という顔をした。

あの。自閉症というのは脳の器質障害と言われているもので育て方云々はあまり関係は・・・・

子供によって色々なパターンがあるそうですし。

東宮侍医の話ですと、一日も早く療育を始めるべきであると言われて。

でも、妃殿下はアイコ様の障碍をお認めになっていらっしゃらず・・・・」

そんな障碍は天皇家の血族結婚のせいよね。だから言ったのよ。まあちゃんをあんな所に

嫁がせるんじゃないって。それなのにあなたの出世の為に

やめないか

ヒサシは最近増えてきたユミコの「同じセリフ語り」をびしっと止めると、うつういて考え込む。

これは悪夢ではないか。

オワダの血を引くこの孫が。

天皇の血をひくこの孫が。よりによって自閉症。

ヒサシはテーブルの下にいるアイコを覗き込んだ。

アイコは祖父と目を合わす事はなかった。いくら毎日会う仲ではないといっても

少なくとも孫と祖父なら、もう少し笑ったりなついたりしそうなものだが。

いや、6月に生まれたレイコの子供だって、赤ちゃん特有の可愛らしさはないように思う。

つまり我が家の孫達とはそういう性格なのだと思い込んでいた。

なのに、それが障碍だと?

問題は、このアイコが皇太子家のただ一人の子供だという事だ。

二人目を産めばいいじゃないか

もう産まないわよ!」

突如、リビングに飛び込んできたのはマサコだった。髪を振り乱し息を切らせて。

ユミコは思わず立ち上がった。

まあちゃん。落ち着いて。落ち着いて頂戴。ジュース飲む?アイちゃんも」

慌ててジュースを持って来ようと台所に走る。オカヤマもついでに出て行った。

冷静なヒサシの前でマサコはどんとテーブルを叩いた。

下にアイコがいるのに気付かなかったのか、アイコはびっくりして泣き出した。

その泣き声はまるで拷問にでもあったかのような悲鳴にも似たものだったので、

ユミコとオカヤマがピストン運動のようにとって返して部屋に来る。

さあ、アイコ様。ジュースは私と別のお部屋で頂きましょう」

オカヤマはわめくアイコを抱き上げると素早く部屋を出て行った。

ユミコもそっちを追いかける。

部屋にはヒサシとマサコの二人だけになった。

こうなったのは誰のせいだと思うの?お父様よ。全部お父様のせいだわ。

私は皇太子なんて好きじゃなかった。ずっと外務省で仕事をする事が夢だったのよ。

それをお父様が」

お前が外務省で使い物になったと思うか?通訳も満足にできなかったくせに

・・・・」

マサコはぐっと言葉を詰まらせた。

出来たわよ。通訳くらい。私はハーバードを出て外務省に入って外交官になって・・・・」

お前の尻拭いをしてきたのは誰だと思う?出来の悪い娘に学歴を与え、職場を与え

最高の嫁ぎ先を見つけてやった」

何が最高の・・・よ。自由に外出できないし外国にだって行かせて貰えない。二言目には

子供子供って。頑張って産んだのに・・・・産んだのに・・・・」

マサコは大きな瞳から、それこそ雨のような涙をだだーーっと流し始め、わあっと

堰を切ったように泣き出した。もう止まらなかった。

あとからあとから涙が流れて。

もう二度と子供なんか産まないわよ。あんな思いをしたのにこんな・・・ひどいわ。

私が何をしたっていうの

お前はいつもそうだ。一つの事を失敗するとすぐに逃げ出して嫌がる」

ヒサシは容赦なく言った。

昔からそうだった。その尻拭いをしてきたのは

誰も頼んでないわよ!」

またもマサコが激高し始めたのでヒサシは「わかった」と言い切った。

もう二人目を産めとはいわん。アイコを天皇にすればいいんだろう

私は別に天皇になんかしたくないわ。もうどうだっていいの。私、皇族辞めたい。

あんな東宮御所になんか帰りたくないの。帰りたくないのよ」

だからってここには住めんぞ。わしもユミコもオランダへ行くんだから。我慢するしか

ないだろう?何が不満なんだ?都心の一等地であんな広い家に住んで」

「広いとか狭いとかの問題じゃないの。みんな私を馬鹿にしているのよ

誰かがそう言ったのか?」

「言わなくてもわかる。女官達が私の噂をしているもの。アイコが自閉症だってネットに

出回ったのだって侍従か女官の誰かが漏らしたのよ。そうよ。あの流産の時だって」

わかったわかった

根拠のない妄想に付き合っている暇はなかった。

東宮職内の人間については私がそのうち、総入れ替えしてやる。

お前は暫く公務から離れて好きにすればいいさ。それでも8月は3週間以上も

那須に行ったんだろう?そういう風に気ままにやればいいさ。何と言ってもお前は

皇太子妃なんだから」

ヒサシはとりあえず宥める為にそう言った。

昔からヒステリーを起こすとユミコ同様、手に負えなくなるのだ。

「しかし、アイコはちゃんと育てろよ。将来の天皇なんだから。自分の子供が天皇に

なればこれ以上怖いものはない」

そうはいってもマサコは今一つピンときてなかった。

 

その時、チャイムが鳴った。

ばたばたとユミコ達が玄関に出る。聞きなれた声がこだまする。

マサコは一瞬身震いした。

皇太子殿下よ」

ユミコがにこやかに案内してきた。そこに立っていたのは皇太子だった。

お久しぶりです

やあ。殿下。ようこそ」

ヒサシは立ち上がって握手した。マサコは涙のあとを見られまいと横を向く。

あれ?アイちゃんは?」

多分、オカヤマと一緒よ」

そう。僕、少し面倒みようか?」

あら、よろしいのよ。今日くらいゆっくりなさって。内親王様の事は私に任せて

ユミコは愛想よく言った。

そろそろケータリングが届く頃なの。中華料理、お口にあえばいいんだけど

大好きです。ありがとうございます。マサコ、ご両親で楽しいかい?」

ご機嫌取りするような皇太子のセリフにヒサシは内心「ダメだ。これは」と思った。

案の定、マサコは答えもせず、ぷいっと横を向いた。

皇太子殿下に失礼だろう。返事ぐらいしないか。全く躾がなっていなくて」

ヒサシは苦笑いした。皇太子は屈託なく微笑み

いやいや今日はマサコの顔色がよさそうでほっとしました。

よかったね。マサコ」

邪気のない笑顔。それまでのオワダ邸内の空気が多少は和らいだ瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

コメント (14)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国史劇風小説「天皇の母」153(希望のフィクション)

2014-05-20 07:00:00 | 小説「天皇の母」141ー

夏休みの思い出

今年の夏休みは私にとって、特別なものとなりました。

8月。私達家族はタイの王室からお招きを受けました。

今年はシリキット王妃陛下のお誕生日のお祝いと、父の学位授与式が

あり、それに招かれたのです。

その話を母から聞いた時、私と妹は飛び上がって喜びました。

けれど、その後、私達はとても緊張してしまい、足がぶるぶる震えました。

タイ王室と日本の皇室は古くから友好の絆を大切にしてきており、曾祖父の

先帝へいかも祖父の陛下も大変、大事にお付き合いをしてきたとの事。

私達は日本の皇族としていくのだから、常にきちんとした態度を取らなくてはいけないと

母にそれはそれは厳しく言われたからです。

初めての海外・・なんて喜んでいる場合ではありませんでした。

私達は世界地図を広げてタイという国がどこにあるのか調べ始めました。

それからどんな歴史があるのか、今の国王陛下は何代目かなど、沢山調べました。

本当は難しすぎてよくわからない部分も多かったのですが、一生懸命に勉強しました。

最初に習ったタイ語は「サワディカ」と「コップンカー」です。

「サワディカ」は「こんにちは」

「コップンカー」は「ありがとう」という意味です。

母は私に「どんな時でも笑顔で「コップンカー」という事を忘れてはいけません」と言いました。

なので、私も妹も忘れないように家の中でも「サワディカ」「コップンカー」と練習をしました。

それからお辞儀の練習もいたしました。

国王陛下や王妃陛下へのお辞儀、その他の方々へのお辞儀。

体を45度から60度に曲げてゆっくりと・・・私と妹は毎日繰り返しました。

笑顔を忘れてはいけません。お行儀よくしなくてはいけません。あなた達が少しでも

無作法な事をしたら日本という国全体が笑われる事になるのです

私も妹も段々心が重くなっていきましたが、それでも毎日、お辞儀の練習をしました。

父はそんな私達に「まあ、硬くならずにね。お母様の言う事を聞いていたら間違いはないからね。

お前たちは元々とても行儀のいい子なんだからお父様は安心しているよ

と言ってくれたので、ほっとしました。

 

タイは「微笑みの国」と呼ばれているそうです。

一年中暑くて、雨季と乾季に分かれています。

日本との時差は4時間あります。

8月は日本では一番暑い時期ですがタイではそうでもないと聞きました。

仏教国で、沢山のお寺があるそうです。

 

海外に行く前に、武蔵野の先帝陛下のご陵にお参りして、それから

宮中三殿にお参りしました。

そして両陛下にもご挨拶しました。

気をつけて行ってらっしゃいね」と皇后陛下はおっしゃいました。

 

いよいよ出発し、私達は6時間かけてタイのドンムアン空港に着きました。

飛行機から降りると、とてもいい香りがしました。

夕暮れ時がとても美しかったです。どこか懐かしいような感じがしました。

出迎えてくれた人達にさっそくお辞儀をしました。

みな笑顔で私達に綺麗な花飾りをくれました。

隣の妹を見ると、ちょっと緊張していましたが私が笑いかけると妹もにっこりと

笑い返してくれました。

それからの時間はあまりに次々と新しい事が起きて、あまりよく覚えていません。

でもバンコクはとても暑く、突然雨が降り出したりするので驚きました。

街や市場の人々はみなとても明るく、なぜ「微笑みの国」と呼ばれているかわかりました。

街には沢山のお寺があります。

日本にあるような木のお寺ではなく、どこも金色をしていて、宝石がちりばめられています。

太陽の光があたるとワット(寺)はきらきらと光ります。その眩しさといったら。

王宮もまたひかり輝いていました。

私達は国王陛下と王妃陛下に御挨拶をしました。少し膝を曲げて、カーティシーと呼ばれる

お辞儀です。

国王陛下は私達に「とても可愛いプリンセス達だね。フミヒトによく似ている」と微笑まれました。

また王妃陛下は

なんて色が白いのでしょう。まるで白磁のようね」とおっしゃいました。

私達は次にワチュラロンコン皇太子殿下とシリントン王女に御挨拶をしました。

シリントン王女と両親は大層長いお友達で、私達もよく存じています。

この国を楽しんで下さい」と王女はおっしゃいました。

 

私達は沢山の公式行事に出席しました。

沢山の大人に囲まれて座ったりお辞儀をしたりするのはとても

緊張する事でした。

その場にいる誰もが私と妹に最高の礼を尽くしてくれます。

誰も私達を「子供」だと言ったりしません。

それはあなた達二人が日本という国の代表として見られているからよ。

あなた達に礼を尽くしているのではなく、日本という国、そして今まで友好を築いて

こられた陛下に礼を尽くしているのですよ

母はそんな風に言いました。

妹は時々、疲れてしまって母に甘えているので、私はちょっとうらやましくなりました。

でも、その分、父が色々なものを見せてくれました。

日本にはいない鳥や動物たちの説明を聞きながら、私はとても楽しい気分になりました。

ほら、見てごらん。これがティラピア。かつて陛下がタイに送られたものだよ。その当時は

タイは非常に食料が乏しくてね。それを心配された陛下がご自分のご研究の中から

ティラピアを選ばれ、食用として送られたんだ。

お前たちが生まれた頃、日本は大凶作になって、その時、タイ国が沢山のお米を

送ってくれたんだよ。王室と皇室の繋がりがそのような助け合いを生んだともいえるね。

私にとっては家禽の研究には欠かせない国だ。

それもこれも国王陛下が優しく受け入れて下さったから、研究も出来たのだよ」

父が語る事はいつも私の胸に染み込んで行きました。

 

タイの食べ物はとてもおいしかったです。

ココナッツを使ったカレーは私も妹も好きになりました。

果物も豊富です。

果物の王様のドリアンを初めてみましたし、マングスティンや・・オレンジ色のパパイヤ。

夕日の色をしたパパイヤはとても甘かったです。

それから大きな仏像。涅槃像の足の大きさにも驚きました。

 

緊張しながらも大変楽しい旅になりました。

帰国した時、両親は「二人とも大変よく出来ました」と言ってくれました。

何よりもその言葉が一番うれしかったです。

帰ってきてからの方がタイという国について色々考える時間がありました。

日本とタイの友好。

国と国が助け合い、仲良くすることの重要性を知りました。

そして、今も昔と同じ生活をしている人達の姿が目に焼き付きました。

美しい鶏の尾を思い出すたびに、もう少し長くいる事が出来たら

スケッチ出来たのに・・・とか。

いつかまた訪れる時が来たら。

今度はもっともっと頑張って学びたいと思います。

 

                                      アキシノノミヤ マコ内親王

 

 

 

 

 

 

コメント (12)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国史劇風小説「天皇の母」152(挫折のフィクション)

2014-05-15 07:00:00 | 小説「天皇の母」141ー

7月。

アキシノノミヤ一家はタイへ出発した。

タイのシリキット王妃の誕生日の祝いと、宮の学位授与の為だった。

一応、プライベートな旅行と位置付けていたが、結果的には公式訪問のようなもので

タイの王室と日本の皇室の友好の絆がなせる親しみであった。

小学6年のマコと3年のカコにとっては初めての外国訪問。

お揃いのワンピースに身を包みつつも、とにかくお行儀よく、きちんとしなくては・・・の姿勢が

顔にでて、少々硬かったけど、それはそれで微笑ましいプリンセスたちの姿。

皇族として生まれた以上、こうやって「公式」の場になれていくのも大事な修行なのである。

 

ちょうどそのころ。

神宮の公園では弾ける笑顔の皇太子妃と、膝に乗って滑り台を滑りつつも無表情な

内親王が回りの注目を集めていた。

公園を取り囲む物々しいSP達。

背広姿の彼らのきつい視線の中で、一般人の親子は右往左往している。

最初は「マサコ様とアイコ様だわ」と飛び上がって喜び、バチバチ写真をとったり

話しかけようとしていたものの、女官達が「アイコ様に近づかないように」と

彼らがむやみに接してくるのを阻止し始め、子供達が物々しい警備の男達に

え始めると、最初の歓声はどこへやら・・・結果的に楽しそうに声を上げているのは

東宮夫妻と回りだけになった。

 

そんな様子を見ながらコワタはため息をついた。

私だけ逃げるのを許して頂戴ね)

タカギ女官長・・・コワタは最後の涙ぐんだ目を忘れはしない。

コワタが女官として上がったのは皇太子の結婚の年だからもう10年になるか。

その当時からすでに先輩としてタカギは君臨していた。

真面目で誠実で、いかにも「宮中の人」だった。

前の女官長、ナカマチは心理学の専門だった。いわゆるセラピーもかねていた。

というのも、多分当時から東宮妃の精神的な不安定さが指摘されていたからだと思う。

心に不安がある方がお妃とは・・・陛下もいよいよ東宮殿下には甘くていらして

などとずけずけ言うので、いつも誰かが

しーっ。聞こえましてよ」と唇に指をあてる。

そんな事を言われても平気だったのは、やっぱり「女官」という仕事に対する誇りもあったろうし

東宮妃よりもいわゆる、皇室でのキャリアは長いぞ・・・という気持ちもあったのではと。

だからナカマチが辞めた時に、東宮女官長を拝命するのは至極当然のことだった。

ナカマチさんも・・・今思えば耐えられなかったのかも

つぶやいた彼女の目は曇っていた。

ナカマチが就任当時から皇太子妃に疎んじられていたのは、誰でも知っている話だった。

皇太子妃の疎んじ方というのは決まっている。

徹底的に言う事をきかないとか「無視」というその一手である。

マサコにとって気に入らなかったのは多分「心理学の専門家」である事だった。

私をなんだと思っているの?」というのが妃の口癖で。

被害妄想としか言いようがないのだが、それをまた皇太子が一々取り上げて

女官長を退けるから段々とナカマチも自分に自信が持てなくなってしまった。

そう・・・「モチベーションを徹底的に潰す」というのが皇太子妃のやり方なのだ。

ナカマチの最後はやつれはてていた。

それでも愚痴をこぼすでもなく、誰かに訴えるでもなく、黙って退任していった。

もっとも、誰かに愚痴りでもしようものならそれこそ懲戒免職になりそうな雰囲気はあったのだが。

ナカマチの退任を受けて女官長に就任したタカギはナカマチよりももっと杓子定規だった。

「決まりを守る」のが信条のような人だったので、その厳しさに女官達も随分泣かされたものだ。

マサコがその「地位」をかさにきて、タカギを疎んじるようになったのは、就任まもなくだ。

妃はハーバード出の外務省職員と言う肩書を持って皇室に入った。

当然、回りはそういうキャリアを持つ、常識人であると思って接する。

けれど、数年たつうちにそれは間違いである事にみな気づいた。

しかし、「キャリア」だけはどんどん一人歩きして回りを悪者にする。

その代表的な人間が皇太子。マサコの夫である。

これまでのあれやこれやを思い出すたびに、コワタは悲しくなった。

内親王の様子がおかしい・・・・となった時から東宮御所は暗黒の世界に変わってしまった。

疑心暗鬼と人間不信にさいなまれた皇太子妃は徹底的に回りを敵に回し、自分の意見に

従う者だけを重用するようになった。

その一人が、今、すべり台の傍で盛んに「アイコ様、その調子」などと笑っている

オカヤマだ。

そもそも何で3度も普通の公園に遊びに来なくてはならないのか。

このことではタカギもコワタも最後まで反対した。

前回も前々回も回りに迷惑をかけるだけだった。前回などは公務をサボっての

公園遊びだ。

それは許される事ですか」と強く言った女官長にマサコは

皇太子殿下だって行かれるのよ。皇太子殿下は将来の天皇なんだけど」と言い返し

隣の皇太子はにこにこと笑いながら

一般の子供と同じ体験をさせたらいいと思う。僕はそういう経験がないから」と

マサコの肩を持つ。そんな姿に脱力した女官長は退職を申し出ても誰も止めなかった。

 

可哀想なアイコ様。東宮家の一の姫として生まれたのに・・・・本当の愛情というのは

おもちゃを沢山与えたり、こんな風に決まりを破って遊びに行く事ではないわ。

たとえ、少しお体に障りがあっても、誰よりも整った療育環境で、ちゃんとした内親王として

お育ちになれるのに。

アイコ様は2歳になっても、ろくろく言葉も話せず歩く事だって・・・・専門家に任せず

何でもご自分で解決しようとするからこういう事になるのよ。どうしてご夫婦そろってそれが

わからないのかしらね」

妃殿下はきっとショックだったんですわ。アイコ様の障碍が。そしてそれは皇室のお血筋の

せいだと思われている」

たとえそうでも、いえ、だからこそ、御簾のうちでひっそりと礼儀正しく生きて行けばいいの。

普通の子のように将来を心配しなくてもいい立場なんだもの」

妃殿下はアイコ様を天皇に?」

それは言ってはダメよ。絶対に」

 

公園ではアイコは無表情で、むしろはしゃいでいるのはマサコの方だった。

もしかしたらあの方は、小さい頃、公園で遊んだ経験がないのかもしれない。

だって、普通は大人が砂場や滑り台で遊びたいとは思わないものだから。

疑似体験・・・・妃殿下はお子様を通して自分の小さい頃を疑似体験なさっているのだろうか。

それはきっと皇太子殿下も。

そろそろ時間です。妃殿下お知らせを」

コワタは女官に言いつけると、回りのSP達に目配せをした。

彼らはささっと動く。

すでに夕方になりかかっている。

帰る時刻と言われたマサコは少し不満そうな顔でオカヤマに小さくささやいた。

両殿下とアイコ様は六本木のフレンチレストランへ行かれるそうです

え?

コワタは耳を疑った。

フレンチレストラン?そんな予定は入っていない。というか、予約もしていない。

東宮御所では大膳が夕餉の支度を整えている筈。

コワタは戸惑い、すぐに侍従長に連絡を取る。侍従長も何も聞いていないようだった。

コワタは皇太子夫妻の所にかけよった。

あの。レストランへ行かれるとか」

ええ。オカヤマが予約してくれたの。今からアイコも連れていくから

殿下・・も・・・それでよろしいのですか?」

いいよ。せっかく外に出て来たんだしね」

コワタは下品と思いつつもオカヤマの袖を引っ張って砂場の隅まで連れて行く。

どういう事なの。今日はそんな予定は入っていません。なぜ私に報告しないのですか

申し訳ありません。妃殿下がすぐに予約の電話を入れろとおっしゃって。無論

私もこういう事は東宮大夫や女官長に報告義務がある事はわかっています。

でも、両殿下が早く早くとせかされるし、もうどうしていいかわからなくて。携帯を持っていましたので

電話したらお席が空いているというし。

それで事後報告になりました。本当に、ついさっき、決まったんですのよ」

決まる前に私に報告するのが女官であるあなたの仕事ではないの?

何でもかんでも両殿下の言いなりになる事ではありません。それくらいは

まだなの?」

マサコがアイコを抱きながら遠くで叫んだ。

アイコがお腹すいちゃうよね」皇太子も言った。

コワタはおろおろとし「まず、こういう事は東宮大夫に報告し、それから皇宮警察の方に

連絡を入れて・・・という手順が」

それじゃ間に合わないでしょ」

マサコが怒鳴った。怒鳴ったので回りはピンと張りつめた糸のように緊張する。

皇宮警察の面々も、半ばあきれ、なかばうんざりしつつこっちを見ている。

彼らが残業になるのか、それとも人員を交代するのか。そういう事も極めて重要な事柄なのである。

日本の皇太子ってレストランにもいけないわけ?」

まるであざ笑うかのような言い方だった。

そんな風に言われた皇太子はちょっとむっとする。

言う通りにしてくれないと僕の立場が」

コワタはどうしようもなかった。

オカヤマ。両殿下について行きなさい。私は東宮御所に戻って色々手続するから」

オカヤマはにっこり笑って「承知しました」と答えた。

これだ・・・こういう事が重なってタカギは退任を決めたのだ。

そして結果的に誰も東宮女官長になるたがらなくて白羽の矢が立ったのが自分だったのだ。

オカヤマめ・・・・単純にご機嫌取りをしているだけなのか?

女官長の自分を軽んじるとは。

いやしかし、自分も彼女の立場だったら・・・・変に疑っては空気が悪くなる。

とにかく今は早急に宮内庁と皇宮警察に連絡をいれなくては。

大膳のシェフの顔が目に浮かぶ。

どんなにがっくりするだろう・・・いや、怒るだろうな。食材を無駄にしたと。

女官長になったばかりだからこういうミスをするんだろう」と言われるかもしれない。

きっとタカギだったら「いけません。そんな予約はすぐに取り消して帰るべきです」と

言ったかもしれない。

そういう勇気のない自分に嫌気がさす。

どれくらい・・・・もつかな。

頭の中に東宮大夫や東宮侍従長。皇宮警察の面々に大膳課の料理人の顔までが

詳細に浮かんできて、早くもコワタはノイローゼになりそうだった。

 

 

コメント (15)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国史劇風小説「天皇の母」151(ラブなフィクション)

2014-04-29 07:00:00 | 小説「天皇の母」141ー

まぶしい程の光が御所の窓から入ってくる。

真夏の暑さに、女官達は慌ててカーテンを閉める。

窓を開けて頂戴。自然の風の方がいいの

皇后はそういって、温かいお茶を飲んだ。

冷たいものをとらなくなってもう何十年になるだろうか。

女性は冷えてはいけないと漢方薬の先生に言われてから、どんなに暑くても

それ以上に熱い飲み物をとっていた。

でもあなたは冷たい方がよろしいわね

皇后は目の前に座る医務主管に冷たい麦茶を持ってくるように指示した。

いやはや・・・情けない事でございます。私は陛下のように覚悟が定まりませんで。

やっぱり夏は冷たいものじゃないと」

医務主管は汗をかきかき、運ばれてきた麦茶に口をつける。

医者の不養生というものね

皇后は少し笑った。しかし、となりの天皇は笑う事が出来ないようだった。

 

マスコミに取り上げられて大騒ぎした2度の公園デビュー。

1度は皇宮警察音楽隊の式典をサボってのものだったので

さすがに頭に来て皇太子に直々に苦言を呈した。

このような事は初めてだ。近代の皇室始まって以来の事だと。

すると、考えられない事に皇太子はうんざりと・・・・本当にうんざりとした顔をしたのだ。

マサコがどうしてもあの日でないとと言ったので

妃をいさめるのが夫たる親王の役割ではないのか。ただ甘やかせばいいと

いうものではない。きちんと皇室の中で妃として生きて行けるように導くのが

夫として、皇太子としての仕事だろう」

マサコは好きで皇室に入ったんじゃないんです

皇太子の言葉はいつもこれだった。

マサコは優秀な外交官でした。でも僕と結婚する為にその職を捨ててくれたんです。

子供が出来なかった事でプレッシャーに苦しんで来ました。やっと生まれた

アイコの為に色々やるのがどうしていけないんですか?」

もう何度、同じ言葉を繰り返してきたろうか。

天皇も皇后もそれ以上は何も言えなかった。

好きで皇室に入ったんじゃない」という思いが貫いているのだとすれば

それはあまりにもひどい結婚生活だ。

だのに皇太子は嫌がるどころかマサコの肩を持ち、というよりマサコそのもののように

見える。

 

陛下

医務主管は声をかけた。

天皇は「ああ・・」と頷く。

「お加減がよろしくないのでしょうか?もう一度診察を?」

いや、そうじゃないよ。そうじゃないけどね。やっぱりね。東宮に2番目は無理かね」

天皇ははるか昔を振り返っていた。

かつて自分もまた「マイホームな皇太子」と呼ばれた事があった。

結婚してすぐに授かったヒロノミヤ。その後、皇太子妃は流産し、精神的に病んで

ヒロノミヤの存在だけが唯一の救いだったのだ。

あの時、自分は妻が「憲法」と呼ばれる程こまごまとした指示を女官達に下すのを

黙ってみていた。

スポック博士の育児書片手に「こうしなくては・・・ああしなくては」と悩みつつ

最高の育児をしようと頑張りすぎる妻に口出しできるものではなかった。

最初は天才と思われていた我が息子も、大きくなるに従っておっとりとした・・・・

どことなく姉達に似ている様子で。

だからこそ「ヒロノミヤは将来天皇になるのだからプレッシャーを与えないように

甘く」育ててきた。一方のアヤノミヤは生まれた時から才気煥発で先帝にも

気に入られていた。

いわばほったらかしにしても育ってくれる子だった。

だから「アヤノミヤは将来兄を支える立場だから厳しく」育てた。

手がかかる息子ほど可愛いというのは本当で、ミチコは過保護すぎるほど

過保護に育てていたのだ。

だから、皇太子妃を責めたり出来ない。

しかし、あの頃の自分達は公務をおろそかにしてまで育児にかかりきりになる

事はなかったのだ。

どちらの息子も同じように可愛い。

しかし・・・・どうしても手がかかる方に目が行くのは自然な事だ。

そしてこの時、天皇と皇后には一つの思い込みがあった。

それは「皇太子の息子が天皇になるべきだ」という事だ。

皇室の歴史を振り返れば、長子相続の方が少ないのだが、どういうわけか

そうでなければ争いが起こる」と思い込んでいたのである。

それは歴史を精査しての事というよりも、何となくのイメージだ。

だが、そのイメージは深く深く国民の間にも浸透している。

本当を言えば、公務を休んでまで公園デビューした皇太子夫妻の気持ちが

全くわからない。

しかし、ここで頭ごなしに怒鳴りつけても皇太子はますます意固地になるだろうし

夫婦仲も悪くなるだろいうという危惧もあった。

どうだろうね

出産年齢も昔に比べれば上がって来ていますし、今は40代の出産も珍しく

なくなっています。マサコ様は40におなりで・・・不可能ではございますまい。

すでにアイコ様がいらっしゃるので、危険性もそれ程」

あとは二人の気持ち次第だというのだね」

はい。両殿下は第二子をお望みでないと伺っております」

医務主管は冷や汗をかきながら言った。

トシノミヤの障碍の事はそれとなく天皇には伝えた。

あの時、大騒ぎしたマサコと違って天皇も皇后もあまり驚かなかった。

皇位継承権のある男子ではなかったし、天皇の姉二人もまた「ごゆっくりさん」で

あったのだから。

だからトシノミヤも内親王としてふさわしい静かな暮らしをすればそれでよかった。

なのに世論はどんどん「女帝」の方向へ向かっているように見える。

これはもしかしたら国民の総意なのかもしれない。

やはり長子相続が・・・・・しかし、もう一度だけ、もう一度だけ挑戦して欲しかった。

出産を強要するわけには・・・」

皇后は言葉を抑えた。

二人の合意の元で行わなければ何とも

確かに、トシノミヤ出産の蔭には「顕微授精」という科学的な力が大きく働いた。

いわば人工的に生まれたのがトシノミヤだ。

「神の手」を持つ医師、ツツミの元で本当は男子として生まれる筈だったトシノミヤ。

しかし男子ではなく女子だった所に、神といえども本当の神の意志には逆らえない

事実をしり、畏怖した。

医務主管は皇后のあまりにも「お優しい」その言葉に少し反感を覚えた。

一体、皇統断絶の危機だというのに何を悠長な事を言っているのか。

出産の強要が惨いというなら産児制限はどうなるのだ?

アキシノノミヤ家はもう10年近く3番目が出来ないようにしている。

あれ程子供好きで立派に二人の内親王を育てているアキシノノミヤ家の

事はどうでもいいのだろうか。

不敬だな・・と思いつつも、医務主管は天皇がのんきに構えすぎているような

気がしてならなかった。

だから思い切って「キコ様も限界が近づいておりますれば」と言った。

それを聞くと天皇は「・・そうだね」という。

それが否定なのか肯定なのかよくわからない。

でもカコちゃんが生まれた時に・・・」と皇后がいいかけ、やめたので

その沈黙を破ってさらに医務主管はたたみかけた。

どのようなプレッシャーにも負けない意志の強さをアキシノノミヤご夫妻は

持っていらっしゃる。何よりキコ様は健康で丈夫でいらっしゃる。

宮家にも後継ぎが必要でしょう」

天皇はちらりと皇后を見た。

皇后はつぶやくように「また女の子だったら・・・」という。

 

一体、皇后は何に拘っているのだろう。

医務主管にはさっぱりわからなかった。

ご自分はさっさと後継ぎの男子に恵まれたから何も思わないのだろうか。

むしろマサコ妃への同情の念の方が強いのだろうか。

流産のご経験があったから?

いやいや、皇后の心の中にはジェンダー思想が入っているのではないか。

だが、そんな事を根掘り葉掘り聞く立場にはない。

天皇が「いいよ」と言えばそれで全てはスタートするのだ。

こう申し上げてはなんですが・・・・・」と医務主管は切り出した。

私は東宮医師ではありませんから、直接診察する立場にはございません。

また最近、東宮御所の医師は遠ざけられているとの話もございます。

妃殿下が脈を取られたりするのをひどく嫌がられるからでございます。

ですからはっきりと東宮御所で何が起きているか・・・私には申しあげる権利は

ないのでございますが。

どうにも皇太子妃殿下は心を病んでいらっしゃるのではないかと

それはそうでしょう。トシノミヤの事などを思えば

皇后が言った。

もし第2子を懐妊してもまたそうだったらと思えば怖いでしょうし。だからこそ

無理じいは出来ないと思いますよ

二番目もそうなるという確率は高いの?」

医学的にどうこうは申し上げられません。こればかりは。しかし、皇太子妃殿下が

お子様を産むにはあまりいい精神状態でない事だけは確かです。一方でアキシノノミヤ夫妻

は心身共に健康でいらっしゃる。お二人の内親王殿下もお健やかです」

けれど、皇太子よりも宮家に先に男子が出来たら

まるで先が見えるようだと言わんばかりの皇后の言葉だ。

もうこれ以上は無理かと医務主管は声を発するのをやめて、麦茶を飲んだ。

もうかなりぬるくなっていた。

両方に子供が出来ればいいのだね

天皇が言った。

それを実質的なゴーサインと医務主管は受け取った。

 

その頃、マサコは3度目の「公園デビュー」に挑戦していた。

どうしたって納得できなかったのだ。

何度も普通の子供のように遊ばせ、普通の子供のように扱えば

いわゆる「普通」になるのではないかと、そればかりを願っていた。

6月にレイコに男子が生まれてから、マサコの内なる焦りはますますひどく

なっていく。

今まで妹に負けた事などなかったのに・・・・・

レイコの見舞いに訪れた時、かろうじて医師達に

「ありがとう」姉らしくねぎらいの言葉をかけたものの、内心でははらわたが

煮えくり返っていた。

レイコの得意そうな顔を見るとさらに怒りは増幅した。

でも・・・レイコの子は庶民だ。天皇になれるわけではない。

そう思ってやっと溜飲を下げたのだが。

皇太子妃であること。将来の皇后である事。自分にとって価値はそれしかないと

実感せざるを得なかった。

プラス将来の「天皇の母」でなくては。

女帝にすればいいのだ」

父の声が胸をよぎる。

そうだ。アイコは女帝になる運命なのだ。

だからこそ、どこまでも優秀でなくてはならない。

皇太子の気持ちはやがて冷めるかもしれないし、皇室が敵に回るかもしれない。

でも、アイコという「天皇の孫にして皇太子の娘」を取り込んでおけば。

それは理屈ではなかった。

マサコの、いわば本能的な生存への道がそう思わせているのだった。

 

 

 

コメント (15)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする