ふぶきの部屋

皇室問題を中心に、政治から宝塚まで。
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韓国史劇風小説「天皇の母」200(ねずみランドのフィクション2)

2015-12-28 12:16:00 | 小説「天皇の母」181-

そもそも皇族がテーマパークに行くことがあるんでしょうか?

かつて、ノリノミヤ様が高校生だったころにお忍びでいらした事はあったようです。

ニュースにもなったはずで、母さんは覚えていますか?

駅の改札の方も知っていたけど知らん顔してお通ししたと。

宮様はお友達と一緒に一般客に紛れて、順番もお守りになってひっそりと

楽しまれたと聞いています。

だけど、今回の東宮家のテーマパーク行きは信じられないほど仰々しいものでした。

「アイコが行きたがっている。皇族だからって行けないのは人権侵害」とまで

妃殿下はおっしゃったとか。

上司は頭をかかえて、あちらの人達と交渉。

最初は「貸し切り」を提案したそうです。

日本一のテーマパークを貸し切り。そんな事が出来るんでしょうか?

中近東の王族などが時折、金に任せて夕方以降に貸切る事はあるそうですけど

さすがに真昼間には無理・・・・との話でした。

でもねずみランドは一日の入場者数が5000人とか1万人で、年中無休が売り。

さらにホテルが出来て、そこに宿泊している人は無条件に入場できるわけで。

理由もなく追い出すわけにもいかず。あちらは「営業妨害になりかねない」として

断ってました。

それで皇宮警察としても「警備上の都合」で真昼に貸し切りは出来ないし、不特定多数の

人達が多いため、今回は見送り・・・という事で報告しました。

すると、東宮大夫の方から

「貸し切りは諦めるから最高のもてなしを要求する」という話が来たのです。

意味がわからず、僕たちは戸惑いました。

こっそり入場したのではばれた時に大騒ぎになるから、最初から

「皇太子一家が来る」と宣伝しておいて、特別扱いで園を回るというものです。

それが決まるや否や、僕たちはすぐに下見に駆り出されました。

当日、一旦休憩するホテルの下見、ランドと併設しているシーの客数の把握に

盲点がないかどうか。

どこからだって狙えるし、何かしようとすれば群衆に紛れてなんでもできる。

それが遊園地というものでしょう?

僕達は綿密に計画を立て、ほぼ徹夜状態で園と交渉を重ね、食事場所や休憩場所の

確保、そしてアトラクションに優先的に乗る事が出来る権利を確保。

一方で、武器や暴力行為をみなされそうなものを全て排除し、死角を無くし

何メートル置きで警察官を配備するとか・・・

あちらは「そもそも夢の国なんですから、制服は困る。目つきが鋭いのも困る。

現実を思わせるものは全て排除したい」との申し入れ。

そうはいってもこちらは東宮ご一家の安全が第一ですし。

国民の遊びを優先するのか、皇族の権利を優先するのかで両者は対立。

僕のような末端の者の耳にまで

皇族ってやりたい放題でいいですね」

なんて言葉がちらほらと聞こえてきました。

もっともそんな言葉は上には届きませんけどね。

さらに面倒なことに、当日入園するのは東宮ご一家だけでなく、

妃殿下の妹君のご家族、アイコ様のお友達の一家も増えるとなって

僕達は釈然としない思いになりました。

皇族でない人達を最大級の警護で迎えるわけですから。

 

3月13日はひどく寒くてどんよりとした日でした。

春休み期間中なので学生や小さい子供が沢山いました。

入場制限がかかるか否かというような状態でした。

僕達はシーに隣接しているホテルの警備にあたりました。

制服はダメと言われていましたが、そんな事は言ってはいられません。

ご一家の身に何かあったら困りますから。

ホテルの前にはSPがぞろぞろ。機動隊の車にパトカー数台。

千葉県警の応援を得て、これ以上ないというくらい厚い警備を敷いたのです。

ホテルの宿泊者以外の人間が通る度に

今日は特別な訓練があるのでご容赦を」と言って追い返し、彼らが

せっかく来たのに・・・」とぶつぶつ言いながら帰っていく姿をどれくらい見送った事でしょう。

そうです。この日本一のテーマパークは「晴れの日」の象徴。

誰でも気軽にいつでも来られる場所ではないのです。

特に地方の人達にとっては年に一度、あるいは数年に一度のイベントでしょう。

その「晴れの日」にぞろぞろと警察の車がびっしりと並んで、目つきの鋭い警官が

職務質問し、あるいは追い返し・・・僕は胸がつぶれる思いでした。

 

無論、マスコミも大勢来ていました。

テレビカメラが何台も詰めかけて一斉にシーに入り、あっちからもこっちらからも

撮影に余念がない。

そしてホテルの窓からアイコ様が顔を出されました。

マスコミのカメラが一斉にとそちらを向きました。

宮様はどこまでも無表情で、一人冷静に見えました。

どんな子供でも大喜びする夢の国のおとぎの城の中にいるというのに。

そして11時近くになって初めて東宮家、イケダ家、学友一家が姿を現しました。

最も輝いていたのは妃殿下のお顔です。

白いタートルネックのセーターにピンクのジャケット、パンツスタイルで

頬を紅潮させて嬉しくてしょうがないと言った風情でした。

ひっきりなしに、アイコ様に何か話しかけていらっしゃいましたが、

アイコ様は顔色が悪く無表情のままで、水色のコートに埋もれそうになっていました。

 

妃殿下の妹さんはにこにこ笑って手を振っていらっしゃいました。

自称「準皇族」としてふるまっていたのだと思います。

お連れのぼっちゃんもそんな雰囲気でした。

学友のご家族はいたたまれない風情でついて来るといった感じです。

さて、テーマパークの主役のねずみがお迎えし、親し気に宮様の方へ手を差し出すと

宮様は急に怯えて殿下の後ろに隠れてしまいました。

両殿下は爆笑して、宮様の手をとり、必死にねずみ君の方へおしやろうとします。

でも宮様はなかなか頑固で隠れたまま。

人気者のねずみ君は予想もしないリアクションに戸惑っているようでした。

ご一家はオープンカーに乗られました。

皇太子ご一家です」とアナウンスがあり、観客はわあっと声をあげ、一斉に携帯の

カメラで撮影しようとする。当然マスコミも盛り上がり、あっちこっちでレポーターの声が

響きました。

カメラが負担」

「不特定多数の人から見つめられるのが負担」

とおっしゃっている妃殿下がこの日は誰よりも体調がよさそうで笑顔を絶やさず

嬉しそうに得意げに手を振っていらっしゃいました。

 

そこまではよかったのですが・・・・それからが本当に大変でした。

なんせ観客がご一家を追いかけて走りだしたのです。

誰がそれらの人達を責められるしょう。

だって大宣伝しているんですから。おっかけをしろと言っているようなものでは

ありませんか。

それを僕たちが制し「走らないで下さい」と言って回る。

誰かが両殿下に近づきそうになったら、さらにそれを手で制し「ダメです」と叫ぶ。

そうやって叫んだり、怒ったりするとすぐに園の管理職から

強面では困ります」とクレームが来る。

だけど、園内は人が多くてごったがえし状態。

そんな中を皇太子ご一家は悠々と歩いたり立ち止まったり、予想もしない場所へ

移動されるのですからたまったものではありません。

アトラクションは一行が到着した時点で「機械調整中の為中止」の札がかけられ、

御一行は貸し切りでアトラクションを楽しまれる。

一般の観客が1時間も2時間も待っていたのに、突然「中止」になり

いつ再開するかわからない状態になり、怒り出しました。

何時間待たせてるんだよっ!いい加減にしろ!」

八つ当たりされるキャスト達はひたすら平謝りです。

それはアトラクションに限らず、ワゴンやショップも同じ状態でした。

気まぐれにアイコ様とイケダ家の坊やがショップに入ったとたん、その店の

一般客は追い出され、貸し切り状態になります。

アイコ様は気にいったぬいぐるみやおもちゃをかごにぽんぽん入れていくし

坊やもそれを真似します。妃殿下は楽しそうにそれを見ていらっしゃいますし

殿下はまたビールを片手に目を細めていらっしゃいます。

 

やっとお昼になったころは、僕たちは頭が痛くなる程疲れてしまいました。

御一行は一旦ホテルに戻り、レストランを貸し切って食事をされます。

実は食事の時間も未定だったので、レストランは通常営業していたのですが

御一行が入る5分前に客を全員追い出してしまいました。

そんなことを知っているのか知らないのか、両殿下もイケダ様御一行も

ただただ「お腹空いたねーー」などとおっしゃってレストランに入っていかれました。

僕達は昼も食べずに次の予定を確認し、警備に走りました。

正直いうと、本来は午前中一杯シーにいる予定ではなかったのです。

少しご覧になって、すぐにランドに移動する予定だったのです。

しかし、思いのほかシーをお気に召した妃殿下が、あっちこっちと歩き回られ

アイコ様はそれに引きずられているような印象でした。

 

マスコミの連中も、何とか情報を探り出そうと僕達に近寄って来るのですが

僕達ですら先の事はわかりません。

気温はどんどん低くなり、空はますます曇って来ました。

トゥーンタウン!」

突如、指令が下り、警備担当が走り出しました。

それをおいかけてマスコミも走り出す。

さらに「何事か」というように客たちもそちらを向き、野次馬根性で追いかけていく。

そんな光景を見ながら僕はすっかりうんざりしてしまいました。

 

実はトゥーンタウンには警備車両しか置かないのですが

それでも観客を整理しようと沢山の警官が叫び声をあげ

「トイレにもいけないっていうの!」という母親の声も響き・・・・

騒然となってしまいました。

御一行は2時間半も昼食を楽しまれ、やがてランドに入り

今度はパレードを楽しまれました。

押さないで!皇太子ご一家を見ないで下さい!」と警官が怒り

どこを見ようと勝手じゃないか」と客が騒げば「逮捕しますよ」と脅す。

一方、パレードの間中、付近の道は全部封鎖してしまったので

トイレに行けなかった子供達も多数いたようで、泣き声や怒鳴り声が響き

しょうがないので、芝生の上で用をたした子供たちがキャストに叱られると

いった事態が発生しました。

きっと外国でこんな事が起こったら、一斉にクレームと、下手したらデモに

発展しかねない状態になると思うのですが、日本人は本当に優しいというか

寛大というか、この期に及んでも「マサコさま!アイコ様!」と黄色い声を発し

写真をパシャパシャ撮りまくる若い女性達がいるのです。

一生に一度あるかないかの幸運」と喜ぶ人達の姿を見て

僕達も笑ったらいいのかどうなのか、わからなくなりました。

 

本当は午後3時には園を後にしなくてはならなかったのですが、

妃殿下が「ショップに行きたい」とおっしゃったので、あっちこっちの

ショップが貸し切り状態。

シーよりもランドの方が客が多く、ごった返す中、通路を確保する為に

客たちを右に左に寄せたり、「今すぐ出て下さい」と命令したり

大忙しでした。

人気が高く、2時間待ちは当たり前のアトラクションも気まぐれに入り

その時点で「中止」になり、またもや客から大声で怒鳴られるキャスト達。

「しょうがないじゃん。皇族なんだからさ」という若者たち。

でも子連れの家族たちはそうはいきません。

貴重な時間をなるべく有意義に過ごそうとしているのに・・・・・その無念さは

激しく僕達にも伝わっているのですが。

そんな騒然とした中で、両殿下は慌てずに悠々と買い物を楽しまれます。

まるで他の客など眼中にないようでした。

アイコ様は最初から最後まで無表情で、つまらなそうにコンフェを集めていらっしゃり

一体、どなたの為の遊びだったのだろうと考えさせられました。

 

午後4時過ぎ、漸く満足した御一行は帰途につかれました。

後から「もう二度と来ないで頂きたい」と申し入れがあったらしいと。

噂にすぎませんが、さもありなんと思います。

皇宮警察、そして県警、それらを総動員してお遊びに励んだ東宮ご一家。

次はシーワールドへ

という話も来ました。

僕達はすっかり蒼くなってしまったのでした。

 

母さん、僕は自分の仕事に疑問を覚えています。

最近はよく眠れなくなりました。

誇りを持って仕事に入れなくなりました。

気にするな。スルーしろ」と同僚には言われます。

俺たちは所詮公務員だから上の言う通りにやっていれば

何とかなる」と。

その通りなんだと思います。

今、僕は孤独です。

 

母さん、まだまだ寒い日が続きます。

体には十分気をつけてください。

ではまた。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」199(ねずみランドのフィクション1)

2015-12-21 07:00:00 | 小説「天皇の母」181-

母さん。

暫く手紙を出さなくてすみませんでした。

メールでもいいかなと思うけど、母さんは苦手だし、直筆の手紙がいいというから。

でもこれからはメールにしますね。

色々忙しくて手紙を書く暇がないのです。

それに、少し疲れていて。若いのに変ですか?でも心配しないで下さい。

こういう特殊な仕事をしていると責任が重いんです。

僕のような下っ端ですら。

このたびの妃殿下のご懐妊は、僕たち下っ端の者達をも二分するような

事になってます。慶事だというのにどうしてなんでしょうね。

新しい東宮大夫が着任するなり、皇太子妃殿下の活動が活発になりました。

なんでも彼は、妃殿下の父君の部下だったそうで、妃殿下とも親しいらしいです。

そのせいか、妃殿下がご自分の意見をおっしゃる前に先回りして

手配するんです。

それがもう早いのなんのって・・・・ああ、愚痴です。母さん、すみません。

でも職場では何も言えませんから、少し聞いて下さい。

東宮大夫というのは東宮職の中で一番偉い人です。

定例の記者会見があって、そこで両殿下の動静を知らせたり、両殿下の意志を

伝えたりします。

僕たち皇宮警察の者も、東宮大夫が決定したスケジュールに沿って

警備を行います。

そのスケジュールは数か月前には決まっていて、予行演習を何度も行い

数秒の違いもないように行動するのです。

それというのも、両殿下が動くと信号操作をしてノンストップになるし

訪問先の予定をも変える状態になるので。

国民に迷惑をかけないように・・・というのが両陛下の思し召しですから

とにかくきっちりとスケジュールを立てるのです。

でも、今年に入ってからは予定外が多く、

特にご懐妊がわかってからの東宮家は「思いつき」の行動が多くて。

例えば、ご懐妊がわかった翌日の「盆栽展」

これは殿下が一人で行かれる予定だったのですが、突如妃殿下も

同行されるとおっしゃって・・・・

決まったのが1時間前ですよ。

座席に座ればいいというものではありません。車列も違うし迎える方も変わります。

出来ればもう少し早く教えてくれればと思うのですが

体調がいいときに積極的におでましになる事は治療の一環である

という東宮大夫の言葉で終わってしまいます。

2月のスキー旅行が中止になったんだから文句をいうな」と言われました。

でも妃殿下は病気のはずで。

どうしてスキーに行けるのか不思議ですし、中止になったのが病気云々ではなく

豪雪の被害が多かった為」というのが、ひどく両殿下の勘に触ったと

聞きました。

本来、天皇皇后両陛下、皇太子ご夫妻、宮家の方々は

国の安泰を願うのがお仕事で「私」というのはありません。

ゆえに、災害などが多発すると静養を取りやめられたりしたのです。

しかし、皇太子ご夫妻は、そういうことでご自分達の行動を制限されるのが

たまらなく嫌なのだそうです。

「権利」があるかららしいです。

高貴な方の権利意識はすごいですね。

 

例えば、先日、突如「上野動物園に行く」とおっしゃって。

警備上の都合があるので、行かれるのなら新学期が始まってからと

申し上げたら妃殿下が激怒されたそうです。

何でも内親王殿下のご教育には絶対に動物園訪問が必要で

しかもそれが幼稚園入園前じゃないといけないというのです。

母さん、僕は子育てをしたことがありません。

子供が幼稚園に入る直前に動物園に行くことが必要なんでしょうか?

僕の上司などは怒りだして、何度か東宮職とやりあっていましたが

東宮大夫が「東宮家の思し召しは絶対」と言い切り、

ただでさえ妃殿下はご懐妊問題で傷ついておられる。だからせめて

動物園に行きたいというくらいきかなくてどうする」と上司に詰め寄ったらしいです。

その時、上司は

やっぱりそうなのか・・・」と思ったそうです。

僕にはさっぱりわかりませんが。

3月は3日に、内親王殿下がご入園になる幼稚園のひな祭りがあり

妃殿下と内親王、お二人でおでましでした。

その時もお友達のご家族と予定を大きくオーバーされて、信号機の操作もあり

僕たちは一分一秒に翻弄され、へとへとになりました。

5日には両殿下がおそろいで

ワールドベースボール日韓戦におでましに。

この時も殿下おひとりの予定だったのですが、急きょ、妃殿下の同行が決定。

という事は時間が予定通りに進むはずがなく、

出発から大幅に遅れてしまった為、突如、ほとんどの信号を青にして

走りまくってしまい。

まるで救急車でしたよ(笑)

先回りしている僕達はイライラしながら待っていました。

で、3月初旬の月曜日。つまり休園日に無理無理動物園を開けて

東宮一家は内親王殿下のお友達一家4組と訪問されたのです。

閑散とした動物園に嬌声が響き渡りました。

客がいなくても警備を怠るわけではありません。

両殿下も内親王も気まぐれにあっちこっち移動し、西園への電車にまで乗って

いかれるので、それをおいかける僕たちはいつも走ってばかりです。

休園日だというのに、いつものように出勤させられた職員は苦笑いしているし

売店も開けさせて、子供たちが好きなものをどんどん手にとっていくさまは

ちょっと異様でした。

東宮家は皇族だから仕方ないとしても、お友達一家まで、「皇族」のように

好き勝手振る舞い、それを両殿下が笑ってお許しになっているのです。

内親王が一番興味なさそうな顔で、ぬいぐるみばかり

いじっているのが印象的でした。

動物園で遊びたかったのは実は妃殿下なんでしょうね。

その日は、予定を2時間もオーバーしました。

殿下は売店のビールを開けて楽しそうに飲んでおられました。

妃殿下とママたちはおしゃべりに夢中になっていたかと思えば

いきなり「あっちのオリにいってみない?」と動かれ、よく疲れないものだなと思いました。

正直、動物園からは

いくら皇太子ご夫妻といったって時間くらいは守って頂かないと。

動物というのはデリケートで、ただでさえ衆人環視の下にいるので

たまには休ませてもらわないといけません。でも、あの方たちは

一つのオリの前で延々とおしゃべりされて。

くわしく観察して勉強されるならまだしも、子供達は好き勝手に走り回って

動物を見るでもなく、売店の食べ物やおもちゃを掴んでいく。

そういう事が許されるんでしょうか」

と言われ、聞いていた僕たちは言葉もありませんでした。

後日、東宮大夫に報告した上司は、逆に

君は誰に仕えているのか」と叱られたそうです。

両殿下がそれを望むならそ、白が黒であってもそれが正しい」と言われたそうで。

僕たちは釈然としない気持ちでいたんですが。

 

妃殿下の何がどう病気なのか僕にはわかりません。

でも、確かに他の皇族方とは違います。

立ち居振る舞いも考え方も。

何というか、僕達が小さい頃から親しんでいた皇室とは

違うのです。

仕える僕達は、どことなく奴隷になったような気分です。

しかも毎回、後味が悪いです。

みんないい気分にならないまま、ご本人達だけが楽しんでいるからです。

しかも少しでも批判しようものなら「病気の妃殿下を責める」と叱られてしまい。

心の病気というのはやっかいですね。

とにかく「肯定」しないといけないんですから。

 

そして僕たちは最も疲れる日に遭遇したのでした。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」198(逆襲のフィクション2)

2015-12-10 07:00:00 | 小説「天皇の母」181-

その年の誕生日の内祝にキコは欠席した。

そんなに体調が悪いのか」と東宮職から質問をさせてみたが

高齢出産になるので大事をとりました」とのこと。

何が高齢出産だ。マサコだって38で出産しているというのに。

再度「少しの時間でも構わないから出席すべきでは」と言わせたが

今回ばかりは宮の意志が固く

男にはわからない体調の波があるようで」と返答した。

体調云々を言われたら言い返せない。

こちらも脛に傷を持つ身。これ以上は追及できなかった。

ナツメも役に立たなかったのである。

まさかそんなことを警戒したとでもいうのだろうか?

皇太子は少しいぶかってみたが、本人に言うわけにはいかない。

不機嫌な妻と強気の舅に挟まれて、皇太子はどうしたらいいかわからなくなった。

妃殿下は高齢出産であられますから、お気をつけないといけませんなあ

ヒサシが言い、ユミコが

ほんと。まあ3人目でいらっしゃるから慣れたものでしょうが」というと、

皇族方はみな黙ってしまった。

宮は微笑みながら「ありがとう」と答える。

それにしても殿下はお元気でいらっしゃる。私など40にもなればいい歳で

とてもとても子をなすなど。東宮様といい、皇室は精力旺盛だからこそ

2000年も続いてきたのでしょう」

ヒサシは多少の酔いもあって、少し気が大きくなったようである。

殿下はナマズのご研究をされていたんでしたかな。すっぽんではなく?」

などと下品な冗談を言い募る。

宮は「すっぽんも面白そうですね」と相変わらず笑っている。

たまらず皇后が

東宮妃の体調も上向きでよい事ですね」と話を向けると、ヒサシは

陛下にはふがいない娘で恐縮しています。なにせ2人目を諦めたと言いましてね。

まあ、年齢からみれば当然ですよ。とても宮様のような勇気はございません。

これからはトシノミヤ様の養育に専念するとおっしゃっています。

それがいいでしょうね」

そうね」

皇后はそう言うしかなく黙った。

誕生日の宴というのに、どこまでも殺伐としている。

将来、総理大臣にもなれると言われた娘が、今はこんな有様です。

一体どうしてなのか、私にもわかりません。

娘が得てきた知識も経験も皇室という奥深い場所では何の役にも立たなかった

という事でございましょうなあ」

「お父様のおっしゃる通りにしただけじゃない

マサコのセリフにヒサシは笑った。

ほら、いつもこうして私を責めるのです。まるで私が無理に入内を勧めたかのようにね。

私はあの時、もうしたんですよ。

皇室とて、そこにいらっしゃるのは人間であるから理解し合えない筈はないと。

どんな立場の、どんな地位の人間も平等にそこに存在しているんだから

なんでも口にして聞けばいいのだと。そうではありませんか?」

ええ・・・」

皇后は答えに窮する。ヒサシのいう通りだと信じて入内したあの日を思い出す。

人間みな平等。皇族も人間。現人神ではない。

だからこそ血筋に惑わされるのは間違っている。

人間はその性格や知性によって評価されるべきであると。

そうはいっても、皇太子妃の「適応障害」は少しも成功しているとは思えない。

一部に批判の芽がある事は皇后の耳にも入っている。

かつて葉山にこもった自分が批判された事は一度もなかったのであるが。

でも皇太子妃としての務めがあります。妃もそのあたりをよく考えているでしょう

そんな言い方しかできなかった。

この日の宴は完全にヒサシの勝ちだった。

 

いつもいつも「皇室」「自己」の間で葛藤と矛盾を感じる天皇と皇后は

民主主義時代の皇室の在り方について未来を失っていた。

 

数日後、一人で参内した皇太子は、今年の誕生日がとても悲しかったと母に訴えた。

世間の期待が一気にアキシノノミヤに移ってしまったんでしょうか。

僕は存在してはいけないんでしょうか」

誰がそんなことをいうのです。あなたは東宮です。将来の陛下なんですよ

でもアイコは男の子じゃありません。マサコももう子供を産むのは嫌だと言っているんです。

無理は言えません。もし、宮の所に男子が生まれたらどうなるんでしょうか」

そうだとしてもあなたは東宮だし、立場は変わりませんよ」

そうでしょうか。僕なんかいつだって貧乏くじばかり引いてます。昔から

アーヤの方が背が高くて頭がよくて」

あなたにはあなたのいい所が沢山あるんですよ。それにあなたは陛下の長男。

背の高さだの頭だのって関係ありません」

僕、結婚に失敗したんでしょうか」

皇太子はしょぼんとして呟く。

どうしてそんなことを?」

皇后はびっくりして顔を覗き込む。じんわりと皇太子の瞳には涙が浮かんでいる。

おたあさま」

皇太子は目をこすりながら言った。

おたあさまやおもうさまがマサコのことを不満に思っている事は知っています。

僕だって時々、堪忍袋の緒が切れそうになります。

結婚する前のマサコは明るくて優しそうだったのに、結婚してからは変わりました。

いつも不満を抱えて、あれが嫌だこれが嫌だと。

最初は僕も怒っていたんです。だけど、マサコの気持ちもわかるような気がしました。

だって、彼女はものすごく優秀で自由自在に世界を飛び回っていたんですから。

皇室という狭い場所に閉じ込めた僕が悪いんです。本当にそうだと思います」

ナルちゃん。皇太子妃になるという事がどんなことか、妃にもわかっていたでしょう。

その上で結婚を承諾したのですよ。あれからもう10年以上が過ぎました。

子供もなして、夫婦として形が出来ている筈でしょう。今更失敗も何も」

おたあさまはそんな風に思った事はないのですか」

聞かれて皇后の胸によみがえったのは苦いコーヒーのような日々だった。

戦争時代、こんな窮屈な世界は嫌だと子供心に思っていた。

あの館林の日々。地元の子供達になじめなくて、何もかも違っていた。

しかもお腹がすいていた。

そんな日々を抜け出して戦後の自由を謳歌したいた時に来た入内話。

「民意」を背負っての入内だった。

そう信じている。世間は全て自分の味方だった。

日本中で最も美しく気高い女性、それが「ミチコ妃」だった。

なのに、皇室は私を拒もうとした。「血筋」一つを盾にとって。

皇室の悪しき価値観を50年かけて変えてきた筈だ。

なのに、まだ苦しんでいる女性がいるのも事実。

そして最も大事な息子が翻弄され、傷つけられ悩んでいる。

私は陛下のお心に従って生きてこられたのよ。どんな時でも陛下の

お導きがあったからあなたを育て、アーヤやサーヤを育て、皇太子妃として

皇后として生きてこられたのです

僕にはそんな力はありません。妻を導くなんて」

ナルちゃん

おもうさまみたいに立派じゃありません。僕自身が今の生活が不満でならないのに

妻に我慢しろと言えますか。僕はずっと我慢してきました。

見張られているような自由のない生活を。

だけど仕方ない。だって僕は将来天皇にならないといけないんですから。

そうはいっても、時々やりきれなくなるんです。

せめてマサコがもう少し機嫌がよかったら僕も耐えられるんですけど」

皇后はたまらなくなって、思わず皇太子の両手をぎゅっと握りしめた。

大変な立場に産んでしまってごめんなさい。でも私はあなたを誇りにしていますよ

僕はマサコがいないとダメなんです」

皇太子はしくしくと泣き出した。

マサコなしでは生きていけない。もう踏み込んでしまったんです。

僕にはマサコと一緒の人生以外、考えられないんです。

僕にはもう、僕には・・・・もう、この道しかないんです」

この道しかない。

あの不出来な皇太子妃と一生をともにするしかない人生・・・・

皇后の頭の中で何かが目まぐるしく動き始めた。

確かに今、離婚しても皇太子にメリットは何一つない。

汚点だけが残る。

アイコの秘密や養育環境を考えると、誰と再婚してもいいというわけではない。

いつの間にか皇室は国民に大きな秘密を抱えている。

望むと望むまいと、抱えてしまった秘密は墓場まで持っていかねば。

それは、かつて「ねむの木」に代表される障害者への「慈愛」をうたった皇后とは

正反対の考えだった。

矛盾している事はわかっている。

しかし、この事は自分の事ではない。

もう歳をとった自分たちが解決する話ではない。

望んだのは子供達夫婦なのだから。

心のどこかで「あの障害者たちと孫は違う」と思っている自分もいる。

優しくできたのは「他人」であったから。

これが身内のこととなると話は別。

裏側のこの気持ちをどう隠して行ったらいいのだろう。

あくまでも望んだのは息子であり、嫁であり・・・・・

 

一方で、自分たちが築き上げた新しい「貴族社会」なら

皇太子とマサコを守ることが出来るのではないかとも考える。

旧皇族を捨て、旧家族を捨て、孤独の中に新しい人脈を築いてきたのだ。

その「壁」なら・・・・

「ナルちゃんの思いのままにすればいいわ。あなたが苦しくない様に。

アイコしかいないのなら、それでいいわ。

世の中が変われば皇統の流れも変わります。それを待ちましょう」

皇后は泣きじゃくる皇太子の肩を抱いて必死に慰めた。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」197 (逆襲のフィクション1)

2015-11-25 07:30:00 | 小説「天皇の母」181-

宮妃の懐妊は一部の心ある宮内庁職員からみれば、まさに天の助けだった。

2000年の歴史の重みを感じている人達はそれなりにいたのだが、

どういうわけか、今の皇室の中でそれを口に出す事は憚られた。

しつこいくらいに被害者意識で凝り固まった皇太子妃の振る舞いに

誰もがどう対処したらいいのかわからなくなっていたのだ。

 

新年を迎えて、新年祝賀の儀に出ないと思えば、

東宮御所でのどんちゃん騒ぎには元気に出てくる。

歌会始めに出なかった日に、堂々と皇居に上がって乗馬をする。

批判される事などおかまいなし。

逆に「抗議の乗馬」を書かせたりする。

 

午前中はだらだらと寝ている妃に注意する女官はいなかった。

夫と娘がどんな朝を過ごしているかなど興味がない。

夫婦で朝食が別なら昼食も別、無論、夕食も別である。

さすがに一人でレストランに繰り出すのは寂しすぎるので、

ママ友たちや、外務省の元同僚や、あるいは高校時代のクラスメイトなど

相手は忘れているというのに、突如「中華をごちそうするわ」と声をかけるのだ。

皇太子妃と言っても言葉はタメ口だし、話す内容は子育てとファッションの事。

自分がどれだけブランド品を持っているかとか

アメリカにいた頃はね」と自慢話をするのをじっと我慢して聞いて

いさえすれば、ご褒美はめったに食べられない高級料理。

しかも財布と相談せずに食べられるのだ。一時の幸せ。

だから、誰も断らない。

「友情」ではなく、金や物で人を操るやり方は、彼女が高校生の時から

いや、小学生の時から少しも変っていなかったのだ。

中には「それって全部税金よね」と思い、断る者もいたが、皇太子妃の「好意」を

無にすると、あとでとんでもない「仕返し」が来るので、みな身の安全の為に従うしかなかった。

う皇太子妃と付き合っていれば、あらゆる意味で「得」な事も多かったから。

 

国連大学に部屋を持ってベッドを入れたのもこの頃だった。

いわば「私室」を持ったのである。

「勉強」と称して国連大学の私室にこもり、そこで何をどうしようと、誰も入れない。

少しでも出かければマスコミは勝手に「少しお元気が出てきて幸い」と書いてくれるので。

また、六本木や青山の高級クラブの会員になったのもこの頃で

毎日のように夜でかけてはだらだらと過ごす。

そういう時は皇太子も一緒に「自由」な時間を過ごす。

どんな高級な酒も、誰も食べた事のない料理も、好きなだけ堪能できる。

二人でグラスを傾けながら、自分たちがどれ程恵まれているか、自分たちがどれ程

運がいいか、そんな話をしている時だけはマサコも上機嫌になるのだ。

あなた、こんなにおいしいワインがこの世にある事、知らなかったでしょ。

私は外務省時代にはいくらだって飲めたんだから

さすが外務省だね」

そうよ。お父様のコネを使えばこんなものくらい軽いわよ」

と言った具合だ。

 

皇室のしきたりや伝統を頭ごなしに否定する行動をとる皇太子妃。

時間を守らない。出るべき儀式には出ない。行きたくない場所にはいかない。

どんなに皇太子が妻を愛していても、ここまで生活の価値観が変わったら

一緒に生活など出来ないだろう。

皇太子は次の天皇であり、皇室の伝統を守る立場である。

「公の人」なのだから。

自然発生的に出てきた「離婚説」は皇太子が最終的に

己の役割を果たす事を選択するだろう、いや選択する筈だという思うの表れだった。

しかし、皇太子が最終的に選択したのは「妻に感化され、妻を正当化する自分」だった。

その年の誕生日会見。

昨年12月にマサコの最近の様子ということで,医師団の見解が発表されたのは,

病名と治療方針,現在の病状及び今後の課題について国民の皆さんに理解していただくためで,

これはあくまでも医師団の専門的な判断に基づいて行われたものです。

私ももちろんこの判断を尊重しています。

マサコもお医者様の治療方針に従って,努力していますし,私もこれからも支えていくつもりです。

マサコは皇族としての自身の役割と皇室の将来を真剣に考え,これまでも努力してきましたし,

現在もそのように考えて行動しており,私もそれに支えられています。

環境の改善を勧めた医師団の見解は,こうした私たちの努力を更に実現していくために

有意義なものであると考えてのことと思っています。

私自身マサコには今までの経験をいかしたライフワーク的なものが見つかると良いと思っています。

私自身が主として,今まで水上交通史を研究しており,そのことが,

いわばライフワークになりつつあることが,いろいろなことをする上で,

支えになっているように思うからです。

また,乗馬やテニスを始めとした運動も治療の一環として行っておりますが,

それも良い効果を上げているようで,今後も続けてほしいと思っています。

お陰様で,マサコは順調に回復しておりますが,

まだ回復の途上にあることを皆さんにもご理解いただき,

静かに温かく見守っていただければと思っております」

先年出した医師団の見解について「よくわからない言い訳のよう」という批判に対して

釘を打ち、その理由を切々と説明することで正当性を主張。

さらに乗馬やテニスなどの「遊びは出来るのか」という批判に対しても

それが治療なのだ」と封じ込める。

さらに、あまりに元気だとか回復しているとか言い募れば「公務をしろ」と

言われる危険性があり、ゆえに「まだ途上」と言い訳を用意。

温かく見守れ」とダメ押しも忘れなかった。

 

マサコの公務については,今少し,体調が回復し,公私にわたる様々な活動をしていく中で

考えていくことになるのではないでしょうか。

また,マサコの場合,最近も幾つかの公務を行いましたが,

これはあくまでも回復のための足慣らしの意味もありますので,

そのあたりのことを皆さんにはお分かりになっていただきたいと思います」

「公務」を「足慣らし」と言ってしまったことに彼は気づいていなかった。

それがどんなに失礼な意味があるかも。

宮中で行われている祭祀については,私たちは大切なものと考えていますが,

マサコが携わるのは,通常の公務が行えるようになってからということになると思います

皇族であれば「公務」より先に「祭祀」が来る筈なのであるが、これを

「足慣らしの公務 → 公務 → 祭祀」という順番にしたことで、皇室の存在意義を

あいまいにしたことも、また彼は気づいていない。

そもそも皇族が「祭祀」をせずに乗馬やテニスに興じ、気が向いたら「足慣らしの公務」もどきを

行うなどという価値観があったろうか。

なかったからこそ、誰もそれが間違っているとも正しいとも言えなかった。

今までにない価値観だったのだから。

さらに娘の幼稚園についても

アイコが幼稚園に進むに当たっては,私も親として,どの幼稚園に行くことが

本当に本人にとって幸せなことだろうかということを一番の大きな課題として考えてきまして」

などと身の程知らずの上から目線で言った挙句に「学習がいいのでは」と結論づけた。

そうかと思えば、妹の結婚に関して

どこらへんが幸せそうに見えたか」との質問に

まず一つは結婚式の当日ですね。その日の二人の様子を見ていたときにそのようなことを感じましたし,

それから結婚式の後でも何回か会う機会がありましたけれども,

その際に二人で交わしているいろいろな会話ですとか,本当にそのときの二人の様子から,

これは本当に幸せなんだなということを感じました」

と、何とも人情のない答え方をしている。

妹の結婚に関しては完全に蚊帳の外であったことを暴露したのだが、本人は

やっぱり気づいていなかった。

 

皇太子は記者会見が終わってもすぐに帰ろうとはしなかった。

一旦退場し、また戻ってきたのである。

びっくりする記者たちに

私が言いたかったのはですね・・離婚するのではとかいううわさが

たっているんですけれど、離婚はしないという事をわかってほしくて

と言い放ったのだ。

記者たちは皇太子が何をどうしゃべっているのか、最初はわからず

ただただ戸惑った。

額に汗をかいて、頬を紅潮させ、ちらりとドアの向こうをみやり、そして

「わかるでしょ」と言わんばかりに記者たちを見つめる。

皇室記者を長くやってきた者も、こんな姿を見るのは初めてだった。

 

皇室が揺れている。

誰もがそう感じた瞬間だった。そして陰で操っているのがだれであるか

知ったのである。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」196(仕返しのフィクション1)

2015-10-27 07:00:00 | 小説「天皇の母」181-

皇太子は受話器を握りしめていた。汗でぐっしょりとなってもかまわなかった。

とにかく早く電話に出てほしい。その一身だったのだ。

もしもし

出たのは遠いオランダの義父。

あの!もう僕はどうしたらいいかわからなくて

挨拶もなしにいきなりである。電話の向こうではため息と共に

とにかく落ち着いてください。殿下」という声が聞こえた。

落ち着いてはいられません。弟の妃が・・・妊娠したんです」

ええ。存じておりますよ

それでマサコが。マサコが荒れて」

第一報を聞いた時、信じられない思いと怒りで我を忘れてしまった彼は

思わず「嘘だ!」と叫んでしまった。

伝えに来た侍従も内舎人達もその声にひどく驚いて、固まってしまった。

彼らとしては、どんなに聞きにくい話でも、とりあえずは

「おめでとう」というものだと思っていたのだ。

しかし、皇太子の言葉は違った。

怒りを込めての「嘘だ!」だったのだ。

どうして?どうしてそんな事が。妃はいくつ?」

さあ・・・よくは」

さすがに女性の年齢をはっきりは言えない。

皇太子は弟の歳を考えてみた。自分より6歳年下。さらに1歳下。

3・・39歳ではないか?

マサコがアイコを産んだ時よりも年上だ。

あの時だって十分に「高齢出産」と言われたのだし。当然のごとく弟一家は

カコで終わりと思っていたのに。

殿下。お祝いの言葉を」

侍従長が促した。

一報を聞いた皇太子が怒り心頭であったなどという事がよそにばれたら大変な事だ。

しかし、皇太子はいきなり椅子に座り込むと頭を抱え込む。

どうしよう

殿下。アキシノノミヤ家の慶事は皇室にとっての慶事でございますぞ

なんで今更・・・うちのアイコはどうなる」

そして、最近、やっと落ち着いてきたマサコはどうなる。

ちょっと・・・

自分の部屋から寝間着姿で出てきたマサコは、幽霊でもみたかのような表情で

ゆらゆらと近寄ってきた。

ま・・・マサコ」

皇太子は何をどう言ったらいいのかわからなくて、ただ蒼白になっている妻の顔を見つめた。

今、ニュース速報が。キコ妃が妊娠って本当なの」

・・・・

「本当なのか聞いてるの!」

マサコはテーブルをばん!と叩いた。びくっとした皇太子は慌てて頷く。

なんで最初に聞くのが私達じゃなくてマスコミなの!」

さ・・・さあ」

仕組んだわね。これは仕組んだのよ。虎視眈々と狙ってたの!」

マサコ。まだ男子が生まれると決まったわけじゃ

そんな事、どうだっていいの!妊娠したって事が許せないの!私があきらめたのに。

泣く泣く二番目をあきらめたのに。なんでアキシノノミヤ家だけいつもこうなの!」

マサコはわっと泣き出した。

自ら「二番目はいらない」と言ったことなどすっかり忘れていた。

たった一人の娘の状態は日々、悪くなる一方のようで、何をどうしても隠しおおせるものではない。

そのうち、国民にばれてしまうかもしれない。

毎日が薄氷を踏む思いなのに。

ほのぼのとした宮家にまた一人、健常児が生まれるというのだろうか。

お・・・お義父さんに連絡して、何とかするよ」

何とかって?」

よくわからないけど。とにかく電話してみる」

皇太子はその場から逃げた。

 

そして今、受話器を握りしめているというわけだった。

正直、ヒサシに電話をしたからって何が変わるわけでもない。

でもヒサシなら、今すぐ総理に働きかけて「女帝容認」の皇室典範を

作ってくれるのではないか。そんな希望があったのだ。

油断してましたな。殿下」

ヒサシの声はばかに冷静だった。

まあ、宮妃の年齢を考えれば、今更妊娠など・・・思いもしなかったですがね。

誰がそれを許したんでしょうか」

それは・・・」

何とも答えようがなかった。

長官の「第3子発言」以来、マスコミはこぞって彼を「悪者」にした。

子供を産むことが「后の条件」である事自体が女性差別だというわけである。

しかし、子供が生まれなければどこの家も続かず、次世代が育たなければ

天皇家といえども絶えるのだ。

そしたら権力も権威もへったくれもない。

だから子供を産んでくれるという事はとてもありがたい事の筈。

しかし、ヒサシの言葉はそんな空気をあからさまに壊すものだった。

誰が許そうが許すまいが関係ないか。殿下の弟君は策士ですな。

まあ、殿下はお優しくていらっしゃるから、したたかな弟君にしてやられたんですよ。

兄弟の情なんて役にも立たないという事が証明されましたな」」

そうか。

皇太子はそこで納得した。

何という事だろう。あんなに可愛がって来た弟だというのに。

しかし、いつも長幼の序を無視する弟でもあった。

それが「やんちゃ」で済んでいたころとはわけがちがう。

しかし殿下、まあ慌てず。宮家には型通りのお祝いをおっしゃって。

祝いに東宮御所で食事会などなさっては」

え?」

予想もしない言葉に思わず受話器を持ち変える。

弟君のお祝いに料理を出すんですよ。ナツメを使った料理。

ああ、パセリやアロエなどもいいんじゃないですかね。

そうなると中華でしょうか」

それって・・・・」

よくわからない。アロエをどうやって食べるんだろう。

アロエは絞ってジュースに出来ますよ。杏仁豆腐には

ナツメを入れればいいですし、サラダにはパセリが合うでしょうし」

電話の向こうの声が笑った。

殿下。マサコだって一度は流産しているんですよ。高齢妊娠が

そうそううまくいくと思いますか?

流産の危険性も高いし、かりにそうなっても誰も残念に思いません。

やっぱりなと思う程度でしょう。

古来より望まれない妊娠には、色々あったという事は殿下だって

ご存じではありませんか」

ヒサシの言葉はさらに畳かける。

高齢出産になればダウン症のリスクも高くなりますしね

祝いだといって呼べばいいんでしょうか」

言ってから皇太子ははっとした。

これは・・・もしわかってしまったら大変なことになるかもしれない。

いや、しかし、普通の食事が妊婦の体に障るなどとは誰も思わないし。

兄が弟夫婦を食事に誘うのに何を遠慮することがありましょうか

弟は来ないかもしれません。そうなったらどうしましょう

あのね、殿下。大事なのは宮妃が産む子供が男か女かではない。

天皇家で最も力があるのは誰かという事ですよ

天皇家で最も力がある。

そう。力です。必要なのは。回りに有無をいわさない力がある。

それが重要なんですよ。それが確立すれば、法律の一つや二つ変えられます。

それだけじゃない。庶民が味方をしてくれます」

僕にそんな力は」

ありますよ。ご安心ください。殿下こそ日本の頂点に立つべきお方です。

まあ、見ていて下さい。今に国民はそれを思い知ることになりましょうから

マサコにはなんと言ったら」

そうですね。夏にオランダで会おうとでも」

オランダ?」

オランダって・・・ヒサシがいるオランダへ行けるのか?

しかし、今の所、オランダから招へいがあったとは聞いていない。

外務省の力でそれが出来るのだろうか。

皇太子は少し安堵して受話器を置いたのだった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」195(奇跡のフィクション2)

2015-09-26 07:00:00 | 小説「天皇の母」181-

おふくろ・・・・ではなく

母さん、お元気ですか?

私も元気です。

就職して以来、全然家に帰っていません。

心配かけてすみません。

でも便りがないのは元気な証拠と思ってください。

あれ?じゃあ、今、手紙を書いているという事は

「何かあったのか?」と思われてしまいますね。

大丈夫です。

私は仕事に就いて以来、色々な面で変わったと思います。

言葉遣いも変わりました。

お辞儀の仕方も変わりました。

皇室の警護という、「礼」の末端にいる事で、門前学者のように

変わらざるを得なかったのです。

警察という組織の末端にいる私は、ただただ命令に従うのみです。

 

ところで、最近、皇室典範の改正というのが言われていますが

母さんは知っていますか?

今の皇室典範ではいずれ天皇になる人がいなくなるので、改正をして

皇太子殿下のあとはトシノミヤ様に皇位を渡せるようにしようと

することです。

個人的に私はそれに賛成していました。

今時、男だけが天皇になれないなんて不公平だし、

トシノミヤ様は皇太子殿下のたた一人の子供なのだし、

将来、天皇になっても全然おかしくないと思っていました。

母さんはその点をどう考えるでしょうか?

まあ、日常にはあまり関係ありませんけどね。

私にとってもそうです。

上がどう変わろうがただ務めを果たすにすぎません。

しかし、上つ方はそうでもないようなのです。

宮内庁や皇宮警察は今、2つの派に分かれているようです。

私の上司などはいつも「外務省上がりが大きな顔しやがって」と言います。

警察庁官僚より外務省官僚による宮内庁への配属が多いので。

まるで学校の中にいるようです。

公務員というものは、学校の延長で仕事をしているようなところも

ありまして。

慣れればどうってことありませんが、私には少々きつい職場です。

 

そんなわけで「皇室典範」の改正には賛成派も反対派もおり

私の上司は「男系を守るべき」との意見です。

私は無知で知らなかったのですが、皇室というのは2000年以上

ずっと「男系」で続いて来たそうです。

女帝もいた筈なのにと思ったら「女帝も男系女子である」と教えて

くれました。

要は父方が天皇ではなく、母方が天皇である「女系」というものが

存在しなかったんだそうです。

トシノミヤ様は男系女子だから天皇になってもまあいいけど

トシノミヤ様が結婚する相手が皇族以外だったら、その間に生まれるのは

女系になるので「伝統」を崩すという事らしいです。

私は、トシノミヤ様の普段の姿を結構見ています。

母さんにこっそり言ってしまいます。

でも絶対に他の人に言わないで下さい。

トシノミヤ様は普通ではありません。

天皇になるとかならないとか以前の話だと思います。

末端にいる私ですらそう思うんですから、実際に皇室に深くかかわり

皇統を心配している人達はどんなでしょうか。

それなのに総理大臣は「アイコ様が天皇でもいいじゃないか」と

言ったそうです。

あいつは女帝と女系の違いも知らないから」と上司が憤慨して

おりました。

それは最側近である官房長官もそう思っているそうです。

官房長官は私達の上司と時々会合を持ちます。

そういう時の警備も私達、末端が務めるわけですが。

酔うとついつい「皇室の伝統を守らなきゃいけない」などと

大声で言い出すので、なだめるのが大変です。

最初は「男女平等の世の中に女帝がいても」と考えていた私ですが

上司や官房長官の切々と訴えるような話を聞き、今ではすっかり

男系支持者です(笑)

確かに2000年以上、忠実に守ってきた制度を覆すのはよくない事です。

無駄に見えるものでも、実は大きな意味があるという事も。

しかしながら、現在、皇太子殿下の後は弟宮しかいず、

このままでは皇統が絶えるというのも必至なのです。

だからこそ、断腸の思いで皇室典範を改正・・・という話とも聞きました。

私的にはあのトシノミヤ様が天皇になるなら

マコ様が天皇になった方がいいなと思う程度ですけどね。

時々、おみかけするマコ様とカコ様はそりゃあ可愛らしい女の子です。

今時、巷にあんな「お姫様」はいないだろうなと思います。

 

正月から皇室はぴりぴりしていました。

警護室の中でも。

それはまたも・・・ご病気の妃殿下が私達を翻弄したからです。

皇族方のスケジュールは1か月前には決まっていて、

どんな些細な移動や行事出席でも、常に綿密な警護の

スケジュールが組まれ、それにそって予行演習があり

当日に備えるのです。

しかし、ご病気の妃殿下はこれを無視されます。

予定を突如キャンセルするのは日常茶飯事。

そうかと思えば「体調がいいから出る」というようなこともあり。

その度に速攻でスケジュールを変更し、全部にそれを伝え・・・と

とにかく毎日がへとへとなんです。

同僚も上司も正月以来、ほとんど寝てないんじゃないかなと。

かくいう私も・・・・いや、私は若いので大丈夫です。

 

歌会始の儀の警備は大変でした。

外からの賓客が来るので、厳重な仕事が求められます。

皇太子妃はまたも欠席でした。

でも次の日、東宮御所では華やかな宴会が開かれて

両殿下、とりわけ妃殿下は上機嫌でいらっしゃいました。

なぜ、それが分かったかと言うと、私のような末端の者にも

「ご苦労様でした」と声をかけて下さったからです。

多分、もうすぐトシノミヤ様の皇位継承が確定するのでご機嫌

なんだろうとみんなで話し合っていました。

皇室では皇位継承権があるのとないのとでは待遇が違います。

将来、皇太子になり、さらに天皇になるとなれば、この先、さらに

予算も増えるでしょうね。

今は適応障害で苦しんでいらっしゃる妃殿下ですが、

トシノミヤ様の皇位継承権が認められれば元気になるでしょう。

私達は「どうでもいいから時間を守るようになってほしい」と

願っていますが。

 

1月20日に総理大臣が「皇室典範改正」について明言し

「長子継承」「女帝を認める」という事がほぼ決まりました。

あとは3月の閣議を経れば終わりです。

 

実は。母さん。

ここから先は本当に母さんにだけ話します。

絶対に他言しないで下さい。

なぜそんな事をわざわざ手紙に書くのか。

検閲制度がない現在がありがたいと心から思います。

この事は私の胸一つにおさめておくにはあまりに重いのです。

そしてこの事は、なんというか人知の及ばない所で

静かに静かに進んでいた・・・・としか思えないのです。

私は無神論者です。

皇室の警護を任されながらも、本当は「神様」なんかいないと

思っていました。

正月に神社へ行くのも、実家の法事も、それは信仰というより

ただの「行事」でしかないと思っていました。

だけど。今、私は。

心からこの日本には「神様」が存在していると感じるのです。

 

2月7日の事です。

私は上司に呼ばれました。

今すぐ、制服ではなく平服に着替えてアキシノノミヤ家へいけ」と。

何だろうと思いました。

え?だって私は東宮御所の警護についているのに。

上司は声を潜めました。

あちらは人手がないのだ。付き添いが必要だ」

付き添い?誰の?

しかし私にものを尋ねている時間は許されませんでした。

私は平服に着替え、赤坂御用地の宮邸に向かったのです。

上司からの命令はさらにありました。

妃殿下は本日、受診される。病院には宮内庁の医務主管もいる。

彼からメッセージを受け取り、それを官房長官に直接伝える」

私は全身が震えるような気がしました。

もしかして妃殿下がとんでもない病気にかかられ、その事が政治的に

大きな問題になるかもしれない。

伝染する病気だろうか?それともガン?

皇族が大病にかかるというのは、大きな事です。

まして宮家は筆頭の立場です。今後の公務にも差し障りがあるでしょう。

宮家贔屓の官房長官に病状を伝えようというのでしょうか。

でもなぜ私が。

お前はただのメッセンジャーだ。深く考える必要はない

メッセンジャー?この時代に?電話もメールもあるのに?

不思議そうな私に上司が言いました。

絶対に知られてはいけない事がある。盗聴されてもいけない、

ハッキングされてもいけない。だから、もっとも関係のない

お前に託す。今回の受診の話を知っているのは

宮家と私とお前。そして医務主管のみ

なんという話でしょうか。

私はたぶんひどく青ざめていたことでしょう。

そんな緊張した顔をするな。悟られるだろうが」

厳しく言われて私ははっとしました。

小さなことだ。しかし大きな意義がある。極めて重要。

さりげなく、警護課からの出張で・・といえ」

有無を言わせない雰囲気に私は、すぐに踵を返して

自分のロッカーに戻り、着替えました。

ああもう・・制服を脱ぐのももどかしいくらいな感じで。

大急ぎで私は赤坂御用地を抜けて宮邸に駆けつけました。

 

一台のバンが用意されていました。

宮邸はあまり広くはないのですが、いつも花が咲き乱れて

明るい印象です。

今は2月でマラコイデスの鉢が目にしみました。

私は宮邸のSPにあいさつし、身分証を見せて車の助手席を

点検し、乗り込みました。

宮邸の警護についている人達は表情一つ変わっていません。

病状を知っているのか知らないのか・・・完璧なSPはここまで

無表情を貫くことが出来るのですね。

私もまた務めて平静を装い、無表情になり、ひたすら待ちました。

ほどなく、妃殿下が宮邸から出てこられました。

質素なスーツ姿でした。

皇族というのはこんな時でもきちんとした格好をしなくてはいけないのか。

いつもパンツスーツばかり見ている私には衝撃的でした。

妃殿下は優しく微笑んで「よろしく」とおっしゃいました。

顔は陶器のように白く、これを顔色が悪いととるのかななどと

考えつつ、私はドアを閉め、もう一度助手席に乗り込みました。

 

車は信号操作をするでもなく、病院に走りました。

これまた衝撃的でした。

なんせ東宮一家は、どこへ行くにもノンストップですし、先導車が

つくし。

筆頭宮家とはいえ、内廷外皇族の立場とはこのようなものなのでしょうか。

そんなことを考えている間に車は病院の裏手に着きました。

救急外来の真横です。

そこにはすでに医師が待ち受けていました。

妃殿下はそのまま、すっと院内に入っていかれました。

誰も宮妃が病院に来ていることなど、気づかないでしょう。

それだけ自然なしぐさでした。

どれくらいの時間が経った事でしょう。

きっとそんなでもなかったかもしれません。

でも私は、その後の事を考え、心臓がドクドク言い、

耳がじんじんしておりました。

やがて、見慣れた医務主管が一人で出てきました。

私をみつけると

話は聞いているか」というので「はい」と答えると

一枚のメモを私に渡したのです。

すぐに官房長官に。君が行く事はあちらに伝えているから。

電車で行けよ」

私は頷き、早歩きで地下鉄の駅へ急ぎました。

駅ではたくさんの人が縦横無尽に歩いています。

私もその一人なのだ。私は・・・・・

誰かに見られているのではないかと、ちらっと後ろを振り返ったりしました。

そんな筈、あるわけないのに。

このメモに何が書かれているか、私は知りませんでした。

知りたくもなかった。

ただ、早く任務を終了したかったのです。

 

やがて電車は永田町に到着し、私ははやる気持ちで階段を駆け上がり。

2月なのに汗びっしょりの状態で国会に到着したのでした。

国会開催中という事で、随分と待たされましたし、また本人確認も

されました。

いくら話が通っているとはいえ、私のような者が官房長官に会うのは

難しいのです。

私は流れ出る汗をハンカチでぬぐいつつ、待ちました。

思えば就職して以来、私の人生は待ってばかりです。

 

そうこうしているうちに、秘書らしき男性が現れ、

私は長い廊下を渡って、こっそりと小さな部屋に通されました。

ほどなく官房長官が。

私の顔を見るなり

ご苦労様。大変だが頑張れよ」と言ってくださいました。

私は「はいっ」と言って、預かったメモを渡しました。

長官はそれを開くなり、「おおっ」と声をあげ、それから

目を見開いてじっと・・じっとメモを見ていました。

私は「妃殿下の病状は相当悪いらしい」と思いました。

けれど、長官の顔はぱっと明るくなり、いきなり私の手をぎゅっと

つかんで「ありがとう」と言ったのです。

ありがとう!ありがとう!君!ありがとう!」

私は何のことやらわからず、ただただ手を上下に強く振られて

転びそうになりました。

すぐにこれをNHKへ。テロップが流れたら総理へ

長官は確かにそういいました。

ええ、確かに。

 

任務を終えた私はさりげなく持ち場に戻りました。

末端の私が席を外した事など、どうってことない事件です。

上司は、私にそっと目くばせをしたきり、あの話題には

触れようともしませんでした。

が。

やがて私は事実を知ったのです。

午後3時すぎ。

何やら同僚や先輩方がざわざわとしだしたからです。

何かあったんですか?」と私が訪ねると

みな「いや・・・」と言います。

でも「これは荒れるな」とも言いました。

荒れる・・・・何が?いや、誰が。

私達の間でそれが東宮妃殿下を示す事は暗黙の了解でした。

休憩室のテレビを見てこい

と言われて私は走りました。

そこでは・・・まさにNHKが「キコ様ご懐妊」のテロップを

流していたのです。

え・・・・ご懐妊?

じゃあ、あの時の妃殿下は・・・・そして私がもらったメモは。

私は呆気に取られてその場に立ち尽くしました。

 

そして場面は国会に切り替わり、メモを受けり呆然とする

総理大臣の姿が映し出されていました。

総理・・・総理大臣、聞いているんですか?」

呆然自失の総理に容赦なく降る質問者の声。

でも総理自身、国会の質問や討議などどうでもいいというような

顔になりました。

 

夕方には宮内庁長官が正式発表をしました。

私の上司は「してやったり」という顔でしたが、その理由を

知るのは私しかいません。

長官すら知らなかった事実に、宮内庁は騒然としたようです。

当たり前です。

順番が違うんですから。

天下の宮内庁が、テレビのテロップで事実を知り、後追いで発表する。

そうでもしないといけなかった事情があるんだと思います。

なぜなら、この時より、長官を始め東宮職らと宮家側の間に

大きな溝が出来、マスコミ、とりわけ週刊誌などが激しく宮家に

バッシングを始めたからです。

私は男ですが、女性が妊娠する事は(しかもキコさまは39歳ですよ)

非常にめでたく、しかも心を穏やかにその時を迎えなくては

ならないものと思っておりました。

しかし、一部の国会議員以外はキコ妃殿下のご懐妊を喜ぶ事は

ありませんでした。

特にシャミン党党首のフクシマとかいう女性は

恐れ多くも妃殿下に対し

妃殿下の妊娠はおめでたいが、それと皇室典範改正は別の事と

思っております」と発言しました。

小説家もエッセイストもこぞって、それも女性が

なぜこの時期に懐妊されたのか」

「仕組んだのではないか。なんと計算高い」と

聞くに堪えないような言葉を浴びせ続けます。

最終地点はいつも

マサコさまがお可哀想。マサコさまは第二子懐妊を

あきらめたのに。弟宮妃の分際で、皇室典範改正の

直前に懐妊するとは。

あのコウノトリの歌はきっと策略の一つだったに違いない。

きっとキコ妃は産み分けもやってのけるかもしれない。

したたかで計算高くていい子ぶりっ子の宮妃」

私は本当に心が折れそうになります。

私が垣間見た妃殿下は春の日差しのような方です。

冷静で穏やかで、そして美しい人です。

なのに、なぜここまで言われてしまうのか。

女性の体の神秘は男の私には分かりません。

妊娠しようとすればいつでも出来るのか、そうでないのか。

けれど、今回限りは私は、これは神の意志であると思います。

なぜなら皇室典範改正は棚上げになったからです。

全てはご出産される秋まで・・・・・

女性が女性の妊娠を喜べない、情けない国になったなと思います。

ここ、東宮御所にも嵐が吹き荒れています。

年明けの上機嫌な妃殿下はどこへやら。

東宮御所自体が腫れ物に触るような状態になってしまいました。

 

母さん。

この秘密を抱えた私の取るべき道は何のか。

私もまた神の采配を望むだけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」194(奇跡のフィクション)

2015-09-09 08:30:00 | 小説「天皇の母」181-

その年は何事もなく、いつもの通りに明けたと誰もが思っていた。

皇室においては、相変わらず「東宮妃」の病状が取りざたされ

いつ治るのか、いつ公務復帰するのかなど、外野の声はかまびすしい。

しかし、東宮妃は一向に「公務」に出る気はないらしく,人々の期待を

裏切り続けていた。

皇族にとっては内輪の集いですら一種の「公務」であり「責務」であったが

「病気」のお墨付きを得た東宮妃に怖いものなどあるはずもなく、

予定しては突如欠席し、あるいは最初から欠席し・・・の繰り返しで

回りを翻弄し続ける。

 

本来、妃を導く立場である夫の皇太子も、天皇も皇后も

何も言わなかったし、何もしなかった。

妃によって「禁断の蜜の味」を覚えた皇太子は、もうそれなしでは

生きていけなくなっていたし(まるで麻薬のように)

天皇も皇后も、自分達の価値観と、実際の行動に「矛盾」があるのでは

ないかと思い始めていた。

 

「傷ついた私」を最大限に利用することを覚えた人間と、

それに覆いかぶさるように、背後から手を伸ばす実家の影。

そしてそんな皇太子妃の「病気」を盾に、「世の中にあるまじき男女不平等」

女性の社会進出を阻む婚姻・懐妊を打ち砕こう」という女性達のキャンペーン

が繰り広げられる。

「結婚」は勝ち組だといいつつも、妊娠・出産した女性を「上から目線」と決めつけ

ことさらに出産を選ばない、選べない女性の「弱さ」ばかりを強調し、

女性達を敵対させる思想が闊歩する今にあっては。

 

かつて「弱い立場の女性」を代表していたのは皇后自身であった。

民間出身だが才色兼備を誇る皇太子妃として、堂々と皇室入りしたが

それは彼女の母親から言わせれば「ストラグル(闘争)」であった。

家柄や血筋とは関係なく、人は「愛」のみで結婚できる。

かつての「身分違い」による恋の悲劇を繰り返してはならない。

人の価値は家柄や血筋で評価されるものではない。

麗しき男女平等万歳!

皇后。かつての皇太子妃は一般庶民の憧れでありつつ、庶民の「代表」であった。

そんな彼女が宮中で虐められ、流産し、痩せた・・・となれば誰もが同情する。

きっと皇太子妃殿下は古い価値観の犠牲になっているのだ」と

誰もがそう思った。

若き美貌の皇太子妃の時代、「伝統」も「しきたり」も時代に合わない「悪」であった。

そもそも、なぜ日本は戦争への道を歩んだのか。

それは「富国強兵」という、とんでもない思想によるものではなかったか。

最初から平和国家を目指し、何がどうあろうと戦争をしなければ、日本は

平和でよい国であったし、人も死なずに済んだ。

「富国強兵」の後ろにあるものは「女性蔑視」だ。

女性であるがゆえに結婚を強いられ、出産を強いられ。

そんな世の中を変える。変えなくてはならない。

皇后の人生を一言でいうとそんな流れだったろう。

 

だからこそ、今、「男子出産」のプレッシャーに押しつぶされている

皇太子妃を責められない。

皇室の伝統もしきたりも何もかも真っ向から否定して拒否する

皇太子妃の感情は、普通なのだから。

祭祀における「潔斎」の屈辱。

女性特有の体調の変化を日々、女官に伝えなければならない屈辱。

人目にさらされる屈辱。

皇后自身はそれを「屈辱」とまでは思わなかったが

そんな事を当たり前にできる人がいる事が衝撃だった。

そしてそれはまさに「生まれ」や「育ち」に大いに関係してる事だと

いう事もすぐにわかった。

あれから半世紀近く。

必死に仮面を被って来たけれど、病の皇太子妃を見つめるにしたがって

それが一枚一枚はがされていくようだ。

目障りだが、それを踏みつぶせば自分の良心が傷つく。

常に「公正無私」な自分を演じる為には、皇太子妃を否定できないのだ。

 

新年祝賀の儀に皇太子妃の姿はなかった。

一連の公式行事は全て欠席だった。

1月5日。皇居では内輪の夕食会が開かれたが皇太子妃は欠席した。

内親王の体調が悪いのでという理由だった。

皇太子の血を受け継ぐただ一人の娘は、今や野生児への道を

歩き始めている。

親に翻弄される内親王を不憫とは思ったが、今時の姑が孫の養育に

口を出すべきではないというのは常識だったので、何も言えなかった。

皇后は世間が自分のことを「嫁いびりをする姑」と言い出すのではないかと

そればかり気になっていたのだ。

なぜ、女子だからといって皇統を継げないのか。

結婚8年目に授かった内親王の重要性を考えない回りにいら立つ。

もし、内親王に皇位継承権が与えられたら、東宮妃の思いも変わるかもしれない。

内親王の教育も少しは。

 

ひそやかに・・・本当にひそやかに神の手は動きつつあった。

1月12日。歌会はじめの儀。

そこではアキシノノミヤ夫妻の二つの歌が披露された。

人々が笑みを湛えて見送りしこふのとり今空に羽ばたく

飛びたちて大空にまふこふのとり仰ぎてをれば笑み栄えくる

コウノトリといえば「赤ちゃん」が思い浮かぶ。

かつて皇太子は「こうのとりのご機嫌にまかせて」という

言葉で皇太子妃の出産を語っていた。

いわば、今の皇室の中では「禁句」だ。

この言葉を二人が同時に歌に詠みこんだのである。

 

皇室に無関係な人達からすれば、それは他愛もない

めでたい歌にすぎなかったろう。

しかし、この歌を見たときの天皇・皇后・皇太子・皇太子妃の思いは

どんなであったか。

夫唱婦随の歌として冷静に感じた・・・・

なぜ今、そんな歌を・・・・

これは挑戦ではないのか?あるいは仕返し?

思いは様々に交錯していたが、当の宮も妃も穏やかな微笑みを

浮かべるだけだった。

 

神の手に導かれるような2首は、幸いなことに大事にはならなかった。

1月15日。

皇居では食事会が行われていた。

皇后の妹も息子、すなわち、甥の結婚を祝う為の食事会だった。

この結婚にはアキシノノミヤが仲立ちを務めていたため

皇居での大きな祝い事になったのだった。

ここには降下したサヤコ夫妻も招かれていた。

しかし、この席に皇太子夫妻はいなかった。

単なる親戚の結婚ではない。

キューピッドを務めたのが宮であることが問題だったのだ。

若い二人はそんな事は思いもせず、ひたすら宮に感謝した。

私達も二羽のコウノトリのように羽ばたきたい」と若い夫が言えば

お二人で同時に同じものを歌に詠めるなんて、以心伝心ですね。

私達もそれを目指します」と若い妻が言う。

内心、「余計な事を」と思いつつも皇后は微笑んでいた。

終始、笑顔で幸せな会食であった。

誰に遠慮する必要もない。

キコは相変わらずの気働きを見せていたが、連日の行事で疲れたのか

少し面やつれして見える。

それに気づいたサヤコがそそっと姉を化粧室に連れ出した。

お姉さま、お疲れなのじゃなくて?」

いいえ。大丈夫。ただちょっと・・・・」

ちょっと?」

「ううん。平気

二人はすぐに会食の場に戻っていった。

 

1月20日。国会ではコイズミが施政方針演説をしていた。

その中で「皇室典範の改正」に言及し、3月10日までに国会に

提出すると発言。

コイズミの強気な言葉の裏には大きな自信があった。

長子優先主義

・女帝・女系を認める事

これは天皇と皇后の「意思」であると。

どこからその自信がわいて出たのか。

それは盟友、宮内庁長官の言葉だった。

両陛下はアイコ様を天皇にしたいと思っている

男女平等、現憲法の精神にのっとればあたりまえの感情であると思えた。

ゆえにコイズミは単純に、本当に単純に典範改正を打ち勧めたのだ。

そこには2000年の伝統などなかった。

将来、天皇となる事が決定しているか否かでアイコ様の教育方法も

変わって来る。ゆえに早く立場を決めて差し上げたい」

と甘い言葉で女性達の心をつかみつつも、実は「これは政治だ」と思っていた。

今こそ、対抗勢力である保守派をつぶすチャンスなのだ。

 

それは最側近である官房長官も感じていた。

皇統を変える事の恐ろしさを総理は知らない。

何故に皇室が2000年も存続してきたのか。国民のDNAの中に

深く刻まれた民族的な思いを総理は全くわかっていないのだ。

官房長官は保守派として絶望の淵に立っていた。

どんなに「男系主義者」が騒いでも「憲法順守」「男女平等」を旗印に

騒ぐ彼らには通用しない。

そして大衆というのはわかりやすい方向に流れていくものなのだ。

 

神の手は差し伸べられるべき場所へ向かう。

偶然のように神風を起こすのだ。

しかし、まだ誰もその存在に気づいていなかった。

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」193(その後のフィクション)

2015-08-29 12:30:00 | 小説「天皇の母」181-

年末の都会はキラキラしている。

クリスマスの余韻があちらこちらに残っているのだ。

きらびやかな光の輪は、冷たい空気に触れてなお一層明るくなる。

そして年末の慌ただしさは、心を浮き立たせる。

 

「フレイカ」では毎年恒例の食事会が行われていた。

広い一部屋を貸し切って、まるで密談でもするように人を排除している。

テーブルの上には、一般人が一生かかっても食べる事のできないような

高級で珍しい料理が並び、大人だけでなく、子供たちも次々と食い散らかして

いく。

子供にとってそこにある食べ物が高級かどうかは問題ではない。

おいしいと思えばがんがん食べるし、まずければ食べない。

しかし、小さい頃から贅沢になれた舌にとってフレイカの料理は

どれもこれもおいしいものらしい。

アイコも夢中になって食べている。

なかなか箸を使うことが出来ないので、フォークやスプーンが置かれているが

それすら面倒になったのか、今や手づかみである。

 あるいは隣に座ったユミコがせっせと食べさせていた。

皇太子は紹興酒で顔が真っ赤になったが、いい気分のようで

にこにこしていた。

ヒサシはそんな皇太子に小難しい政治論をぶっており、皇太子は

陶酔のまなざしを向ける。それがまた非常に気分のいいものだった。

 

さあ、おばあちゃまからプレゼントよ」

ユミコがバカでかい紙袋をアイコの前に置いた。

なあに?これ」

マサコがいぶかしげにいうと、ユミコは得意げに袋の中から

箱を取り出す。

そこには真っ赤な着物と、帯など一そろいがセットになって入っている。

七五三の着物?」

違うわよ。わざわざアイコの為に注文して取り寄せたのよ」

ユミコはちょっと怒って言った。

だってあなた、アイコちゃんがカコちゃんの着物を見てぐずったんでしょう?

可哀そうに。不憫だわ。どんなに着たかったか。

女の子だもの、綺麗な恰好が好きよね。

ましてアイコちゃんは将来の天皇陛下になるんだものね。

レイちゃんの処も早く女の子ができるといいわね。

男の子より女の子の方が親としては楽しいわよ」

あら、イケダ家の跡取りを産んだ私にそんな事いうわけ?」

レイコの言葉は半分はマサコに対する皮肉である。

マサコはふんと顔をそらしてワインを一口飲んだ。

高かったんじゃないの?」

着物のことをよく知らないマサコは、それでも生地がかなり高級そうな

着物を見て言った。

ええ。それなりよ。当たり前でしょ。アイコちゃんが着るんだものね。

呉服屋にはつてがあるし、私の顔を見たら随分おまけしてくれたわよ。

私からアイコちゃんに渡るって気が付いたのね」

ありがとう。お母さま。お正月はこれで参内させるわ」

皇后陛下も冷たいわよね。アイコちゃんに着物の一枚もくれた事あった?

お誕生の時の白羽二重と張り子の犬でしたっけ?

それだけよ。おもちゃを買ってくれるでもないし」

アキシノノミヤ家の子が着てた着物は皇后陛下が贈ったものよ。

皇室にはそういうしきたりがあるんだって

あら、じゃあなんで

だって私、着物が嫌いだし。だから御用達の呉服屋から催促が来ても

無視してたの」

あらあら。皇太子殿下。そういう時は代わりに注文してやってください。

マサコは皇室に入ってまだ10年です。わからない事も多々あるんです。

どうか助けてやってくださいな

はい。お義母さん。申し訳ありませんでした」

皇太子は相変わらずにこにこといい、頭を下げた。

ユミコの言葉が理に合わないなどとは考えもしないのだった。

 

それにしても天皇誕生日の時はびっくりしたわ」

レイコが料理をつまみながら笑い出した。

突然、お姉さまがアイコを連れてやってくるんだもん。私達

出かける所だったのよ」

その話を聞いた時はびっくりしたわ

ユミコも頷いた。

まさか、まーちゃんが東宮御所に戻らずにレイちゃんの家に来るなんてね」

だって、アイコが煩かったんだもの。それに東宮御所は人が出払ってるし。

私、もう戻る気なかったからレイコの所に行こうと思って

すぐに戻るって言ったんでしょう?」

言ってないわよ。そんな事。ねえ?」

マサコは皇太子に顔を向けた。

え?」

ふられた皇太子はちょっと考えて

言ってないけど、あの場はやっぱりすぐに帰って来るとみんな

思っていたよ。アイコには女官がついていればいいんだし。

なかなか戻って来ないんで、僕もどうしたらいいかわからなくなったよ

適当に話をして、マサコは気分が悪いので今日はもう来ませんって

言えばよかったじゃない。何を馬鹿みたいにずっと食堂で

一緒になって待ってたわけ?」

だってそれは・・・・」

マサコ」

横から口を出したのはヒサシだった。

あの日は天皇誕生日の祝いの食事会で、いわば公務と同じだ。

アイコを口実にしてさっさと自分だけ帰るとは誰も思わんさ。

あまり殿下を困らせるものではない」

ぴしゃりと言われてマサコはちょっと黙った。

大変だったのよーーワゴン車1台で来たものと思ってたら、しっかり

皇宮警察もついてきてたし。近所にバレたら困るからあっち行けって

お姉さま、随分怒ってたでしょ」

そうなのよ。なのにちっとも消えてくれないの。おまけに千代田から

私を探しまくってるとかいう連絡があったらしくてね。

若い護衛官つかって、さかんにマンションのブザーを押すから

頭きちゃった」

それは携帯を切ってたお姉さまが悪い」

酔った勢いでレイコがちょっと大声になった。

あんまりしつこいからドアあけて、そいつの頭叩いてやったわ。

泣きそうな顔して「お願いですから戻って戴けませんか」なんて

いうのよ。生意気にも。私を誰だと思っているのかしらね」

マサコ、あの時、みんな必死にマサコを探してたんだよ。

東宮御所の部屋から出てこないとかいう言い訳に、陛下も不審な

顔をされていたし、それぞれマサコを助けようと思って」

本当に私のことを考えるならほっておいてくれたらいいじゃない!」

マサコは怒鳴った。

場がしんとなる。

また始まった・・・・・家族はみんなうんざりした目を向けた。

子供たちもびくついてレイコにくっつく。

アイコだけが慣れているのか、知らん顔で食べている。

一々やる事が恩着せがましいっていうか、うざいというか。

せっかくレイコの所で食事してテレビ見てってやろうと思ってたのに

散々せっつかれて、やっと東宮御所に戻ったら早く皇居へ行けって

言うじゃない。

そして戻ったら・・・・アキシノノミヤ妃と妹が廊下に立って待ってたのよ。

信じられる?あの恩着せがましさ」

ひどいわね。皇太子妃に罪悪感を植え付けるって寸法よ」

ご機嫌をとるようにレイコが大真面目に言った。

こういう時は持ち上げるしかないのだ。

それも皇后が言い出したことなんですって。頭来たから「どうも」とだけ

言ってやったわ。そしたら廊下であの二人、こそこそと。ああ、思い出す

だけでも不愉快。皇室って本当にへんな場所だわ」

あなた、マスコミの方は大丈夫なの?」

ユミコが心配そうに聞いた。

ああ、大丈夫。充分に鼻薬をかがせたし、なんせお抱えライターが

うちにはいるからな。そんな言い訳を書こうが、それが真実となるのだ

ヒサシはゆっくりと紹興酒を飲み、頷いた。

両陛下に叱られなかった?」

レイコが聞いた。

ええ。叱られなかったわよ。怒るなんて出来ないわよ。私、病気なんだもの

そう!じゃあ、これからはお姉さまの天下ね。好きな事できるんじゃない?」

そうね。これからは我慢しないわ。ヨーロッパの王様みたいに好きな事するから」

マサコは張り切ってそう言った。

張り切っている妻にほっと一息の皇太子は、背中に憂鬱感が残るのを

必死にごまかしていた。

わしも90までは司法裁判所にいるつもりだ。互いに健康に気を付けて

長生きしないといけないな。可愛い孫達の為に」

そしてみんなで乾杯の盃を上げ、大笑いした。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」192(2時間47分のフィクション2)

2015-08-21 07:00:00 | 小説「天皇の母」181-

宮邸の門に着いた時、マコもカコも無言だった、

カコの着物の袖は少し敗れていたし、汚れてもいた。

髪もすっかり乱れてしまい、出迎えた侍女や宮務官は言葉を失った。

連絡は来ていたので、みなは二人を部屋に通すと

さっさと着物を脱がせ、そして食堂に招いた。

今日はお二人だけのご夕食ですからね。おいしいものがたくさんありますよ。

妃殿下は今日はお二人の好きなものばかりご用意するようにと

私、いらない」

カコはぷいっとして、自分の部屋に戻ろうとする。

「カコ、食べなきゃダメ。叱られるわ」

叱られたっていいもん

どうしてそんなこというの。私達、何も悪くないのに」

悪くなくたって叱られるんでしょ

カコ・・・」

マコは泣きそうな目をする。そんな姉の様子を目にしたカコは

それ以上何も言えず、かといって部屋に戻ることもせず、じっと

席に座っている。

私、悪くないもん

わかってる。私はちゃんとわかってる。お父様もお母さまも

おじいさま達も?」

ふとした不信の言葉。マコは何も言えなくなってしまった。

静かに供される黄金のスープ。普段は「音を立ててはいけない」と

言われるけど、スープをすくう音すらしない静かな食事風景だった。

 

皇居では何事もなかったかのように、マサコ以外の全員が

テーブルについていた。

お祝い御前は毎年、内容が決まっている。

老齢の天皇と皇后に合せてあっさりで薄味にできているのだ。

決して豪華というわけではないが、上品な料理が並ぶ正餐だ。

天皇の義務は「長生きをすること」にある。

天皇という存在が健在であれば、国家も安泰。

だから、毎年の天皇誕生日は国民にとっても祝いの一日であるといえる。

国民は、きっと今頃、皇居では皇太子夫妻やアキシノノミヤ夫妻などと

華やかな晩餐会が行われているだろうと思っている。

しかし、実際は。

テーブルの上には、コーヒーか紅茶のみ。

時計の針は正餐開始時刻を遥かに過ぎていた。

侍従がたまらず伺いをたてる。

あの。そろそろおはじめになったほうが

だれもがそのほうがいいと思っている。

だけど、誰もそうは言い出せないでいた。

皇太子妃が戻って来ないのである。

先ほどから、何度東宮御所に連絡をとったかしれやしない。

今日は、内親王付きの女官以外は出払っている。とはいえ

まるっきり人がいなくなったわけではない。

妃殿下は内親王殿下と東宮御所にお戻りになりました。が。

お二人で部屋に閉じこもられて出ていらっしゃらないのです

ありえない女官の声に、千代田側は慌てた。

だって、すぐに戻るとおっしゃられて。一体、何をしているのか

お食事は先ほど、運びました」

じゃあ、こちらの晩餐はキャンセルなのか」

ではないかと」

ではないかとって。ちゃんと確かめないか」

侍従の怒鳴り声が響く。

もちろん、何度もお部屋の前で申し上げました。でもドアが開かないんです。

こっちではドアが開かないともうダメなんです」

もはや女官の悲鳴のような声に千代田側も意味不明に頭を抱える。

携帯だ・・携帯でかけろ」

妃は常に携帯を持っている。そっちにかけたらと思ったのだ。

「電源が入ってないそうです

わかった。じゃあ、妃殿下の晩餐はキャンセルにする」

 

この事はすぐに大膳に伝えられ、侍従は報告をしに食堂へ行った。

陛下、妃殿下はたぶん、お戻りにならないかと存じますので、先に

お食事を始められては」

戻らないって、言ったの?」

天皇は憤懣やるかたないといった風情だ。

さすがに空腹を覚えるし、かといって、皇太子妃のこと、無断で先に

始めたらまた悲劇的な態度で回りを困らせるのだろう。

いえ・・・妃殿下とはまだ連絡が」

どうして連絡が取れないの?電話くらいあるんでしょう?」

珍しく嫌味を言う天皇に侍従は頭を抱える。

ナルちゃん、どういう事なのかしら?」

皇后が水を向ける。

先ほどからまるっきり他人事の顔で

とりとめのない会話をしながら笑っていた皇太子は困ったような表情になった。

さあ。僕にはわかりません

わからないって。自分の妻のことでしょう

いきなりアキシノノミヤが声を荒げたので、一瞬、場が凍り付いた。

皇太子はむっとした顔で宮をにらみつける。

両陛下をお待たせする事自体、ありえないことだのに、さらに連絡が

とれないってどういう事なのか。皇太子殿下が一番よくご存じでは

ないのですか」

そうですよ。今日は陛下のお誕生日ですわ。こんな前代未聞のことが

あっていいのですか」

サヤコも負けてはいなかった。

そもそも、可愛い姪の着物が汚された時から不機嫌極まりないのに

こんなに待たされて。ヨシキは明日も仕事だというのに。

「そうやってマサコを追い詰めるから来ないなんじゃありませんか。

彼女は病気なんですよ」

だったら最初から晩餐は出ないという事でよろしいのでは」

みんなでマサコをのけ者にするのか」

今度は皇太子が怒鳴った。

サーヤ。お兄様に失礼ですよ

皇后の静かながらも厳しい声が飛んだ。

サヤコは何も悪くありません。ただ、このような事態になって、

皇太子殿下が何も知らないではすまされないと言っているのです」

アキシノノミヤはさらに畳みかけた。

両陛下のおからだのこともある。すぐに晩餐を始めるべきです

全員がそう思っているという感じで、皇太子はいたたまれなくなった。

しょうがないので、自ら電話をかけようと部屋を出る。

それから暫く戻って来ない。

皇太子が戻ってこないのに食事を始めるわけにはいかなかった。

みんな、そんなにお腹がすいているの?」

皇后はにっこり笑った。

歳をとるという事はよいこともありますね。あまりお腹が空かないから

そういえば、那須の御用邸に疎開していたとき、食べ物がなくて

みんな腹をすかせていたな。たんぽぽの茎とか、雑草を食べていたりして

私も同じですわ。当時は食べ物がなかったですから」

あんな思いは二度と御免だね。若いときは特に空腹が身に堪えて」

今は平和な世の中ですから」

のんきすぎる天皇と皇后の会話にアキシノノミヤ夫妻もクロダ夫妻も

頭の中で感情が沸点に到達しそうだった。

キコは不安そうな目を宮に向ける。

マコとカコは大丈夫でしょうか)

大人の事情に振り回された娘たちの心を思うといたたまれない。

本当は今すぐに宮邸に帰りたいと思っている。

けれど、それが許されないのだ。

宮はそれをわかっているが、帰るとはさすがに言い出せなかった。

そんな事が表に出たら、どんなバッシングを受けるかわからない。

非常識な態度をしているのはあちらなのに、どうしてこちらが

ここまで気を使わなければならないのか。

 

時間は刻々と過ぎていく。

ヨシキが少し焦ったような表情になった。

皇族と違ってヨシキは地方公務員である。

天皇誕生日は休日であっても、翌日は仕事だ。

ただでさえ、今日は精神的にへとへとなのに。

疲れたような夫の目を見て、サヤコはさらに顔をしかめる。

時計の針はとっくに夜の8時を過ぎている。

 

大膳でも料理長が怒りまくって侍従長や女官長に内線電話で

怒鳴っていた。

食材の味が落ちる!いい加減にしてくれ!」

一体、何人分の用意でいいのか

大膳はすでに大わらわになっている。

人を減らしていいのか、そのまま待機なのか。

しかし、どうしょうもなかった。

 

皇太子が食堂に戻ってきたとき、時計の針は9時になろうとしていた。

マサコが戻って来るそうです。だから先に始めてくださいとのことです

天皇としても、これ以上食事の時間をずらすわけにはいかなかった。

待たせたね。済まなかったね。大膳にはよく謝ってくれ」

天皇の一言で、やっと食事が始まったが、誰も楽しく食べることなど

できるはずがなかった。

ただ一人、皇太子だけがやたらほっとした顔で微笑みながら

食事を始めたことに、宮もキコもサヤコもヨシキも、ただただ

あきれ果てるばかりだった。

しかし、最も悲しかったのは、本来「礼」の最上級にいる天皇と

皇后が皇太子夫妻の無礼な振る舞いに何も言わないことだった。

サヤコなどは(考えてみるといつもお兄様は特別だったのだわ)と

頭の中で昔のことを思い出して、苦い顔をしていたし、

キコは、何とか勇気を出して宮邸と連絡を取りたいと思うばかりだった。

 

「もう、そろそろなんじゃない?皇太子妃が一人で部屋に入って

きたらきっと気まずいわね。私は廊下で待ちますわ。

陛下、みなさんはお食事を続けていらして

皇后がすっと立ち上がったので、慌ててキコも立ち上がった。

陛下、廊下は寒いですわ。お体にさわります。

私が廊下で待ちますから。陛下はどうかお席に」

じゃ、私も廊下で待ちますから

サヤコも立ち上がった。

じゃあ、みんなで行きますか?」

皇太子が笑った。皇后は「いいわね」といいつつ、なおも

廊下に出ようとしたので

キコは「私達だけのほうがよろしいと思います。陛下や東宮様まで

廊下で待っていられたらかえって気を遣われるでしょう」

といい、さっさと部屋を出た。

後ろからサヤコも追いかけてきた。

二人はしんとした廊下を歩いて、玄関へと進む。

慌てふためいた女官たちもついて来る。

ぞろぞろとした行列になってしまったので、キコは何人かは帰した。

 

マコとカコはちゃんとお食事をしているかしらね

ええ・・・」

「お姉さま。どうしてこんな風になっちゃったのかしら。

私、少しもわからないわ。前はこんなんじゃなかったのに。

両陛下のお気持ちが本当にわからない

息が白くなる。

筆頭宮家の妃と、元内親王が、こんな冷たい廊下に立って

待っている。食事もろくにとっていない。

この信じられない立場が。

仕方ないのよ

キコは小さく言った。

今は仕方ないの。サーヤはご自分の幸せだけを考えるのよ。

よろしい?」

お姉さま・・・・・」

 

そこに、車が到着する音がした。

妃殿下のご到着です」

先ぶれの侍従の声とほぼ同時に、コートを着込んだマサコが入ってきた。

マサコはキコ達が廊下で待っているのを見ると、ちょっと嫌な顔をした。

なんでこんな所で待っているのかといいたげな表情だった。

「皇后陛下がご心配でしたよ」

サヤコがそういうと、マサコは「それはどうも」と言い、そのまま

さっさと食堂に入っていく。

唖然としたキコとサヤコは暫く言葉もなく、立ち尽くしてしまった。

そのうちに、とうとう耐え切れなくなったキコの目から大粒の涙が

こぼれ落ちてきた。

笑顔を作ろうと必死に口角を上げているのに、どういうわけか

目からは涙がこぼれて仕方ないのだ。

思わず手で口をおさえる。

驚いたサヤコがキコの肩を抱いた。

お姉さま。ねえ、お姉さま。しっかりして」

必死に慰める義妹の肩にすがってキコは思わず泣きじゃくった。

「どうした」

二人が入ってくるのが遅いので、様子を見に来たアキシノノミヤは

ただならぬ様子に小走りに近寄って来る。

サヤコは戻りなさい」

宮は一瞬で察したように、サヤコを食堂に戻し、キコを抱きしめた。

高い天井に空気が冷たい。

だけど、宮の腕の中はひどく温かくて、そのぬくもりによけい

涙があふれ出てくる。

ごめんなさい。私・・・こんなつもりじゃ

いいんだ。もういい。もういいから」

人目もはばからず、宮はしっかり妻を抱きしめる。

その腕の強さは今までにないものだ。

わかってる。君の気持ちはわかってるから

うっすらと宮の瞳にも涙が光っていた。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」191(2時間47分のフィクション 1)

2015-07-17 07:25:06 | 小説「天皇の母」181-

出来上がりましたよ

汗をふきながらたすきを外した侍女に押し出されるようにして

二人の内親王が両親の前に出た。

マコもカコも赤い着物を着ている。

マコは恥じらうように笑い、カコは得意げに袖をふりふりしていた。

「さあ、宮様方、よい子になさいませ」

もう子供じゃないもん」

カコはぷうっと頬を膨らませた。

キコは「カコちゃん。そんな言葉遣いはいけません」と言いながらも

娘達のあでやかな着物姿にため息をついた。

内親王は物心がつくと、「御地赤」と呼ばれる赤い着物を仕立てるしきたりだ。

それを来て正月や天皇誕生日などに参内する。

この日はまさに天皇誕生日だった。

朝から夫妻は、一度参内して祝賀の辞を述べた。

さらに祝宴やら茶会やら、それぞれの行事に出席し、一度宮邸に戻って来てから

再度、娘達を連れて参内し、その後は成年皇族のみの夕食会になる。

着物というのはいいね。おてんばもしとやかに見える」

宮は笑った。

それ、どういう意味なの?お父様」と睨んだマコもまんざらではなさそうだ。

4人は笑顔で車に乗り込み、半蔵門を超えた。

 

控室にはクロダ夫妻も来ていた。今日の夕食会に出席するためだ。

まあ、マコちゃん、カコちゃん、とても可愛らしいわよ

サーヤはにこにこ笑って姪達をここぞとばかりにほめちぎる。

昔からそうだったけれど、彼女は姪には甘いのだ。

女の子は可愛いね」とヨシコも笑顔だ。

そんなに久しぶりではないけど、会った限りは話が尽きない。

みなでさんめきあっているところに、ドアが開いて、皇太子一家がが入ってきた。

沈黙が包み込む。

それに気づかない皇太子はにこにこと

みなさん、来てたんだね」といい、さっさと自分の定位置に座る。

マサコはアイコを抱いていた。

アイコは無表情でどこを見ているかわからなかった。

ごきげんよう」

サヤコとキコがあいさつし、娘達もそれに習う。

あら、真っ赤

マサコは一言だけそう言った。

内親王達は一瞬「え?」という顔をしたけれど、それ以上は何も言わなかった。

アイコは赤い着物がとても珍しそうで、触りたいと思ったのか、マサコの

手から逃れようとした。

ちょっと、暴れないで

マサコは怒ったが、アイコは「いや」というばかりで必死にもがく。

きっとマコ達の着物にさわりたいのね。大丈夫ですよ」

キコが優しく言った。

アイコは母から降ろされると、一目散にマコとカコの着物に触ってみる。

正直、内親王達は「嫌だな」と思ったのだけど、顔に出してはいけないと思い

我慢していた。

アイコは振袖を引っ張ったり、生地をなでたりしていた。

そのうちに時間が来て、子供達だけ天皇と皇后の前に出される。

アイコを先頭にマコとカコがそれに続いた。

本日はお誕生日おめでとうございます

口上を述べたのはマコ。最年長だから。カコはマコにならって同じセリフを言い

しっかりと頭を下げた。

しかし、アイコはぽかんとして眼は泳いでいた。

天皇も皇后も追及せず、退出するように合図をする。

マコとカコは踵を返して歩き出そうとした。

その時、珍妙な光景が場を凍らせた。

アイコがカコの着物に抱きついたのだ。

え?」

一瞬、カコは何が起きたのかわからず、よろめいた。

それにおされてマコも一緒によろめき、3人はどすんと床に倒れこんだ。

マコちゃん!カコちゃん!」

皇后は驚いて駆け寄る。様子をききつけた女官達も飛び込んでくる。

天皇は「早く起こしてやりなさい」といい、そのごたごたを聞きつけて控えていた

皇太子夫妻、アキシノノミヤ夫妻、クロダ夫妻も入ってくる。

アイコはカコの着物にしがみついたまま、離そうとしなかった。

「いやーー」というばかりで、しっかり袖を握りしめている。

マコは立ち上がったがカコは立ち上がれず、ひたすら

お願い。ちょっと立たせて」と言っている。それでもアイコは全体重をかけて

カコに馬乗りになっている。

宮様。およしください

女官が二人がかりで引き離そうとするのを、どんと体当たりしてアイコを抱きしめたのは

マサコだった。

うちの子に何するの!」

みなは唖然として固まった。

カコちゃんが倒れたからよ。トシノミヤが突然しがみついて

皇后が珍しく声を荒げたが、マサコはそれ以上に声を大きくして

着物なんか着てくるからじゃない」と叫んだ。

みなは一瞬「は?」という顔になった。

皇太子は薄笑いをうかべ

アイコは着物が珍しいんです。だから触ってみたかったんだね。いや、着てみたい

と思ったんじゃないかな」

といった。

だったら御地赤を作ればよろしいでしょう。そういうしきたりですよ

それは・・・」

だったらそうだって教えてくれてもよかったじゃないですか

マサコはなおも食って掛かった。

実は何度も東宮家の職員は御地赤の注文については聞いているのだが

無視して来たのはマサコだった。

アイコは洋服なのに、この二人だけ派手な着物を着てたらアイコが傷つくに

決まっているじゃありませんか」

マサコはマコとカコを睨み付け、いつの間にか涙目になっている。

あれーーあれーー」指さして叫びながら、何とかカコの着物にたどり着こうと

するアイコはマサコの手の中でもがいていた。

そんなこと!」といいかけたカコをキコはバシッと手でおさえた。

とにかく両陛下の御前です。子供達を下がらせましょう

止まった時間が動き出すように、女官に支えられながら立ち上がったカコと

マコは退出して行く。

アイコ様も」と女官が手を差し出す。

私が連れて帰ります」

とマサコはアイコを離そうとしない。

でも、これから夕食会ですので」

「私が連れて帰るの。この子はあたしじゃなきゃだめなの

マサコは譲らなかった。

そもそも控室で着物に触らせたりするから。あなたのせいよ。そんな事したら

子供がますます興味を持って離れられなくなるってわからなかったの?」

責め立てる皇太子妃にサヤコが「両陛下の前ですよ」とたしなめた。

マサコは聞こえないふりをしてアイコを抱きしめまま目に一杯の涙をためている。

とりあえず、マサコはアイコを連れて東宮御所に帰った方がいいでしょう」

皇太子はおろおろしてそういった。

では夕食会は不参加という事で

侍従の一人がそういいかけると、皇太子は慌てて首を振った。

いや、マサコはすぐに戻ってきます。ね?戻ってくるよね?」

マサコは「私なんかいない方がいいんでしょう」と低い声でつぶやく。

そんな事ないよ。君が戻って来るまでまっているから。ちゃんと待っているから

もはやだれも何も言えない環境だった。

マサコはなだめられてようやく立ち上がり、アイコと一緒に退出して行った。

このされた一同は、とりあえずぞろぞろと食堂前の控室に入った。

夕食開始の時間はとっくに過ぎていた。

 

 

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