ふぶきの部屋

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韓国史劇風小説「天皇の母」140(来たぞフィクション)

2013-12-17 06:45:04 | 小説「天皇の母」121-140

お兄様が・・・お兄様が・・・・

タカマドノミヤの死を受けて、ショックを受けたのは皇太子だった。

なんせ、自分の結婚をお膳立てしてくれた人であったし、自分のいう事は

何でも肯定してくれた。

両親や弟、妹にまで否定される事が多かった彼にとって、タカマドノミヤこそが

本当の「兄」のように思えた存在だったのだ。

彼の死で、アイコの将来がどうなってしまうのか。

いや、それよりも自分の心の支えを失ったようで悲しかった。

ショックだったのはマサコも同じだった。

けれど、今、彼女にはそれよりも重要な案件があった。

一つはアイコの健康診断。

12月1日がアイコの一歳の誕生日だった。

その前、生後9か月の時に健診を受けた時は「健康には問題ないが少しごゆっくり」と言われた。

その「ごゆっくり」という言葉に敏感に反応した彼女は、何が「ごゆっくり」なのか

徹底追及しないではなられなかった。

医師は不用意な発言だったと反省したが、それだけでは済まされなかった。

何がどうなの・・・・言いなさい。他の子供と何が違うのとさんざん責められて

とうとう「少し発語は遅いような。背中の安定も遅く・・・また内反足で」と言ってしまった。

それを聞いたマサコは真っ赤になって、それから目を吊り上げ

「何で」と言い募る。

お子様にはお子様なりの個性がありますから。まだ何とも」

「じゃあ、内反足は?」

これもまた誰のせいとはいえません。とりあえず夜だけ装具をつけて様子を見ましょう。

発語が遅いといっても1歳半までは様子をみないと。要するに確定ではないので

ご心配なく」

そうは言っても全てが否定されたような気がして、マサコは深く傷ついた。

何よ。産め産めっていうから産んであげたのに、ちっともちゃんと育たないじゃないの。

あんた達には任せられないわ」

マサコは側についているナースに当り散らし、それから離乳食の本を片っ端から取り寄せ

大膳にああしろこうしろと口を出し始めた。

内反足も自分で直そうとして、装具なんかに頼らず無理にでも立たせようとしたし

発語が遅い事も気になってはいたので、耳元で常に英語の歌を聞かせる事にした。

起きてから眠るまで英語の歌や読み聞かせをすれば、喋るようになるかもしれない。

それがなぜ日本語ではなく英語なのか。

女官やナース達の怪訝な表情をよそに、マサコはマサコなりに必死だったのだ。

そして1歳児健診を受けた。

結果は・・・・・・

やはり内反足のようです。装具を作りましょう。場合によっては手術も必要かもしれません

その言葉に皇太子夫妻は顔色を変えた。

何だって・・・・手術?」

ええ。ブラント病疑いと言います。無論、手術は今行うわけではなく、とりあえず装具をつけて

様子を見て、それから・・小学校に入る頃ですね。誰にでも起こりうることですので、あまり

深刻にお考えにならないように」

「誰の遺伝なの」

真っ先にマサコは言った。

誰の・・・とは言えません

でもそれって血筋じゃないの?うちには誰もそんなのいないし。やっぱり天皇家の血のせいよ

その言葉に医師は戸惑い、「そんな事は・・・」と言葉を濁す。

恐れ多くも天皇家の血筋に問題があるとは言えない。まして皇太子が目の前にいるのだ。

心情的には「何を言ってる。この女」と言ったところだったろうが、今言えば逆効果だと

わかっているのでひたすら沈黙を通す。

だって変よ。あなたの叔父さんだって小さい時にポリオをやってるんでしょう?

だから今だって足が変じゃないの。ミカサノミヤ家だってみんな病気ばっかり。

タカマドノミヤ様だって」

マサコ」

さすがに皇太子が厳しい声を出したので、マサコは一瞬黙った。

お兄様は心臓発作だったんだよ。誰の血筋でもないよ。あまりひどい事言わないで

マサコはぶすっと黙り込む。こうなるともう誰がどう言っても無理だった。

医師は「もう一つ・・発語の・・・」といいかけてやめた。

今、追い打ちをかけるような事は言えない。

そうこうしている間にアイコは無事に1歳の誕生日を迎えた。

その日は朝から大騒ぎだった。

ヒサシとユミコが朝からやってきて、ほぼつきっきりだったし、本当は参内するのも嫌だった

のだが、これはどうしてもというので、仕方なく3人で参内し、挨拶をした。

 

マサコにとってもう一つの重要な事。

それは7年ぶりの海外訪問だった。

ニュージーランド・オーストラリア!

何と素晴らしいだろう。それもこれも子供を産んだおかげと思えば何やら得意だった。

けれど、一方で、ここまで海外旅行を止められると思っていなかった事が

心の中に澱のようにたまっていた。

最後に海外に行ったのはベルギーだった。

あの時の楽しかった思い出。それが流産騒動で台無しになった。

流産したのは自分のせいでも海外に行ったせいでもないのに、回りは止めた。

宮内庁は何も言わなかったが、自然に海外公務をなくしていった。

こんな人権侵害許せない。

その復讐のチャンスがやってきたのだ。

12月5日。

この日、皇太子夫妻は記者会見に臨んだ。マサコの誕生日と海外訪問前の定例のもので

2度にわけて行われた。

最初に皇太子妃誕生日記者会見が行われ、マサコが単独で受けた。

記者から「結婚10年目の感想」聞かれたのだが、何と答えたらいいかわからず支離滅裂になった。

いま10年目と言われまして,ああ10年目なんだなというふうにまず思いました。

自分の中では9年という気持ちが強かったものですから,

10年目と言われて,10年と申しますと,十年一昔とも申しますし,

十年一日のごとしとも申しますけれども,確かに考えてみますと,

年が明けますと,1月19日に皇室会議を開いていただいて,

そして婚約ということになったのがもう10年も前になるんだなあということを思い

出しますと大変深い感慨がございます。

その後,皇室に入らせていただいて,私なりにいろいろと努力をしてきたつもりではございますが,

本当に力の至らない点が多かったのではないかしらというふうに思いますが,

常に皇太子さまに温かく支えていただきまして,

いつもいろいろとご相談に乗っていただいて,励ましていただいてここまで元気に過ごして

まいることができましたことを,本当に有り難いことと思っております」

記者達のぽかんとした顔にちょっとむかついた。焦ったマサコはさらに

「殿下との出会いは,両陛下がスペインのエレナ王女さまのためにレセプションを

お開きになっていらしたところに私の両親と一緒にお招きを頂いて,

伺った時が初めてお会いした時で,その後,いろいろな事がございましたけれども,

私自身,まさか自分が皇室に入らせていただくことになろうとは夢にも思っておりませんでしたので,

本当に何年かの後にそういうお話になりました時には,

大変驚き,その時は本当に大きな選択であったと思います。

また,分からないこともたくさんございましたし,心もとない気持ちでおりました中を皇太子さまに

いろいろとお教えいただきながら,また,天皇皇后両陛下にいつも温かく

お見守りいただきながらここまでまいりますことができましたこと

,大変有り難く思っておりますし,そして昨年は子供が誕生いたしまして,

国民の皆さんから本当に温かい祝福の気持ちを折に触れてお示し

いただいてることを心から有り難く感謝しております」と答えた。

自分なりに推敲した文章の筈だったが、あまり通じていないようだった。

 

記者がとりあえず「アイコ様について」と質問するとマサコは得意げに生き生きとした表情で

お陰さまで,とても今のところ身体が丈夫で,そしてまた,おおらかな性格といいますか,

皇太子さまに似ましたのか,何ていうのかしら,ゆったりと,どっしりとしておりますので,

その点健康に恵まれた子供を持っているということは,そうでない方もたくさんいらっしゃるわけなので,

本当に恵まれたことだと思って有り難いことと思っております」と言った。

マサコにしてみれば、「うちの子は幸いにして恵まれている」というつもりで

そうでない方もいらっしゃるわけで」と発言したのだが、記者達の間には一瞬、微妙な空気が流れた。

さらに1年を振り返ってと質問された時、

 「6月にはサッカーのワールドカップということで,これは史上初めて日本と韓国と2か国で

共同開催をするということで,関係者も大変に力を尽くして準備を進めたことと

思いますけれども,これが大変な成功のうちに終わって本当に良かったと思いましたし,

また,その成功の陰には,高円宮同妃両殿下の,皇族としての初めての韓国へのご訪問,

これもとてもきっと気をお遣いになることが多いご訪問でいらっしゃいましたと存じますが,

本当に素晴らしい成果をお上げになっていらっしゃって,ワールドカップそのものの

成功のためにも,宮さまは大変にお力をお尽くしになられていらっしゃいましたので,本

当に成功のうちに終わって良かったなという印象でございます」とこれまた長々と話したかと思えば

やはり日本の国内にあっては北朝鮮の拉致の問題でございますね,

こちらが明るみに出て,そしてその被害に遭われた方のうちの

何名かが帰国されたというようなこともございまして

また亡くなられてしまったと言われている方々もいらっしゃるわけで,

本当にその被害に遭われた方々,そしてまた,そのご家族のお気持ちを思うと,

本当にこれは胸が痛むことで,本当にお気持ちを察するに余りあることであったのでは

ないかと思います」

これまたマサコにしてみれば、報道されている通りの印象を話したにすぎないのだったが

拉致が「明るみに出て」と言ってしまった事や、「亡くなられてしまったと」と発言した事が

またも微妙な空気を産んだ。

その後は延々と「中東問題」を論じたので、さらに空気は凍りつく。それに気づかないのは

マサコだけだった。

あまりに長々と政治問題に触れているので、たまらず、ライフワークなどについて質問したり

さらにアイコについて話したりしている間にやっとの事で1回目の記者会見が終わった。

マサコの「恨」を晴らすチャンスはまだ来ない。

 

次に皇太子も加わっての記者会見となった。

皇太子はまず

始めにタカマドノミヤ殿下の突然のご逝去に大変驚いております。

今でも信じられないような気がいたします。

高円宮妃殿下そして3人の女王さま方のお悲しみもいかばかりかと拝察いたします。

高円宮殿下には,私が幼少のころから亡くなられるまで終始温かく見守ってくださり,

また,ときには相談に乗っていただくなど,私にとって兄のような存在でした。

本当に残念です。皇族として幅広い分野で活躍され,国民と皇室との大切な橋渡しをされたと思います。

心からご冥福をお祈りいたします」と言った。

なぜ、身位が下の「女王方」に「様」付けをしたのか、記者達はいぶかったが、皇太子に

してみれば、ヒサシの作った大まかな文章のまま答えていたのだった。

それはマサコも同じだった。

ご質問にありましたように,今回公式の訪問としては8年ぶりということになりまして,

ニュージーランドとオーストラリアを訪問させていただくことができることになり,

大変うれしくまた楽しみにしております。

中東の諸国を訪問いたしました折のことは今でもとても懐かしく

本当にいい経験をさせていただいて,その時の思い出は今でも皇太子さまとよく話題にしたりして

おりますけれども」と結ぶ。

中東を訪問した時は震災があったのだ・・・という事をもうすっかり忘れているようだった。

さらに、「いい経験をさせて頂いて」とまるで留学気分だったように感じられ、またも記者達はしらけた。

しかし、喋っている間に段々とマサコの言葉に熱を帯びてきた。今がチャンスだった。

もう誰にも止められない。

その後8年間ということで,そのうち最近の2年間は私の妊娠そして出産,子育てということで

最近の2年は過ぎておりますけれども,それ以前の6年間,

正直を申しまして私にとりまして,結婚以前の生活では私の育ってくる過程,

そしてまた結婚前の生活の上でも,外国に参りますことが,頻繁にございまして,

そういったことが私の生活の一部となっておりましたことから,

6年間の間,外国訪問をすることがなかなか難しいという状況は,

正直申しまして私自身その状況に適応することになかなか大きな努力が要ったということがございます。

今回,昨年子供の愛子が誕生いたしまして,今年,関係者の尽力によりまして,

ニュージーランドとオーストラリアという2か国を訪問させていただくことができることになりました

ことを本当に有り難いことと思っております」

と言ってしまった。

記者達は非常に驚き、その時のマサコのこわばった顔を集中してカメラに収める。

さらに関連質問で「海外に行けなかった事に努力をした」とはどういう風に努力したのかというのがあり

それには胸をはって

子供が生まれましてからいろいろ状況も変わっておりますので,

その前のことをはっきりと思い出すのもなかなか難しい面もあるのですけれども,

やはり国民の皆さんの期待というものが,いろいろな形での期待があって,

その中には子供という期待もございましたし,他方,仕事の面で外国訪問なども国際親善と

いうことでの期待というものもございまして,

そういう中で,今自分は何に重点を置いてというか,何が一番大事なんだろうかということは,

随分考えることが必要だったように思います」と言った。

わかりにくい言葉だったが、要するに「世継ぎを産むよう期待されたが、自分としては

外交をやって行きたかったのだ」と答えたのである。

それは心からのマサコの願いだった。

これだけの事を言い放ち、かなり彼女は満足し、でも国内をないがしろにしたと

思われては心外なので

結婚後,いろいろな機会に恵まれて,国内各地を訪問することができまして,

それは,私のそれまでの生活の中では,なかなか国内の各県をまわったりということは,

それまでは余り経験―もちろん私的な旅行で観光地のような所をいろいろ訪れるという

機会はもちろん何度もございましたけれども―いろいろな地方へ行って,

その地方の特有の文化ですとか,食事ですとか,施設,いろいろなものを見せていただいたり,

そういう中で,国内のことについていろいろな事の理解を深めることができたということはとても大きく,

私にとっても財産になったと思っております

と続け、けれどやっぱり外国がいいんだと言いたいが為に

そして,もちろんこちらにおりましても外国からのお客様をお迎えしたりとか,

また,両陛下がお迎えになる外国のお客様とお会いしたりという形では,もちろん,

外国の方とのつながりというものは続けてきたわけではございますけれども,

今回久しぶりに公式に訪問させていただくということで,それから,申し忘れましたけれども,

公式の訪問以外には,ジョルダンのフセイン国王が亡くなられた折のご葬儀と,

それからベルギーの皇太子殿下がご成婚なられた時には,そちらに伺わせていただくことができましたことも

大変有り難かったと思っております

と〆、満足げな微笑みを浮かべた。

ヨルダンをジョルダンと発音した所に、マサコの外務省出身であるプライドが見え、

けれど、「フセイン国王が亡くなられた葬儀」に「うかがわせて頂くことが出来ました事も・・・有難かった

」非常に失礼なセリフを発した事には全く気付いていなかった。

 

次の日から怒涛のように

「6年間の間,外国訪問をすることがなかなか難しいという状況は,

正直申しまして私自身その状況に適応することになかなか大きな努力が要ったということがございます」

のセリフがテレビから流れ始め、それに対するコメントも多数始まった。

よくも悪くも、これがマサコの「病気」の前兆となったのだった。

 

 
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韓国史劇風小説「天皇の母」139いつかの(フィクション)

2013-12-16 18:57:57 | 小説「天皇の母」121-140

「妃殿下っ!宮様が!」

宮務官の叫びが宮邸にこだました。

久しぶりの休日で、エステも終え自室でくつろいでいる時の叫び声にぎょっとして

椅子から立ち上がった。

ドアが乱暴に開いた。

ノックもせずに・・・・といいかけてやめる。宮務官の顔は蒼白だったからだ。

もしや大殿下に何事か。どうしよう、殿下はでかけているのに。

あるいはガンを患っている兄か?いやいや、もう一人のカツラノミヤか?

などという考えが一瞬にしてめぐめぐった時、彼から出てきた言葉は

宮様が御倒れに」

宮様?宮様ってどこの?どっちの兄?舅?

え?誰の事よ」

「宮様ですっ!我が宮様ですっ!」

え?」

たった今、カナダ大使館から連絡が参りまして、殿下がスカッシュの最中に倒れられたと

頭の中がぐるぐる回る。

スカッシュ?カナダ大使館?そんな予定があっただろうか。

最近では互いのスケジュールは把握していない。

彼がカナダ大使館の連中と親しかったなどともあまり聞いていない。

もしや、女の所?

ちょっと待って。これって本当にカナダ大使館なの?宮様は今日はそういう予定だったの?」

宮務官は「何を言ってらっしゃるのか?」という顔で一瞬ヒサコを見つめたが

すぐにその意をくみ取ったのか

今日はカナダ大使館でスカッシュの予定でございました。お時間通りに行かれて・・・

それが突如倒れたと」

なぜ?」

まだ詳細は・・・」

すると、侍女が飛んで来た。

失礼いたします。たった今、大使館から連絡が。殿下はケイオウ病院に運ばれたそうでございます。

妃殿下、向かわれるのでしたらそちらに」

さすがのヒサコも、侍女の言葉にこれは嘘ではない、何かとんでもない事が起きていると察し、

すぐに動いた。

車を回して。どんな状態なのかすぐに聞いて。大殿下の所にも連絡を。子供達は?」

ええっと・・・・」

次女は困った顔をする。

お三人とも外出中でございまして」

さっさと連れ戻しなさい」

ヒサコはすぐに着替え、こんな時だというのに念入りに素早く化粧をし、車に乗り込んだ。

 

一体何が起こったというのだろうか。

宮にとりたてて持病はない。

ガンを患って以来、手術に継ぐ手術を行って息も絶え絶えのヒゲの兄、

今や半身不随状態のカツラノミヤに比べて、唯一元気な3男坊だった。

体調不良などという事があったか?ない。

忙しすぎた?ない。

きっと酒を飲み過ぎたに違いない。最近は少し量が多いとは思っていたし。

 

病院に到着すると医師達が出迎え、おいかけるように宮内庁関係者たちも出てきた。

マスコミも多数来ている。速報で流れたからだ。

宮様は

挨拶を忘れている。自分らしくない。取り乱している事に気づく。

こちらへ」

医師はすぐに答えず、SP達に取り囲まれるようにして病院の中に入る。

ご危篤でございます」

・・・・・ヒサコは言葉を失って一瞬立ち止まった。

ぐるぐると天井が回る気がした。それを侍女が支える。

とにかく病室に」

案内されたのはVIPが入院する部屋の一室・・・ではなく、ICUの隣の観察ルームだった。

宮はすでに意識がないようで呼吸器をつけて眠っているように見える。

ヒサコは信じられない思いで夫を見つめた。

彼と最後に会ったのはいつだったっけ?

朝、一緒に朝食を食べたのは覚えている。あとは、二人とも必要最低限の事しか言わず

それぞれの予定に向かって行動し始めたのではなかったか。

そうだ。

守り刀の出来具合を見に行かなくちゃな」と言っていた。

タカマドノミヤ家の3姉妹は生まれた時に守り刀を作っていなかった。

どうせ3人ともすぐに嫁ぐのだし、いらないだろうと言って。

正直、経費節減の意味もあったのだ。

でもトシノミヤが生まれて、守り刀が作られた事を知り、宮も何となく欲しくなったらしい。

今なら作れると言い出し、3本同時に注文。

その出来具合を見に行かなくちゃと言っていたのだ。

相次ぐ娘達の誕生で、宮はすっかり嫌気がさしていたのは事実。

自分こそがミカサノミヤ家を継ぐ者。あるいは皇太子家に子供がいず、アキシノノミヤ家に

女児誕生によって、もしかしたら男系男子である自分にも皇位継承権が近づくのではないかと。

末端とはいえ、自分達は若いのだからと思っていたのに。

結果的に娘しか生まれず、アヤコが生まれた時は「おめでとう」の言葉もなかった。

子供に興味を示すという事はあまりなかったように思う。

ただ、宮家の娘としての格を落とすなとそればかり言い続け、可哀想にツグコはすっかり

いじけた娘に成長した。

他の二人もあまり父親になついているとは思えず、いつしか夫婦仲も冷えて来たのだった。

それでも、韓国訪問時には久しぶりに二人で笑ったし。

 

あの子はどこ?ノリちゃんはどこなの?」

ばたばたと足音がして、かけて来たのはユリ君だった。

老女や侍女に支えられるようにして、必死に走って来たようだった。

ヒサコは一歩下がって頭を下げる。

何があったの?どうしたっていうの?」

ユリ君の慌てようは尋常ではなく、今にも倒れそうな勢いだった。

ねえ、ヒサコ。何があったのですか?」

今はまだ・・・」

その時、何か病室のアラームが一斉に鳴り始め、機械のランプが点滅し始めた。

失礼します

医師達が部屋に入り、人工呼吸のようなものを始めた。

「心停止になりました。人工呼吸器を装着してよろしいですか?よろしいですね?」

医師の叫びに思わずヒサコは頷く。

呆然と見守る中、処置に入るとの事でヒサコ達は別室に通された。

 

殿下は16時頃、カナダ大使館においてスカッシュ中に突然倒れられ、意識を失われました。

ただちに救急車が呼ばれ、こちらに搬送されました。

この時、すでにほぼ心停止状態で。必死の蘇生を試みて一旦は動き始めたのですが

先ほど、また・・・・」

医師団の説明に、ヒサコはただただ黙って聞いているしかなかった。

宮内庁の宮務主任が「大殿下、トモヒト親王殿下にご連絡を。それから両陛下にも」といい、出て行った。

なんて事でしょう。あの子は持病などなかったのに。そうよ。上の兄たちと違って丈夫で

若くて安心していたのに」

ユリ君は泣きだし、ヒサコは姑の肩を抱いた。

助かる可能性は?」

・・・・・・」

ダメなのか?助かる可能性がないのか?

ヒサコはここで初めて背筋が凍りつくのを感じた。

まさか。

ミカサノミヤ家で最も若い自分が未亡人になるなんて。末端宮家で後継ぎがいないのに?

努力して努力してやっとここまで作り上げた宮家が終わる?

「妃殿下。お子様方が」

入ってきたのはツグコ・ノリコ・アヤコの三人だった。

ツグコの金色の髪を見た時、思わず「しまった」と思った。

横のユリ君がなんと思うか。

けれど、ユリ君はツグコの髪にかまっている余裕などないらしく、3人の孫達に会って

気が緩んだのか、子供達の手をとって

可哀想な子供達。しっかりなさいね。お父様がね・・お父様はね・・・」

支離滅裂な言葉に子供達は言葉が出ないらしく、呆然と突っ立っている。

やがて、悲痛な顔の大殿下が登場すると、みな粛々と出迎えた。

ありがとう」

殿下は医師達にまず礼を言い、それから椅子に座るとユリ君の背にそっと手をかけた。

取り乱してはいけない」

その一言でみな、正気を取りもしたかのように、部屋は静寂に包まれる。

 

どれくらいの時間がたったのだろう。

集中治療室に運ばれ、人工呼吸器に繋がれた宮はただ静かに眠っているような感じだった。

傷があるわけでもなく、やせ細っているわけでもない。

ただただ朝見た時と同じ姿。

この人にプロポーズされた時、ヒサコは正直、嬉しかったといいうより「成果を得た」と思った。

成績優秀で留学経験もあるヒサコはスキルアップする事ばかり考えていた。

ステイタスを求め、自分の格を上げる事だけを考えていたのだから。

ミカノミヤの通訳を務める事になったのはチャンスだった。

そして自分はチャンスをものにした。

学歴優秀で語学堪能な若いプリンセスの誕生は、当時話題になった筈だ。

とにかく「ご優秀」である事がプリンセスの条件と思われている今、自分こそが

それに叶う人間であると思った。そういう意味では家柄はいいけどぼやっとした

トモヒト親王妃などは論外で、内心は馬鹿にしていたのも事実。

そもそもユリ君だって子爵家の出身ではあるけど、父親は自殺した落ちぶれ華族の出。

これからの皇族に必要なのはまず頭のよさなのだからと。

これで男子を産みさえすれば、将来は「天皇家」になる事も夢ではなかったのに。

 

邪魔をしたのはアキシノノミヤ家。

新帝即位と同時に現れたキコ。

自分達よりさらに若く、初々しくしかも身位は上ときている。

どれ程危機感を持ったかしれやしない。

式典とかテープカットの公務はほとんど自分達がやってるから、アキシノノミヤには

公務の依頼はない

などと、宮が公に口走る程、あちらの宮家に対する憎しみは深かった。

それは自分も同じ。

それ程の家柄でもないくせに、彼女は一瞬にして国民をとりこにした。

おまけにチチブノ宮妃から可愛がられ、彼女が行くところマスコミがかけつけ。

あっさりと内親王を産み、このままいけばやがて親王誕生も。

ここが東宮家との利害が一致した所。

宮は文化交流の仕事で外務省とは繋がりが深く、さらにそのつてで、オオトリ会や

ワールドメイドといった怪しげな新興宗教とも接近していった。

その宗教的信条などどうでもよかった。

結果的に彼らは金と権力を持っていて、その流れがこちらに向けばいいという事。

皇太子妃冊立にあたっては尽力した見返りは大きかった。

その最たるものが、日韓ワールドカップだったろう。

 

ただの末端宮家が一躍脚光を浴びた。

皇太子家にトシノミヤが生まれた事で、「女帝」が注目を浴びる。

内親王や女王が注目を浴びるという事は、宮家の将来にも関わる事だ。

もし、ツグコが皇族出身と結婚し、そこで宮家を創設する事が出来たら。

オワダ家とはそんな話すら出ていたのに。

全てはこれからだったのに。

妃殿下・・・妃殿下」

何度か呼ばれてヒサコははっと我に返った。

医師の顔が深刻さを物語っていた。

現在、いわゆる脳死状態なのです。このまま人工呼吸器を装着し続けますか

脳死・・・もう二度と蘇る事はない。

ヒサコは思わず回りを見た。

ミカサノミヤ夫妻、トモヒト親王夫妻、嫁いだコノエ家、セン家の姉妹が一斉にこちらを見ていた。

ど・・う・・・したら」

ヒサコが決めればいい

大殿下の言葉が静かに響いた。もう答えは決まっていた。

呼吸器を外して下さい」

 

午後10時52分。ノリヒト親王逝去。

ミカサノミヤ家でもっとも若い親王の突然の死だった。 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」138(おもてなしのフィクション)

2013-12-05 07:00:00 | 小説「天皇の母」121-140

マサコは環境の変化に驚いていた。

アイコ一人を産んだだけで、みんなが「内親王の母」として立ててくれる。

今まで皇室の中で自分が馬鹿にされているような気がしたものだが

子供を産んだ瞬間、全ての皇族より上に立ったような気がする。

あのキコよりも。

キコが産んだのは娘2人。しかし、あくまでそれは皇位継承権2位、弟の娘にすぎない。

しかしアイコは「皇太子の娘」だ。将来は「天皇の娘」になる。

その母の立場というものがいかに強いか・・・

それは7年ぶりにニュージランド・オーストラリア公式訪問が決まった事でもわかる。

つまり、やっぱり「子供を産むまで」海外旅行をさせないという宮内庁の意地悪だったのだ。

 

マサコはどこにでもアイコを連れて行くようになった。

ただでさえも皇太子一家の静養は他の皇族より多かったが、どこにでもマスコミを

招いて露出するのでこの年は特に際立っていた。

那須・御料牧場・葉山・・・時には皇太子がアイコを背負って歩くこともある。

嬉々としてそんな行動をとる皇太子についていくマスコミも驚きをかくせなかった。

アイコはいわば「錦の御旗」だった。

どんな時にも同伴する事で、マサコ自身の存在価値を知らしめてくれる。

 

ただ・・・気がかりな事もあった。

寝返りやお座り、言葉という、普通の子供がたどる過程がちょっと遅いような気がしたからだ。

自分の娘である以上、誰よりも早く誰よりもよく出来なくてはならない。

時折、そんな強迫観念が押し寄せてきて自分を怯えさせるのだが、

その度にマサコは自分の頭に蘇る、かつての記憶を打ち消す。

そう、勉強が出来ないと父はとてもがっかりした顔になった。

成績が悪いとがっかりして、自分が何気なくした行動にがっかりする。

小さい頃、父に愛されたくて必死に頑張った時の記憶がまざまざとよみがえってくる。

アイコはそういう意味でいえばマサコよりずっと幸せな子だった。

何と言っても皇太子は娘を無条件で愛しているし、発達がゆっくりであっても

何でも構わなかったからだ。

それを羨ましいと思いつつ、そんなんじゃダメだと思う。

そういう甘やかしが娘の将来をダメにしてしまうのだ。

マサコはまだ言葉の「こ」の字も知らない娘に向かって

A・・・B・・・・C・・・」と教え始めた。

我が娘は英語が堪能でなければならない。

英語力というのがマサコの「学力優秀」の一つの判断基準だ。

英語よりまず日本を教えて下さい」と東宮大夫に言われた時はむっとして

暫く口をきかなかった。

日本語なんてその国に住んでいるのだから教えなくたってわかる。

でも英語は・・・・・

また、マサコはアイコを公務にも同伴した。

生後七か月の娘を沖縄豆記者に会わせたのだ。

これは大々的に週刊誌に「ダイアナ風子育て」だと絶賛され、マサコは得意になった。

さらに書道展の見学にも同伴した。

アイコは不思議そうに書の数々を見つめ、額縁に興味をしめし、ばんばんと叩いてみる。

そんな様子を見ると、「アイコはこんなに小さいのにもう書に興味を示すのね」

さらに優越感に浸る。

まさに今のマサコにとってアイコはアイデンティティの全てになりつつあった。

  

この年、ワールドカップが日韓共同開催され、タカマドノミヤ夫妻が皇族として

初めてソウルの地に降り立った。

「とうとうやりましたね」

ワールドカップ終了後の慰労会に出席した皇太子はタカマドノミヤに羨望のまなざしを

向けた。

宮邸は関係者で賑やかだった。

日本側の関係者と同様に韓国側の関係者も招いているので、日本語と韓国語が

飛び交っているような雰囲気だった。

宮は皇太子に韓国産の焼酎をついだ。

チャミスル(楽しい)という意味の焼酎だよ。ソウルにいくとこればかりさ。

かなり強いけど甘いね。東宮さんは辛口の方がよかったかい?」

宮は上機嫌だった。皇族にしてはやたら派手なパーティを開き、テーブルには

沢山の料理が並んでいる。

真夏の宮邸の一室はエアコンをきかせていても、人の体温で蒸し暑いくらいだ。

料理もホテルの料理人を呼び、数々の珍しい料理を振る舞ったが、その中には

キムチや参鶏湯もあった。

いや、とにかく無事に終わってほっとしたよ。宮内庁の連中は僕が暗殺される

んじゃないかと内心ハラハラしていたらしいけどね」

そんなに危険な?」

世の中には色々な人種がいるという事さ。でも僕は平気だったよ。日韓友好の

為に尽くしている僕達をなぜ暗殺する必要があるというんだい?

これからの韓国は経済的にも発展していく。日本が韓国に追い抜かされる日も

あるかもしれない。そんな時の為にも日本は韓国と仲良くしなくてはね」

そうは言っても、実はワールドカップにおける韓国の評判は世界的に悪かったのだ。

そもそもが日本単独開催だったのを「歴史認識」を盾にして、無理無理共同開催に

持ち込んだのは在日韓国人たち。

共同開催したはいいが、反則はするわ、審判を買収するわ、選手の宿泊先は

なってないわで「二度と来たくない」と言い出す選手まで現れる始末。

そんな事を知っているのか知らないのか、とにかくタカマドノミヤ夫妻は

ソウルの地を踏んでワールドカップの開会式でテレビに出演までしてしまった。

まさに「日韓のかけはし」

韓国への通用門・・になったようだった。

今日はヒサコも思い切りおしゃれな姿でみなの酒の相手を務めている。

こういう時は語学に秀で、社交的なヒサコは抜群の存在感を見せる。

そんな宮妃をみながら皇太子はふと「マサコもこんな事をしたいのかな」と

思ってみたりした。宮妃に許されてなぜ皇太子妃に許されないのか・・・・

アイコが生まれたのだから、今後は少しは変わるだろうか。

 

皇太子はそもそも日韓の歴史には興味がなかったし、新聞で知る程度でしか

知らなかったので偏見や思い込みはなかった。

だから宮が「日韓が手をたずさえて東アジアのリーダーにならねば」などと

いうセリフをそのまま受け取っていた。

お兄様は誰にでも出来る事ではない事をおやりになったのですから。

素晴らしいですよ。大殿下もお喜びでしょうね

どうかなあ」と宮はちょっと言葉を濁す。

「大体ね。父や兄と僕らは立場が違う。わかるかい?僕らは所詮は末端宮家だよ。

血のスペアのスペアのスペア。それでも兄2人の所には男子が生まれなかったから

僕にだって希望はあったけどね。結果的には女3人で打ち止めさ。

後継ぎじゃない皇族の存在価値って何だかわかるかい?

ないよ。そんなもの。ただの税金の無駄遣いだと思われているだけさ。

それが悔しくてねえ。小さい頃からそんな思いで生きて来たんだよ。

でも今回、やっと兄達に一矢報いた気がするね」

日韓だけではなく、広い意味で文化交流のお仕事をなさっているお兄様は

注目度が高いですよ。僕達など足元にも及ばない」

長かったなあ。ここまで来るの

宮は少し酔ったようだった。さっきからチャミスルをあおっている。

チャミスルは非常に強い酒だ。だからアルコール耐性の弱い日本人には強すぎるの

だが。真っ赤になった宮の横で同じものを飲んでいる皇太子は顔色一つ変えなかった。

結婚してからもう何年だろうねえ。色々な所にコネクションを見つけて、必死に

ご機嫌取りしてさ。皇族の僕が・・だよ。これでも皇族さ。偉大なる今上陛下の

従兄弟だぜ?その僕が媚を売るなんてねえ。でもそうでもしないと。ほら

内廷外皇族はわびしい存在だから。予算だって内廷皇族の半分以下さ。

うちは3人も娘がいて金がかかるのに。おまけに席次は常に最後だよなあ」

でもこれからはお兄様の存在感が増しますよ。僕も何とかおいつきたいと

思っています」

だったらまず男子を産む事だね

宮はにやりと笑った。

それが無理なら。トシノミヤを女帝にすればいい」

女帝・・・・って」

出来ない事はないさ。その時は僕が応援するよ。僕はいつだって殿下の味方だ」

「殿下。東宮様を独り占めなさらないで」

ヒサコが笑いながら皇太子の袖をつかんだ。

みな、殿下にお会いできるのを楽しみにしていたんですよ。どうぞお言葉をかけて

あげて下さいな」

ヒサコは人々の輪の中に皇太子を放り込んだ。

殿下。宮様は相当酔っておられるのです。お気になさらずに

ヒサコは微笑んだ。

宮は・・・いつの間にか眠っていた。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」137(さらりとフィクション)

2013-11-28 07:00:00 | 小説「天皇の母」121-140

ヤマシナ鳥類研究所はノリノミヤの職場であり、アキシノノミヤの職場でもある。

その昔、ヤマシナノミヤ家の2男坊が皇籍離脱して鳥の研究に打ち込んでしまった。

その彼が設立したのが鳥類研究所で、皇室と深い関わりがある。

アキシノノミヤは総裁であり、ノリノミヤは職員だった。

時折は一緒になる時もあったが、互いの公務の都合もあり、滅多に顔を合わす事はない。

 

だから今日は、小春日和の暖かさも手伝って、久しぶりの兄と妹の団らんだった。

二人は図鑑を開いて、それぞれの研究テーマを論じ合ったり、次に野鳥の観察に

行く時には宮邸に泊まるようにといった打ち合わせまでやっていた。

 

マコちゃんもカコちゃんもそれは気の毒だったわね」

ノリノミヤは図鑑を整理しながら言った。

新しいもの、古いものを整理しつつ、自分が好きな鳥の絵や写真を集中的に

集めて回ったり、学者の論文をコピーしたり。

手は忙しく動いている。

一方の宮は、柔らかい光がさす部屋の中でゆったりとくつろいていた。

普段は公務が忙しく、こういう時でもないと休めない・・・本当は煙草・・・と

言いたかったが頭の中にキコが浮かんでやめた。

まあねえ。でもいずれ会えるだろうから」

あら、赤ちゃんというのは一日一日大きくなっていくものよ。

きっとマコちゃん達は、小さなトシノミヤを見たかったのよ。あやしたり抱っこしたり。

なのに断るなんて東宮のお姉さまは一体どうされたのかしらね」

僕は男だからそこらへんはわからないけど、キコはマタニティブルーだろうって」

え?なあに?そういう病気があるの?」

出産前後に女性の心が不安定になる事だよ。子供を産むと防衛本能が強くなって

誰も子供を会わせたくなくなったりとか」

まあ。お兄様、よく御存じね」

ノリノミヤはくすっと笑った。

全てキコの受け売りなのに、いかにも自分が知っている風に語るのが

おかしかったのだ。

結婚していないノリノミヤにとっては妊娠も出産も全てが未知の世界。

お姉さまもそんなだったかしら?私は普通にマコちゃんもカコちゃんも会えたし」

「キコはまあ・・どっしり型だからな」

今度はアキシノノミヤが笑った。

まあ、そんなおっしゃりよう、お姉さまに失礼よ」

「いいつけないでくれよ。あれは怖いんだから」

そうねえ・・・・考えてあげてもよろしくてよ。この本の整理を手伝って下さったら」

はいはい。そう来ると思ったよ」

宮は立ち上がり、次々と本のタイトルを読んでいく。でもすぐに興味をひかれて

中身を読み始めてしまい、少しも仕事にならないのだった。

でも、傷ついたでしょうね。マコちゃん達にとっては初めてのいとこだったわけだし。

生まれたばかりの可愛い赤ちゃんを見たいと思うのは当然だわ。

なのに玄関で追い返すなんて・・・寝ているからなんてわざとらしい返事だわ。

寝顔を見せてあげればよかったんんですものね」

まあね

あの時は東宮のお兄様もいらっしゃったんでしょう?どうして姪達を東宮御所に

入れないのよ。おかしいわ」

・・・・・どうにもわからないな。兄様は少しずつ変わっているんだろうよ」

宮は言葉を濁すように言った。

だから僕は正直、兄様がイギリスに行く事は反対だったよ。影響されやすい人だ。

どんな事を覚えて帰って来るんだろうと心配になったさ。そしたらこの通り」

何を覚えて帰っていらしたというの

自由だよ」

宮は言った。

自分の思い通りに行動できる自由。という事は日々の生活は不自由だという事だ」

そうね。私達の生活ってそんなに自由とはいえないわね。でも、それは私達

だけではなく、人ってみんなそうなんじゃない?何かしらの不自由さを感じながら

生きているものよ」

「だけど兄様には、「行動したい」自由願望があったんだろうなあ。東宮妃はそこらへん

とてもはっきりものを言うし、それがまた通るし。小気味いいんだろうよ」

そう

妹はちょっと沈んだ顔で図鑑を眺めた。

「何だか理解の範疇を超えているのね。私にはわからないわ。わからないといえば・・

どうして東宮のお姉さまは記者会見で泣いたのかしら?」

「泣いたって?」

アキシノノミヤはちょっと驚いた顔で言った。

皇族が人前で涙を見せる事などある筈がなかったからだ。

あら、テレビをご覧に・・・ならなかったわね。ごめんなさい。ほら、先日、

トシノミヤが生まれたという事で記者会見があったでしょう

あの時のお兄様達の言葉が何とも・・・・もう」

ノリノミヤは思い出しながら言った。

「まずお兄様がすごい事をおっしゃったの。

地球上に人類が誕生してからこの方,絶えることもなく受け継がれている

この命の営みの流れの中に,今私たちが入ったということ,

そういうことに新たな感動を覚えました』って

壮大だね」

宮は何の感慨もないようだった。

それから妃殿下は

『無事に出産できましたときには,ほっといたしますと同時に,

初めて私の胸元に連れてこられる生まれたての子供の姿を見て,

本当に生まれてきてありがとうという気持ちで一杯になりました。

今でも,その光景は,はっきりと目に焼き付いております。

生命の誕生,初めておなかの中に小さな生命が宿って,育まれて,

そして時が満ちると持てるだけの力を持って誕生してくる,

そして,外の世界での営みを始めるということは,なんて神秘的で素晴らしいこと

なのかということを実感いたしましたって。

泣かれたのは「生まれてきてくれてありがとう」の時ね」

それほど感動したという事じゃないのかい?なんせ8年も待っていたんだから」

そういうものかしら。お兄様達もそう?地球上の生命の営みとか考えた?」

いや、育てるのが大変でそんな事を考える暇がなかったよ

宮は、小さい頃のマコやカコを思い出した。

そういえば葉山の海岸でマコは「うみへびいるわねーーお父様」と何度も叫んで

マスコミを笑わせたっけ。何でそこにうみへびなんだ?と思ったけれど

とりあえず「いるねーー」って答えた。

カコはいつもマコの後ろに隠れて。人見知りの激しいこだし。

どちらが生まれた時も素直に「可愛い」と思ったし、「すくすく育って欲しい」とは

思ったけれど、命の営み?までは思ったろうか。

それよりも、トシノミヤが生まれた事でさらに宮家の第3子が先送りになった

事の方がショックだった。

皇太子家に後継ぎが必要なように宮家にも後継ぎが必要なのだ。

しかし、だからといって皇室典範を変えて女帝を容認するわけにはいかない。

これは差別でもなんでもない。伝統なのだから。

 

私はね。あの涙は感動ではなかったと思うの」

兄とは全く別の事をノリノミヤは考えていたのだった。

あれは自分へのご褒美の涙よ」

何だって?」

その言葉に宮は驚いてノリノミヤを見つめた。

自分へのご褒美?」

そうよ。赤ちゃんを産んだ自分と言うものに感激なさったの。出産は女性にとって

大きなお仕事ですものね。でも、両陛下が「おめでとう」としかおっしゃらなかった事に

妃殿下は非常にご不満だったのよ」

「なんとまあ・・・・」

全く理解に苦しむ兄嫁の姿だった。

「おめでとう」の他にどう言いようがあるのだろう。

「よくやった」とか「さすがだ」とか・・・そんな言葉を期待していたのだろうか。

ただちに皇室典範を改正せよと言わなかった事だろうか。

トシノミヤの誕生で皇室の混迷はさらに深まるような気がした。

それだけ妃殿下は孤独だという事なんだろうよ」

アキシノノミヤは一定の理解を示した。

そんな事よりも、お前の結婚だけどね」

宮は話題をそらした。するとノリノミヤはぷっとほっぺを膨らませる。

私の事なんか別に・・・・」

いいわけない。兄としては妹に幸せな結婚をしてほしいと思っているんだよ。

妻として母として幸せに。それなのに少しも積極的にならない。困ったものだ。

どんな男性がお好みなんだい?」

それに対してノリノミヤは即座に

ルパン三世」と答えた。宮は目をぱちくりさせる。

ルパン・・・三世?」

そうよ。私、ルパンは全部好きだけど「カリオストロの城」が一番好き。

クラリスみたいなドレスで「おじさま」って言いながらお嫁に行きたいわ

クラリス?カリオストロ?おじさま?

アニメを見ないアキシノノミヤにはさっぱりわけがわからなかった。

アルセーヌ・ルパンとは違うのか?

わかるように話してくれよ

だから、一緒にいて肩が凝らず楽しくてちょっと軽薄で、それいて優しく守ってくれる。

そんな人がいいのよ」

宮は頭を抱えた。

妹は現実の世界に生きていないのではないか?

というか、箱入り娘にしすぎたツケが今、回って来ている気がした。

思えば、皇后陛下がご不例の時からずっとお前に頼りっぱなしで悪かったよ。

お前はお前の人生を生きるべきだ。家族の犠牲になる事はない」

犠牲だなんて私・・・・・」

両陛下といると楽なのもわかる。だけどそれじゃいけない。いつか親元を

離れて生きなくては。とりこまれちゃダメなんだよ」

宮は図鑑をばたんと閉じた。大きな音がした。少し埃が舞う。

次のサンマの会には絶対に来なさい」

私、テニスはあまり・・・・」

いいから来なさい

お兄様のお友達から選ぶの?」

そうは言ってないが、選択肢を広げる事は重要だ。それにみな学習院出身の

身元のしっかりした人ばかりだから安心出来る。そういう交際なら両陛下も

何もおっしゃらないだろう」

天皇も皇后もまだ独り身の娘の身を案じてはいるが、一方では手放したくない

思いも強い。ついつい日々の忙しさに紛れて「もう少ししたら考えよう」と

言っている間に今日まで来てしまったのだ。

しかし、このままでは完全に行かず後家になってしまう。

この先、皇室にどんな風が吹くかわからない。この妹だけは俗世のようなもの

から守ってやりたかった。

とにかく来なさい」

宮は真顔でそういうと、次々と本の整理を始めたのだった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」136(自然なるフィクション)

2013-11-12 17:06:00 | 小説「天皇の母」121-140

可愛いなあ

タカマドノミヤは小さなアイコを抱き上げながら笑った。

東宮御所は小春日和になり、一足早い桜の花が咲きそうな雰囲気だった。

やっぱり東宮さんに似ているかもね

「私は妃殿下に似ているかと思いますが

ヒサコは笑みを受かべて言った。

娘がこんなに可愛いとは思いませんでした。お兄様」

皇太子は嬉しそうに言った。

通常、皇孫が生まれた場合、身位が上の者から病院へ見舞いへいく。

タカマドノミヤ家は最後だったが、その当時、宮は仕事でいけず、アイコが生まれた

時の顔を見てないのだった。

春めいた時期になって、漸く会える日が来たのだった。

うちも娘が3人だけれど、賑やかで楽しいよ

そうでしょう。花が咲いたようでしょうね」

ひたすら皇太子は笑っていた。いつまで娘を見つめていても飽きない風だったが

一方のマサコはふさぎ込んでいるように見えた。

ホスト役がこれではもてなしにならない。

いくら相手が格下の宮家とはいえ、それは失礼だろうと、内心皇太子はハラハラしている。

そんな夫の思いなど別にして、マサコは黙ったまま宙を見つめていた。

どうかなさったの?」

ヒサコが聞く。

マサコ、お兄様達がいらしているんだよ

皇太子が軽くたしなめると、あからさまに不愉快な顔をしてマサコは答えた。

アイコは殿下に似ているとは思わないんですけど

「そう?父親に似ると幸せになるというけどね」

こんなマサコの態度は慣れている宮は意に介さない。

育児について悩み事が?」

しつこいヒサコの質問に答えるのも面倒だったが、ヒサコは3人娘を育てている。

いわば育児の「先輩」で。

そんな人に口答えは出来ない。

けれど、マサコの頭の中には父が失望していた顔しか浮かばないのだった。

男の子でなかった為に父を失望させた。

その一瞬で、アイコが憎たらしくなる自分。そんな考えはいけない・・・母親として

自分がされなかった分、愛すると誓ったではないか。

だけど。この子が男の子だったら。

せめて、何か人より出来る事があれば。それはそれこそ生まれたばかりの子には

無謀な願いだった。

「育児については別に悩んではいません。

もうちょっとしゃべったり笑ったりしてくれるといいけど

まあ、気の早い。これからですよ」

笑わない?そろそろそんな月齢じゃない?」

宮は一生懸命にあやしはじめた。しかし、アイコは笑いもせず、かといって泣きもしない。

こんなにおとなしい姫だもの。奥ゆかしいんですわ

ヒサコがそう言って笑った。「奥ゆかしい」とは絶妙な言葉だったようで、皇太子は

まさに「その通り」というような顔をする。

泣くとすごいんですよ。一晩中」

「そういうものよ。育児というのは」

うちは末端宮家だからいいけどね」と宮は聞かれもしない事を言い出す。

「やっぱり東宮家ともなるとお世継ぎの事があるだろう。まあ、一人生まれた

んだから次は早いと思うよ。うちのヒサコだって立て続けに3人だもの。

3人産んでもどうにもならなかったけどね」

まあ・・・私のせいなのかしら

ヒサコはちょっとむっとして言った。

一人じゃ子供は産めないのにねえ

皇太子はへらへらと笑った。

「うちはアイコで手一杯ですよ。次は・・・1年とか2年とかあけないと」

一人っ子は可哀想だもの。せめてもう一人ねえ」

マサコはそのセリフを聞きながら、さらにいらつく自分を抑えかねていた。

 

その空気を察したのか宮は話題を変える。アイコは女官に預けられた。

もうすぐワールドカップなんですよ。東宮さんはサッカーが好きだったかな」

ええ。見るのは好きです。日本で初めての開催でしょう

日韓共同開催だよ。日本だけでという話だったけど、日韓共同開催にした方が

両国の友好の為なんだよ。かくいう僕も、ちょっとは関わったのさ

ああ・・・」

そういえば聞いた事がある。宮は日韓共同開催のワールドカップの開会式に

皇族として初めて韓国を訪れる予定があるという事を。

これははっきり言ってかなり大変な出来事だった。

日韓の間には埋められない歴史認識の壁があり、毎年のように

「靖国参拝がどうの」「従軍慰安婦がどうの」と問題が出てくる。

日本人からすればスネに傷を持つ身だから、何度も謝って来たけれど

それでも韓国は納得しないのだ。

でも仕方ない。日本は韓国にひどい事をしたのだ・・・・日本は・・・というより

祖父である天皇が。

それに関しては皇太子も多少良心の呵責を覚えている。

自分が生まれる前の話であり、いわゆる「アジア各国に対しての植民地政策」に

関しては国民と同様の事しか知らない。

でも、その事では小さい頃から何度も「天皇の戦争責任」を感じた事がある。

あからさまじゃないけど、学友から陰口のように

天皇陛下万歳って死んで行った人たちがいるんだぜ」と言われたこともある。

自分の身分には誇りを持っているけど、祖父が過ちを犯したのなら

子孫として償わなくてはならないのでは。

宮はそう思って、日韓共同開催のワールドカップに協力しているのだ。

「僕はね、皇族として戦後初めてソウルの地に足を踏み入れる事に大いに

誇りを感じているよ。隣同士、先祖も同じな国が仲良くなれないわけがない。

互いの誤解を乗り越えて日本と韓国が親しくなれるように頑張るさ

素晴らしいなあ。いいなあ。お兄様はそんなやりがいのある仕事が出来て」

マサコもその点は同意だった。

本当に。仕事はやりがいがないと。お飾りで座っているだけとか、意味のない

おしゃべりをするだけとか。バカみたいな気がします」

マサコにしてみれば、正月から始まる一連の祭祀が無駄で無駄でしょうがない。

結婚した当初は出ていたが、最近はどうにも我慢が出来なくて

なんやかやと体調不良を理由に出ていない。

前日からの潔斎が嫌なのだ。

女官に裸体を見せるなんて冗談じゃない・・・・

彼女が夢見る公務というのは、サッチャー首相のように、ド派手な服を着て

世界中を股にかけていくとか、ダイアナ妃のように「国の広告塔」になるとか。

そういう仕事をさせてやると言ったのは皇太子ではなかったか。

それを言いだすとまた堂々巡りになるので口には出せなかったが。

東宮家に比べるとタカマドノミヤ家はアクティブに見えた。

華やかな「文化交流」の仕事はマスコミによく取り上げられていたし、会食や

パーティも多い。

結構・・これになるんですのよ」とこっそりヒサコは指で丸を作った。

まあ。本当に?」

ええ。いわゆるテープカット公務ですわ。謝礼がつきますの。大した額ではないけど

それでもないよりはまし。政府がくれる手当だけでは宮家としての体面を保つのが大変

なんですの。正直、ここだけの話ですけどね」

ヒサコは声をひそめる。

韓国はお金になりますの。在日の方たちというのはいわゆるお金持ちなんですわ。

そして現在の韓国に王室はない。日本の皇室の事は「日王」とか呼んで表向き

ばかにしていますけど、内心は羨ましくてしょうがないんです。

だってあちらの人ってみんな自分は両班の家柄だと思っているんですからね。

とても権威が好きなんです。こちらはこれ(指で丸)が、あちらは権威が必要というわけ」

それは何ともいえず新鮮な話だった。

ヒサコのセリフは非常に政治的だったし、実務的とも言えた。

それこそが自分達のめざす公務ではないのだろうか。

私達もそういう仕事がしたいんです

マサコは訴えた。現在天皇家としての予算を貰っているが、その管理はほとんと

東宮職がやっている。天皇と皇后が全てにおいて優先であるから、

東宮家が遠慮しなくてはならない事も多い。

どはいえ、今回はアイコの為にフランスからベビードレスを取り寄せ、

音のなるおもちゃとか学習プログラムがはいった玩具、さらに巨大で豪華な

おままごとセットを買った。

皇后からは「赤ちゃんのうちはそんなに高級なおもちゃは必要ないのでは?」

言われたけれど、そんなの時代錯誤だ。

アイコは皇太子の娘なのだから、日本中のどこの誰よりも高級品を持つ権利がある。

だけど、自由にお金を使うには・・・・

東宮は将来の天皇だから制約があるのは当然だよ

宮は神妙な顔で言った。

そうですね」

皇太子もうつむく。つまり「皇太子」という身分が全ての邪魔をするのか。

殿下は韓国に行きたいとは思いませんか?」

突然の宮の言葉に皇太子は面食らい、一瞬言葉に窮した。

「韓国ですか?」

僕が皇族で初めて韓国の地を踏むなら、殿下が皇太子として、あるいは

天皇として韓国の地を踏めばいい。日韓友好の絆が結ばれ平和になりますよ」

「平和」という言葉に皇太子は目を生き生きとさせた。

「日本で初めて」という言葉にも。

ああ、そうなったらどんなにすごいだろう。

近いうちに皇太子殿下には訪韓の打診が来るはず。その時はよろしく。

長い間日韓の間のわだかまりを殿下が払しょくしてくれたら、それこそ

国の為です。また韓国人はきっと妃殿下の美しさに驚いてダイアナ妃の時のような

ブームが起きますよ」

皇太子もマサコも催眠術にかかったかのように動かなくなった。

突然、未来が開けていくような気がしたのだ。

しかし、皇太子はちょっと目を伏せる。

きっと宮内庁がOKしません。僕達がどれ程長い時間、海外旅行を禁じられてきたか。

それもこれも世継ぎの事ばかり優先で」

「トシノミヤ様は女帝になればよろしい」

宮は言い切ってにっこり笑った。

現実問題として男系男子はアキシノノミヤで終わりです。ミカサノミヤ家には

3人も男子が生まれたのに、どこにも男子は誕生しなかった。

アキシノノミヤ家だって、そういう意味では立場は同じ。

とするなら、いつまでも男系に拘る必要はない。トシノミヤが女帝になり、その子が

皇位を継げるように皇室典範を改正すればいいのです」

そんな事出来ますか」

出来るかとか出来ないとかではなく、やるべきなのです。だって男系男子が

いないんだから。それにいつまでも男子誕生を待っていては妃殿下の心の

健康によくない。ここは妃殿下の為にもすぱっと女帝・女系でいかなければ」

宮は力説した。

キク君は女性天皇でもいいとおっしゃってる。僕もそう思いますね」

それが自然な流れなのだ。

次の皇室を担うのは殿下と僕でしょう。世代交代の波が来ているんです。

年寄りがどんなに保守的な事言っても我々が変えていかなくては。

これぞ開かれた皇室ですとも」

そしてタカマドノミヤは高笑いした。

そうかも。いえ、絶対にそう。アイコが将来天皇になるなら私達、自由に

海外に行けます」

マサコは震えるようにそう言った。

アイコは皇太子のただ一人の娘だ。この子しか直系はいないのだ。

そういう事実をつきつければ天皇も皇后も認めざるを得ないだろう。

マサコの心の中にほんの少しかすかな希望が見えてきたのだった。 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」135(真実のフィクション)

2013-10-29 13:15:09 | 小説「天皇の母」121-140

トシノミヤアイコ・・・以後、称号で呼ばれる事のない内親王誕生後、

マサコは非常に上機嫌でハイな状態が続いていた。

天皇も皇后も内親王誕生に嬉しそうにねぎらいの言葉を述べ、新年の写真撮りの時は

主役のような扱いであったし、東宮御所の雰囲気も今までとはがらりと変わり

マサコに好意的に(今までそうでなかったという事ではない)思えたし。

子供・・・皇族の子供を産むという事が、こんなにも環境を変えるのか、「母」としての

権威を高めるものなのかと驚くばかりだった。

「ご出産後の体調重視」の為、正月から全ての公務に欠席しても何も言われなかったし

少しでも「疲れた」と言えば、すぐに「横におなりになって・・・」と女官が飛んでくる。

アイコと一緒だと、誰もが自分に頭を下げる(今まで頭を下げなかったという事ではなく

彼らの姿に爽快感を感じたのは事実だった。

 

アイコを見ていると、その弱弱しさがまるで自分のようだと思った。

アイコはよく泣く子だった。まだ生まれたばかりなのに手がかかる・・・そんな印象だった。

マニュアルでは生まれたばかりの子は寝るか飲むかのどちらかでしかないと書いてあったのに

アイコはなかなか寝てくれなかった。

最初は母乳で育てようと必死になったが、どうにも出ないのでミルクに切り替えた。

お腹が一杯になれば寝ますよ」と女官が言うので、調乳する時に「すりきり一杯」と書かれて

いるのを無視してミルクを増やしてみたり、3時間ごとではなく1時間おきに与えてみたり

したのだが、ちっとも飲まないしただただ泣くばかり。

妃殿下、お休み下さい。あとは私達が」と養育係がアイコを連れて行く。

ほっとすると同時に、何となく「母失格」の烙印を押されたようで腹が立った。

養育係にしてみれば、時間や量を無視してミルクを与えたりされると、その後の育児が

めちゃくちゃになると思い、妃殿下には任せておけない・・・というだけの理由だったのだが。

マサコはマサコなりに育児書を研究しているつもりだったが、相手が人間であるという事を

忘れているようだった。

それでも眠っている時のアイコは可愛らしかったし、皇太子も積極的にオムツを替えたり

してくれるので、まあ、これはこれでいいのかと思う事にした。

 

キク君が雑誌に「マサコ様は私どもの望みにもきっと再びお応え下さるでしょう。俗に

一姫二太郎って言いますしね」と発言したそうだ。

それを聞いた時、マサコは言うに言われぬ怒りを覚えた。

まだアイコが生まれて1月にしかならないというのに、もう2人目を望まれているのか。

一体何様なの?あの人、自分は一人も産んでないくせに。

「一姫二太郎」というのは、子育てしやすい順序として最初は女の子、次に男の子を育てる

方が育児しやすい・・・・という意味なのであるが、マサコは「最初は女の子なんだから次は

男子を産め」と言われているような気がしたのである。

ひどいわよ。人を子産みマシーンのように」

マサコは言うにいわれぬ怒りを抱えて、自分の部屋に閉じこもった。

困り果てた皇太子が「僕からおば様によく言うから機嫌を直して。今はアイコがいるんだから

と慰めてくれた。

タカマツノ宮家からのお祝いの品には目もくれず礼状も出さなかったし、ぜひ

赤ちゃんの顔をみたいというキク君の希望も無視した。

祝いといえば、皇室では育児用品は代々持ち回りだった。

ベビーカーやベビーベッドなど、ノリノミヤが使ったものをアキシノノミヤ家に伝え

そして皇太子家に戻って来たのだ。

しかし、マサコはその古いベビーカーやベビーベッドを使わず、物置に押し込めてしまった。

東宮家に待望の第一子が誕生したというのにお古を渡されるとは思わなかった。

その事一つをとってみても、アイコが不憫だった。

そういえば、床を張り替える時もなんだかんだと文句を言われたっけ。

おもちゃ一つをとっても皇后はねむの木学園だのアサヒデ学園のものを取り寄せたり。

何もかも貧乏ったらしいったら。

日本一高級な家に生まれた内親王なら、レースのカーテンがついたゴージャスな

ベビーベッドでフランス製の産着を着て、ディズニーの音楽に囲まれて育つべきではないか。

 

3月になり、アイコを連れて初参内。

賢所皇霊殿に謁するの儀という仰々しい儀式。にこにこ笑うようになったアイコは

マスコミ中の目をくぎ付けにして、久しぶりにマサコも満足した。

東宮御所で行われた内宴は華やかで、子供を産んで本当によかったと思った。

 

まあ、ともかくおめでとう

高級フランス料理店「パッション」の一室では、ヒサシとユミコ、レイコ夫妻にセツコ夫妻

そして皇太子とマサコの総勢8名で、華やかな宴が催されていた。

ヒサシは少し酒が入って機嫌がよかった。

「うちにとってもアイコ様は初孫ですからなあ。嬉しさもひとしおですよ

そうねえ。次はレイちゃんかせっちゃんよねえ

ユミコもにこにこ笑っていた。

お姉さまが先に産んで下さってほっとしたわ。そうでないと私達もやりにくいわよね

とレイコが言うと、セツコは苦笑いしながら

そんな事まで順番って言われてもね・・・」と言葉を濁した。

何でもいいから早く産んで頂戴。二人とも。孫は沢山いた方がいいもの。私は一人っ子

だったから寂しかったわ。親戚も少なかったし。いつかこの部屋でいとこ同士が集まって

わいわいい出来たら楽しいわよね」

まあ、お母様ったら気が早すぎるわよ。私はともかく、せっちゃんなんて結婚して何年

経ってるのよ」

レイコの毒にセツコはうんざりした様子で「今日はお姉さま達のお祝いなんだから」と言った。

子供がいると今までと何か違う?」

その問いには皇太子が「すばらしく違うよ」と答えた。

日々、アイコの笑顔や眠る顔を見るだけで幸せだし、とにかく可愛いね。子供というのが

こんなに可愛い存在だったとは思いもしなかった。幸せですよ。僕達は」

いわゆるニヤケ顔の皇太子のノロケ話にみな微笑んだ。

じゃあ、将来お嫁さんに・・・なんてダメよね」

「ああ、今からそんな事は考えたくないなあ

皇太子は声を立てて笑った。

レイコ。アイコ様は内親王だぞ。将来、天皇の娘となる方だ。気軽に結婚なんか

出来るわけないじゃないか。後々女帝になるとしたら、その夫となる人は

厳選しなくてはならんしな」

ヒサシの目の光にみな一瞬、黙った。

慌てて皇太子が「女帝だなんて・・・・」と言いかけるのをヒサシは止めて

殿下。あなたは将来天皇になる方ですぞ」

それはそうですけど。愛子には皇位継承権はありません

「なら皇位継承権を持つお子様をもうけるべきですな」

急にその場が凍りつく。マサコは色を失って父親を見つめた。

お父様はアイコが女の子だった事が不満なの?」

いいや。心からめでたいと思っているよ。まあよくわからんが俗に一姫二太郎というし。

一人目を産んだら二人目も出来やすいというし。皇統の安定の為には妃殿下にもう一人

頑張って貰わないと。アイコ様にも兄弟がいるといいだろうしね」

ヒサシは皇太子にワインをついだ。

しかし、妃殿下の夫は皇太子殿下。将来の天皇陛下だ。天皇には次の皇太子が

必要なのだ。それはおわかりですね

はい」と皇太子も答えた。

マサコが不甲斐ないものだから殿下には非常にご迷惑をおかけしていると思いますよ。

でも、大丈夫。アイコ様が生まれたのだから、次もすぐに出来るでしょう」

ちょっと待って。お父様。私達、まだそんな事

「私は皇室の側に立って話をしているのだよ。今の皇室典範では女性天皇は認められていない。

何が何でも男子が必要なのです。アイコ様が男子だったら問題なかったんですがね」

ああ・・・・とマサコは全身から力が抜けていくのを感じた。

小さい頃感じた、父の自分への失望。その記憶がよみがえってきたのだ。

父の失望の根本原因は自分が女だった事にあったのだ。

父は息子が欲しかった。自分の跡を継いで外交官になる息子が。

自分はそんな「幻の息子」の座をかけて戦ってきたのだ。

少しでも父の理想に近づきたいと思った。父に愛される為には勉強を頑張るしかなかった。

頑張ってハーバードにも入った。外務省にも入った。

外務省時代、「オワダの娘」という事で自分がどんなに誇らしい思いをしたか。

そしてその「誇らしさ」は父も同じなのだと思ってきた。

「オワダの娘」が「皇太子妃」になり、父の栄耀栄華の望みは着実に叶いつつあると。

自分こそがその手助けをしている者だと。

生まれてから40年近く、自分はただただ父に愛されたい一心で、進路も結婚も決めてきたのだ。

その結果が今。

その結果がアイコ。

なのに・・・・・アイコが女の子だったから、もう一人産め?

なぜ満足できないのだろう。皇太子の娘がオワダの孫になった事でもういいではないか。

父は何が何でも「天皇の祖父」になりたいのだろうか。

ついさっきまでの、アイコを産んだ事の誇らしい気持ちがあっさりと消え、マサコは急に

恥ずかしくなった。

そんな気持ちになる自分とアイコが可哀想でならなかった。

誰だって性別を選んで生まれてくるわけではない。これこそ神の視えざる手のなさること。

その責任を押し付けられているのが自分なのだ。

今はアイコで手一杯でとてもとても

ヒサシの思惑を知ってか知らずか皇太子は相変わらずにこにこ笑って言った。

まあ、子供がいるのは楽しいですから何人いたって僕は構いませんが」

それこそオーケストラ並みに?」

レイコのジョークにみな一様に乾いた笑いで答えた。

しかし、マサコは笑えなかった。

結婚してから8年。

外国旅行を止められ、国内のやりたくない公務をおしつけられてきた。

誰が何と言おうと嫌なものは嫌。出口のないトンネルに入り込んだような生活に

耐えて耐えて8年。

やっとアイコが生まれ、これからは自分の好きな事が出来るのではないかと

希望を持った矢先。この世で最も愛する父親がまだ不出来だというのだ。

男の子が生まれなかったらどうなるの

ぼそっとマサコが尋ねる。ヒサシはちょっと考えて

「その時は、さっきも言ったがアイコ様に女性天皇になって貰わないとな。

マサコ、このまま男子が生まれなければ皇統はアキシノノミヤへ行く。多分その時に

あらためて女帝問題が出るだろうな。そしたら女帝になるのはあっちの長女という事に

なる。そうならない為には皇統は皇太子殿下の直系でという事にしないといけないのだよ」

アイコに生まれた意義があるとしたらそれは「女帝」になる事なのか。

マサコはそう理解した。

アイコには自分と同じような思いはさせたくなかった。

自分がしっかりと教育して、父にも他の誰にもぐうの音も言わせない娘にする。

彼女はそう誓った。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」134(毎回フィクション)

2013-10-22 16:51:18 | 小説「天皇の母」121-140

年末、アキシノノミヤ邸では久しぶりにカワシマ夫妻やキコの弟のシュウも

姿を見せ、一家団欒の時を迎えていた。

リビングのテーブルには綺麗な花が飾られ、カワシマ家から持ち込まれた

料理が所狭しと並べられ、マコもカコも大喜びで手を伸ばす。

今日ばかりは宮務官と侍女一人を残して、使用人はみな帰している。

冬一色になった庭には、薔薇が小さく咲いており、ユリオプシスデイジーの

黄色が映え、色とりどりのパンジーが咲き誇っていた。

そして池にはナマズが泳ぎ、天草大王が駆け回り・・・大型犬が玄関で眠っている。

動物園か植物園のような雰囲気が宮邸にはあった。

犬に鶏、トカゲにナマズ、ウサギや亀まで飼っているいる為、エサやりが大変だったが

子供達がよく協力していた。

また、手入れされた庭には、外国から送られた木なども移植され、友好の葉を広げている。

これだけの生き物の世話、お庭の手入れ、よくやっておられますね

冬の柔らかい日差しがあたるさまを見つめながら、母は目を細めた。

マコは祖母が焼いたケーキに手を伸ばし、カコもめざとく手を伸ばす。

私が先よ」

カコちゃんが先

言い合う姪っ子達にシュウは「取り分けてあげようね」と優しくナイフをいれる。

おにいちゃまも召し上がってね」マコがおしゃまに言うので、シュウはちょっと照れた。

大学の勉強もあるから大変でしょうに」

母の言葉にキコは微笑んで、紅茶のお代わりを入れた。

「殿下が手伝って下さいますから

キコはこうみえて頑固ですよ。こうと決めたらやり通す。そういう所はどちらに

似たのでしょうね」

と宮が笑うと、キコはちょっと怒った顔をして「頑固なのは殿下の方です」と言い返した。

まあ二人ともそうだという事だろうね

カワシマ教授はゆっくりとたばこをくゆらし、庭に出て行った。

「穏やかな年越しになりそうですね

母は色鮮やかな紅茶に砂糖を入れながらゆったりと言った。

いつの間にか子供達もシュウと一緒に庭に出て、動物たちと戯れている。

獣医になる予定のシュウは、姪達に動物の育て方を教えているらしい。

そういう話が大好きな宮も一緒に冬枯れの庭に出て行った。

寒さも気にせず、みな声を立てて笑ったりうさぎを追いかけたりしている。

まるで、宮邸だけは現実の日本から遠く離れたヨーロッパの雰囲気をかもしだしていた。

ええ。東宮家に内親王様が生まれて両陛下もほっと一息ついておられます

キコもお代わりを入れた。エキゾチックな香りが部屋に広がっていく。

内親王様がお生まれになったのは大変おめでたい事です。とはいえ・・・」

母はそもそも噂話は嫌いな方だった。

夫が学習院に勤めていれば嫌でも皇族や高官達の話が伝わってくるが

どんな時でも一歩控え、殊更に関わろうとはしなかった。

東宮家に内親王が生まれた。けれど、オワダ夫妻のお通夜のような会見やら

天皇・皇后より先に内親王を抱いた事などはとうに耳に入っていた。

宮家にも後継ぎが必要でしょうに

母は、娘が産児制限されている事を知っていた。それについて批判するとか文句を

つけるという事はなかったが、内心では不憫でしかたなかった。

世の中には産みたくても産めない人がいる。

幸いにして娘は宮妃になり二人の娘に恵まれた。

けれど皇統を考えるとどうしても男子出産が望ましい。

子供が大好きなアキシノノミヤ。三人目もぜひ欲しいのだろうと思う。

しかし、今回生まれたのが内親王である以上、次に男子が生まれるまで、

産児制限は続く。なんと理不尽な事ではないかと・・・・母としてはそう思うのだ。

しかし、一方で公務と育児に忙しく人手が足りない状態でもあり、これ以上子供が

増えたらそれはそれで大変だろうとも思う。

特にキコは現在も大学院で修士課程についている。こつこつと続けている勉強を

中断させたくはない。

お名前はトシノミヤアイコ様とおっしゃるんでしたっけ?随分・・・読みやすい名前ね

ええ。両殿下がおつけになったそうですよ。敬天愛人からとったようね」

本当はヒサシがつけたであろう事は、皇室内では周知の秘密だった。

宮内庁職員の中には「普通は両陛下が名前をお決めになる。だが、今回は両殿下が

オワダ家に頼んでつけてもらった。これじゃ皇族じゃないみたいだ」

というものさえいる。

アイコという漢字は、過去に天皇の生母で側室にその名の人がいて、かぶっては

いけないと考えるのが普通ではないか・・・などという意見もあったが。

結果的には皇太子が「単純な名前がいい」と判断して決まった。

名前すらそんな風に決められた事にノリノミヤなどは憤慨し、随分愚痴ていた

ようだが、それはそのまま天皇と皇后の気持ちの表れのような気がした。

最初は女の子がいいわね。私もそうだったけど。男の子はやっぱり体が弱かったり

するし、最初では大変ですものね」

男の子の子育てが大変というのは両陛下からお聞きした事があるし、ミヤサノミヤ

妃殿下からも色々とお話をお聞きしました。私みたいにぼんやりとした母親には

ちょっと大変ね。そういう意味ではうちはマコとカコでよかったわ

まあ。これでたとえ女帝問題が出ても、トシノミヤ様がなるかならないかという話になって

マコ様やカコ様には関係のない事でしょうけど」

お母様。皇統は男系の男子と決まっているのよ。皇太子殿下にはアキシノノミヤという

立派な弟君がいらっしゃる。女帝だなんて」

じゃあ、東宮家に二人目が生まれるのを待つのですか?こちらの宮家にも男子はいないのに」

そうなの。殿下はそれを憂えておられるの。お母様にだけお話しするけれど

両陛下も殿下も将来の皇統の断絶をとても心配されているのよ。皇太子妃殿下の流産も

悲しい出来事だったし、なかなかお子に恵まれない現実をとても心配されて。でも

皇太子妃殿下はとても傷つきやすい方だから、もし私達に男子が生まれたらとても

苦しまれるだろうと・・・・」

何て不憫なんでしょう。妃殿下は十分に頑張っていられるのに。どうしてそこまで気を

遣わなくてはならないのかしら。今度ばかりは私も納得できないわ」

母はちょっと声を荒げた。

皇太子妃殿下に気を遣って両陛下が何も言えない状態だなんておかしいもの。

学習院にも噂は広がっているのよ。皇太子殿下は妃殿下のご出産まで毎月病院に

付添い、生まれてからは片時も離れず、公務を制限するようになったと。それもこれも

子育てに慣れない妃殿下を支える為だと。聞こえはいいけど、庶民ならいざ知らず

回りに50人も御付がいる東宮家でこのありさまとは」

ああ・・・お母様。そんな噂が?」

「本当なの?」

本当です。男女平等な皇室を表現する為に、皇太子殿下は育児に励んでいるとか。

それが新しい皇室の在り方であると・・うちの宮様に力説なさったのですって。

宮様は「育児なら私の方が得意ですよ」と言い返したそうですけど。宮様は

表だってそういう事をおっしゃったりなさったりしないだけで、十分にやっておられるのに。

何だか私達が旧弊であるかのようなイメージがついているの。その事に宮様も

悩まれて」

まあ」

それに皇太子殿下は内親王様を将来の皇太子になさりたいというお考えとか」

「じゃあ、やっぱり女帝に?」

ええ。男女平等な世の中だから皇室もそうあるべきだとおっしゃるんですって。宮様は

男女平等と皇統の伝統は違うとおっしゃったけど、聞き入れなさらないとか。

今は内親王殿下がお可愛らしくてそのようにおっしゃるんででしょうけど、2000年に渡って

男系男子が継いできた歴史を軽々と破ろうとされる皇太子殿下に宮様も絶句されていたわ。

私も落ち込んでいらっしゃる宮様を見るのがつらくて」

キコは庭先を見た。

 

庭では時々遠い目をする宮がいた。

「家禽の研究は進んでおいでですか

教授の問いに宮は「ええ。でもなかなか・・・またタイに行きたいのですが」と答えた。

変な噂を流されたらそれも困りますし。子供達がもう少し大きくなったら旅行に

行きたいなと思いますが。それまではもっぱら本を読み、書くしかないでしょうね

人間にはそういう時期も必要です

教授は寒空を見上げた。

「21世紀。私は政治の事はわかりません。でも21世紀は民族紛争の時代だといいます。

それぞれの国の民族がそのイデオロギーを主張して戦争を起こす。東西冷戦など

遠い昔の出来事になり、またも領土の奪い合いが始まるのかもしれない」

ええ」

日本における精神の柱は皇室です。皇室があればこそ日本人は日本人として

誇りを持って生きていけるのです。どんなに世間が倫理崩壊を起こしても。

たとえ侵略の憂き目を見ても。最終的には皇室と言う柱にすがり、自分は何者であるか

知るのです。殿下はそのような場所にお生まれになった。だから、どんな時にも

取り乱したりせず、悠々となさってください。時を無駄にせず、今やるべきことを

なさっていればいつか必ず報われる日が来るでしょう」

教授の低い声は宮の心にしみわたっていく。

皆様、お部屋にお入りくださいな。温かいお茶を入れましてよ」

キコの優しい声が響いた。

「ちょっと寒くなってきましたしね。入りましょうか。シュウ、姫宮達を

子供達は頬を真っ赤にして走りこんでくる。おいかけるシュウの髪も冷たくなっていた。

そうか・・・と宮は思った。

こんな風景を当たり前に見る事が出来る自分は幸せであると。

この小さな幸せを大切にしないといけないのだと。

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」133(こっちはフィクション)

2013-10-18 07:00:00 | 小説「天皇の母」121-140

皇太子妃の出産に関して、天皇家の慶事でもあった筈なのに

どこか皇族方はかやの外におかれた雰囲気がある。

11月30日。アキシノノミヤの誕生日夕食会に出席していた皇太子は

さっさと先に帰宅し、その後、夜中の11時すぎになって宮内庁病院に入院。

この時、マサコはマスコミに向かってにこやかにお手ふりをした。

とにかく「誰かを見たら手をふれ」というのが父の教えであり、母の勧めだったから。

まあちゃんは何でも顔に出るのがダメなのよね。もう少し愛想よくみせる為には

とにかく人を見たら手を振ることよ」

とはいえ、それを見たマスコミはかえって「本当に出産が近いのか?」と疑念を抱く

事になった。

午前零時。眠気を必死にこらえながらも各社が聞いた宮内庁病院医師団の会見は

陣痛が始まっているわけではないが、分娩の兆候があるので入院した」というもの。

男性が多い記者達は「そんなものか」と思ったろうが、女性たちは

陣痛が始まってないのに分娩?」とこれまた心にひっかかる。

それが後に「マサコ妃は本当に内親王を自然分娩されたのだろうか」とか

あるいは「マサコ妃は本当に出産したのか」という疑惑と都市伝説を生む事になる。

皇族が帝王切開してはいけないという事はない。

自然でも帝王切開でもとにかく無事に生まれればいいのであって、それをどこまでも

「理想」的に飾ろうとした事が失敗だった。

 

朝の7時にはユミコが病院に駆け付けた。いつでも記者会見出来るように

着替えを持っての登場だった。

8時すぎには皇太子も駆けつけ、いわゆる「立ち合い」出産を行う。

分娩室にまで足を入れたのは皇族の中でも皇太子が初めてだった。

東宮職はこの「分娩室立ち入り」には強硬に反対したのだが、皇太子は聞き入れなかった。

僕が新しい夫像、父親像の手本にならないと。今時、立会出産は当たり前でしょう?」

しかし、殿下は皇族でいらっしゃいます。御立場が」

皇族だからこそ見本を見せないと。それにマサコが不安がっているので」

実際の所、マサコは不安がってなどいなかった。

しかし、側に皇太子がいれば何かと便利だったのは事実。

皇太子というレッテルは彼女にとっては錦の御旗。彼がそばにいれば大抵の事は

通った。

今回も、ユミコが朝早くから病院に駆けつけている事をよく思わない輩がかなり

いたのだが、皇太子も一緒という事で誰も批判が出来なくなったのだ。

 

午前11時すぎ。皇居から女官長が病院に到着。

出産を見届ける為だった。

誰もが親王の誕生を疑っていなかった。ユミコでさえ。

 

何っ!女?」

受話器を持ったヒサシの手が震え、言葉が怒りを含んでいた。

その場にいた人達はみな手を止めて一斉にヒサシを見る。

間違いないのか?本当に女なのか?」

受話器の向こうではおろおろした声がしていた。

そうなの。姫なのよ。2103グラムの元気な女の子。まあちゃんも問題なく・・・」

「何で女なんだ!」

知らないわよ。でも間違いなく女の子よ。可愛らしかったわ」

ヒサシは受話器を落としそうになり、思わず手に力を込めた。

一体、どれだけ金をつぎ込んで来たと思っているのだろうか。

ただの不妊治療ではない。男子を産む為に不妊治療だった。

その為に、国費を使い、機密費を使い、挙句は研究費まで・・・・・・

さすがの政府も「これ以上は」というのを、無理無理押してここまで来たのに。

なぜ女児。

どうするの?あなた。来るの?」

はっとしてヒサシは「行くに決まってる。記者会見も予定通りやる」

そう言って、ヒサシはさっさとコートを着た。

 

冬の風が頬をついた。

しかし、その冷たさも感じない程ヒサシの心は熱くなっていた。

(ツツミめ・・・ツツミめ・・・)

顕微授精なら男子が生まれると言ったではないか。

なのになぜ女なんだ?

これで努力が全て水の泡だ。

また一から始めなくてはならない。

めまぐるしく頭の中で、次の一手を考えようとするヒサシだった。

 

内親王様、ご誕生でございます」

その知らせを受け、天皇と皇后は笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。

天皇・皇后からすれば男子でも女子でもどちらでも孫に違いない。

アキシノノミヤ家にも女子が生まれているのだから、ここでがっかりする筈もなく。

第一子が女子でもこれからまた産めばいいのだから。

各宮家からも祝いが伝えられる。

キク君は「本当によかったわね。一姫二太郎っていいますもの」と嬉しそうに言ったが

その言葉が激しくマサコを傷つけた事に気づかなかった。

午後4時すぎ、表御座所で「賜剣の儀」が行われる。

表御座所で「賜剣」が入った箱を受け取ったフルカワ大夫は、緊張のあまり

その箱を取り落とし、あげく、ふんずけてしまうという「事件」が起こった。

な・・何と

フルカワは驚きと恐れでなおもいっそう震え、しかし、東宮職員に「大夫。うろたえずに」と

声をかけられ、何事もなかったかのように剣を箱に入れて捧げ持った。

このような事は前代未聞であり、また非常に不吉な予兆でもあった。

大夫のせいじゃないですよ

慰めにかかった職員にフルカワは「じゃあ、誰のせいなんだ?」と聞き返す。

それは・・・・」

やはり私が悪いんだよ」

これは事故であり、東宮大夫の落ち度である。そう考えた方がよほど気が楽だ。

言葉には出さなくても、職員達は本当はそう思っていたのだ。

確かに皇室とは神道の家であり、起こる現象には意味があり・・・というが

今上はリベラル派だから、そのような迷信を信じるわけないし、それこそ

オワダ家に伝わったら大変な事だ。

その「賜剣」が宮内庁病院のマサコと新宮に届けられた時、そこにはヒサシと

ユミコが皇太子と共にいた。

その事に大夫はぎょっとしたが、あえて何も言わなかった。

可愛いでしょう

皇太子は得意満面で行った。大夫は恐縮し新宮の顔を拝む事が出来ず

儀式に集中した。

新宮を取り囲んでいるオワダ夫妻とマサコ。皇族では皇太子のみ。

その光景を見ながら大夫は「あの事件」が単なる事故ではないのかもしれないと

思い始めた。この世に生を受けて数時間しかたっていない内親王に感じる思いが

こんなものだとは、フルカワ自身思ってもいなかった。

名前、どうする?」とマサコが聞く。

皇太子は「そうだね。二人で決めるようにって

陛下からはお許しを頂いているから」

それならお父様に頼みましょうよ

マサコの提案に皇太子はにっこり笑った。

それはいいね

そんな会話を聞きながらフルカワは背筋に冷たいものが落ちるのを感じた。

何とも複雑なお生まれの内親王様。ノリノミヤ様が誕生された時はこんな雰囲気では

なかったのに・・・・これではまるでオワダ家の孫そのものだ)

寒々しい、皇族らしからぬ雰囲気の中で、内親王は眠っている。

皇太子の娘に生まれながら、この寒々しさは何だろう・・・・とフルカワはただ黙ってみているしか

なかった。

 

「賜剣の儀」ののち、オワダ夫妻は病院を出て記者会見場に向かう。

その間に宮内庁より正式に「内親王誕生」の発表があり、日本全国は

祝賀ムードに包まれた。

強調されたのは、生まれた内親王が皇太子の第一子で、マコやカコより

身位が上であること。女の子なので皇位継承権がないこと。

「今の時代、女性だからといって天皇になれないっていうのは・・・差別じゃないんですかねえ」

全てのテレビ局は「おめでとうございます」の後にこのセリフを言う。

あっという間に「もしかしたらこの内親王は女帝になるかも」という雰囲気が

作り上げられていった。

夕方7時近くになって、オワダ夫妻は金屏風の前で会見を行った。

「大変めでたい事で・・・」といいつつ、ヒサシは少しも笑っていなかった。

心の中に「こんなはずではなかった」という思いが顔に出てしまい

言葉が上手に滑っていかない。 

ユミコも夫につられて笑顔が消えていた。

大変可愛い赤ちゃまで

おかしな「赤ちゃま発言」は週刊誌を彩る。

ヒサシは色々言葉を尽くしながらも必死に頭を切り替えようとしていた。

いいさ・・・女でも。天皇にすればいいだけだ。総理に打診して女帝を認めさせよう。

皇室典範を改正し長子相続、男系に限らない継承を認めさせればいいのだ。

今の時代、女が天皇になったって違和感持つ庶民はいない。

みんな、喜んで応援する筈だ)

そんな風に考えている間にヒサシはやっと笑顔を出す事が出来るようになった。

自分の娘が皇后に、そして婿が天皇に。孫が皇太子になる日を夢見て

その為に生きていこう・・・・そう決心したのだった。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」132(フィクションへようこそ)

2013-10-09 10:47:37 | 小説「天皇の母」121-140

皇太子妃の出産が秒読みになってきたのに、皇居の中はなぜかどんよりと

した空気が漂っていた。

日々、公務に忙しく余計な事に構っている暇がない。

皇太子妃が懐妊したといっても、それで天皇や皇后の公務に支障がでるわけではない。

殊更に喜びを表現するのもどうかと思い。それぞれに「体を大事に」とコメントを

発表させた。

それも宮内庁の判断で、「黙っていると皇太子妃バッシングしていると言われる」という

助言があったからだ。

しかし、そんなコメントを(異例にも)出しても、相変わらずマスコミは「両陛下は冷たい」と

報道し続けている。

先日の夕食会でのマサコの勝ち誇ったような態度。あれを思い出すだけでも天皇は

胸が痛くなる思いだった。

本音としては男子を産んで欲しい。皇統の危機を迎えている今、頼りは皇太子妃の

出産だった。

天皇はふと思う。亡き皇太后は自分が生まれるまでどのような思いで出産を

繰り返していたろうかと。

皇太后が産んだのは4人の皇女。確か誰かに「また女か。皇后は女腹なのだ」とまで

言われたとか。その時、どんなに辛い思いをしたろう。

今、自分が天皇になり、ひたすら世継ぎの誕生を願う立場になって、母の気持ちを思うと

やりきれなくなる一方で、それでも「世継ぎ」を望む自分に罪悪感を感じる。

なぜ皇室は男系男子でなければならないのか。

その理由はわかっている。それが「伝統」だからだ。もし、男系男子でなくなったら

それはもう「皇室」でも「天皇家」でもない。「天皇」の一番の価値はその血筋にある事。

天照大神以来の遺伝子にあるという事だ。

いくら世の中が民主主義になろうとも、ジェンダーフリーになろうとも、男系男子というのは

思想やイデオロギーに関係なく継がれていくべきものなのだ。

それはわかっている。わかっているが、その為にどれだけ多くの人が苦しみ、傷ついて

来た事か。皇后はたまたま大子が男子だったおかげで、そのようなものとは無縁だった。

それだけが救いだった。

しかし、孫の代になってまたも「世継ぎ不在」の苦しみがやってくるとは・・・・・

側室制度がない今、とにかく正妃が産まなくてはならない。そのプレッシャーは

戦前や明治以前より厳しいだろう。

皇太子妃は7年もの間、懐妊しなかった。今思えば、そういう事を踏まえて妃選びを

するべきだったと思う。

せめてマコが男だったら、こんなに大げさに苦しまなくてもよかったのかもしれない。

いや、どう考えたってアキシノノミヤの方が若いし、不妊でもないのだから、

こちらに希望を託するのが筋だと思う。

けれど・・・・

カコちゃん懐妊の時、キコは随分バッシングされました。可哀想でしたわ」

皇后はそう言った。

皇太子妃より弟宮妃の方が先に男子を産んだら、きっとマサコ妃は傷つきます。

そしたらマスコミは何を言いだすか。どのようなバッシングをするか。それを思うと」

だが、皇后の本音はそこにあるのではないような気がした。

「私がマサコの立場だったら・・・多分、傷つくと思います」

そこなのだ。皇后は常に人の立場になって物事を考える。それは素晴らしい事だ。

しかし、自分が民間初の皇太子妃だった事にどこかでコンプレックスを抱いている。

ゆえに今まで完璧なまでの自分を演出してきたのだ。

その昔の自分と今のマサコを写し絵のように感じているのではないか。

天皇にはそれがわかっているので、強い事が言えないのだった。

皇太子妃になった頃、皇后を始め、皇族や旧皇族、華族から散々苛められ、認めて

貰えなかった事。それは「血筋」という目に見えない、努力のしようがないものであった

事に彼女は大きく傷ついた。

アイデンテティを総崩れにされる程に。

しかし、アキシノノミヤ妃とても皇后にとっては同じな筈なのに。

どういうわけかキコにはそれほど気を遣うそぶりは見えない。

長居付き合いとして甘えているのか、それとも「皇太子妃」と「宮妃」では立場が違うと

思っているのか、はたまた学習院育ちのキコにどこか別な感情を持っているのか。

 

とにかく皇后にとって皇太子はアキレスのかかとのようなもの。

あの子が生まれなかったら、華やかな「ミチコ妃伝説」は生まれなかったのだ。

だから、男子を得るのはアキシノノミヤではない。皇太子でなくてはならないのだ。

しかし・・・・天皇はため息をついた。

何かというと「権利」「人権」を主張する皇太子夫妻に男子が生まれて、将来の天皇と

して教育できるのだろうか。

マサコは皇族をかつての王国の権力者程度にしか考えていない。いくら教え諭しても

「祭祀王」である事を理解しない。そのような所に皇子が生まれて、帝王学が授けられる

のだろうか。

天皇は祈った。天照大神よ。どうか男子を授けたまえ。皇太子夫妻がなんと言おうとも

代々続く祭祀王としての責務は必ず受け継がせよう。

 

11月27日。最後の健診に皇太子は付き添った。結果的に皇太子は全ての健診に

付き添った事になる。

東宮御所にはユミコが来ていた。出産のときには一緒に病院に入りたいと主張していた。

東宮職も宮内庁自体も、いい顔をせず。それゆえに、ユミコは嫌がらせのように毎日

東宮御所に詰めていたのだ。

11月30日。アキシノノミヤの誕生日。一斉に記者会見の様子が流れる。

まさにその日、皇太子妃は宮内庁病院に入院した。

陣痛が始まったのか、それとも大事をとってなのか、はたまた帝王切開による

分娩の為だったか、それはさだかではない。

しかし翌日12月1日、午後2時43分。内親王が誕生した。

陣痛が始まってから2時間後の事だった。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」131(区切りのフィクション)

2013-10-01 18:25:00 | 小説「天皇の母」121-140

宮邸に戻ってきた時、アキシノノミヤは不愉快そうに顔をしかめ、着替えもせず

椅子にどかりと座り込んだ。

殿下、お着替えなさいませ

キコは宮を促し、侍女に着替えを手伝うように言う。

しかし、宮は動こうとしなかった。

あなたは不愉快にならなかったのかい?あんなこと言われて」

それは皇后が「出産や育児に関してはアキシノノミヤ妃に聞きなさい」と言った事に

マサコが「結構です。母に聞きますから」と答えた件だった。

あの後、続きがあった。

皇后が「今と昔の子育ては違うようだから、私などもマコちゃんやカコちゃんの

時はあまり役立てなかったわね」

と、ちょっとキコを見て微笑みかけ、そのキコは恐縮し

「いえ・・皇后陛下に教えて頂いてここまで育てる事が・・・」

と言いかけた時、マサコがさらにたたみかける。

宮家と東宮家では育て方も違うんじゃないんですか」と。

は?皇后は正直、マサコが言ってる意味がわからず、珍しく言葉を返す事が出来ず

一瞬ひるんだ隙に皇太子が割り込んだ。

「それはそうでしょう。僕達と他の宮家では立場が違うんだから」

子育てに違いがあるとは思わないが」と天皇が口を出すと、皇太子はむきになり

ミカサノミヤ家と東宮家では同じ子育てだったのですか?タカマドのお兄様は

そんな風にはおっしゃってなかったけれど」と言い返した。

何がいいたいんだね」

僕もアーヤもサーヤも、内廷皇族として厳しく育てられました。時々、自由な

あちらが羨ましいなと思いましたよ

自由って・・・・窮屈だったとおっしゃりたいんですか」

アキシノノミヤはさすがにむっとした。

確かに附育官のハマオは厳しい人だった。でも振り返れば全てにおいて

「ヒロノミヤ様最優先」だった。

イギリス留学にしたって、本人の希望が最優先で叶えられたではないか。

それでも「窮屈だった」と言いたいのだろうか。

自由がないよ。皇太子という立場は。宮家はその点、自由だなあ」

「宮家も東宮家も、その立場に応じて不自由さを抱えているのではないでしょうか。

人はみんなそうだと思いますが。国民と私達という意味でおっしゃるなら、皇族には

皇族としての役目があり

「オーちゃんみたいな事は言わなくてわかってるよ。すぐに正論で切り返して」

皇太子は横を向いた。

私達、学習院は考えていませんの

唐突にマサコが言い出したので、みな何事か?と耳を疑う。

学習院を考えていないってどういう事かね?」

天皇の言葉は多少震えていた。天皇は学習院の同窓会の会長でもあるのだ。

これからの時代は国際社会ですから、グローバルな教育を受けるべきだと

思うんです。私、子供にはそういう広い社会を見せてくれるような、私が受けたような

教育を受けさせたいんです」

私達というと、皇太子も同じ意見なのかね」

はい。この間、オワダご夫妻がいらして留学の話なんかをしたのですが。

やはり英語を身に着けるなら小さい時から教育すべきだって」

英語より日本語が先じゃないのかね」

勿論そうです。でも母国語は習わなくなって話せますけど英語はそうは行きません。

この僕だってなかなか・・・マサコには叶いません。英語が話せなければ国際社会に

取り残されてしまいます」

キコはどう思うかね。今、マコとカコが学習院に通っているが、学習院の教育は

グローバルとやらからは遅れているのかね」

いきなり振られたキコは困り果てて、でもここは言わなくちゃとちょっと語気を強める。

私は学習院に編入した時は日本語を話す事が出来なくて苦労いたしました。

でも先生方のお導きで、日本語のよさを知る事が出来たと思います。子供達は

今の所、普通の生徒と同じように教育を受けており、それで不足を感じた事は

ございません」

普通じゃダメなんです。皇太子殿下の子供なんですから」

マサコの声が響きわたる。

だってそうでしょう?私のお腹の中にいる子は将来の天皇です。帝王教育を

しなくちゃ。それはまず語学からじゃないですか。それに・・」

と、マサコは言葉を切り、あらためてキコを見つめて言った。

ヒサコ妃が申しておりましたけれど、そちらのお嬢さん、タカマドノミヤ家のアヤコ

女王をないがしろにしているんですって?筆頭宮家の娘だからって」

「なんですって?」

思わずキコは椅子から立ち上がった。

マコは・・・」はっとしてキコは椅子にもう一度座り、冷静になった。

マコが何か粗相を致しましたか」

ヒサコ妃が泣いていましたよ。学習院はアキシノノミヤ家とタカマドノ宮家を差別

しているって。アヤコ女王の方が年上なのに、アキシノノミヤ家はあなたが教授の

娘だからそちらのお嬢さんを贔屓しているんだって」

色を失ったキコの表情は固まってしまい、ノリノミヤが慌てて

何をおっしゃるんでしょう。そんな話、私は聞いた事なくってよ」

妃殿下が本当にそうおっしゃったのですか

アキシノノミヤも黙ってはいなかった。

あまり思い込みでおっしゃるのはどうかと思いますが

あら。お聞きになっていないの?タカマドノ宮妃が直々に学習院に抗議した事」

・・・・・・・・キコは答えなかった。

 

つまり、そういう事があったというのを・・・あなたは知っていた

宮は憮然とした様子で、椅子に座ったままだった。

「だからあの時、何も言い返さなかったんだろう」

キコは目を伏せて、黙々と侍女にマコとカコの様子を聞き、

アクセサリーを外し、着替えに部屋へ行こうとした。それを宮が押しとどめる。

どうなの」

その通りです。ヒサコ妃から学習院に抗議があったのは。初等科長がこっそり

教えて下さいましたの。そしてマコがあちらの女王殿下に苛められている事も」

何だって・・・・・」

宮は声を失った。

何でもっと早くそれを言わないの」

殿下にこんな下世話な事を申し上げるわけには。馬鹿馬鹿しいお話なんですもの」

「どんな風にばかばかしいんだよ」

「マコも、あまり喋りたがらなくて。廊下でアヤコ女王がすれ違いざまに

「私の事を馬鹿にしているんでしょう。そう、お母様から言われているんでしょう」と

言ったり、「お姉さまじゃなくて女王殿下と呼びなさい」と怒ったり。マコは

どうしていいかわからず、休み時間も教室にいる事が多くなったので、先生が

おかしいと思ったようです」

親の教育だな

宮は切り捨てるように言った。

僕達が結婚した時も、ノリヒトお兄様は「アキシノノミヤには公務の依頼がない

だろう」なんてマスコミに喋った事があっただろう?それだけじゃない。カコが

生まれる時も・・・日頃から僕達の悪口を吹き込まれているんだろう」

「そんな事、マコにはおっしゃらないで。マコに先入観を植えつけるような事は

したくありませんもの」

じゃあ、何て説明するの?言いがかりをつけられている事に関して」

「何も申しません。いつかマコが気づく時まで」

それじゃマコは苛められ損じゃないか。皇族が皇族を苛めるなんて。

僕だって苛められた事はあるよ。

「皇族だからって何だ」とか「税金で食ってるくせに」とか言われた。僕ら皇族は

一度はそんな事を言われて傷つくものだ。でも、同じ皇族から・・・」

「マコには気にしないようにと申しました。そもそも現場を見ているわけでは

ありませんから、何もできません」

だったら現場を押さえればいい。ボイスレコーダーとかビデオとか」

殿下」

でも、マコの事だよ。マコが苛められているんだよ。あの子の心に傷が

残ったらどうするんだ」

「マコは大丈夫です。信頼できるお友達も沢山いますから。殿下は子供達の事になると

すぐに熱くなるので困るわ。この件は私にお任せ下さいな」

宮はぶすっとふくれる。キコはそんな宮の手を引っ張って部屋に連れて行った。

 

結局、あの場は天皇の

宮妃たるものがそのような事を言う筈がない。きっと聞き違いをしたんだろう」の

一言で収まった。

誰もがそんな筈ないと思ったのだが、せっかくの夕食の席をそのような話題で

閉めるわけにはいかなかったのだ。

マサコは気分を害したようで

うそつき呼ばわりですか」とつぶやいた。皇太子が「まあまあ」と宥めるセリフだけが

むなしく響いたのだった。

 

おかえりなさいませ」

侍女と一緒に玄関に出迎えに出たヒサコは、形だけ頭を下げて宮を迎えると

さっさと自分が先にリビングに入った。

宮はそんなヒサコの態度も慣れっこになっているのか、別にどうというわけではなく

着替えを済ませると、ワインを持ってこさせた。

今日はどちらにお出ましでしたの?どちらの大使館でしょう」

嫌味たっぷりにヒサコは言い、わざとグラスになみなみとワインを注ぐ。

「仕事だって言ってるじゃないか。それは事務官の話でわかってるだろう」

「事務官はあなたのお味方でしょうから」

「いい加減にしろよ」

宮は声を荒げる。

ワールドカップの日韓合同開催がきまりそうだから」

ワールドカップって、日本で開催される予定の?」

そう。それを日韓共同開催にしようとしているのさ

そんな事が出来るんですの?」

出来るさ。韓国側が要求しオワダ氏が日本政府にかけあってる。多分

日本は承諾するだろうね。植民地時代の事を蒸し返されたら困るのは日本だ。

日韓共同開催が決まったら、僕を名誉総裁にしてくれるってさ」

皇室がこの件に関わっていいのですか」

かまやしないさ。どうせ僕らは末端宮家。皇族であって半分違うようなものだ。

だがな、いつまでも末端で終わる気なんかない。僕が名誉総裁になってソウルの地を

踏めば歴史的な快挙になる。オワダ氏はそのおぜん立てをしてくれるというんだよ」

皇太子妃のお父様が

皇太子の父親は見る目がある。無論、利害関係があっての事。そしてこちらに

とっても渡りに船さ。だからせいぜい皇太子夫妻にごまをすらなければ」

それは大丈夫よ。マサコ妃は皇室では孤立しているし。私ぐらいしか味方がいない

から。でも、ハーバードを出てると偉そうな顔して、本当に嫌だったら」

仕方ないだろう。うちには男子がいない。金ばかりかかる娘達3人しかね。

こんな筈じゃなかったのに・・・・側室が認められない世の中が恨めしいよ

「・・・・」

ヒサコは押し黙ってグラスにワインを注いだ。

長女・次女と続いた時はまだこんな風には言わなかったのに、3女が生まれた

あたりから宮の態度が冷たくなり始めた。年齢的にもこれ以上の出産が

望めないとわかったら、途端に手の平を返すように冷たく・・・

ああ、君が男の子を産んでくれていたら。娘しかいないミカサノミヤ家の後継ぎ

として、皇位継承権を持つ王の家として、もう少し予算を増やして貰えたかも

しれないのに。皇族とは名ばかりの自転車操業じゃ、プライドもへったくれもない」

宮はそう言い放つと、グラスをおいて、さっさと引き上げてしまった。

一人残されたヒサコは、飲み残しのワインを一気に飲み干し、グラスを床に

叩きつける。カシャーンと乾いた音がしてガラスが散らばった。

妃殿下。どうなさったのですか」

慌てて侍女が駆けつけてかけらを拾い始める。

お怪我は・・・」

人を馬鹿にするんじゃないわよ」

ヒサコは叫んだ。侍女はびっくりして、逃げるようにほうきを取りに下がる。

細かく砕け散ったグラスの破片をぎりぎりと踏みつけて、ヒサコは唇をかみしめた。

私だって好きで女ばかり産んだんじゃないわ。何でそれがわからないの。

本当にあの人は身勝手。いえ、そもそも温室育ちの皇族に人の気持ちなんか

わかるはずないわ。いい気になってると今に痛い目に遭うから」

ヒサコはふんとかけらを蹴っ飛ばして、自分の部屋に引き上げた。

 

 

 

 

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