ふぶきの部屋

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韓国史劇風小説「天皇の母」172(実在の人物とは関係ありません)

2014-11-28 08:30:00 | 小説「天皇の母」161-

10月は秋・・・ではあるが東京は紅葉とはほど遠い。

もうすぐ皇后誕生日の御所の庭だけが何となく秋めいているようだ。

オワダ邸の殺風景さは今に始まった事ではない。

コンクリート打ちっぱなしの冷たい外観。そしてかきねすらない庭。

リビングに咲くチョウセンアサガオ・・・これは10年前と変わっていないようだった。

誰にも見つからずに来たか

ヒサシは玄関からそっと入ってきたマサコに向かって言った。後ろからはレイコと

その子供も入ってきた。

大丈夫」

マサコはそういって、アイコを出仕に預ける。

レイコも当然のように自分の子供をあずけた。

出仕のフクもまた当たり前のようにアイコとその従兄弟を預かると

別室に消える。

まあ、万が一ばれてもエガシラのばあさんの見舞いだと言えばすむからな

ヒサシはサイドボードから高級なウイスキーを出した。

グラスを3つ並べて注いでいく。

 

エガシラ家のスズコの具合が悪いのは事実だった。

具合が悪いというより、ついに「お迎え」が来ているだけなのだが。

それでユミコはスズコがいる病院に詰めていて留守にしている。

そう、長くはないという事でヒサシも帰国しているのだった。

おばあちゃま、大丈夫なの?」

マサコは聞きながら父の目の前に座った。

高級な家具を置いてあるわりに少しも温かさを感じないのは、オワダ夫妻達が

すでにこの家に住んでいないからか。

それでもわざわざ皇宮警察に頼んで警備をさせている。

そういう事が「無駄」だとか「身分不相応」などとは思わない一族だった。

ばあさんはもう歳だ。いい加減お迎えが来ても文句は言わないさ。後にじいさんも

控えているんだから」

ヒサシはウイスキーを一口飲んだ。

結婚してからこの方、エガシラ夫妻に親近感を感じた事などなかった。

一人娘を貰ってやったが息子を産んでくれなかったユミコ。エガシラ家に

子供はユミコ一人だった事をもっと考慮にいれるべきだったか。

散々金銭的に世話になっておきながらも「チッソの娘を娶ってやった」くらいにしか

思わないのがヒサシだった。

だがな。人の死というものは一つのハク付けにはなる。死んでどんな葬儀をして

貰えるかでその人間の格が決まるというかな。

エガシラのばあさんは皇太子妃の祖母として死ねるんだから幸せだ。せいぜい

大きな花と供物を頼むよ。そうだな。記帳所をもうけさせるか

当然よね」とレイコが言った。

イケダ家も、おばあちゃまの葬儀が大がかりだったらきっと驚くわよ。私を見る目が

かわるはず」

なんだ、レイコ、婚家で苛められてるのか?」

そういうわけじゃないけど。こっちだって大変なのよ。お姉さまのご病気は色々面倒だから」

適応障害と命名したじゃないか

ヒサシは笑った。

それに一役買ったのはお前の夫だろうが

夫はいいのよ。夫は。でも舅とかね。まあ、私の事はいいの。息子を産んであげたんだし

なによ。それ、私への嫌味?」

マサコは露骨に嫌な顔をした。この妹は時々毒を吐く。

あら、ごめんあそばせ。うちは皇太子殿下みたいな高貴な夫じゃないもので

「私が何に傷ついているかわかってていうわけ?」

だから謝ったでしょ

二人ともやめないか

ヒサシが声を荒げたのでマサコとレイコは黙った。

アイコの様子は相変わらずなのか。医者には見せてるのか。オーノは何といってる

お父様。オーノ先生は精神科のドクターで小児科じゃないわよ

またもレイコが口を挟む。

だからオーノを通してそっちの権威を探すとか」

もう探したわよ。だけどなかなか秘密を守れる医者がいなくて。とりあえず

有名所の発達障害のドクターはおさえたわ。それから、青山にある

リトミックの教室に通わせるわ。頭の発達にいいとかなんとか」

絶対に治らないのか

そうらしいわね。ナルもみんなもアイコがあんなだっていうのにのんきすぎて

やってられないわ。あの人、おばさん達もああだから気にならないのね。

でも私は無理。とても受け入れられそうにない」

まだ国民に真実を・・・などとほざいているのか

宮内庁はそういうスタンスよ。でも私は絶対に嫌。どうしてそんな事、はっきりと

言わなくちゃいけないの。全然わかんない。こうなったのは全部ナルの血筋なのに

あの人達は私に謝りもしないのよ」

マサコはぶすくれて茶色い液体を飲み干した。

全く・・・とヒサシは思う。

アイコが生まれてもうすぐ3年だというのに、いつまでも同じ事で文句を言う。

だが、下手に叱り飛ばすとまた軽井沢のような事が起こりかねない。

結果的になだめすかす方法しかとれないのだ。

まあ、彼は彼なりだろう。しかし、せっかく爆弾発言したのに、その後の対応が

悪すぎたな」

 

例の「人格否定」発言以後、宮内庁や天皇から再三にわたって

「説明を」と言われ、皇太子はどうこたえていいかわからず、右往左往していた。

今まで記者会見の原稿などはノリノミヤに聞いて書いてもらったりしていたので

自分の「意志」としての発言が波紋を呼び、しかも自分で責任を取らなくては

ならない事態というのに対応できないのだった。

説明を・・・・と言われても実は答えようがない。

結果的にヒサシに相談し、やっとひねり出した言葉は以下の通り。

記者会見では雅子がこれまでに積み上げてきた経歴と,その経歴も生かした人格の大切な部分を

否定するような動きがあった,ということをお話しました。

その具体的内容について,対象を特定して公表することが有益とは思いませんし,

今ここで細かいことを言うことは差し控えたいと思います。会見で皆さんにお伝えしたかったのは,

私たちがこれまで直面してきた状況と今後に向けた話です。

記者会見以降,これまで外国訪問ができない状態が続いていたことや,

いわゆるお世継ぎ問題について過度に注目が集まっているように感じます。

しかし,もちろんそれだけではなく,伝統やしきたり,プレスへの対応等々,皇室の環境に

適応しようとしてきた過程でも,大変な努力が必要でした。

私は,これから雅子には,本来の自信と,生き生きとした活力を持って,その経歴を十分に生かし,

新しい時代を反映した活動を行ってほしいと思っていますし,

そのような環境づくりが一番大切と考えています。

会見での発言については,個々の動きを批判するつもりはなく,

現状について皆さんにわかっていただきたいと思ってしたものです。

しかしながら,結果として,天皇皇后両陛下はじめ,ご心配をおかけしてしまったことについては心が痛みます。

皆さんに何よりもお伝えしたいことは,今後,雅子本人も気力と体力を充実させ,

本来の元気な自分を取り戻した上で,公務へ復帰することを心から希望しているということです。

雅子の復帰のためには,いろいろな工夫や方策も必要と考えますし,

公務のあり方も含めて宮内庁ともよく話し合っていきたいと思っています。

多くの方の暖かいお励ましに,私も雅子もたいへん感謝をしています。

雅子が早く健康を回復し,復帰できるよう,私自身も全力で支えていくつもりです」

最後に,雅子の回復のためには静かな環境が何よりも大切と考えますので,

引き続き暖かく見守っていただければ幸に存じます

要するに

何であんな発言をしたのかと理由を説明する必要はないと思う。マサコは皇室の

環境に適応できないのだから皇室が変わるべきと思う。

今後はマサコの好きなようにやらせようと思うので文句を言わないで欲しい」

という事を言いたいが為の長々とした文章だったのだが、皇太子の言葉で語ると

本当にソフトで、意味不明に見えてしまう。

ヒサシからすればそれは「特技」だ。

本当に言いたい事が何であるかぼかしながらも、文章だけは整っている。

こんなに都合のいい話はあるだろうか。

皇太子の文章はわかりにくい。わかりにくいが国民はそれに文句をつける事すら出来ない。

なぜなら、意味がわからないから。

そう考えると笑えてしょうがない。ヒサシは一人でくくと笑いながら

まあいいさ。あの人格否定発言は大きな意味があった。これでもう誰も文句は言わない。

マスコミも同情的。要するに悪いのは皇室なのだと印象づけられたから。

戦というのは先手必勝。そしてイメージ操作が一番大事なんだよ。

私はこれを中国から学んだな

酒が入ったのか、ヒサシはここで壮大な陰謀の中国史を語り始め、娘達は

いささかうんざりした。

だが、いつまでも無駄話をしているヒサシではなかった。

ころあいをみて本題に入る。

それは今後の戦略だった。

「人格否定発言」によって、マサコは悲劇のヒロインになった。

かつての「ミチコ妃いじめ」のように、国民の同情を一手に集めている。

あとはアイコの事だけなのだ。

これも、「プライベート映像」を出した事で一つの結果が出ている。

誰もあれを「替え玉」とは思うまい。

この調子で何度か映像を出せば・・・・その間に世論を「女帝容認」へ持って行く。

女帝を立てる為には皇室典範の改正が必要だ。しかし政治家どもはこれに

触るのを嫌がる。だから、お前が病気になった原因を皇室の「男女差別」に

置きかえれば国民の世論を盛り上げる事が出来る。

総理には話しておく。まあ、あのコイズミは皇室には無関心だ。

だからこそ頼もしい。アイコの事だってろくに見もしないだろうから

典範改正に向けてスタートするのは簡単だ。

だが、何とかその流れが出来るまでにアイコを人前に出せるようにしておけ」

しておけといわれても・・・・」

マサコは口ごもった。

そうねえ。アイコちゃん、この間、参内するのを嫌がって車に乗らなかった事があった

でしょう?そういう事が続くといつかは気づかれるわ。ただでさえドイツの新聞でしたっけ。

自閉症の事を書いてたって」

ドイツなんぞほっとけばいい。もう書かせん」

ヒサシは吐き捨てるように言った。

なんでぐずった?女官がいるだろうに

知らないわよ。突然嫌がって・・・あの子、そういう時はものすごい力を出すの。

しかも、一旦嫌だってなるとてこでも動かないし。そういう病気なんだから仕方ないじゃない

マサコは酔いもあってイライラしはじめる。

それを察知したレイコは

アメリカの新薬って手もあるしね」と助け舟を出した。

アイコちゃんの事は何とか隠せばいいわよ。いくら両陛下だってアイコちゃんの

両親が言う事に口なんか出せないわ。お姉さま達も皇居に行かなければいいんじゃないの?」

そうだな・・・せいぜい機嫌をそこねない程度に参内を控えておけ」

うん」

マサコはうつむいた。

そんな娘を見てヒサシはため息をつく。

一体、どこまで続くのか、この長い道は。

ヒサシの最終目的は「天皇の祖父」になる事だ。

かつての藤原氏のように「外戚」として権力を振るう。

なぜ権力が欲しいのか。それは金だ。力だ。

かつて先祖が貧しさと出自によって貶められた恨みをはらすためだ。

澱のように心にたまっている「コンプレックス」を根こそぎ抜き取るには

是が非でもアイコの即位が必要だ。

アイコの即位・・・・それを見る事が出来ないのならせめて「立太子」だけでもいい。

皇太子の祖父でも構わない。

「皇后の父」「皇太子の祖父」やがて「天皇の祖父」となれば、この赤坂東宮御所も

堂々と自分の居城と出来るだろう。そしたらこの屋敷は双子のどちらかに与えて

いや、それとも新しく家を買うか。

イケダもシブヤもそこそこの資産家だが、「天皇の親戚」としてふさわしい格をつけて

やらなくては。

マサコとアイコを支えていくのはイケダ・シブヤの両氏なのだから。

そんな不敬な事を考えるのが好きだった。

そんな事を考えていると現実を忘れる・・・・・・

オランダで国際裁判所所長の地位にありながらも、実際は「まだ辞めないのか」と

思われている事。

椅子に菊の紋をつけてみたが、あまりしっくり感じない事。

それどころか、裁判官の連中は敬意を払いもしない。

そして何より頭にくるのは、ヨーロッパの社交界が自分を受け入れない事だ。

国際司法裁判所の所長であり、皇太子妃の父だというのに!

会員制のクラブやゴルフ場は、至極丁寧に「お断わり」を入れる。

理由は「紹介がないから」だというが、誰に頼んでも「ええいいですよ」と言われるだけで

実際には紹介してくれない。

日本人だからバカにしているのか。

やはり戦前の日本の行為が全てのガンなのかもしれない。

これに対抗する為にはやはり「金」なのだ。

金と権力なのだ。

マサコ、宮廷費は毎年全部使い切る必要性があるんだろう?

少し融通してくれないか

ヒサシは小さい声で言った。

え?」

マサコはちょっと驚いたように聞き返した。

お金がないの?」

いや、ないわけじゃない。しかし、国際司法裁判所の所長ともなると

色々物入りなんだ。コネを作ったり権力を得る為に。

いくらあっても金は足りない。私が高い地位についていながらみすぼらしい恰好を

していてもお前は平気か?

ヨーロッパの連中は家柄もよく、財産家ばかり。

しかし私は一代でここまでのしあがってきたのだからなあ。

まあ、うちは金がないので酒を飲みにいけません・・・・とは言えない。わかるだろう?

皇太子妃の父親なのに欧州の特権階級と肩を並べる事が出来ない悔しさが」

わかった・・・・・」

マサコは素直に頷いた。

「私だってお父様がそんな目にあっているなら助けたいと思うわ。

でも東宮のお金を管理しているのは宮内庁なの。どうやってお金を引き出すの?」

それは私が教えようじゃないか

ヒサシはにやりと笑った。

よく覚えておくといい。金というものは使あるところにはある。そして

それを使えるのはごく一部の選ばれた人間だけだ。

一度、それを得ればスロットマシンのように金は出てくる。ざくざくと。

その方法を教えよう」

娘達はごくりとつばを飲み込んで父の方に顔を向けた。

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韓国史劇風小説「天皇の母」171(こっちはフィクション)

2014-11-22 07:00:00 | 小説「天皇の母」161-

じとっとした夏だった。

窓の外のセミの声が一段と大きくなった気がする。

地球温暖化の波で、都会の夏は異常に暑くなった。

日差しを避け、ブラインドを下ろしても夕日の赤さは目に入る。

ノリノミヤは眠っているキク君の顔をじっと見つめていた。

ガンと診断され、もう長くない。

ガン撲滅運動にずっと関わっていらっしゃったキク君自身が

ガンになってしまうとは。

なんと理不尽な事だろうか。

小さい頃からこの大叔母はとりわけ自分を可愛がってくれた。

宮夫妻には子供がいなかったから・・・・兄は習字を習い、自分もまた事あるごとに

宮邸にお邪魔した。

キク君はどんな時でもノリノミヤを歓迎したし、いつもおいしい紅茶を入れてくれ

昔の話を沢山してくれた。

徳川の御姫様の暮らしがどんなだったか。

時々、持っている着物なども見せてくれたし、「こんなのが御似合いね」と

着物の選び方も全部教えてくれた。

無論、それらは母からも教わって来た事だkど、キク君の言葉には重みがあった。

「華族」出身という重みを感じていた。

キク君はいつも「宮さん」と自分を呼んだ。

ちょっとくすぐったいような発音だったけど、そのはんなりとした口調はとても素敵だった。

母は鮮やかで華やかで強烈な印象だったけど、キク君はしなやかでつややかで

しっとりとしていた。

そんな大叔母の背中を見て育って来たのだった。

可愛がってくださった大叔母様に一目、自分の花嫁姿を見せたいと思っていた。

けれど・・・・

キク君がうっすらと目を開けた。

「あら・・・」キク君は小さな声で言った。

そこにいらっしゃったの?私、眠ってしまったのね

ええ

宮は微笑んだ。

あまりによくお休みでしたので、起こしては・・・と。大叔母様のお顔を眺めていました」

宮さんに眺めて貰うような顔でもないのよ。もうおばあちゃまになったわ

そんな事ありませんよ。大叔母様はいつまでもお綺麗」

宮さんに比べたら。やっぱり嫁ぐ前の女性は綺麗

キク君は少し起き上がったので、宮はクッションを背中にいれてやった。

随分痩せた。まるで枯れ木のように。

あんなにつややかだった肌は肉が削げ落ち、表情もよくわからないくらいだ。

かつての大叔母を知っているだけに、本当に悲しく思われて、宮はそっと顔をそむけた。

ねえ・・・」

キク君は小さな声で言った。

いつになったら日取りが決まるの?私、もうゆっくりとはしていられなくてよ

ノリノミヤは困ったような顔をする。

あら。そんなにお待たせしないわ

それならいいけど。ああ、あのお小さかった宮さんが嫁がれるとは。時々こちらに

来て下さるマコちゃんとカコちゃんを見ると、宮さんを思い出すのよ。

本当によく似ていらっしゃること」

そうかしら?マコはお兄様に似てるし・・・カコはおじいさまに似ているわ」

「そうそう・・・カコちゃんはほんと、先帝のお小さい頃の写真にそっくりね」

キク君は深く息をついた。

でも、似ていて当然です。だって血が繋がっているものね

お疲れじゃなくて?少し横になられたら

いいのよ。せっかく宮さんが来て下さっているんですもの

キク君は少し楽しそうに笑った。

どんなお道具をお持ちになるの?お着物は何枚?それにお化粧道具入れとか

色々揃えたいわね」

私、何も持って行くつもりはないんです。母のお下がりを貰えれば

そりゃあ、皇后陛下は着道楽でいらっしゃるし昔からそりゃあご立派なものをお持ちよ。

私達ね、ほんの少し妬けてたの。だって皇后陛下の持ち物は

何もかもそりゃあご立派だったんですものね。失った過去の栄光に私達は涙した

というわけ。でももうそんな事はどうでもいいわ。

だけど、宮さんは皇女であらせられるのですから、きちんとしたものを誂えて頂きなさいな。

降嫁されても内親王は内親王ですもの」

ええ

ノリノミヤはうっすらと微笑んで頷いた。

「皇室も。変わるわね

え?」

ノリノミヤははっとした。一瞬キク君の顔が大昔のきりりとした表情に見えたからだ。

しかし、それは本当に一瞬の事ですぐに、齢を過ぎた老女の顔になった。

東宮家の姫は・・・・ああ・・・名前が思い出せないんだったわ。嫌ね」

トシノミヤアイコですよ」

そうそう。トシノミヤ。いくつになったのかしら?」

「2歳ですわ。もうすぐ3歳ですよ

可愛い盛りね。どんな様子なのかわからないけど・・・・あれから東宮妃は懐妊なさらずなのね。

色々あるわね。それにしてもと・・トシノミヤ様はどんなお顔をなさっているのかしら?

小さい頃の東宮はのんびりした方だったけど、この姫もそうなの?」

さあ、どうだったかしら

私には子供がいないからよくわからないのよ。ああ、一人くらいいたら・・・それもまた

言ってもせんないわね」

大叔母様」

ノリノミヤは泣きそうになった。皇室に嫁いで幾星霜。

常に「妃殿下」としての気品を守り続けてきた女性。大切な大切な女性皇族。

このようなお手本がいなくなったら、皇室はどうなってしまうのか。

そろそろ遅いので帰りますというと、キク君は

次にいらっしゃる時までにはちゃんとお祝いを整えましょう」と言ってくれた。

もう少し元気になったら、宮邸中の宝箱をひっくり返して色々さしあげましょう」と。

そこでまたノリノミヤは泣きそうになった。

いつまでもいつまでもお元気いて欲しい・・・・・一緒に宝箱をひっくり返して

あれこれ取り出してはいわくを聞いて、「宮にはこれが似合うわ」などと

言い合いながら。

 

宮邸をあとにすると、ノリノミヤを乗せた車はそのままアキシノノミヤ邸に向かった。

今は皇太子妃が心の病だから、それを考慮して発表を控えましょう)

母はそう言った。

皇太子妃が「適応障害」と発表されたのは8月に入ってからだった。

誰もが聞いた事のない病名に驚いたが、皇太子の「人格否定」発言以来

それが変だなどとは言えない雰囲気になっている。

まるで、何もかも皇室が悪いといわんばかりのマスコミ報道に

天皇も皇后も正直、怯えていた。

私達は働いた経験がないから皇太子妃の心がわからないのかもしれない

と皇后は言っていたが、それはどうなのだろう。

日々公務に励む天皇・皇后、各皇族たちは働いていないとでも言うのだろうか。

そもそもこうなったのは、皇室が云々というより、トシノミヤの「障碍」のせいだ。

それは気の毒だと思う。

だけど、自分達はそういうもの、ありのまま受け入れてきたのだし、今さら驚いたり

嘆いたりはしない。

ただ、どうすればトシノミヤが「皇女」として生きて行けるか、その為に必要な教育は

何かと考えてやるだけなのだ。

障害者に優しく、「ねむの木」の活動に特に理解を示している皇后が、どうも今回は

歯切れが悪い。

それこそそちらのツtを頼って、自閉症などのエキスパートを探せばいいのに・・・・・

皇太子夫妻が頑なに娘の姿を認めないばかりか、よもや影武者をたてようとは。

そして、それは穏やかな結婚生活が待っている筈のノリノムヤにも暗い影を落とした。

 

夏の日は長い・・・といっても、夕食の時間はとっくにすぎている。

あたりはすっかり暗くなっている。

宮邸の侍女に迎えられ、ノリノミヤは邸内に入った。

ねえね、いらっしゃい

すぐにマコとカコが飛んでくる。

カコは相変わらず姉の後ろに隠れようとするが、マコは随分大人びた印象。

それもそうだろう。

先日、初めて両親と一緒に「公務」に出たのだ。

タイのシリキット王妃の誕生日を祝う会に出席したマコは要人たちに

きちんとお辞儀をして、内親王ぶりを見せた。

それは叔母であるノリノミヤにとっても頼もしい事だった。

少しずつ皇室のあるべき姿は何だろうと思ってしまう日常にあって

マコやカコの上品な姿は、ほっとさせるのであった。

「ごきげんよう

ノリノミヤは可愛い姪達の頭をなでた。

お夕食は済んだ?」

ええ。ねえね、今日は一緒に遊んで下さい」

カコがすぐに腕にじゃれついてくる。マコが制する。

ダメ。ねえねは大事なご用事があるの

しった風な口をきくマコがおかしい。

大事なご用事ってなあに?お父様とお母様はまだお帰りにならないし

一緒に遊んだって誰も・・・・」

そうじゃなくて

と、マコが言いかけた時、ベルが鳴り、侍女が飛び出していく。

お父様達?」

すぐに出迎えようとしたマコとカコの目の前に現れたのはヨシキだった。

クロダさんね

カコは嬉しそうに声を上げた。

ヨシキはたまに宮邸に来ると、必ずトランプやゲームをして遊んでくれるのだ。

その時はノリノミヤも一緒だったりする。

ごきげんよう。宮様方

ヨシキは穏やかに微笑んで挨拶したが、視線はすぐにノリノミヤに行く。

そんなヨシキの姿を見た宮は思わず「私・・・」と言ったまま言葉につまり

しくしく泣き出してしまった。

ねえね

宮様」

みな驚いて絶句してしまった。

 

その日の夜遅く。

公務から帰宅したアキシノノミヤ夫妻はノリノミヤとヨシキと共に

夕食後のお茶を楽しんでいた。

宮は少しならいいだろうと、タイのメコンを出してくる。

ああ・・・殿下お得意のメコンですね」とヨシキは笑い、さっそく一緒に飲む。

キコはミルクを温めてノリノミヤの前に置いた。

ノリノミヤは少しすすって、それから子供のようにほっとした顔つきになる。

お前は昔から、泣いたあとはミルクだね

と宮が言うと、ノリノミヤは少し怒ったように

いつの話をなさっているのかしら。お兄様は」

「まあ、こんな妹だがよろしく頼むよ

宮の言葉にヨシキは大きく頷いた。

喧嘩の仲直りはミルクにします」

ヨシキは赤くなったノリノミヤの目を心配そうに見つめた。

それにしても・・・今さら、婚約発表を延期だなんて。どういうつもりなんだ」

アキシノノミヤは怒り、そしてヨシキに頭を下げた。

こんな事になって申し訳ない」

いえ・・・

ヨシキは恐縮して言った。

僕は大丈夫です。皇太子妃殿下はご病気なのだし、もう少しくらい。ただ宮様が

私だって平気よ

さっき泣いたばかりのノリノミヤだったが、間髪を入れずに言い返す。

おいおい、二人して大丈夫と言ったらまるで結婚したくないみたいじゃないか

殿下

とキコがたしなめた。

お二人とも心の中は・・・・・」

クロダさんに申し訳なくて。お母様はもうお引越しの準備をされているのでしょう?

ご親族へのお話もあるでしょうし

いえ、宮様。皇室の事情はよくわかっていますからそんなに落ち込まないで。

もう少しデートとか・・・・そういうのをやってみるのもいいかもしれません。

殿下にはご迷惑をおかけするけど

ヨシキが珍しくキザな事を言ったので、場が笑いに誘われる。

「いやいや、我が邸でいいならいつだって提供するよ。ただ子供達がいて

落ち着かないのでは?」

そんな事ありません。内親王殿下方には遊んで頂いてます

そしてまた場が笑いに包まれた。

それにしても東宮家はこの先、どうするつもりなのか。妹の結婚話まで

水をさす結果になった。無論、一番悪いのは止めた皇后陛下さ」

殿下

またもキコが口を挟む。

アキシノノミヤのずけずけした物言いは小気味がいいのだが、不敬な気がする。

いくら親と言っても相手は皇后。

わかってるよ。キコ。皇后陛下は・・・なんだな。きっと娘を手放したくないんだよ。

だから今さらになってぐずぐずと延ばす口実を欲しがっているのさ。

そう思う。そうでも思わないとやってられない」

僕、その気持ちはわかりますから」

ヨシキは重ねて言った。

宮様は両陛下にとって特別です。ですからもし手放したくないと思われて

そうしたのだったら僕は・・・」

手放したくないって。娘は35になろうとしているのに

少し声をあらげた宮はぐいっと酒を飲んだ。自分から言い出した事なのに

自分で否定してしまい、矛盾に気づいて慌てて付け加える。

普通の親なら一日でも早く嫁がせたいと考えるのではないのか?東宮だって・・・・

いや、兄上は知らないか。そう。お前たちの事は今は全く関心がないからな」

「お兄様は妃殿下の事で手一杯なのよ」

ノリノミヤが庇う。

きっと・・・そうなのよ

小さい頃、本当に可愛がってくれた兄の変貌ぶりに悲しくなる。

「でも東宮のお兄様達は、一度も叔母様のお見舞いにもいらっしゃらない。あんなに

トシノミヤに会いたがっていらっしゃるのに。妃殿下がトシノミヤをご出産された時

だって庇われた。でも、妃殿下はそれを悪口を受け取ってしまった。一体何をどう

申し上げたら妃殿下のお心が落ち着かれるのかしら」

あれは性格というより気質だ。元々もって生まれたものさ。一生直らない。

だが、皇太子妃の言葉が民意のようだ」

宮の言葉に今度はみんなが黙り込んだ。

「むしろ、こうなってしまっては一日も早くお前を嫁がせたい。というか民間に降ろして

やりたいよ。皇室は変わる」

ノリノミヤはびくっとした。

皇室は変わる・・・・キク君も同じ事をおっしゃっていた。

まさかそんな。本当に。

私、少し怖い。東宮妃のご病気が何もかも変えてしまうのではないかと

ノリノミヤは震える声でそう言った。

大丈夫、お前は自分の事だけを考えなさい」

頼もしい兄はそう言って笑った。

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韓国史劇風小説「天皇の母」170(鏡のフィクション)

2014-11-12 15:00:00 | 小説「天皇の母」161-

適応障害?適応障害ってなんだ?」

それが宮内庁の一般的疑問だった。

今まで聞いた事のない病名。いや、病名といえるのかどうか。

すぐにオーノに聞こうとしても、「仕事が」といって来ない。

宮内庁から呼び出されても平気で断るような男だ。

自分は宮内庁お抱えの医師ではないし、そうなるつもりもない」という意志表示。

仕方ないので、カナザワ医務主管に尋ねる。

適応障害とは一体何か」

カナザワは答えに窮した。

精神科が専門ではない自分にとって、初めて聞く病名。

やっとひねり出した答えが

環境に適応できないという症状で、その環境から抜ければ半年くらいで

治るものかと。アメリカでは適応障害の基準があるようですね。

しかし、皇太子妃の場合、そのどれに値するのかまでは。

そもそもそれが病気と判定できるのかという事自体がわかりません

ハヤシダもユアサも頭を抱え込む。

他の精神科医に見せようとしても東宮家はがんとして聞かず

相変わらず妃は部屋に閉じこもっているという。

皇太子はそれを注意するでもなく・・・・何事もないように振る舞っていた。

皇太子のこういう・・・どんな事が起きても平常心というのは、ある意味素晴らしい事では

あったが、一方であまりにも危機感がなさすぎるのではないかとの批判も出る。

特に内親王の障碍。

こればかりはどうしようもない。

せめて3歳児健診ではっきりさせ、きちんとした療育を受けさせなくては大変な事になるだろう。

しかし、妃はともかく、肝心の皇太子が

アイコは普通です。僕も小さい頃はあんなだったとおたたさまが」と言うばかり。

ヒロノミヤ時代の事は知らないユアサとハヤシダも、今になって

あの「ナルちゃん憲法」はそれなりの意味があったのだと感じた。

世継ぎであり、当時の皇后にとって切り札の息子。

当時は発達障害などという言葉もなく、知能も普通であれば、皇后のいら立ちは

相当だったろう。

皇太后は自らの娘達がそうだったので、別に驚くでもなく「ままあること」として

考え、とにかく「しつけ」だけはきちんとしておけばよいとの判断。

が、皇后にとっては、大事な将来の天皇が、先帝の内親王と一緒にされる事に

腹立ちを覚えたし、自分が何とかすると心に決めていたのだろう。

ゆえに、一日のスケジュールから声のかけ方まで研究しつくした

「ナルちゃん憲法」が出来上がった。 

あれをもう一度活用する事は出来ないのだろうか。

今、内親王必要なのは「ナルちゃん憲法」とそして専門家の意見だ。

 

皇太子妃が公の席から姿を消してもう半年近くになる。

当初は「春」までの予定だったのに、もう初夏。ずるずると「静養」は続く。

その間。皇太子妃がどんな生活をしているのか全く明らかにされない。

女性週刊誌などでは「立ち上がる事も困難な程疲れて、一日中横になっている」

だの「東宮職の職員と口をきかず、連絡な内親王が行っている」等々

本当か嘘かわからない記事が飛び出す。

ただ一つ言える事は、それが事実であるかどうかより、週刊誌が印象を残したいもの。

それが「皇太子妃は皇室という環境のせいで病気になった」「悪いのは皇室」

これだけだった。

現に、巷には同情が集まり「マサコさまはお可哀想」のオンパレードになってしまった。

ユアサもハヤシダも事態がこんなにも急激に動くとは予想がつかなかった。

どんな力がこんなに毎日、週刊誌に皇太子妃に同情するような記事を書かせるのか。

オワダでしょうな

ハヤシダはぽつりと言った。

それに外務省。何の為?利害関係の一致ですよ。長い時間をかけて皇室の解体を

もくろんできた闇の勢力が姿を現し始めたという事でしょう。

我々はどうしようもない・・・・・10年前。ああ・・・10年前にこの結婚を阻止出来ていたら」

阻止出来ていたら。東宮妃が旧皇族の女性であったなら。こんな事には」

妃殿下がそんなに皇室になじめないというなら出て行けばいいだけです。

皇太子は離婚が出来る」

「内親王はどうする?」

15歳になったら自ら臣籍を離れればいい。それまでは皇族として」

そんな事、あのオワダ一派が許すものか。なんといったって皇太子が許さない。ハヤシダさん

あんた、人格否定発言の釈明をしろと皇太子妃に進言したら

「だったら皇太子妃をやめてやる」と暴言吐かれたって本当なのか?」

はい。電話でしたけど受話器をガチャーーンと。それで皇太子殿下がお怒りになり」

ああああもうやめよう。無理だ。これはどうしたって。皇太子殿下自らが解決しようと

しない限りこの問題は。そんな事より身の安全を図る方が大事かもしれん

外務省に負けるんですか。もっとも日本を守らねばならない省なのに、今やもっとも

反日の組織です。それもこれもあのハンディキャップ論などが」

そのハンディキャップ論を提唱した男の娘が皇太子妃なんだよ。将来の皇后だ

反日思想を持つ人間の娘が将来の皇后。

この言葉に二人はぞっとした。

妃殿下は皇室へのアンチテーゼを投げかけているのだ。だから世の中を見ろ。

猫も杓子も「マサコ様お可哀想」だよ。わしが聞いた巷の噂を話そうか?

何でも陛下が妃殿下に生理のスケジュールを聞いたとか。それだけじゃない。

潔斎の時、女官に体の隅々を触られる・・・何と気持ち悪い事かーーだと」

「それなら私も聞きました。陛下が「月のものはあるか」と妃にお聞きになったと。

唖然としてもう何も申せませんな。世継ぎ誕生の為に海外訪問を抑制したとか

抑制じゃない。本当に依頼が来なかったんだよ。誰だってあの二人に会ったら

もう二度と会いたくないだろうな」

長官」

東宮大夫はそっと唇に指をあてた。

英語が得意なのに喋らせてくれなかった。外交したかったのにやらせて貰えなかった。

日本の皇室は男女不平等の巣窟で、キャリアウーマンを潰したと。

情けない。こんな事を堂々と雑誌に書かれる世の中とか。

歴代の妃殿下に対して失礼な話じゃないか。かの皇太后さまは養蚕に

生きがいを見出された。その次の皇太后さまは灯台守を慰問するのが生きがいだった。

先帝の皇后様はひたすらお世継ぎを産む為に頑張られ、絵もよくされた。

誰も政治に関わりたいなどという妃はいなかった」

やはり育ちなんでしょうな。それより今後、どうすればいいのか

命の危険がある

ユアサははっきりと言った。

これ以上、東宮に関わると危ないかもしれない。そもそも両陛下としてどうされたいか

まだ見えぬ。今は静かにしているしかあるまいよ

「東宮家に第二子、アキシノノミヤ家に第三子を」と言っただけで歪曲して切り取られ

散々バッシングされた東宮大夫は大きくうなずくしかなかった。

 

内親王の「療育」に対する東宮家の答えは、新しい養育係のフクを採用することだった。

どこから紹介されたのかはわからないが、デンフタを出てセイシンを出た・・・

「出仕」の身分だった。

このフクがこの先、内親王の養育を一手に握り、さらに東宮妃の信頼を勝ち得る。

6月18日。かねてから出ていた「内親王自閉症説」に東宮大夫は

「事実無根で不本意」と発表。

6月29日。天皇の腫瘍マーカーの数値が上がっている事が発表された。

元々、その数値は上がったり下がったりするもので、そのたびに治療を続けていたのだが

今回はわざわざ大きく取り上げ、御所から出てくる所まで撮影された。

これで何日稼げるか・・・と長官は思った。

7月に入ると珍しく東宮夫妻が職員らとテニスに興じたと報じられた。

 

「人格否定発言」の余波はとどまる所を知らず、どんどん広がって

皇室のイメージは地に落ちるばかりだった。

宮内庁長官も東宮大夫も焦りに焦ったが、天皇も皇后も具体的に動こうとしない。

それでは困ると、半ば強制的に東宮御所を訪問して貰った。

宮内庁としては、ここらで皇太子妃が将来の皇后としてやっていく気があるのか

ないのかはっきりさせて欲しかったし、これ以上のイメージダウンは避けたかった。

しかし。

東宮御所を訪問した天皇と皇后はわずかな時間で皇居に戻ってきた。

その中で何を話したのかわからない。

ただ、皇居に戻ってきた時の天皇は顔色が悪く、ひどく疲れているようだった。

皇后は少し苛立っているような感じで、あまり口をきかなかった。

 

7月下旬。

皇太子は毎年接見している沖縄の豆記者達の前に娘を同行した。

誰もがそれが内親王だと疑わなかった。

皇太子が連れて歩いているのである。

まさかそれが替え玉であるとは。しかし、それが「東宮」の答えだった。

東宮家はあくまで内親王の真実を隠す道を選んだ。

という事は東宮御所での「家族の話し合い」が何だったかおのずと想像できる。

天皇と皇后は東宮夫妻に負けたのだ。

理論的に公平に物事を判断し、適切に言葉にしてきた天皇と皇后にとって

初めて「理」が全く通じない相手だった。

体の調子はどうか」と聞けば「よく見えるのですか」と答えられ

一日も早く回復するように」と慰めれば「誰のせいでこうなったと」と責められる。

トシノミヤの事は、やはりきちんと発表して専門家に任せるべきでは」と提案すると

陛下が私達だったらそうしますか」と逆に質問される。

わずかに口ごもった皇后に、勝ち誇った妃は「他人事だから言えるんですね」と

あざ笑う。

そして最後は「生まれたのが女の子だからそんな風に言うんでしょう?

日本は世界の中で最もひどい男尊女卑の国なんですよ。

そういう事を当たり前に受け入れていいんですか」と反論されてしまう。

「男尊女卑」にまつわる色々な思いは皇后の胸にぐさりと響き、何も言えない。

皇室という環境における伝統やしきたりと、21世紀の思想は相容れないのだ。

そして「男女平等」も「障害者も健常者も普通に平等に」と願ってきたのは他ならない

天皇と皇后だった。

無論、東宮妃の考え方が大いに偏っている事は二人にもわかった。

しかし、わかっても、修正の仕様がないのだ。

私は生まれた時から学校でそう習ってきたのだ」と言われたら、反論の余地はない。

自分達だって幼いころに受けた教育と戦後の矛盾に悩んだではないか。

それは皇太子もアキシノノミヤもノリノミヤも同じだ。

 

結論は出なかった。

そうこうしている間に影武者を仕立てられ、まさかそこまでやるとは・・・と

絶句した。

絶句したけれど、今さら「あれは偽物でした」と言うわけにはいかなかった。

皇室の名誉が汚される・・・そんな事態にしてはいけない。

天皇は貝のように黙り込み、宮内庁もまた一斉に目と口を閉じたのだった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」169(企のフィクション)

2014-10-23 07:40:00 | 小説「天皇の母」161-

東宮御所は恐ろしく暗い場所だった。

今まで皇居とか東宮御所とか、とにかくそういう場所には縁がなかった。

だから暗いも明るいもない筈なのに

門をくぐったその瞬間から身震いがする。

やっぱり緊張する?そりゃあそうよね。日本で一番偉い場所だもの」

広々としたセダンの後ろ座席にゆったりと座った女性が言った。

先生、今、震えたでしょ。わかるわ。その気持ち

オーノは(それは違う)と思ったが、言葉では

そりゃあ、我々庶民には遠い存在ですし」と言った。

気をよくしたのか、彼女は「そうなの。でも私達も準皇族だから」と自慢げに言う。

「準皇族」などという言葉があるのか、そこらへんの知識は全くない。

ただ、目の前の女性がふふっと笑って、その笑顔を見た時

(病んでるよな)と思ったくらいだった。

 

今時の日本でこんなにこんもりとした緑に囲まれている屋敷があるだろうか。

それなのに緑が全て真っ黒に見えるのだ。

初夏の光を浴びて美しい筈なのに。

税金で暮らしているんだよなあ。

皇室に対する尊敬の念など持った事のないオーノは

軽い嫉妬と妬みの感情に襲われたが、それを必死に顔に出さないよう努力した。

まあ、自分がどんな表情をしようとも隣の女性は気づかないだろう。

そんな女だ。

 

やがて車は広い玄関に止まり、女官や侍従の出迎えを受けて、二人は車から降りた。

いらっしゃいませ。イケダ様

女官長が無表情で会釈する。必要最低限の会話しかしない・・・と心に決めているようだった。

お姉さまに伝えて。先生をお連れしたって

畏まりました

女官長が去り、二人はプライベートスペースの一室に入った。

公人が来てもいつでも対処できるように、東宮御所はいつも完璧に掃除されている。

チリ一つない・・・筈なのに、どういうわけかピカピカ感がなく、どんよりしている。

空気がくぐもっているというか、息苦しいというか。

すれ違う者がいない長い廊下。声を出してはいけないような雰囲気。

これが東宮御所というものなのだろうか。

やがて、女官に付き添われて・・・・・入って来た女性。

それが皇太子妃だった。

そろそろ暑い時期に入ろうとしているのに、とっくりセーターのようなものを着て

ストライプのパンツスーツを着ている。

不機嫌さを隠そうともせず、部屋に入っても視線は妹に集中した。

一体、何の用事なの

まあ、お姉さまったら。可愛い妹がご機嫌伺いに来たのよ。もう少し優しく出来ないの

レイコはむくれた顔で言ったが、マサコは取り合わなかった。

お父様が心配しているのよ。お姉さまがずっと東宮御所にひきこもりになって

このままでは本当に体を壊すって」

それはそれでいいんじゃないの

よくないわよ。お姉さまは病気なの。気が付かないうちに病気になってるのよ

どこが」

よくわからないけど心が風邪をひいているんじゃないかって。だって変でしょ。

ご自分の部屋から出て来ないし、電話にも出ない。回りにはドアの隙間から

メモを渡すような事してるし。可哀想にアイコだってほったらかしで。

いつもベッドに寝てるんですって?そんなに体調が悪いの?

熱があるわけでもないし、検査をしても異常がないって。だからきっと心の病なんだろうって

思うのよ。それでね、今日、オーノ先生をお連れしたの。

先生はケイオウ出身で私どは同窓生になるわ。アメリカで主人と知り合ったの。

権威ある精神科の先生よ」

 マサコは初めてオーノを見た。大きな瞳だった。どこか狂気をはらんでいるような気がした。

お・・オーノです」と名刺を渡す。

名刺をじっと見つめるマサコはひどく嬉しそうだった。まじまじと名刺を見つめる。

どうしたの?先生がご挨拶しているのよ

だって、名刺を貰うなんてなかった事だもの。この10年ずっと

どうやらマサコは「名刺」を受け取って「社会人」として認知されたような気になってるらしい。

マサコの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

お姉さま

レイコが驚いて叫びそうになるのをオーノは手で制した。

おっしゃりたい事をおっしゃってください。イケダさん、外に出て

レイコは言葉もなく、慌てたように外に出て行った。

暫く、誰も入れないで下さい

後姿にオーノはそう言い、マサコの手をとった。

どうぞ、今のお気持ちを全て吐き出して下さい

子供のように泣きじゃくっているマサコは頷いた。

「みんな意地悪。みんな嫌い。少しも私の事をわかってくれない。

誰も私を大事にしない。嫌いな事ばかりさせる。そして出来ない出来ないと

ぎゃあぎゃあ怒る。最悪。最低。

好きで結婚したんじゃない。好きで子供を産んだんじゃない。

私は外務省にいたかった・・・」

それから先はもう、延々と2時間以上、同じ事をしゃべり続けていた。

時には泣き、時には怒り、叫んだり。

これが今までテレビで見てきた皇太子妃の本性だったのかと。

オーノは頭を抱え込んだ。

出来る事から始めましょう。毎日、日記のように、今日出来た事を書くのです。

まず自分を受け入れて

彼が行っている認知行動療法は「うつ病」に効果的であると信じている。

しかし。

 

一通りの話を終え、またレイコが呼ばれ、今度は3人でお茶を楽しんだ。

さっきまでのマサコは別人だったのかもしれないと思う程、

快活になっている。

先生の話を聞かせて」

いや・・・」(何を話せと・・・)

どうして精神科を選んだの?」

それは手術が嫌いだから

記憶の中に嫌な影が蘇る。

まあ、それは冗談ですが。私の持論は心が病気になると

体の病気も治らないというもので。要は心というのは目に見えないものですが

非常に重要な部分です。

日本は長い間、精神医学に関しては世界から後れを取ってきました。

やっぱり日本人の習性なんでしょうね。

怠けられないと思えば必死に頑張る。頑張りすぎて疲弊してしまい、それが

目に見えない体調の悪化につながるのです。

自分を認められず、許す事が出来ず追い込んでいくんですね

そうそう。そうなのよ」

マサコは大いに頷いた。

でも、世の中、精神科医と歯科医と美容外科医は医者じゃないという事ですし

それでも美容整形などは儲かるからいいけど、精神科は・・・・」

そんなのおかしいわ。心のお医者様こそ沢山収入があるべきよ。まして

先生はケイオウを出ていらっしゃるし留学までしていらっしゃる学者様だもの

「いやいやなかなか・・・・」

脳裏に浮かぶ言葉。

あいつ、医者になるなんてすごいなあ。さすがだよ)

医者ったって精神科医だぜ。鉄格子ついた部屋で気が狂った人間を相手にしているんだろ。

そんなの医者じゃないよ)

まあ、悩み聞いて薬処方すればいいんだから楽だよな

うまくやってるよ。あいつは全く)

いつかの同窓会でそんな話を耳にした時の嫌な気持ちが蘇る。

それからなかなか認めて貰えない「認知行動療法」の事も。

医者になったといえば聞こえがいいが、結果的にみな、同じような事を

思っているのだ。

ところで、先生、姉の状態はどうですの」

唐突にレイコが話題を変えた。

は・・はい

オーノは言葉に詰まる。

(どう考えても反社会性人格障害などとは言えない。よく見積もっても

自己愛性人格障害としか・・・ミュンヒハウンゼン症候群を起こしかねない)

どうなさったの

いや。あの、こんな事を申し上げてはなんですがお身内に精神疾患の患者が

出たというような事は?」

まあ先生ったらなんてことを

レイコが怒った声を出したので、オーノは黙ったが、そこをマサコが庇った。

先生は医師として聞いているの。どうかしら。私達の家系でそんな人いた?」

いるわけないじゃない。オワダもエガシラも優秀なんだもの

ははは・・優秀で生真面目すぎる傾向があるようですね

オーノのお世辞に姉妹は喜び、くすくすと笑った。

ただ、今姉妹を見た感じでも、爆発しやすい性格なのは明らかであるし

話に脈路がなかったり、話題を継続していけない事などから

コミュニケーション障害も違われる。

どれもこれも、環境によってそうなったというようり、元々持っている

気質のように感じる。

そういえば・・・・今まで関心がなかったから何も知らなかったけれど

内親王は「自閉症ではないか」と疑いがあったのでは?

そうなるとますます遺伝的傾向が。

で、どんな病名がつきますの?」

レイコが尋ねた。

要はそこか・・・・と勘のいい医師は思う。

ここで、変に「うつ病」だの「〇〇障害」などと診断すればまずいという事かもしれない。

言葉を慎重に選ばなくては。

そうですね・・・病気・・・といえるかどうか・・・」

病気ですよ。だってこんなにやつれて毎日部屋に閉じこもりきりなんですよ。

私の前でだってさっきのように泣いたりして」

ああ・・そうですね。病気ですね

うつ病なんでしょうか」

うつ病・・・・といえなくも

でも、そんな名前を公表したら偏見を持たれるわ

マサコが今にも泣きそうな顔で訴える。

気持ちが沈みこむと何もできなくなるんです。私、ネットで調べました。

これはうつじゃないかって。私みたいなタイプに多いんですって。

それはそうでしょう?

女であっても私はそこそこ学歴もあって自己実現したいと思って生きて来たんです。

まさか皇室に入ってお飾りの役目をさせられるなんて思いもよらず。

毎日針のむしろです。

私の存在なんてどうなってもいいんだわ。誰も私を認めてくれないのよ・・・」

妃殿下、落ち着いて下さい。そんな風に思い詰めないで心を自由にして」

でも、先生!私がうつ病だって世間に知られたら、私、どんな目で見られるか」

・・・・・」

何となくやらせの芝居を見ているような気がする。

いや、自分もまた登場人物の一人だった。

そうでしょう?」

ではどんな病名にいたしましょう

「・・・皇室嫌い病とか・・自己実現なんたら病とか・・・ああ、もうわからないわ。

結果的にこの環境が大嫌いなんです」

では適応障害というのはいかがでしょう

てきおう・・障害?」

マサコは聞いた事ない名前に少し驚いた。

環境に適応できない為に急性として起こる障害です。

症状は人によって様々ですが、環境を変える事で完治する・・・という。

治療の一環として休養、それから自分のライフワークを見つける努力をする

という」

それで決まり!」

マサコは叫んだ。

適応障害にしましょう。私に公務が出来る?」

嫌な事をいやいややっていると症状が悪化するので、今は好きな事を好きなだけ

おやりになって下さい。軽い睡眠薬で不眠症は回復するでしょう

ああ・・・心からほっとしたわ

マサコは安堵のため息を漏らした。レイコも笑った。

これで偉そうなカナザワをぎゃふんと言わせてやれるわね。

あの医者が何と言っても無駄よ。こちらには皇太子妃の専属医がついているんですもの。

お姉さまはオーノ先生しか信用しないわよね」

ちょっと待って下さい。専属って・・・」

そんな話は聞いていなかった。

自分としては患者の言いなりになって診断をつけた事にかなりの罪悪感を抱いていたし

出来ればこれきりにしてほしかった。

がんのように目に見える疾患なら白黒をつけやすいのだが、精神医学の場合

どこまでもグレーゾーンである。

まして「悩み聞いて薬処方して金貰って」と陰口をたたかれる精神科の世界で

患者の言いなりになったとしられれば大問題。

学界の信用にかかわる。

名前を借りるだけよ。普段はつききりじゃなくていいわ。ただ、私の具合が悪い時は

付き添って欲しいの。私は先生を信じるし、全力で先生をバックアップする。

絶対に損はさせないわ」

皇太子妃の専属医・・・・・麻薬のように魅力的な肩書だ。

これさえあれば医学界において自分の名声が高まる。

運が自分に向いて来た事を彼ははっきり悟った。

承知しました。妃殿下のおおせのままに

後に日本一有名な精神疾患名となる「適応障害」

思惑絡みの医師と患者が決めた病名。

最初は誰もこの病名を知らなかったし、信用もしなかった。

しかし、「皇太子妃を苦しめる心の病」という肩書が一人歩きしはじめ

やがて若い女性中心に適応障害の診断を受ける者が続出していく。

本当は誰もその病気の実態を知らなかった。

オーノ自身、この診断名が定着しようとは思いもせず。

この病名がやがて「自分に都合のいい精神病」の代名詞になるとは・・・・・

精神医学界に大きな傷を与えた事をオーノは気づかなかった。

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」168(哀のフィクション)

2014-10-18 07:00:00 | 小説「天皇の母」161-

平凡な家の平凡な娘に生まれた。

ただ、人よりちょっと勉強が出来たので、そこそこの大学の英文科に進んだ。

得意科目が英語だったから。

バブルの絶頂期。いつはじけ飛ぶかわからない時代。

ディスコは下火になりつつあったけど、「3高」は健在。

ロレックスの時計をしてソアラでアッシー君が送り迎え。

女が強気の時代だった。

おりしも男女機会均等法時代。

仕事も家庭もと欲張っる人が多かったけど、私はそんな事思ってもみず。

「寿退社」が夢だった。

まさか、それが実現するなんて。

学生時代にたまたま行った合コンで、お互いノリが悪いと回りに言われて

カラオケハウスから出た時、一緒にドアノブに手をかけた彼。

一目ぼれだった。それは多分彼もそうだろうと思う。

東大で外交官志望。

無口だけど、とっても優しい人だったので、

就職2年目で目出度く「寿退社」

彼は外務省に無事入省できて

海外勤務には妻の同伴が必須、じゃあ、すぐ結婚しようって。

誰一人、この結婚に反対する人はいなかった。

平凡なサラリーマン家庭の娘が、そこそこに古い、由緒ある家に嫁いだ。

立派な「玉の輿」

だから結納金は100万と「普通」でも、姑がその姑から受け継いだ指輪をくれたりして。

何となく「選ばれた」自分にうきうきした。

その年は、皇太子妃が内定し6月に結婚するという。

私達も6月がいいんじゃない」と言ったら、姑が首を振った。

6月は日本では梅雨時よ。意味ないわ。秋になさい」

でも皇太子妃殿下と同じ時に結婚出来るなら」

そういう流行りに乗る人が多いから6月は予約で一杯。悪い事を言わないから

秋になさい」

義母の意見は確かだった。

だってその日、6月9日は豪雨だったんだもの。

傘をさして、屋根がある所でもドレスが汚れてしまうわ。お気の毒に」

義母はテレビを見ながら言った。

あのマサコさんって3代前が不詳なんですってね。皇室ともあろうものが

なんだってそんな所から嫁を貰ったのかしら。それに比べてうちは幸せよね。

大した所じゃなくてもちゃんと日本人だしね」

お母さん

彼氏が珍しく声を荒げた。

僕の前でそんな事言わないで。僕は外務省勤務でマサコさんは同僚だったんだから

そうは言っても有名な話じゃないの。しかもチッソの孫だし。嫁の出自は大事だわ。

跡取りを産んで貰うんだからね」

彼はあたまをかいて首を振った。

その時は、単純に「人のよしあしは出自ではない」と思っていた。

彼女はハーバード大を卒業して外務省に入省し、父親も外交官と言うエリート一家。

人も羨む家系だもの。

「本当はどうなの?」とちょっと聞いたら彼は

人のよしあしは出自じゃない。君の家柄がどうであれ、僕は君を選んださ。

ただ、出自は関係ないけど思想は問題だよね。出自に裏付けられた思想がさ

何を言ってるのかさっぱりわからなかった。

 

秋になって結婚式を挙げた。

神社で式をあげてお色直しは3回。

婚礼セットは桐の箪笥3点と羽毛布団2組。

その程度しか用意できなかったけど、両親の思いに感謝した。

きっと幸せにするよ」と彼は言ってくれたから。

新居は都内の一戸建て。とはいっても彼の実家の敷地内だったけど。

「スープの冷めない距離」にいる姑。

二世帯住宅だと思えば苦でもない。

そのうち、彼は海外に赴任する事が決まり、私は当然同伴。

外交官の妻というのは大変だった。

奥様同士にも夫の地位がそのまま降りてきて、まるで24時間みはられているよう。

しかもお付き合いを無視はできない。

ホームパーティを開けば「どれだけ自分の手作りでいいものが出来るか」の自慢大会。

本当は料理人に作らせたものでも、しらっとして

私が作りましたの。料理は趣味です。夫が私の手料理を喜ぶものですから」と笑う。

そんなみえすいた嘘をつかなければならないのが、奥様同士の付き合いだった。

大学時代まで得意だった筈の英語は、実践では何も役に立たなかった。

慌てて英会話を習う始末。

 

そんなこんなで3年の月日が過ぎた。

子供が出来なかった・・・・なぜなのかわからない。

優しかった義母が少しとげとげしくなってくる。

三年子なきは去れ・・って知ってる?」などと言う。

正直、傷ついた。

病院に行ってみようかと思った。でも恥ずかしい。

もし不妊の原因が自分にあったらどうしよう。

誰にも相談できなかった。外国に行く機会も多かったし、病院にじっくりかかる

時間すらなかった・・・というのは言い訳にすぎないのだけど。

女性週刊誌ではたびたび皇太子妃の不妊が伝えられていた。

高貴な人ですら、悩むのね」と同情した。

公人の宿命とはいえ可哀想だ。子供を産むとか産まないとかどっちだっていい。

あの人は「自己」を確立しているんだもの。

そこらそんじょの専業主婦とは違うんだもの。

いらいらした。

ある日、とうとう姑にせかされて病院を受診。

原因がはっきりしない不妊だった。

すぐに治療を開始しろと言われて、毎月病院に通うようになった。

費用はばかにならない。体への負担も大きい。

どうして女ばかりこんな目に会うんだろう。

そりゃあ、彼だって大変なのは知ってる。

気分が乗らない日だって・・・そこを踏ん張る彼の姿を見ると

有難くて涙が出ちゃう。

だから、不平不満を言わず、頑張らないと。私が頑張らないと。

でも、いくら外交官とはいっても収入にはキリがある。

6年目・・・ついに貯金が底をつき、諦めようと思ったその時。

思いもかけない「妊娠の兆候」

夢ではないかと思った。

彼も大喜び。「最高だよ。僕らが親になるなんて」といって抱きしめてくれた。

そんなに嬉しかったのか・・・・この人はずっと我慢していたんだなと思ったら

本当に申し訳なかったし、頑張って産もうと思った。

姑も泣きださんばかりに喜んでいる。

よくやったわ。まあ、一時は本当に心配したけどね

と。

皆が望んでいる。お腹の子供を。

そんんあ大切な役割を自分が負ってるのだと思ったら誇らしかった。

体を冷やさないように、体に悪いものは何一つとらないようにしよう。

適度に運動をしつつ、お腹の子にクラシック音楽をきかせる。

幸せだった。穏やかに出産を待ち望む生活。

これこそが「幸せ」なんだろうと思った。

ところが・・・・・・その子供はあっという間にお腹の中から消えてしまった。

流産だった。原因はわからない。

天国から地獄へ突き落された瞬間、自分は意識を失って倒れたらしい。

目覚めた時にはすでに全てを失っていた。

傍らには涙を浮かべた彼と、怒り顔の姑。

だから気をつけないさいって言ったじゃないの。今時の人は妊娠しているのに

薄着をしたり、ハイヒールをはいたり。そんな事をするから

お母さん。彼女はそんな事してないよ

だったらどうして流産するの?ねえ。気をつけていたならする筈ないでしょ」

きっと・・・これがこの子の運命だったんだ」

運命ですって?我が家に跡取りが生まれないのが運命だっていうの?ああ・・・

全く、家柄も血筋も関係なく嫁に貰ってやったのに。子供一人産めないとはね

胸に突き刺さった。

いつも笑顔で優しかった姑が内心こんな事を考えていたなんて。

ひどい。本当にひどい。

人間ってこういうものなの?

泣いた。彼と一緒に。彼は一晩中抱きしめて一緒に泣いてくれた。

目は腫れあがり、涙も枯れたけど、それでも悲しみはおさまらなかった。

しかし、男というのは「仕事」がある。

目が真っ赤になっても仕事には行かなくてはならない。

環境が変われば・・・との配慮なのか、また海外に赴任。

外国の風景も奥様方との付き合いももうごめんだった。

この傷ついた心をどうやって癒したらいいのか。

多くを望んだわけじゃない。

普通に結婚して普通に子供がいて。そんな生活がどうして許されないの?

私は前世で何か悪い事をしてきたのだろうか。

そうかもしれないわね

取りとめのない愚痴に真顔で返事をした人がいた。

彼女は夫の上司の妻だった。

前世の因縁というのはなかなか断ち切れないものよ。でも、その方法があるの。

一緒に頑張ってみない?

私も色々辛い事があって悩んだり苦しんだりしたのよ。でもそんな時

救ってくれた人がいたの」

彼女はそういって、一冊の本を渡してくれた。

これは・・・あの有名な・・・・・

「読んでみなさいよ。感想を聞かせて頂戴」

でも私、宗教には興味がなくて

宗教じゃないわ。まあ、そう思ってもいいけど。でも本を読んで気持ちが楽になるなら

いいんじゃない事?」

押し付けられた本を・・・夫の帰りが遅い日の夜に読んだ。

眼から鱗だった。

そうか・・そうだったのか。私はすっかり目の前が明るくなるような気がした。

彼が帰って来てからすぐにこの話をした。

すると「知ってる。君に話そうかどうか迷っていたけど

何でも彼は外務省の中で誘われているそうだ。

一つの「信仰」「思想」によってつながった関係は非常に心地いいらしい。

話を聞くうちに、もし「信仰」の中にどっぷりつかっていけば

出世の道が開けるかもしれない。もう一度子供が授かるかもしれない。

そう思えたようだった。

仕事の分野で彼も一つの壁にぶつかりつつあったし、私は私で

一日ごとに妊娠する可能性が低くなっていく事に怯えていた。

私達はもう何も言わなかった。

翌日にはたすきをかけ、長い数珠を持ち、「朝夕のおつとめ」を大声で唱え始めた。

ベニヤ板で作った大きな仏壇。

お題目が書かれた掛け軸を真ん中に置いて、

水が入ったコップを沢山並べて、それから先祖の位牌も。

そこには名前もなく死んでいった私の子供のものも。

「お経を上げる事は先祖へのごはんである」

そんな教えに必死にすがりつく。

先祖にご飯をあげないわけにはいかない。だから必死にお題目を唱える。

 

おりしも、皇太子妃の妊娠の兆候が発表された。

よかった・・・と思ったら、すぐに流産の報道。

私は目の前が真っ暗になった。

ようやく少し楽になった気持ちがまたもどん底に突き落とされたのだから。

皇太子妃の流産はマスコミが勝手にリークして、勝手に報道したせいらしい。

可哀想に!!

なんてお可哀想なんだろう。

「妊娠」というプライベートな事を勝手に報道するなんて。心無いにも程がある。

反論できない弱い皇太子妃に対して、何という不敬。

私は心から同情した。

本当よね。マサコ様はお可哀想。本来なら女性初の総理大臣って言われたかも

しれないのに。好きでもない皇太子殿下に嫁いで。彼女は私達の為に

人身御供になったようなものよ。

なのに流産まで・・・・お可哀想」

私を学会に誘ってくれた奥様はそう言って大げさに涙を流した。

そして言った。

知ってる?マサコ様も信者なの。皇太子殿下もなのよ。

皇族だって心の傷には勝てないのよ。私達も祈りましょう。

マサコ様のお幸せの為に」

私は大きく頷き、彼と一緒に朝に夕にお題目を唱え続けた。

隣に住む姑は唖然として、何度も私達に「やめなさい」と言ったが

そんな事言われる筋合いはなかった。

うちは代々浄土宗ですよ。どうしてそんな新興宗教なんて

お母様、法然も親鸞も間違っています。本当に正しいのは日蓮です。

そして法華経こそがもっとも偉大なお経なんです。私が流産の悲しみを乗り越えて

今を生きる事が出来るのは、法華経と先生のおかげです」

ああ・・・・

それっきり姑は私達の家に顔を出そうとはしなくなった。

 

私達は布教をする一方で、仲間内の集まりにもよく顔を出した。

同じ信仰を持つ仲間との語らいは心が休まった。

そんな日々の中、ついに皇太子妃がご懐妊したという知らせが飛び込んできた。

私は婦人会に身を置き、毎日、先祖に妃殿下の無事のご出産を祈った。

そして、私にも素晴らしい事が。

再び妊娠したのである。

これこそ、先生のおかげだと思った。

それまで、半信半疑な所もあったかもしれない。それは私の至らぬ部分だった。

先生は、その御業を私にお示し下さったのだ。

彼もまた同じ気持ちだった。

私達は二人で・・本当に二人きりで今度こそ無事に赤ちゃんを産もうと誓い合った。

 

皇太子妃が出産したのは12月1日。土曜日。

内親王誕生だった。

日本中が歓喜にわいた。

そして私が出産したのはそれから半月ほど後。

やっぱり可愛い女の子だった。

内親王には遠く及ばないけれど、幸せに育てたい。

姑は孫の顔を見に来なかった。

きっと女の子だったからだろうと彼は言った。

男女差別だと思った。

今時、跡取りだの家だのって関係ないじゃない。

女の子で何が悪いの。

日々、すくすくと育つ我が子の顔を見る度、幸せに泣きそうになる。

姑は・・赤ちゃんの泣き声くらい聞こえているだろうに。

 

私達の小さな娘は利発だった。

1歳を迎える前に喋りだし、歩くのも早かった。

絵本はうづらちゃんが大好きで、よく読んで聞かせた。

平凡な親子三人の生活。

そこに思いもかけない話が持ち上がった。

「え?うちの子をアイコ様のお友達に?」

そうだよ。オオトリ会を通じて話が来たんだ

まさか。学友は家柄tか血筋で決まるんじゃないの?」

外務省関係者の子がいいってさ

程なく私達3人は、本当に東宮御所に呼ばれた。

宮内庁差し回しの車に乗って、まるで夢のお城に行くようだった。

私達は娘が泣いたりぐずったりしない事を祈った。

 

東宮御所の一室で暫く待たされると、そこに・・・・皇太子ご夫妻が。

女官に抱かれたアイコ内親王の顔をみてびっくり。

私達の娘とよく似ている。

恐れ多い事だけど、我が家の娘が似ているなんて光栄だ。

この度は・・・

硬い話は抜きにしましょう。これからアイコをよろしく

皇太子殿下は柔らかにそうおっしゃってにっこりされた。

マサコ様は「今度、御用邸に招待するわね。そちらの娘さんもご一緒に」と

おっしゃった。

娘はすぐに場の空気になれた。

「うずらちゃん」の絵本を見つけると、とことこと歩いて楽しそうに開く。

それを皇太子殿下は持っていたカメラで撮影し始める。

愛子内親王は隣で、一人絵本を開いたり閉じたりしていた。

本を読むというより、開いたり閉じたりすることに興味があるようだった。

娘は本をさかさまに開いて、いつも私が読み聞かせする言葉を

次々に発して言った。

もういいかい。まあだだよ」

恐縮する私達を皇太子は「いいんですよ」と言いながらカメラを回していた。

もういいかい。まあだだよ。もういいかい、まあだだよ。

どこへ行ったのかな・・・その時、風が吹いてきて・・・パパも」

娘は本が読めるわけではない。暗唱しているのだった。

彼が後を続けようとすると、皇太子殿下が

いくら呼んでも応えはありません

娘は「おしまい」と言って本を閉じた。恐れ多くも皇太子殿下が

話しかけてくださったのに。

可愛いわね。アイコのいいお友達になるんじゃない?」

マサコ様は気さくにそうおっしゃって、子供達を皇太子殿下に

お任せになり、私達を隣の部屋に案内し、おいしい紅茶を入れて下さった。

私達はますます恐縮して、冷や汗が出る。

マサコ様は「やあねえ。外務省で一緒だったじゃないの。気楽にして頂戴」

楽しい会話に一時浸ってしまい。

それからどうやって帰ったかもあまり覚えていない。

それからの私達の生活は・・・・全てが変わっていったのだった。

平凡な家の平凡な娘が、たまたま結婚した相手が外務省勤務だった。

たったそれだけの話だったのに。 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」167 (翻のフィクション)

2014-10-14 07:00:00 | 小説「天皇の母」161-

皇太子が帰国して、東宮御所に着いた時

重苦しい雰囲気に戸惑ってしまった。

マサコが出迎えていないのは予想がついたが、侍従も女官も

顔つきが暗くて言葉が少ない。

アイコは父親が帰って来ても嬉しそうな顔をするわけでもなく

何事かつぶやいている。

それでも皇太子は可愛い娘を抱き上げ、広々としたリビングに入った。

お土産があるんだよ。デンマーク産のチョコレート

彼は自らチョコレートの包みを開ける。

すごい。これ、一体、何キロあるの?」

マサコは嬉しそうに言う。

2キロくらいかな。まとめて買ったからレイコさんやセツコさんの所にあげるといいよ

甘いものの匂いを嗅ぎつけ、アイコは早速手にとる。

紙の包みをあけてやりながら、少し旅の思い出話をしようかと思った時だった。

東宮大夫が接見を希望している」という知らせが入った。

じゃあ・・・」と言いかけた皇太子にマサコは「会う事ないわよ」と言い放った。

え?どうして?」

あのね。今、日本はあなたが出国前にやった人格否定発言で大騒ぎになってるのよ」

マサコはありったけの新聞を持ってこさせ、広告欄を見せた。

そこには、「皇太子の人格否定発言は是か非か」というような文言ばかり並んでいる。

皇太子は顔色を変えた。

どうしよう。東宮大夫はきっとこの事で話をしたいと言うんだろうね

そうでしょ。多分」

何を言われるんだろう。こんなに大騒ぎするなんて思っていなかったもの。

お義父さんに聞かないとダメだろうね。でもその前に東宮大夫に会わないと。

ああ、きっと参内したら陛下からも言われるよ。僕はなんと答えたらいいんだろう

だから会う必要はないって言ってるでしょ」

マサコはチョコレートを口に運びながら言った。

そんな事言ったって

東宮大夫だけじゃないわ。侍従長だってびっくりして、すぐに皇居に飛んで行ったのよ。

あの人達、両陛下から色々言い含められているに違いないもの。だから

会わなくていいの。断りなさいよ」

そんな事

出来るわよ。あなた、皇太子でしょ?やりたくない事はしなくていいし、

会いたくない人とは会わなくていいの。あなたの立場はそれだけの力を

持っているわ」

マサコなりに夫の身を案じて言ってるようにも聞こえるが、皇太子にしてみれば

今まで自分にそんな事を言う人はいなかったので、さらに驚くやら気が楽になるやら。

そ・・そうか。負担だって言えばいいんだね」

やっと皇太子は一息ついた。

しかし、ふと天皇の顔が浮かんでくる。するとがたがた震えて来た。

どうしよう。陛下には何と言ったらいいんだろう。きっと叱られるよ」

叱られるって・・・あなた、そんな叱られるような事を言ったわけ?」

マサコは馬鹿にしたように言って、少し皇太子から離れた。

あの人格否定発言は間違ってると思ってるの?思ってるんなら謝ったらいいじゃないの。

あの発言は撤回しますって

いや・・そういうつもりじゃ

「じゃあ、何なのよ。悪いのは皇室でしょ。私は皇室のせいで自分のキャリアを棒に振ったのよ。

本当は今頃、外務省でずっと上の地位についていたかもしれない。

外国にだって何度も行ってた筈よ。

なのに、あなたが結婚してくれっていうから断れなかったんじゃない。

あなたが皇室でも皇室外交があるんだからって言ったから」

また堂々巡りの話である。

しかし、皇太子は真面目にうんうんと頷いた。

そうだよ。だからこそ、僕はああ言ったんだ。間違ってないよ。わかった。

陛下にはちゃんと言うよ。言うから」

とりあえず、東宮大夫には会わない事にした。

 

翌日、参内した皇太子に天皇は矢継早に質問を投げかけた。

なぜあのような発言をしたのか。その意味は?何を言いたかったんだ?

どうして欲しいのか?誰があのような発言をさせたのか」と。

皇后は「帰って来たばかりで疲れているので」と皇太子を庇ったが

天皇は容赦しなかった。

ヒロノミヤと呼ばれていた時からこの子は、何かあれば母親の陰にかくれる。

言葉に真実がないというか、行動に責任がないというか。

皇太后の葬儀の時もそだった。

突然、「夏バテ」などと言い出して葬儀を欠席すると言った妃の事情を

皇太子はろくろく説明する事も出来ず、しかも面倒な事務手続きは全部

弟と妹に任せきりにしたのだった。

皇太子は大きく息を整えた。

そして、心配げに見守る母をみやり、まっすぐに父に向かった。

そもそも、「動き」というのはどういう事なのか。キャリアや人格を否定する動きとは

どういう事なのか」

言葉通りです

誰か」

誰って・・・思い当たる人は沢山いるんじゃないでしょうか?

結婚して以来、外国訪問はほとんど許されていませんでしたし、皇太子妃は慣れない

皇室のしきたりに戸惑って苦しんでいました。

もっと丁寧に教えて下さればいいのに、こんな事も知らないのかといった態度をされ

マサコは傷ついたと言っています。

些細なこと、例えば食事会の時にアキシノノミヤ妃が陛下のコップの水を取り替えた

くらいで気が利くとおっしゃったとか。そういうこれみよがしな所に傷ついたんです。

まるでアキシノノミヤ妃は気が利くけど自分はそうじゃないと責められているようで

辛かったと。

先に入内した方がもっと気を利かせて皇太子妃をたてるべきだったんじゃないでしょうか。

ノリノミヤもそういう意味では姉をないがしろにしていたんじゃないかと思います。

歌を作る事一つとったって、得意か不得意かという事がるのに、殊更に注意されたら

誰だって嫌になります。和歌の家に生まれたわけじゃないんですから。

外国要人とだって、好きに会話をさせて貰えず、やれプロトコルがと。

マサコはたった一つの特技さえ生かせないまま10年を過ごしました。

それだけじゃありません。早く世継ぎを産めとそればかり。

その為に外国旅行を制限されたり、プレッシャーを与えられたり。どれだけ苦労したか。

たっとアイコを授かったのに、今度は男の子じゃないとダメなんて。

僕は男ですから出産の大変さはわかりません。そのあたりは皇后陛下の方が

御存じなのでは?

気軽に女性に子供を産めと言えるものなのでしょうか」

一気にまくしたてて皇太子はほっとした。

マサコに「言う時は間髪入れずに言い続けること。相手は圧倒されて

何も言えなくなるから」と言われていた通り、天皇も皇后もあっけにとられて

暫く言葉が出なかった。

 

皇族の一番の役目は世継ぎを得ることだと皇太子妃は理解していなかったのか

天皇が静かに言った。

無論理解していましたが、そればかり求められたらおかしくなるじゃないですか

「いつそればかり求めた?誰が求めたんだ?」

宮内庁です。だから外国訪問が許されなかったんでしょう?」

世継ぎを産む事と外国訪問と何の関係が」

「とにかく、マサコはもっと外国に行きたかったんです!なのに世継ぎを産む事を

優先した宮内庁が悪意を持ってそれを阻止しました」

決めつけに天皇は絶句した。

だったらなぜもっと早く不妊治療を始めなかったのですか

横から静かに皇后が口を挟んだ。

今、皇太子は宮内庁を悪者に「しているが、それはみせかけで

本心は自分達へ意見しているのだという事はわかった。

だが、普段、宮内庁の職員は忠実に自分達に仕えてくれている。

彼らを悪者にするわけにはいかないのだった。

皇太子妃はブライダルチェックを拒否しました。また3年経っても

医師の診察を受けようとしなかった。それはすぐに子供が授かると見込んでの事

だったのですか?」

そんなプライバシーに関する事を第三者にあれこれ探られるなんて

嫌に決まってるじゃありませんか。

マサコは日々の体調をいちいち聞かれる事も負担だと言っていました。

女性なら当然のことです。皇后陛下はそうではなかったのですか?

女性なのに妃の気持ちがわからないのですか」

皇族にプライバシーなどない」

だったら

皇太子はつい勢いあまって、決定的な事を口にしてしまった。

そんな皇室が間違っているのです」

な・・・・」

天皇は言葉を失った。

個人のプライバシーを尊重すること、それが僕達のめざす皇室です。

回りからあれこれ言われたくないんです。

時代に即した公務というのは、そういう事です」

どういう事なのかさっぱりわからない。

結局、挨拶はそこで途切れた。

仕方ないので天皇は「文書」で今回の事を釈明し、広く国民に伝えるようにと

言ったが、皇太子は動かなかった。

彼にしてみれば、出国前に言い放った言葉で全て終わっていたのだった。

それが始まりとは思ってもいなかった。

 

一方、皇太子に面会出来ない東宮大夫や長官はイライラして日々を送る。

宮内庁記者会からは「どうなっているんですか?皇太子の言葉の真意は?」と突っ込まれ

まだお目にかかれていない」というのは精一杯。

それって宮内庁が悪いんですよね」と責められても

精一杯殿下の意に沿うように努力する」と言うしかない。

天皇も皇后も東宮大夫や長官が責められて苦労している事は知っていたが

今、下手に東宮御所に手を出せば、何を言われるかわからず・・・・

一応、息子のプライドを傷つけないようにしようとする配慮だった。

東宮大夫からの再三の連絡に、ある時、直接マサコが電話に出て

説明しろですって?そんな事いうなら皇太子妃をやめてやるわ!」

言って受話器をがちゃんと置いた。

驚く傍らの皇太子に「言ってやったわ。いい。これくらい強気にならないとダメなの。

だって宮内庁の連中なんて目下なのよ。召使なんだもの。

あなたは皇太子。私は皇太子妃。この東宮御所の中では一番権力があるの。

そして将来は日本で一番の権力者になる筈よ」

日本で一番の権力者。総理大臣じゃないのに?」

ばかね。総理大臣がひれ伏す。それが天皇でしょ。私達の意見が通るか通らないか

試してみる?」

マサコはにやりと笑った。

 

日本は東宮家の味方だった。

どの雑誌も新聞もこぞって東宮夫妻の味方をした。

皇太子殿下は婚約記者会見の約束を守った」

「皇太子殿下の深い愛は素晴らしい」

「皇太子妃があんな状態になったのは旧弊で堅苦しい皇室のせい」

「籠の鳥になった皇太子妃の悲劇。繰り返される悲劇。皇后様もかつて

心を病んで葉山へ長期静養を余儀なくされた。心無い皇室のせいで」

「宮中のマサコ様いじめ」

かまびすしい報道の裏で

皇族にはプライバシーなどないし、そもそも人権などない」と

少数派が叫んでみても、かえって敵を作るばかり。

マサコ様の状態は何なんですか?」

あまりに発表がない事でマスコミは騒ぎ、しかし東宮大夫は

病気というとらえ方は出来ないかと」と答えるのみ。

じゃあなぜ公務をしないのか。祭祀をしないのか。

やりがいのない公務はマサコ様のキャリアには勿体ない」

「祭祀は理論的な整合性がとれないのでやりたくない」

「檀上に上がるだけ、手をふるだけの公務はやりたくない」

「時間にしばられるのは負担」

と次々と女性週刊誌が報道し、

外出もままならない可哀想な皇族のマサコ様」と持ち上げる。

マサコ様は私達国民の為に、ご自分のキャリアを捨てて皇室に嫁いで

下さったのに」

はては「マサコ妃の悲劇は日本中の女性の悲劇」とまで言われ・・・・

ジェンダー問題にまで波及した。

日本中の女性を味方につける週刊誌のやり方は成功した。

皇后とマサコを一緒に述べる事でさらに正当性を増した。

きちんと公務に励むキコは「次男の嫁は気楽だし、好きで皇室に嫁いだのだから

適応できて当然」と繰り返し言われる。

アキシノノミヤ家では週刊誌を読まないようにしたが、それでも新聞の刻刻欄までは

塗りつぶせず、笑顔を保つキコを誰もが気の毒に思った。

 

そんな時、イギリスの新聞がとんでもない話を報道した。

皇太子夫妻は天皇と皇后が死ぬのを待っている」

この報道には宮内庁が反発。訂正を求めたが、誰もその記事の

真偽を確かめようとはしなかった。

そうこうしている間に今度はドイツ紙が

アイコは自閉症」と報道したのだった。

日本と海外の間に事の真偽に関する温度差がある事を日本人は

全くわかっていなかった。

ただただ「中傷」と受け止め、宮内庁はまたも「訂正」を求める。

東宮大夫が

全くの事実無根で不本意だ」とコメントしたが、内心は

「ああいっそ、事実と認める事が出来たら」と思っていた。

しかし、「事実無根」「不本意」とまで言ってしまったからには

その証拠を見せなくてはならなかった。

 

証拠・・・・など、本来は見せようがなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」166(進撃のフィクション)

2014-09-18 07:00:00 | 小説「天皇の母」161-

一体どういう事だ

部屋に珍しく怒鳴り声が響いた。

そこにいた侍従も女官も震え上がり、ただひたすら平伏する。

落ち着き遊ばして」

やっとの事で皇后が言ったが、自らもショックのあまり、女官の支えなしでは

立っていられないようだった。

皇后陛下。少しお休みに

女官長の勧めに、皇后はとりあえず椅子に座ったものの、水を飲む気力すらない。

なぜ。こんな。誰が皇太子妃の人格を否定したというのだ。

しかも公の記者会見で話すとは。これではまるで宣戦布告じゃないか」

天皇の怒りはとどまる所を知らず、かろうじての理性でものを壊さないでいる・・といった具合だ。

東宮大夫」

東宮大夫は天皇の怒りに触れて、さすがに歯がガチガチ鳴っている。

官公庁を経て宮内庁に入り、東宮大夫としての責務を負っているが、戦前のように

天皇を神格化した事は一度もない。

皇太子夫妻に関しても同じだ。そこらへんはやはり現代人なのだと思う。

しかし、現実に今、こうして怒りをむきだしにされると・・・とても怖い。

私が事前に読ませて頂いた原稿とは違っておりました。どうしてそのような事になったのか

私にはわかりかねます

皇太子が自分で違う原稿を渡したというのか」

・・・・・

逆に、皇太子が渡された文書があれだったとは考えられませんか」

皇后が言った。

皇太子は回りに従順な人です。誰かを名指しで陥れるような事は言いません。

あの文章はどうみても皇太子が書いたとは思えませんもの。誰かが仕組んだのでは」

皇太子がワナにはまったと」

東宮大夫は何と答えたらいいのかわからない。

皇后の意見は「ありうる」事かもしれないが、誰が何の為に皇太子を陥れ、目に見えない

誰かを責め立てるような皇族らしくない振舞をさせる?

そんな・・・まるで時代劇のような事があったとでもいうのだろうか。

むしろ、皇太子が自分であの文書を用意したとみる方が自然だ。

何と言っても皇太子は、結婚前、宮内庁の護衛を騙して鴨場に行ったくらいなのだから。

いや、まてよ。あの時も誰かが知恵をつけたと言われていた筈。

こういっては何だが、皇太子は自分で物事を判断する能力が全くない。

だから回りに影響されやすいし、騙されやすいし・・・・

皇后が「わなにはめられたのだ」と言い出したのも、要するに息子の判断力を信じていないからだ。

馬鹿を言ってはいけない。皇太子はもう40を超えた大人だぞ。

こんな単純に騙されて、粛々とあの文章を読むなんてありえないだろう」

途中で記者会見をやめたらそちらの方が大問題になります。それに優しい皇太子は

心のそこから妃の身を案じています。自分の本意と多少違っていても、あれだけ妃を

擁護する文章がちりばめられていたら読んでしまうのでは」

皇后は意見を曲げなかった。

天皇はため息をついて椅子の背に背中をつける。

普段は本当に姿勢のいい人だけに、側近は「どこか具合が悪いのでは」と心配した。

しかも、いい逃げだ・・・・」

それは公務ですから

なぜ、このタイミングでこんな事を言い出したのかが問題だと言っているんだよ。

ミー、息子を庇いたい気持ちはわかるが、今回の事はどうみても皇太子が悪い」

皇后は黙ってうつむく。

一体誰が東宮妃のキャリアや人格を否定したというんだ?東宮大夫」

わかりません。本当に。申し訳ございません

とりあえず謝るしかないと判断した東宮大夫は深々と頭を下げた。

宮内庁長官がこちらに

通されて入って来たのはユアサ長官だった。

彼は深刻な顔で入ってくると一礼する。

陛下・・・

ユアサ、これは一体どうしう事なのか

私が思いますに。皇太子妃殿下は数々のストレスを感じてこられたという事だと思います。

ハヤシダ東宮大夫、そうではありませんか」

「それは・・・」

どんなストレスなのか

お世継ぎを期待されるストレスと、外国訪問がかなわなかったストレスです」

世継ぎはわかるとしても、なぜ外国訪問出来ない事がストレスなのか?そんなに海外に行きたかった

のか」

「妃殿下は外務省育ちでございますから、いわゆる言語が御得意で・・・」

「私から見ると決して社交的には見えないがね

妃殿下は社交をしたいのではなく、外交をなさりたいとお考えだったようです。

それで皇室に入られたと。しかし、お世継ぎを期待され、私達宮内庁が外国訪問を制限した為に

ストレスを抱え、さらにトシノミヤ様が内親王であらせられたことで猶更、達成感を持てなくなった

といいますか、皇室にいる事自体にストレスを感じてしまったというか。

皇太子殿下は、妃殿下にこのようなプレッシャーを与える皇室の存在が間違っていると

お考えなのです

一同は言葉も出なかった。

皇后はめまいを訴えて水を飲み、コップを口に運ぶ動き以外はまるでストップモーションの

ように全員の動きが止まったかのようで。

私もキコ妃も働いた事がないし・・・子供にもすぐに恵まれたし。そう思うと東宮妃には

可哀想な事をしたかもしれません」

皇后はやっとそう言った。

マサコの上昇思考(あくまで皇后の印象なのであるが)は理解出来た。

結婚というのは、ディズニーのお話のように、「王子様と結婚しました。めでたしめでたし」で

終わるものではない。

「恋愛」以上の何か・・・「野心」がなければ結婚生活は出来ない。

皇后が若かった頃、ほとんどの女性は20代前半で誰かと結婚し、

専業主婦になったものだ。

「誰かの色に染まる」「苗字が変わる」事が女性の最大の幸せであると教えられた。

しかし、一方で、皇后のように「女性としてより一人の人間として自己実現したい」と

思う派もいた事は確かだ。

皇后が、あの時代にしては晩婚だったのも、

どこかにそんな「自己実現」の根が生えていないかと

探していたからだったかもしれない。

皇太子からの求婚は、そういう意味では渡りに船だった。

そういうものだと思っていた。

アキシノノミヤ妃が登場するまでは。

キコは最初から「自己」というものがないように見えた。

それは妃としては普通の生き方ではあったが、時々勘に障る事もある。

それに比べると、マサコの「自我」はわがままではあるけど、どこか共感できる。

ユアサ、皇太子夫妻は確かに外国訪問が少ないとは思う。

しかし、それは

世継ぎ云々だけではない事は、ユアサもわかっているだろう」

はい。それはもう。しかし、皇太子ご夫妻にはおわかりにならないのでございます。

いや、お認めになりたくなかったのかも

単純に「海外行きが少ない」といっても、先帝の時代とは違い、皇太子夫妻が結婚した頃は

戦争やテロが頻発し、世界中の王室が徐々に「王室外交」を狭めていく時期だった。

そもそも、外国要人が来てもまともに会話一つ出来ず、

相手を不愉快にさせてしまうのはマサコの方だった。

震災があったにも関わらず中東へ行ったかと思えば、なかなか被災地に慰問に行かず

それゆえにあのダイアナ元妃が被災地訪問出来なかった経緯もある。

ベルギーへ行けば皇室の悪口を言い触らし、挙句の果てに流産して、あちらの王室に

謝られる始末。

このような状況下で、下手に海外に出せば、それこそ大恥をかいてしまう。

そもそも、そんなに外国へ行きたければ、今回のように軽井沢に逃げたりしなければよかった。

それでも、私達の頃に比べたら・・・少ないかもしれません

また皇后が言った。

私達は、皇太子妃とは異なる環境で過ごしてきたのです。だから気持ちがわからなかったのかも

しれません。知らずに辛い思いをさせていたとしたら、申し訳ない事ですわ」

だからといって記者会見であんなことを言っていいというのかね」

天皇が反論した。

先ほどから聞いていると皇后は随分と皇太子夫妻に甘いようだ」

そのような事は。だったらもう何も申しませんけど

場の空気が悪くなる。

ただ・・・私達が当たり前に感じている事が東宮妃はそうでないというのは理解できます。

世の中の常識と皇室のしきたりの間には隔たりがあるとも言えますし。

頭ごなしに否定するのではなく、寛容に見守る事が必要です」

頭ごなしに否定したのはむしろ、あちらだと思うがね」

とりあえず、私が皇太子殿下のご真意をお聞きし、報告いたします」

ユアサが言った。

ここで陛下が直接真意をおただしになる事は得策とは申せません

その通りです。私も何とかお聞きします」

ハヤシダも頷く。

皇太子妃の様子はどうなのだ。一体、どう疲れ切っているのか。最近では公務もほとんど

出てこないし、祭祀だって・・・そんなに具合が悪いのか。医師には見せたのか

妃殿下の・・病気というんでしょうか。心の在り方は医師の力ではなんとも。精神科医が

おりませんので」

精神科医

天皇は驚いて体を浮かせた。

精神病なのか

ハヤシダは答えに窮する。心の病についての知識はないし、本当になんと言っていいのか

わからない状態なのである。

トシノミヤ様があのような状態とわかってからの妃殿下は、どこか投げやりであらせられ、

朝は起きてこられず、夜はお休みにならない。気まぐれで機嫌がよい時と悪い時があり

特に軽井沢から戻られてからは、ろくに女官や侍従と会話をされなくなり、部屋に閉じこもって

おられます。みな、心配して侍医にお見せした方がいいと申しますが、妃殿下がご承知下さらず。

どうにも回りが信用できないとおっしゃって。

毒を盛られるとか、東宮御所から追い出すつもりかとか、私達からみて、尋常ではないのです。

しかし、皇太子殿下が妃殿下の嫌がる事は極力しないようにとおおせで。仕方ないので

みなでお見守りしているような状況でして」

ハヤシダの告白に、天皇も皇后も顔色を変えた。

まさか、そこまでの状態になっているとは。

トシノミヤの事はショックだったろうと思う。だから早く療育するべきではないのか。

正直、東宮妃にこれ以上、子供を産んで欲しいとは思わないが

そこが問題なのでございます。妃殿下はトシノミヤ様の事は絶対にお認めに成りません。

そうかと言って、お世継ぎ問題から外されるのもお嫌なのです。と、私が見ております

つまりどうしたいと」

「・・・・・・私の口からは」

これは東宮妃の・・・いや、皇太子夫妻の独自の考えではないだろう」

・・・・私もそう思います」

ユアサも同意した。

皇室の根源にかかわる事に手を出そうとしているのだ。皇太子夫妻は。

その「根源」が皇太子妃を苦しめているとは・・・・

皇室としての存在を否定されているようなものだった。

とても理解できる筈がない。

ユアサもハヤシダも裏に皇太子妃の実家がいると、喉まで出かかっている。

でもそれは言えなかった。

そんな、あまりにも小説じみた陰謀を口にするには、天皇は清らかすぎたのだ。

 

そうこうしている間にも、事はどんどん進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」165 (衝撃のフィクション)

2014-09-10 07:00:00 | 小説「天皇の母」161-

マサコがアイコを連れて東宮御所に戻ってきた時、にこやかに迎えたのは

皇太子ただ一人だった。

侍従も女官も、ただ黙って頭を下げているだけだ。

お帰りなさいませ」と小さく女官長が言った。

決して歓迎している風には聞こえない。

マサコは腹を立て

帰って来たくてきたんじゃないわよ」と言い捨て、部屋に入り、大きな音を立てて

ドアをバタンと閉めた。

ドアの向こうから「妃殿下。とりあえずお着替えを」という女官の声が

聞こえたが無視した。

もう誰かに命令されるのは沢山だった。

静かな部屋の中でマサコは孤独だった。

這い上がるような孤独に寒さを感じる。

どうして自分が今孤独なのか、何をどうしたいのか・・・もうわからない。

ただ一つ言えること。

それは、この東宮御所で生きていく為には切り札が必要である事。

皇位継承権舎を産めなかった自分にとっての切り札は・・・・アイコだけだ。

アイコを立太子させなくては。

アイコを天皇の座につけなくては、自分はまた誰かに支配されてしまう。

命令されてしまう。

したくない事をさせられてしまう。

もう嫌だ、嫌だ、いやだ!

思い出すのはいつも独身時代の事。

自由に外で遊んで飲んで恋をしていた頃の事。

(私が失ったのは永遠の自由なのだ)

マサコは心から自分を可哀想に思った。可哀想で悲しくて

辛くてしょうがなかった。

誰もこの苦しみはわかるまいと・・・・・

マサコは思い切ってドアを開けた。

びくびくと立っている女官がいた。

今すぐアイコに食事をさせて。アイコはイタリアンが好きなの。

パスタ以外は食べないから」

慌てて走って行く女官達。

少し溜飲が下がった。

これからは全てこの手で行こうではないか。

 

その一方で。

ヒサシの計略は着々と進んで行った。

毎週のように出る雑誌や新聞には「女帝論」が登場するようになり

アイコ内親王に皇位継承権がないのは男女差別ではないか」との議論を強調する。

ヨーロッパのほとんどの王室が「女王」を認めている以上、日本だって・・・・というのが

こちらの言い分。

戦前の家父長制の否定。夫婦同姓の否定、そして男女である事の否定。

先進国は女性の大臣の数が多いのに、日本は最下位であるとか、封建制が残っているとか

それはもう、書きたい放題書かせている。

男女雇用機会均等法世代のマサコが心を病んだのは、全てにおいて

旧弊な皇室による差別意識が元になっていると。

コイズミ総理はその気になっている。

彼は拉致被害者を5人帰国させたことで大手柄を上げた。

この調子で皇室典範改正まで着手すれば大いに株があがるだろう。

 

さらにヒサシはセツコの夫に条件を出す。

もし離婚しないでくれたら、外で女を作ろうが黙っている」と。

そして「こちらの言う事を聞いてくれる精神科医を知らないか?出来れば

後ろ暗い過去を持って、いつもびくびくしているような・・・・

紹介してくれたら、君の将来は保証しよう」と持ちかける。

ヒサシにとって、娘の嘆きも悲しみも大したことではなかった。

とにかく、今、離婚されたら困るのである。

何事もなくひっそりと夫婦生活を続けて行って貰い、さらに言う事を聞かせるには

「そっちの自由も尊重」とエサを播くしかない。

そして報酬と言う名の人参を与えて、こちらに心酔させるのだ。

ヒサシにとってマサコ以上に大事な「皇太子」と「アイコ」だ。

なにせ、全ての資金は「皇太子が即位したら」「アイコ天皇が誕生したら」

という信用貸しに他ならないのだ。

何が何でも実現しなければ身が危ういのである。

 

ヒサシはヨーロッパ歴訪記者会見をする皇太子の為に、記者達の質問に対する答えを

用意していた。

でも殿下。これは侍従や内舎人に見られてはいけません。推敲もさせてはいけません。

もし、出来上がった原稿を見せて欲しいと東宮大夫が言ったら、こっちの方を出して下さい」

皇太子は、何だかドキドキした。

自分が実際に読む原稿と、東宮大夫らに見せるものが違うなんて

今まで一度もなかった事だ。

そんな事をして、後から色々言われないか心配だった。

ご心配には及びません。皇太子殿下は東宮御所のトップですよ。殿下に逆らう方が

悪いのです。もしあれこれ言われたら、その時は毅然と対処なさってください。毅然と」

その「毅然と」という言葉が非常に心に響いた皇太子は、大きくうなずき

湧き上がってくる高揚感に震えた。

自分は今、大きな事をしようとしている。

もしかしたら歴史的にすごい事かもしれない。

 

皇太子は、その原稿を受け取ると、入念に隠す。

無論、言われた通り、東宮大夫には偽の原稿を見せた。

自分がやっている事が、後々どんな影響を与えるかなど考えもしなかった。

ただ、マサコが可哀想で仕方なかった。出来上がった文章を読むにつけ

どれ程の人がマサコを傷つけたのかと、腹が立って仕方ない。

これは言わなければならない。

自分が言う事によって突破口を開くのだ。

それこそが自分とマサコを救う道であると・・・・皇太子は信じていた。

 

その日。

集まった記者達はいつものように記者会見場に入り

いつものようにカメラをスタンバイした。

皇太子が外国へ行く。対して珍しい事ではない。

ただ、今回は一人というだけだ。

あんなに外国へ行きたがっていたマサコ妃を置いてヨーロッパに出発する事に対して

皇太子はどんな感慨を持つのだろうか。

部屋に入ってきた皇太子は、これまたいつものように記者達を一瞥し席に座った。

おもむろに原稿を開く。

出来上がった質問。出来上がった答え。

単純に今回の訪問についてどう思うかと質問したのだが、記者達は皇太子の答えに

ふと違和感を持った。

ところで,5月1日にEUは25か国に拡大されました。

今回の3国は従来からEUの加盟国ですが,これらの国々が新しいEUの中でどのように進んでいくか

ということも今回感じ取ることができればと思っています。

また3国とも伝統的な海運国でありますので,私の専門としています海上交通あるいは河川交通の

面からも何か新しい知識が得られればと思っています

ヨルダンについては,

9年前に訪問しておりますけれどもその際は日程を大幅に短縮することとなりながら,

当時のフセイン国王陛下を始め大変心のこもったおもてなしを頂きました。

その後フセイン国王陛下には残念ながら亡くなられ,

ご葬儀に参列させていただいたことも大変感慨深く思い出します。

その意味でも,日本で以前にお会いしたこともあるハムザ皇太子殿下のご結婚に伴う祝宴に出席して,

そしてお祝いをお伝えすることができればと思っておりましたけれども,

今回は諸般の事情で訪問することができずに誠に残念です。

お二方の末永いお幸せをお祈りするとともに,お会いする機会を楽しみにしています

これは本当に皇太子の言葉なのだろうか。

今まで政治的な事に触れた事はなかったのに。EUを出してくるとは。

しかも・・・「葬儀に参列させて頂いたことも大変感慨深い」?

そういえば、今回の言葉には「ありがたい」という言葉がいたる所に散らばっている。

 

記者達は少しざわめいたものの、冷静さを保っていた。

しかし、部屋の後ろ側では東宮大夫が血相を変えていた。

今回,皇太子妃殿下のご訪問については,ぎりぎりまで検討されましたが,

最終的には見送られました。

殿下お一方でご訪問されることに至った経緯,結果についての殿下,妃殿下のお気持ちをお聞かせください。

妃殿下の現在のご様子,ご回復の見通しについても改めて伺えればと思います」

そらきた・・・・

皇太子は、回りをぐるっと見渡すと背中をぐぐっとそらせた。

今回の外国訪問については,

私も雅子も是非二人で各国を訪問できればと考えておりましたけれども,

雅子の健康の回復が十分ではなく,お医者様とも相談して,私が単独で行くこととなりました。

雅子には各国からのご招待に対し,深く感謝し,体調の回復に努めてきたにもかかわらず,

結局,ご招待をお受けすることができなかったことを心底残念に思っています。

殊に雅子には,外交官としての仕事を断念して皇室に入り,

国際親善を皇族として,大変な,重要な役目と思いながらも,

外国訪問をなかなか許されなかったことに大変苦悩しておりました

今回は,体調が十分ではなく,皇太子妃としてご結婚式に出席できる貴重な機会を失ってしまうことを,

本人も大変残念がっております。

私も本当に残念で,出発に当たって,後ろ髪を引かれる思いです。

私たちには,ヨーロッパの王室の方々から,いつも温かく接していただいており

フレデリック,フェリペ両皇太子殿下とは,限られた機会の中ではありますけれども,

楽しい思い出が多くあるため,今回のことはとても残念に思っているようです。

雅子の長野県での静養のための滞在は,幸い多くの方々のご協力を得て,

静かな中で過ごすことができました。この場をお借りして,

協力してくださった皆さんに雅子と共に心からお礼を申し上げます。

雅子からも皆さんにくれぐれもよろしくと申しておりました。

長野県での滞在は,とても有益なものではあったと思いますが,

まだ,雅子には依然として体調に波がある状態です。

誕生日の会見の折にもお話しましたが,雅子にはこの10年,自分を一生懸命,

皇室の環境に適応させようと思いつつ努力してきましたが,

私が見るところ,そのことで疲れ切ってしまっているように見えます。

それまでの雅子のキャリアや,そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です。

最近は公務を休ませていただき,以前,公務と育児を両立させようとして苦労していたころには

子供にしてあげられなかったようなことを,最近はしてあげることに,

そういったことを励みに日々を過ごしております。

そういう意味で,少しずつ自信を取り戻しつつあるようにも見えますけれども,

公務復帰に当たって必要な本来の充実した気力と体力を取り戻すためには,

今後,いろいろな方策や工夫が必要であると思われ,

公務復帰までには,当初考えられていたよりは多く時間が掛かるかもしれません。

早く本来の元気な自分自身を取り戻すことができるよう,周囲の理解も得ながら,

私としてもでき得る限りの協力とサポートをしていきたいと思っています。

今後,医師の意見によって,公務復帰に向けては足慣らしのために,

静かな形でのプライベートな外出の機会を作っていくことも必要であるかと考えています。

引き続き,静かな環境を保たれることを心から希望いたします」

 

突然、天井に笑い声が響いたような気がした。

記者達は水を打ったように静かになった。

それは・・・まるで魔法にかけられたかのような静寂。

笑い声は最初は高らかに、そして次第に低くなり、さらに長く長く続いていた。

誰かが天井を見上げたけれど、そこには何もいなかった。

記者達の沈黙に、皇太子は静かに笑みを浮かべた。

誰かがやっと・・・質問する。その声は震えていた。

殿下,大変,ちょっと失礼な質問になってしまうかもしれませんが,

先ほどお答えになった時にですね,妃殿下のキャリアや人格を否定するような動きがあるとおっしゃいましたが,

差し支えない範囲でどのようなことを念頭に置かれたお話なのか質問させていただきたいのですが」

皇太子は少し考えた風に答える。

そうですね,細かいことはちょっと控えたいと思うんですけれど,

外国訪問もできなかったということなども含めてですね,

そのことで雅子もそうですけれど,私もとても悩んだということ,そのことを一言お伝えしようと思います」

意味がわからなかった。

「キャリアや人格を否定する動き」と「外国訪問も出来なかった」の間には何の繋がりも見いだせなかったから。

それでもマサコが外国に行きたがっていたという事はよくわかった。

 

東宮大夫は真っ青になっている。

殿下は何だってあんなことを・・・・誰か、今日の原稿を見たか

誰も何も答えなかった。

もう止められない。公に発表してしまった以上、発言を取り下げる事は出来ない。

目の前に大きな闇が広がるのが見えた。

これは・・・終わりの始まりではないか。

深い絶望があたりを覆っていった。

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韓国史劇風小説「天皇の母」164(戸惑いのフィクション)

2014-09-02 07:00:00 | 小説「天皇の母」161-

春、ひっそりとアキシノノミヤ家では慶事が続いていた。

マコが初等科を卒業し、中等科へ進学したのだ。

いつか羽ばたくような鳥の絵を描きたい」と抱負を綴った文集。

初等科4年に進級したカコも習っているスケートの大会に出場し

ちょっとしりもちをついたりしたが、なかなか上手に滑っていた。

けれど。

マコは自分を取り巻く空気が微妙に変わりつつあることを感じていた。

自分達の立場が「皇族」である事は自覚していた。

常に両親からは「皇族としてふさわしい行動をするように」と言われている。

どういう事が「皇族としてふさわしい」のかというのは一口には言えないけど、とにかく

挨拶をきちんとする事。人の目を見て話すこと。そして勉強をしっかりすること。

感情をあらわにして人を不愉快にさせない事。人を思いやる事。

日々の生活の一挙手一投足が「皇族としてふさわしいか」と審査されているようなものだ。

小さいカコはあまり人前に出るのが好きではないので、いつもマコの後ろに隠れてしまう。

母はそんなカコにはあまり言わないけど、自分には厳しいような気がした。

だけど、それは「長女」として仕方のない事だとマコは思っている。

カコに出来なくて自分に出来る事。それは両親の最良の理解者になる事だ。

時々は甘えん坊もしたいけど、やっぱり厳しくされるという事は、それだけ対等に

見られているんだと思う。

マコにとって「長女」としてのプライドはそこだった。

 

学友達だって、「アキシノノミヤマコ」は皇族。アキシノノミヤ家の長女。

最初は「皇族」がどんなものか知らなかった学友達も、今はよくわかってくれて

「マコちゃん」と呼びつつも、知らず知らずに立ててくれている事がある。

先生も正式には「マコ内親王」と呼ぶ。

誰もその立場に疑問をさしはさんだり、あれこれ言って来た事はなかった。

 

が、中等科に進学し、外部出身者が増えた頃、当たり前の雰囲気に変化が。

ねえ、皇太子妃ってお可哀想なの?」

そんな風に聞かれる事が多くなったのだ。

どうして?」

だってうちのママ達がそう言ってるわ。マサコ様は皇室の古臭いしきたりに

潰されたんだって

私も聞いたわ。皇室って女性の地位が低いって本当?」

マサコ様はアメリカのハーバードを卒業しているんでしょう?すごく頭がよくて

お仕事もちゃんと出来る人だったのに、皇室に入ってダメになっちゃったんですって?

ねえ、女の子は天皇になれないの?」

イギリスには女王陛下がいるじゃない?マコちゃんは天皇になれないの?」

違うわよ。マコちゃんの所は「次男の家」だから気楽なんだって。ママが言ってた。

マコちゃんのお母様は好きで皇室に入ったから平気なんですって」

どれもこれも初耳の事ばかり。

どうして急にこんな事を言われるようになったのだろうか。

皇室って堅苦しいの?マコちゃんはお偉いわね。全然そんな風に見えないんだもの」

何を言われているのかわからず、マコは目をぱちくりするばかり。

それはやっぱり皇太子殿下の所とは違うからじゃないの?よかったじゃない?

気楽な家で。だから私達もこうやってお供達になれたんだし

でもマサコさまは苛められているんですってよ。ずっと男の子が生まれないから。

今時なんだか古臭いわよね」

古臭い?男の子が生まれないから?気楽?どういう事なんだろう。

 

うかない顔で帰宅したマコを出迎えたのは侍女長だった。

おかえりなさいませ。あら?お元気が・・・」

ただいま。カコは?」

もうお帰りですよ。今、宿題をやっておられます」

マコはお弁当箱を出した。

マコ様、今日はお残し遊ばしたのですか?お具合でも悪いのですか?」

違うわ。平気です。でもちょっと食欲が」

お弁当は妃殿下が毎朝、少ないお時間を割いて自らおつくりになっているものです。

お残ししたら失礼ですわ

ごめんなさい」

・・・・まあ、姫様といえど食欲がない時もおありでしょう。これは私が片付けます。

でも本当に何でもないのですか」

あのね。私は気楽なの?」

は?」

侍女長ははあ?という顔でマコをまじっと見つめた。

気楽って・・・・マコ様が?皇族としてという意味ですか」

そして侍女長は笑い出した。

「誰がそんな。この宮家程厳しい家はないのに。そりゃあ、家というのは

気楽であるべきですわ。マコ様はご自宅にいらっしゃる時は十分気楽で

いらっしゃると思いますが」

立場って話のようなの

立場・・・・立場・・・・皇族に気楽等ありえませんけど」

そうよね」

マコは会話をやめた。

次男の家だから気楽なのよ)

マサコ様はハーバードを出て外務省にお勤めのキャリアウーマンだったのに

皇室に嫁いでダメになっちゃったんですって。マコちゃんのお母様は学生結婚で

好きで嫁いだからうまくやったわねって)

 

心の中に澱のようなものがたまって行くような気がした。

何だか触れたくない汚いものに触れてしまったような。

どうしよう。この事を話すべきなんだろうか。でも心配はかけたくない。

悶々もマコは部屋で悩み続け、教科書を開いたままぼやっとしている。

そこに「お姉さま、ちょっとだけ遊びましょうよ」とカコが入ってきた。

遊ばない。忙しいの

何もしてないじゃない」

「してるわよ。考え事。カコちゃんのような子供とは違うんだから

あら、中学生になったからっていばってる

いばってないわよ。とにかく遊ばない

マコはドアをバタンと閉めてしまった。ドアの外では「お姉さま」という声が聞こえる。

カコはいいな

マコはますます沈んでいった。

 

その夜。

やっぱり隠しきれずに両親に話をしてしまったマコ。

娘の様子に宮は厳しい顔をするし、母は悲しそうだった。

天皇は男子しかなれないというのは本当だよ

どうして」

どうしてって・・・大昔からそう決まっているんだ。理由なんかないよ。

お前がどうしてマコなんだ?と聞かれて答えられるかい?

どうして人間なんだ?って聞かれてその理由は・・・・と言えるかい?」

そうだけど。不平等だって

女性が社会に進出する事は素晴らしい事だ。それを否定したりしない。

男女平等もいいと思う。だけどそれとこれとは意味が違うんだよ。

差別して男子しか皇統を継げないわけではない。

ただ2000年もそうやって来たという実績があるだけだ。それが伝統というもの。

一旦例外を許したらそれは伝統ではない。そうだろう?」

正直、マコは難しくてよくわからなかった。

でも、そのせいで皇太子妃殿下は具合が悪いんでしょう?トシノミヤ様が女の子

だったから」

まあ、誰がそんな事を」

キコがちょっと厳しい顔で言った。

男だから女だからと喜んだり悲しんだり。そんな事あるわけないじゃないの。

私達はあなたが男の子だったらとは思っていませんよ

キコ

宮はキコの膝にそっと手を置いた。

マコは学校で聞いたことをそのまま言ってるだけで、そう思っているわけではない。

そうか。マコは初めて世間の風に当たったのだね」

世間の風。

だとしたら言っておかなくてはね

父は少し厳しい顔になった。

これから先、色々な人が色々な事を言うだろう。辛い思いもすると思う。

だけど誰をも恨んだり憎んだりしてはいけない。なぜなら私達は皇族だから。

考えていいのはただ、今やるべき事だけだよ

そうですよ。今、あなたがやらなくてはならないのはお勉強でしょう。皇族に生まれ

ついだという事は、その事自体が特別なのだから。人よりもっと努力を重ねないと

お母様は皇族として生まれたわけじゃないでしょう?嫌じゃなかったの?お仕事を

続けたくはなかったの?」

お母様は学生結婚だもの」

キコはちょっと頬を赤らめる。

それを見て父が言った。

キコが大学生になったばかりの時にお父様が好きになったんだよ。

大学一可愛かったお母様だ。ライバルは沢山いたけど、お父様が勝ったんだ」

本当?」

マコは少し斜めに父を見た。

「本当だよ。だから今、こうしてここにいるんじゃないか。

確かにお前のお母様はハーバードを出ていないし、外で働いた経験もない。

だが、妃殿下としてのキャリアは長い。

みな、お母様を褒めるだろう?皇后陛下だって」

はい

マコはちょっと誇らしい気持ちになった。

私と結婚した以上、それ以前の事はいいんだよ。今、このアキシノノミヤ家の妃として

キャリアを積んでいってくれれば。私は感謝しているよ。

だってマコやカコのような可愛い子を授けてくれたんだからね

殿下・・・子供の前で」

キコは小さく睨んで、それからくすっと笑った。

ほんわかした空気が流れていく。これは「気楽」というものとは違うんだろうか。

しかし、気をつけないといけないよ。この先、私達が少しでも油断をしたら

すぐに悪評が立つ。身に覚えがない事でも今回のように言われる事はあるんだから。

私達は国民の手本とならなければいけない。それが皇族としての務めだ

父の重い言葉をマコは心に刻んだ。

 

しかし、それからひと月もしないで、皇室を揺るがすような大事件が起きてしまった。

皇太子がヨーロッパ歴訪の記者会見で

マサコのキャリアや人格を否定する動きがあったことも事実です

と言ってしまった。

「キャリア」も「人格」もマコにはさっぱり意味がわからなかった。

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韓国史劇風小説「天皇の母」163(取り込まれたフィクション)

2014-08-25 07:00:00 | 小説「天皇の母」161-

最初は沈黙があたりを支配していた。

部屋の中はエアコンが効いているのに寒くて

殺風景な家具が冷たく思えて。

久しぶりに夫に会ったというのに笑顔を見せるでもなく

食事の間もずっと黙っていたマサコ。

時折、妹たちとこそこそ喋る以外は完全に無視をする。

日本の皇太子にこのような態度が出来る女性は

マサコだけだろう。

そして今、二人きりで部屋にいる。

皇太子はまず「元気そうでよかった」と言った。

みんな心配しているよ

それに対して、マサコは「うそつき」と返した。

うそつき。うそつき。うそつき。うそつき。うそつき。うそつき・・・・・」

呪文のように繰り返されるその言葉に皇太子は思わず体をひっこめる。

「うそつき・・・?って・・・・」

だってそうじゃない。何でも全部うそつき。

約束が違うじゃない。そう、約束が違う。違う。違う。違う!」

マサコ」

外国旅行させてくれるって言ったでしょう?

私、外務省に勤めて楽しかったのよ。お父様もいるし外国にいけるし。

英語だって喋れるし、色々な特権があったんだわ。誰だって外務省に勤めていると

いえば驚くし、態度が変わるし。そういう世界だったのよ。

なのに、無理やり皇太子妃になれって言ったんじゃない。

皇太子妃になっても外務省にいた時と同じ事させてくれるって言ったよね?

そう言わなかった?マサコさんの事は僕が全力でお守りするって

言ったわよね?言ったわよね?言ったわよね?」

・・・・・マサコ

皇太子はうろたえてちょっと震えた。

目の前の妻が別人に見えたのだ。

なのに何よ。結婚して10年。何回、海外に行けた?

中近東じゃ途中で帰されるし、アイコが生まれるまでは一切行けなかったし。

海外に行けると思えばこそ、嫌いな祭祀だって公務だって我慢してやってきたのに

ありがとうの一言もなくて、次から次へとあれもやれこれもやれって。

何なの?全然約束と違うじゃない。

私はハーバードを出ているの。外務省出身なの。黙って外務省に勤めていたら

いずれは出世して外務次官にだってなれたかもしれないのよ。

なのに、両陛下も宮内庁も口を開けば「子供」を産めって、そればっかりじゃない。

私だってもっと海外に行かせてくれたら、もっと自由にどこにでも行かせてくれたら

子供の事だって真剣に考えたわよ。

なのに日本の狭くて古くて意地悪な人達の中で、我慢ばかりさせられて、したくもない

公務をさせられて、産みたくもない子供を産まされて。

英語だってね。もうどれくらい喋ってないかわかる?

あなたの宮内庁が私に英語で喋るなと言うからよ。

外国の要人が来ても英語で話しかけるな。通訳がいるんだからって。

しかも、お天気と芸術の話しかするなって。私をなんだと思っているのよ。

子供なんかほしくなかったのに、産め産めって。産んだらうんだで女だから

次は男を産めって。私をなんだと思っているの。この嘘つき。嘘つき。

大嘘つき」

マサコの頬をポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。

顔がぐしゃぐしゃになってもマサコは泣き続けた。

外務省にさえいたらこんな思いはしなかったのに。

こんな・・・・こんな侮辱、受けなかったのに。もっと幸せだったのに」

皇太子は呆然とマサコを見た。

それから自らも大粒の涙をこぼし始めた。

ごめんなさい。マサコ。君がそんなに傷ついていたなんて

時折しゃくりあげるマサコと、泣き声の皇太子の声は、まるで

何かにとりつかれているようだった。

ごめんなさい。本当にごめんね。僕が皇太子なばっかりにこんな目にあわせて

あなたなんか学歴もないし、背も低いし、皇太子ってだけじゃないの。

私以外の誰が結婚してくれたと思うの」

うんうん。その通りだ。マサコの言う通りだ

なのに何で私を大事にしないのよ。10年もこんな目に合わせて

「本当にすまないと思ってる。元々皇室育ちの僕には一般から入った君を

理解することが出来なかったのかも。弟の所がすんなりやっていたから」

あっちは好きで結婚したんじゃない。しかも学生結婚でしょ。貧乏育ちだから

欲がないのよ。おいしいものを食べたいとか思わないんだわ。

私の一番嫌いな人種よ。そんなのがいつもそばにいるなんて耐えられない

わかったよ。アキシノノミヤ家とは金輪際仲良くしないから

両陛下だってすかした顔しちゃって」

すか・・?」

人を馬鹿にしてるっていうのよ。何でもかんでも宮内庁の言いなりで

私がせっかくアイコの教育の為に公園デビューしただけなのに、

ぐずぐずと。言いたい事があるなら直接言えばいいじゃない。

なのに遠回しに、何となくみたいな雰囲気で。

そういうの嫌いなの。大嫌い」

うんうん。その通りだ」

マサコの怒りがおさまるようにしたい。けれど、皇太子はどうしても彼女に

言わなくてはならない事があった。

恐る恐る口を開く。

今回のヨーロッパ歴訪は一人で行かなくちゃいけないんだよ

「何ですって?」

マサコは皇太子を睨み付け、思わず立ち上がった。

何で?何でよ」

だって君はこんな状態だから。相手国に迷惑はかけられないから」

迷惑ってなによ。私が最初から行かないという方向で考えていたんじゃないの?」

だってそれは」

私、行くわよ。ヨーロッパには行くもの」

マサコ。今回、一人で行くというのは最初から決まっていた事じゃないよ。

ぎりぎりまで二人で行けるかどうか宮内庁は検討していたんだよ。

でも、君の状態では公式行事には出られないだろう?晩さん会とか会見とか

普通に出来る?」

「出ないもの。私だけ別行動でいいもの

そういうわけにはいかないよ。皇族の外国行きというのは相手国からの

招きがあって出来るものだし、社交辞令とか・・・」

私が礼儀知らずだっていうの?」

そうじゃないよ。そうじゃないけど、今回は荷が重いだろうと」

じゃあ、次はいつ行けるの?外国にいつ行けるの」

それは・・・わからないけど

あなた一人でいい思いをするんでしょ?私を日本に残して。こんな牢獄みたいな

場所に残して。それでも夫なの?そもそも一人で行くって決めた宮内庁って

何様よ。なんのつもり?私達より偉いわけ?」

そう言われてみると皇太子ははたと答えられなくなった。

今まで「公務」というのは宮内庁が決めて、その通りに動くものだと教えられていた。

そもそも自分の周りにいるのは全員「宮内庁職員」なのだから。

下手に逆らったりして困らせたりしてはいけないと教えられてきた。

でも、マサコの言う通り、よくよく考えたらおかしいのではないか。

「皇室」の長は天皇である。そして皇太子は後に天皇になる人間だ。

さすがの宮内庁も天皇の意志を無視するわけにはいかない。

「思し召し」として宮内庁に意志を表明したら、たいていはそうなる。

では東宮はどうなのだろう?

今まで、あまり考えた事がなかったけれど、そもそもマサコの怒りの根源は

「思い通りにならないこと」なのではないか。

目の前のマサコは怒りを抑えられないようだった。

ぎゅっと握りしめた両手が真っ白になっているし、始終、ソファの皮をひっかいている。

時々、ソファをばんばん叩くのだが、これがもし机だったら大きな音がするだろう。

自分だけいい思いをして。ずるいずるい・・・ずるい・・・」

わあっとマサコは声を上げた。いわゆる「号泣」状態だ。

皇太子はどうしていいかわからず固まってしまった。

「マサコ、いい加減にしないか」

ドアがいきなり開いて、入って来たのはヒサシだった。

皇太子殿下が困っておられる。それが皇太子妃のとる態度なのか

父の言葉にマサコはびくっとなって泣くのをやめた。

けれど、怒りの目は収まらない。

お父様の言う通りにしたからこうなったのよ。お父様のせいよ。

お父様が悪い」

マサコは突然わめきだし、父親に突っかかっていく。

ちょっと、まあちゃん!」

慌ててユミコが止めに入る。びっくりしてかけつけた妹達も姉の様子に

ただならぬ空気を察して、皇太子をソファから立たせた。

ヒサシは娘の頬をばしっと叩いた。

そのぱしっという乾いた音と一緒に時間が止まったかのようだった。

マサコは呆然自失で立ちつくし、赤くなった頬を抑えている。

ユミコは「あなた、ひどい」と言いながらマサコを抱き寄せる。

マサコを部屋へ連れて行きなさい」

ヒサシは低い声で言った。

回りは逆らえなかった。

ユミコに付き添われてマサコは部屋を出ていく。妹達もそれに従った。

いや、お見苦しい所をお見せしましたな

ヒサシは悪びれもせず言って、皇太子に座るように促した。

皇太子は小さな子供のように椅子に座り、うなだれた。

お許し下さい。娘は情緒不安定なのです」

ええ・・全部、僕が悪いんです」

「いやいやとんでもない。皇太子殿下は何も悪くない。悪いのは娘ですよ。

あのようにわがままな娘に育ってしまって面目ありませんな」

・・・・・」

しかし。このまま東宮御所に帰っても結果は同じなのではありませんか?」

え?」

皇太子は何を言っているのかわからず、きょとんとした顔でヒサシを見た。

マサコが申した通り、宮内庁が皇族の上にいるようでは殿下の権威が傷つけられると

申しあげているのです。殿下はもう40も超えて立派な大人。

いつでも即位出来る程のお力をお持ちです。

なのに、いつまでも宮内庁のいいなりでは。

いや宮内庁というより両陛下のいいなりでは

殿下御自身、面白くないのではありませんか?」

ええ・・・まあ。でも僕はこの通りの人間ですから。両陛下のおっしゃる事には・・・」

弟君は」

ヒサシはにやりと笑った。

弟君はいくつ総裁職を引き受けておられましたかな

さあ・・・10くらいかな」

そう。10以上名誉総裁職を引き受け、しかも皇室会議予備委員でいらっしゃる。

しかし殿下は赤十字だけでしたな。予備議員選挙にも落ちた・・・・」

皇太子は言葉が出なかった。体中のプライドがズタズタに切り裂かれていくような

恐ろしさと痛みと苦しみが襲ってくる。

なぜそんな事になっているかご存知ですか

僕はいずれ天皇になる身ですから、別に総裁職は・・・・」

「陛下が今日明日中に亡くなられるというならそれはそうでしょうが

ヒサシの言葉はぬめっている。ぬめぬめしたヘビのように体を締め付けてくる。

皇室会議予備議員選挙に落ちたという事は、

それだけあてにされていないという事です。

総裁職を沢山引き受けているアキシノノミヤは

国民と接する時間も多く、

それだけいい印象を残すでしょう。

しかし、皇太子である殿下はなかなか人となりが

見えない。

このままではアキシノノミヤを皇太子にしようという動きが出るかもしれません」

そんな事はありませんよ

皇太子は弱弱しく言った。

「なぜそう言い切れるのですか?先帝の時にも弟のチチブノミヤを

皇位につけようという動きがあった事、御存じでしょう?

あの時の先帝には男子の世継ぎがいなかった。

今の殿下と同じです。

男系男子の伝統がある限り、殿下のお子であるアイコ内親王は

皇太子になれませんし、天皇にもなれません。それでいいのですか

いや・・・それは」

問題の核心にきて、皇太子はうろたえた。

自分でもアイコの処遇についてはわからなかった。

一人の内親王として幸せに育って欲しい。出来るなら身の丈にあった生活を・・・と望む。

けれど、この義父はそれではアイコは幸せになれないというのだ。

東宮家のお子なのに女というだけで弟君の後ろを歩くような事になってもいいのですか。

殿下御存命中はそのような事はないでしょうが・・失礼ながら順番からいえば

殿下亡きあと、残されたマサコと内親王がどうなるか。皇居に住む事も出来ず

古い大宮御所の中に閉じ込められるんですよ。

皇位継承権を持たない内親王とその母がどうなっても宮内庁的には困らないでしょう。

世の中はすっかりマサコとアイコを忘れるでしょうね」

そんな・・・・」

私はそれを考えると悲しくてね。死ぬに死ねない気持ちですよ。せめて生きている

間に娘と孫の行く末をはっきりとさせておきたい。それが正直な気持ちです。

殿下は違いますか」

僕だって同じ気持ちです」

宮内庁は殿下とマサコを離婚させたがっていますね

え?・・・・ええ・・・・」

皇太子はなんと答えたらいいのかわからなかった。

離婚したがっているのはマサコの方だというのが宮内庁の見解の筈だが

今のヒサシの言葉で、むしろ宮内庁が必死にマサコを皇室から追い出そうと

しているのではないかと思われた。

そんな事させません。絶対に」

しかし、マサコが今の状態では東宮御所に帰っても同じです。

また同じことをしでかすでしょう。今度こんな事をしたら本当に・・・・

ではどうしたら」

殿下にもう少し権力と言うものがあれば

権力

そう。権力です。あなたは皇太子。やがて天皇になるのです。天皇というのは

この日本の中でもっとも権威ある立場。しかしそれだけではいけません。

権威だけでは今回のように、本人の意思に反して公務を宮内庁が決めてしまう

という事になるのです。誰がどこに行くか、ご自分で決められる立場にならねば。

そうでしょう?」

ええ・・・ええ。本当にそうですね

皇太子は大きくうなずいた。

宮内庁は殿下を一人前の男として扱っていないのです。そんな事が許されますか。

あなたは皇太子殿下ですよ。将来の天皇ですよ。

殿下はすでに家庭を構えて主でいらっしゃる。なのに、いつまでも子供のように

扱われていいわけがない。無論、宮内庁にそうさせているのは両陛下でしょう。

両陛下にとって殿下はいつまでも幼きわが子。

殿下、それでよろしいのですか?」

いいえ」

だったら私と考えましょう。私にとって殿下は大切な婿。敬愛の対象です。

娘よりも大切な存在なのです。私が殿下にして差し上げられるのは、東宮の長として

そして未来の陛下としてのゆるぎない地位を作って差し上げること」

ヒサシの声は小さくなったり、時に大きくなったり。そのトーンが変わるたびに

皇太子は頷き、「はい」と答え、みるみるうちに表情が明るくなる。

お義父さん・・・と呼んで構いませんか」

ええ。勿論です。私もナルヒト殿と呼んで構いませんかな

はい。名前で呼ばれると嬉しいです」

ではまず・・・・・・」

その夜、深夜まで皇太子とヒサシの話し合いは続いていた。

蚊帳の外に置かれたマサコが憐れでもあった。

 

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