水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第百一回)

2012年08月04日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第百一回
━ 一度、お祓いでもしてもらおか… ━
 心のほんの片隅に、そんな非科学的な発想も浮かんでいた。
 八百勢へ戻るという勢一つぁんを送ったあと、客も来ないだろう…と思える店を一応、開ける。殺風景この上ない。そうは思うが、直助にはどうしようもなかった。客が来ないのは今、起きている怪事件? とも似た陰気な現象だった。
 いつもの定位置へドッカと座り、来ない客を待つ。そして筆を握り、書き溜めた原稿を整理しながら今
日も書き続ける。変わり映えしない長閑で平和な日常の風景だが、直助の胸中は動揺していた。それを隠そうと、ひたすら筆を進めた。だから文章事態に覇気がなく、脈絡すら危うくなっていた。そうこうして二十分ほどしたとき、ふと直助は閃いた。
━ そうだ…溝上さんに返事を書いて寝る前に枕元へ置いておけばどうだろう…。相手も知らないうちに来たのだから、同じところへ置いておけば読んでくれる可能性は十分にある。いや、それ以外に連絡する術(すべ)はないぞ… ━
 この閃きは突然で、直助は自分ながら、いいアイデアだと思った。


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