靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第百五回
「あんなあ、勢一つぁん…」
「なんやいな?」
ついに直助は消えた紙の一件を話す決意をした。
「あの後(あと)なあ…妙案が浮かんだんや」
「どないな?」
「いやな…こっちの方からコンタクトをとったらどないやろかて…」
「と、いうと?」
「そやさかい、おとといは向うから送ってきたんやし、今度はこっちから送ってみたらどないやろ、思てな」
「ふんふん、それで…」
勢一つぁんは次第に乗ってきた。
いつの間にか、曇よりした風がまた流れていた。もう梅雨入りするのだろうか…と思わせる重くてジットリと肌に絡みつく風である。勢一つぁん持参の寿司折りと直助が準備した一升瓶の酒、湯呑み、折詰めとともに持ち込まれた柿の種などの細かな菓子類もある。それらは、語り合って怖れの夜を過ごすには十分過ぎた。