靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第百十三回
直助も勢一つぁんも、ここまで来ると、すっかり疲れきっていた。麓を登るときの勢いは、もうどこにもない。やっとここまで来たか…という安堵感で、二人は地蔵尊の横で、またドッペリと腰を下ろしてしまった。
もう来るところまで来ている安心感があるから、勢一つぁんもしばらくグデン! と蛸になっていた。もちろん、直助も同じである。十分ほど無言のまま時を過ごし、やがて二人は立ち上がった。山埋(さんまい)は小規模なもので、探すのには、さほど手間どらずに済みそうだった。それぞれが別れて墓碑に刻まれた家名を捜した。━ 溝上家 ━ と刻まれた墓はどこだ…直助は懸命に捜し回った。しかし小一時間が経っても、いっこうに埒(らち)があかない。二人は次第に焦っていった。直助が予(あらかじ)め算段した行程より、すでに二時間以上も遅れている。のんびりと昼飯を食う気にもなれない。それでも手短に食べることにして、勢一つぁんが手持ちした握り飯などに手を伸ばす。敏江さんが態々、準備してくれたものだが、目的が達成されていないから、美味くもなんともない。
「直さん、ちょっと怪(おか)しいでえ~」
握り飯をムシャムシャ、沢庵をパリパリやっている勢一つぁんだが、やはり彼にも先の見えない、もどかしさはあった。
「いや、必ずあるよって、もうちょっと頼むわ…」
直助はそう言うしかなかった。