靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第百十六回
「若死にやなあ…」
墓石を見ながら勢一つぁんが直助の後ろから低い声を掛ける。パタリと早智子が店に来なくなった訳は、これで解けた。しかし、直助と出会ったときの彼女は、病気のようには見えなかった。それが、僅かな間に逝ってしまった。理詰めで考えれば、直助にはどうしても合点がいかない。
「ともかく、見つかってよかったがな。…直さん、それで、どうすんにゃいな? これから」
「… … まあ、とにかく突き止められたよってな。あとはボチッと考えるわ。さあ、陽が傾かんうちに、はよ下りよか…」
直助は墓石に刻字された内容をメモ書きし、持参の線香に火をつけ、花を手向けた。そして合掌してさちろこの冥福を祈った。むろん、勢一つぁんも同じ仕草で合掌した。
「これで、ええんか?」
「ああ…。これ以上いても、しゃあないでな…」
「そうやな。…ほな、下りよか」
二人は山を下っていった。登りとは違い、下りは脚が勝手に動作をするし、息苦しさもないから、二人は思ったより早く山の麓まで辿り着いた。