靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第百二十四回
「溝上早智子さんですよね?」
早智子は死んでいると分かっている。それなのに、まったく直助は怖くなかった。その恐怖より恋慕の情が勝っていた。
「…はい、そうです…」
声に精気はなかったが、確かに早智子の声だった。直助は、なおもゆっくりと早智子の立つ棚の方へと進んでいく。
「戸開山(とかいやま)、行きましたよ。私も…貴女のことが、実は…好きでした」
「えっ!? それは、ほんとでしょうか…」
その、か細い声が、陰気ながらも幾らか嬉しそうに直助には聞こえた。
「ええ…、お出会いした時から、ずっとでした。今日のように…。もう、遅かったのでしょうか…」
直助は寂しげに答えた。
「いえ、そのようなことは…」
直助は早智子から僅か1メートルほどの距離で立ち止まり、早智子の横顔を見た。早智子もまた、フワ~っと浮き上がるように身体を回転し、直助を見た。蒼白い顔に薄暗い電灯の光が射していた。脚は…幸い、暗闇で見えなかった。