水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第百二十四回)

2012年08月27日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第百二十四回
「溝上早智子さんですよね?」
 早智子は
んでいると分かっている。それなのに、まったく直助は怖くなかった。その恐怖より恋慕の情が勝っていた。
「…はい、そうです…」
 声に精気はなかったが、確かに早智子の声だった。直助は、なおもゆっくりと早智子の立つ棚の方へと進んでいく。
「戸開山(とかいやま)、行きましたよ。私も…貴女のことが、実は…好きでした」
「えっ!? それは、ほんとでしょうか…」
 その、か細い声が、陰気ながらも幾らか嬉しそうに直助には聞こえた。
「ええ…、お出会いした時から、ずっとでした。今日のように…。もう、遅かったのでしょうか…」
 直助は寂しげに答えた。
「いえ、そのようなことは…」
 直助は早智子から僅か1メートルほどの距離で立ち止まり、早智子の横顔を見た。早智子もまた、フワ~っと浮き上がるように身体を回転し、直助を見た。蒼白い顔に薄暗い電灯の光が射していた。脚は…幸い、暗闇で見えなかった。


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